ふと気が付けば、エリスは見知らぬ場所に立っていた。

いや、よく見れば懐かしい記憶が蘇る。

そこは、かつて存在したロアの街、その中心であったボレアス邸。


これは、そこで出会う、思いもよらない人物たちとの交流の物語――




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※これは無職転生の二次創作小説です。

※ツイッターで以前うpしたSSを大幅加筆・再構成したものです。

※原作ネタバレを含みますので、原作web版を読み終えてない方は回れ右を推奨します。

※作中で「こんなネタあったっけ?」という部分は書き手の味付けです。うっかり信じないように。

※出来るだけ原作準拠の雰囲気で書いてるつもりですが、あくまでも、てんちょっぷ風味です。

※それでは、お楽しみください。



無職転生二次小説「微睡み」2025年初夢企画

 

 

 

 

 

 

 

 気が付けば、見知らぬ場所にいた。

 

 

 

 

 いえ──違う。私はここを知っている。

 

 

 

 

「まさか──ロアの街のボレアス邸?」

 

 

 そんな筈はない。

 あの家は、あの街は、なにもかもすべて消えてしまった筈──

 

 

 私はそれをこの目で見た。

 だから、絶対に違う。ここがあの屋敷な筈がないのだ。

 

 

 だけど──

 

 

 私は周囲を見回した。

 あの壁、あの渡り廊下、あの窓、あの屋根の色。植木のひとつひとつ。

 どこを見ても、どれを見ても、朧気ではあるものの、懐かしい記憶そのままの光景だ。

 

 

「ここは中庭……よね」

 

 

 いつもギレーヌと剣の稽古をした、あの広場だ。

 ギレーヌと私、そしてルーデウスと三人で稽古をした場所。

 

 

 思わず深呼吸をする。

 そんな事をしたって何かわかる訳でもない。

 でも、どこか懐かしい空気、懐かしい匂いがした。

 

 

 嗚呼──

 思わず口から吐息が漏れた。

 

 

 同時に、フッと笑ってしまう。

 自分にこんな感傷的な部分があっただなんて。

 もう二度と戻れないと思っていた場所。それなりに胸に来るものがあるわね。

 

 

 ──その時だ。

 

 

「ちょっとアンタ! どこから入ってきたのよ!」

 

 

 

 空気を読まない……違う、空気をつんざくような怒鳴り声が上がった。

 振り返れば、赤い髪の少女が腕を組みながら仁王立ちでこちらを睨んでいた。

 クリスティーナ? いいえ、違うわね。あの子がここにいる訳がないわ。

 

 

 

 

 ──わかったわ! 

 

 

 

 

 閃いた。

 流石に頭の悪い私でも、ここまでくればなんとなく理解できる。

 

 

 

 

 ──これは夢ね! 

 

 

 

 

 夢だから、消えてしまったボレアス邸にいるんだわ。

 そして、夢だから、幼い頃の私が目の前にいるんだわ。

 うん、なにもおかしくはないわね! ルーデウスもよく言っていたもの! 

 

 

「ちょっと! 人の話を聞いてるの!?」

 

 

 幼い私が喚きつつ殴りかかってきた。

 ん、ずいぶん思い切りが良いわね? 

 感心しながらも顔面に飛んできた拳を軽く払っていなす。

 

 

「~~ッ!? このォッ!!」

 

 

 つんのめるも踏みとどまり、更に殴りかかって来た。

 クスッ──顔が真っ赤だ。私、こんなに喧嘩っぱやかったのね。

 

 

「このッ! 大人しくッ!! 殴られなさいよッ!!!」

 

 

 何度も何度も矢継ぎ早に攻撃が繰り出される。

 子どもにしては鋭い突きや蹴り。

 でも修練されきっていない。

 本能の動き、感情の赴くままの攻撃。

 惜しいわね。ちゃんと稽古していれば、もっと強くなれていただろうに。

 

 

 この頃の私は飽きっぽくて、疲れると手を抜いたりもしていた。

 ルーデウスと一緒に稽古するようになって、彼に良い所を見せたくて、手抜きするのをやめたのだ。

 

 

「このッ! このッ! このぉッ!」

 

「そんなんじゃ当たらないわよ! もっと考えて動きなさい!」

 

 

 なんとなく、幼かった子ども達に稽古をつけてあげていた頃の気持ちに戻る。

 ほら、そこは踏み込みが甘い。もっと緩急をつけて。フェイントはもっと巧みにやりなさい。

 

 

「んぎぃっ……」

 

 

 疲労からか、段々と幼い私の動きが鈍くなってきた。

 歳の割に、頑張ったほうかもしれない。

 

 

 そうは言っても幼い私。荒い息を吐きながらも、まだ諦めるつもりはないようだ。

 さて、これはどう決着を付けたものか。そう思案しかけた時である。

 

 

「──エリス、どうした」

 

 

 懐かしい声が聞こえた。

 振り向くと、ギレーヌが立っていた。

 

 

 ……やっぱり、彼女もずいぶんと若い。

 がっしりとした筋肉で、身体が一回り大きく見える。

 

 

 彼女は訝し気にこちらを見ていた。

 フフッ、それはそうよね。幼い私と、大人になった私が目の前にいるんだから。

 

 

「お前、誰だ……いや、まさか」

 

 

 フフン、私を誰だと思っているのかしら? 

