今回は短め単発です。
海を渡り、極東にたどり着いて久しく。
この島国を行脚して、方々の伝承や伝説を探った。
いくつか面白い物語を入手することができたが、肝心な葦名についての情報は得られそうにない。
妖精のいたずらなのか、清々しいほどに成果がない。
だが、ちょっとした手がかりなら持ち帰れそうだ。
今回はそれについて記す。
◆
当時、俺は北を中心に広がる病の癒し手として路銀を稼いでいた。
驚くべきことに、狭間の"朱い腐敗"がその地で蔓延していてな。
ケイリッドほどの恐ろしさこそなかったが、個人個人を致命的に蝕む病だ。
だから祈祷「火の癒しよ」を用いて治療して回り、その対価として路銀や情報を受け取っていたわけだ。
その情報の中に、おはぎが美味しい茶屋があるというものがあってな。
せっかくだから、北の峠にあるその茶屋を訪ねてみた。
実際、そのおはぎは絶品だったぜ。
店長より年上の店員がやけに愛想がなかったが、そこも含めていい味だ。
その茶屋で、俺は鈴玉を手に入れた。
狭間の地でも散々手に入れた、円卓の双子像に持っていくと販売アイテムが増えるアイテムだ。
まさか極東の地で見つかるとは思わなかった。
不愛想な店員に訊いてみると、極東の地では"守り鈴"とも言うらしいことがわかった。
守り鈴は仏の加護にて持ち主を守るもの。
だが、持ち主の手を離れたならば、仏に供えるのが習わし……だそうだ。
この鈴玉……もとい守り鈴の持ち主は、誰かわからない。
それに、不愛想な店員曰くこの守り鈴は俺に"言いたいこと"があるらしい。
茶屋には、とある仏師から貰い受けたという「顔の優しい仏様」がある。
供えることで、鈴の記憶を探れるそうだ。
不愛想な店員は、供えの作法にも詳しくてな。
彼の指導のもと、鈴を供えてみることにしたんだ。
目をつぶり鈴の声を聞いてみると、最初に驚くべき景色が呼び覚まされた。
"破砕戦争"の景色だ。
◆
破砕戦争。
かつて狭間の地にて繰り広げられた、伝説の戦。
多くのデミゴッドがこの戦に参戦し、そして多くが敗れていった。
そのデミゴッドの中に、星砕きのラダーンがいた。
俺が見た鈴の景色は、彼と"義手の剣士"が相対するその場面だ。
破砕戦争末期。
エオニアの戦い。
ラダーンは剣士の義手を砕き、義手の剣士は"花"を咲かせた。
剣士の名は不敗のマレニア。
その身に宿す"朱い腐敗"を解き放つことで戦争を終わらせ、ラダーンもろともケイリッドを汚染したんだ。
その場面に居合わせた"記憶の持ち主"はたまったものじゃない。
自らのいた故郷が、朱い腐敗によって崩れて腐っていくんだ。
逃げるしかなかった。
逃げる際"記憶の持ち主"は、翼を用いた。
その翼を大空を飛び、狭間の地から去っていった。
鈴が見せるこの記憶の主は、翼を持つ"竜"だったんだ。
◆
狭間から逃げ出した竜は、時空の歪みをも飛び越えて極東の地に降り立った。
そこが体力の限界だったのかもしれない。
なんせ、竜は朱い腐敗で身を蝕まれていたんだ。
飛びたくても、それ以上は飛べなかったのだろう。
やがて、竜はあっさりと息絶えた。
だが話はまだ終わらない。
遺体から朱い腐敗が少しずつ広がり、極東の地を汚染していった。
いずれ"花"と共に"虫"が湧いて、それらが麓の国を乱したのは言うまでもない。
幸か不幸か、当時のこの国は戦乱の世だ。
戦の炎が、朱い腐敗が淀む麓の国を襲った。
その炎が、竜由来の腐敗を焼き払ったんだろう。
現在で朱い腐敗の被害が限定的なのは、この一件に由来すると思われる。
俺は、この一件が葦名に漂う"蟲"の真実ではないかと睨んでいる。
"蟲憑き"が不死の属性を帯びるのは、そもそもが狭間の地の神聖に由来するのではないか……とな。
だがまぁ証拠はない。
だから、ここでは仮説の一つとして訴える程度に留めておこう。
◆
ことの主役である竜は倒れたが、その因果はまだ生きている。
燃える麓の国の中で、竜の因果を受け継いだ者が現れたらしい。
ある種のデミゴッドは分け身を生み出すといったような話を聞いたことがあるが、それに近しい存在かもしれない。
ことの真偽はさておき、その者が竜の因果を受け継いで、新たな"鈴の記憶の主"になったことは事実のようだ。
その詳細は省くが、結果としてその者はうまく戦乱の地から抜け出したらしい。
その道中で旅の路銀を稼ぐ取引でもしたんだろう。
例えば、和菓子の一つでも振舞ったりしてな。
それが、商人の証であるこの"鈴玉"の由来だ。
竜の因果の本懐は、いつの間にか鈴の方に込められていたようだ。
かつての竜の願いは、故郷に帰ること。
あの狭間の地に、な。
それが、竜の因果が人間に授けられた理由だ。
この因果だけでも、竜が帰郷を果たすために。
それが鈴という形を成し、俺の手に渡ったのも偶然ではないだろうな。
俺は狭間の地と縁深い。
頃合を見てまた友の顔を見に行こうと考えていたが、その時にこの鈴を連れて行くのもいいかもしれないな。
その時に、改めて鈴を供えておくよ。
『真実の探求者』トニー
葦名の話をエルデンリング的に解釈するとこうなるかも、という話。
話は変わりますが、今回の話で20万文字突破となりました。
単純計算で文庫本二冊になる計算。
せっかくの記念としてここに追記します。