敵が現れた。
噂になっている魔術師だ。
奴は傀儡の技術を操る、カーリア筋の魔術師だ。
推定されるその目的は、サリアの身柄だろう。
サリアは、王たる写し身だからな。
だからサリアの魔術師塔に現れた。
魔術師ツイード。
彼は、カーリアの技術を修めた魔術師である。
故にカーリアの魔術を行使する。
カーリアの魔術は、剣の形を成すものが多い。
彼が振るう魔術もまた、例外ではなかった。
奴は「カーリアの円陣」という、多数の魔力の輝剣を展開する魔術を主体としてきた。
魔力の剣は円陣をなし、近づく者に向かい飛ぶ。
なかなか厄介な術だったよ。
かといって遠くから祈祷や魔術を飛ばそうとすれば、今度は「カーリアの返報」で無力化してくる。
同時にカウンターとして輝剣を逆展開するものだから、まるで隙がない。
だが、だからこそサリアの振るう不可視の夜の魔術が活きる。
ツイードは夜の魔術に対する心得を有しているようだったが、そこは俺が妨害することで補う。
厄介な魔術師だったが、サリアの奇襲は確かに通じたよ。
◆
サリアの奇襲は、敵の魔術師ツイードに通じた。
だが、奴は切り札を残していたようだ。
ツイードは、傀儡の使い手だ。
どうやら自身が瀕死に追い込まれた時のために、とびきりの傀儡を用意していたらしい。
そいつは、すぐ現れた。
ツイードが呼び出した傀儡は、英雄のガーゴイルだった。
あのノクローンの水道橋の先にいた、あの化け物だ。
どんな手段を用いたのか、ツイードはガーゴイルをも傀儡にしていたらしい。
そいつが、最後の敵として立ちふさがった。
ツイードが呼び出したガーゴイルは、二体いる。
片方は剣と斧槍を用い、もう片方は斧と両刃剣を用いる個体だ。
奴らは状況に応じて武器を使い分けるだけでなく、毒の力をも振るう。
さながらノクローンの時の再戦だ。
あの時は結局倒せずじまいだった。
今でも苦い思い出だよ。
だが今回は、サリアという心強い味方がいた。
巨躯ゆえに重く致命的な斬撃の数々を凌ぐのは困難だったが、回避にさえ専念すれば姿を消したサリアが反撃してくれた。
ガーゴイルは炎や雷に対して耐性を持つが、魔力属性なら一定以上は通る。
彼女の夜の魔術や「名刀月隠」による月光は、それ相応に効いただろう。
サリアのおかげで、俺はようやっと奴らに勝つことができたよ。
◆
魔術師ツイードは倒れ、奴が解き放った傀儡も無力化できた。
俺達は最後の戦いをも制したのだ。
これでサリアの目的は達成された。
奴から身を護るっていう目的がな。
俺としては、奴への取材が目的だったからな……その点では、目的は達成できずに終わったというべきだろう。
実際、奴が"王たる写し身"を具体的にどう使うかといった動機や最終的な目的は不明のまま終わったしな。
ろくでもない使い方なのは想像しやすいんだが、それでもだ。
だが、それに匹敵する情報と物語を見ることはできた。
だから、最終的には満足できたよ。
サリアのこれからについてだが……これからは、一人の人間として生きていくと決めたようだ。
"王たる写し身"であるという出自も魔術でうまく隠して、これからの世を見聞きするとのことだ。
王たる写し身の価値は計り知れないものがあるが、その魔術的価値は永遠に失われると考えていい。
優れた魔術師の意志を模倣……いや、意志を受け継いだ彼女がそこを仕損じるとは思えないからな。
それに、やはり王たる写し身という存在が引き起こすだろう世への影響はいいものばかりとは思えない。
そのことを思えば、一人の人間として生まれたことを祝福するのが筋であろう。
そういうわけで、もしこの手記で彼女の存在を知ったとしても"王たる写し身"にたどり着けるとは思わないでくれ。
この手記には彼女の本名や新しい名前などは一切記していないし、先述通り彼女はうまく身を隠して生きていくだろうからな。
勿論、いざという時は俺も彼女の味方として立ち回る。
だがそれでも。
もしかしたら、時空のずれの先で偶然彼女と出会うこともあるかもしれない。
その時は、彼女のことを一人の人間として尊重してあげて欲しい。
それがサリアの選択であり、人生だからな。
『真実の探求者』トニー