 

 

「ギレーヌ! こいつ侵入者よ! 捕まえるのよ!」

 

 

 いきなり幼い私が叫んだ。声うるさっ! 

 その声に反応し、ギレーヌが戸惑いながら動こうとする。しかしやや鈍い。

 

 

 ──ッ! 

 

 

 ピーンと来た! 

 

 

 

「ギレーヌ! この子を止めなさい! 今すぐ!」

 

 

 

 私は命令口調でそう叫んだ。

 途端にギレーヌがビクリとし、瞬時に私と幼い私の間に割って入る。

 

 

 獣族の本能──自分より強い個体の命令に、瞬間的に服従してしまう傾向がある。

 

 

 前にリニアだかプルセナだったかに聞いた獣族の古い習性。

 そうはいっても、強い個体は我も強いので、そうそう服従したりはしない。

 だけど、今さっきのギレーヌの気構えは隙だらけだった。そこを私は突いたのだ。

 思った以上にすんなり行ったから、自分でも驚いたわ。

 

 

「……まさかとは思うんだが、お前、もしかしてお嬢様……なのか?」

 

 

 私を頭からつま先まで眺め、それから目を見据えてギレーヌはそう言った。

 彼女の頭の出来は私と大差ないと思うけど、そこはそれ。勘の良さは流石ね。

 

 

「そうよ、私は私よ!」

 

 

 腕を組み、仁王立ちになって高らかに宣言する。

 ギレーヌはそれを見るや、ぽかんと口を開いた。

 彼女のこんな顔、初めて見たわ。面白いわね。

 

 

「ギレーヌ! ちょっと! 放しなさいよ! 聞いてるの!?」

 

 

 キーキーと幼い私が暴れている。両手はギレーヌに拘束されて動かせない。

 ギレーヌはその姿勢のまま、私から目を放さずにこう言った。

 

 

 

 

「……あ、あぁ。お嬢様。あたしは、この女と少し話がしてみたい。いいだろうか」

 

 

 

 

 

 

 ──────ー

 

 

 

 

 

 

 その後、私たちは中庭から、離れのテラスに移動した。

 

 

 暴れる幼い私はギレーヌに拘束されたまま連行。

 今は私を睨みながら、茶菓子を貪っている。

 

 

「不思議な事もあるものだ。未来のお嬢様とはな」

 

 

 ギレーヌの癖に理解がいいわね。

 テラスに来てから経緯を話した。

「大人になった、未来の私よ」と言ったら「そうか」と素直に頷かれた。

 

 

 彼女が言うには「迷宮の中には、転移する魔術の罠があるんだ。難しいことはよくわからんが、世の中にはそういう不思議なこともあるのだろう」と。

 難しく考えるより、受け入れた方が合理だろう、という事だった。

 

 

 確かに、魔力災害で魔大陸に飛ばされたのだって、ルーデウスにも説明出来ない事だった。

 そもそもこれは夢なのだから、何が起きたって不思議じゃない。なんだっていいわ。

 

 

「みらいって何よ! っていうか、強いわねアンタ」

 

 

 お菓子を頬張りながら幼い私が言う。

 当たり前だが、この子は一切話を理解していない。だって私だもの。

 でも、そうね。難しい事はルーデウスに任せればいい。

 私はただ、剣を振るって、彼の牙となり盾となれればそれでいいのだ。

 

 

「それにしても、随分あっさり納得するのね?」

 

 

 私がそう問うと、ギレーヌがフッと笑う。

 

 

「先日、不思議な少年と出会ってな。そのうち、大人になったエリスが少し厄介になるかも、と」

 

 

 先んじてその少年に言われていたので、すんなりと受け入れられたのだという。

 ふぅん。誰なのかしら。でも、夢だからなんでもありね。

 

 

「しかし……随分と育ったものだ」

 

 

 じろじろと私を値踏むように見るギレーヌ。特に胸の辺りを見ていた。

 フフン。育ったのは胸だけじゃないわ。

 

 

「剣の方も腕が上がったわよ。試してみる?」

 

「フッ、いいだろう。実は、さっきからウズウズしていたんだ」

 

 

 私だって、若いギレーヌとは一度勝負してみたかったのだ。

 弟子が強くなる。それは師匠にとっても誉れな事。

 今の私が出来る最高の恩返し。

 それは、ギレーヌより強くなった私を見せつける事。

 

 

 

 ──腕が鳴るわね! 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────ー

 

 

 

 

 

 

 

「まさしく夢のようだな。大きくなったお嬢様と剣を交えられるとは、な」

 

 

「私もよ。若いギレーヌと、一度本気で勝負してみたかったんだから」

 

 

 

 

 お互い木剣を持ち、距離を取って向かいあう。

 ギレーヌは得意の居合の構え。私は上段。

 流石ね。立ち姿に隙が無い。

 

 

「いい? ……勝負、始め!」

 

 

 幼い私が一丁前に審判気取りで腕を振る。

 だが、そんなものはもう見えない。関係ない。

 見えているのは目の前のギレーヌただ一人。

 

 

 剣神流の剣王。

 この世界でも指折りの強者。

 たとえ今の私ですら、一瞬たりとも目を逸らすことは出来ない剣豪。

 

 

 ピィンと張りつめた空気。……良いわ、凄く。

 いつしか、顔がニマニマとしてしまう。

 

 

 ギレーヌの尻尾の先がクイクイと誘うように動く。

 

 

 ……いいわ、乗ってやろうじゃない! 

 

 

「──ッ!」

 

「──シィッ!」

 

 

 ほぼ二人同時に光の太刀を放った。

 いや、居合のギレーヌの剣速は私より速い──「光返し」? 

 

 

 カァンッ── 

 

 

 木剣が空を飛ぶ。

 遠くに飛んだ木剣がカラァンと甲高い音を立てた。

 

 

「……クッ」

 

 

 ギレーヌは痺れた手を押さえ、私の切っ先は彼女の喉元に突き付けられていた。

 彼女の剣速は私以上だった。そして狙っていたのは奥義「光返し」。

 私の切っ先が最高速度に達する前に、剣の横っ面を引っ叩いて跳ね飛ばそうとしたのだろう。

 しかし結果は真逆──跳ね飛んだのは、ギレーヌの剣の方だった。

 

 

「驚いた。まさか、光の太刀の二連撃とは」

 

 

 そう──「光返し」への私の解答。

 それは光の太刀の二連撃だったのだ。

 ガルから剣神の座を奪い取ったあのジノ・ブリッツの独自技。

 あいつに一度喰らわされてから、自分の物にしようと練磨した技がここにきて活きた。

 

 

「ほとんど同時に光の太刀を二つも放つとは……考えてもみなかったな」

 

「フフン、私もなかなかやるでしょう?」

 

 

 他人の猿真似だけどね。気に入らないけど、最後に勝てばいいのよ。

 礼をしてから飛んで行った木剣を取りに行く。

 戻ってくると、幼い私が無言でこちらを凝視しているのに気が付く。

 彼女は手を握り、プルプルと震えていた。よく見ると頬も上気している。

 

 

「凄い! 凄いわ! ギレーヌをやっつけちゃうなんて!」

 

 

 ギレーヌに木剣を返したところで、感極まったであろう幼い私が叫んだ。

 何度も何度も、凄い凄いと大はしゃぎだ。フフッ、なんだかクリスティーナみたいね。

 

 

「いつか、あなたにも出来るわよ」

 

「本当!?」

 

「ギレーヌの言う事をちゃんと聞いて、真面目に稽古すればね?」

 

「わかったわ!」

 

 

 幼い私は早速、木剣を取って素振りをし出した。頑張りなさい。

 

 

「エリス、身体が……」

 

 

 その時、ギレーヌが息を飲んだ。

 見れば、私の身体は徐々に輪郭を失い、解けるようにポロポロと燐光が零れ出していた。

 嗚呼──私はなんとなく理解する。どうやら時間のようだ。

 

 

「お別れみたいね、ギレーヌ。楽しかったわ」

 

「あぁ、あたしもだ」

 

「小さい私の事、頼んだわよ?」

 

「任せておけ。達者でな」

 

 

 師との最後の握手を交わす。

 

 そして、私の意識は薄れていった──

 

 

 

 

 

 ──────ー

 

 

 

 

 

「──おはよう、エリス」

 

 

 そんな囁きに瞼を開けると、ルーデウスの顔が見えた。

 

 

「おはよう、ルーデウス?」

 

 

 なんだったかしら、あぁそうだ。

 お昼を食べた後、ウトウトして寝入ってしまったのだ。

 

 

「楽しい夢でも観れたのかい?」

 

 

 彼が悪戯っぽく笑う。そうね、とっても楽しかったわ。

 

 

「えぇ、今度は一緒に観れるといいわね」

 

 

 

 

 

 

 

            ー完ー

 

 

 

 

 

 

 

 







初夢っぽい感じなのでアップしました。

楽しんで頂けると嬉しいです。

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