いつものように遠征任務に従事していた駆逐艦娘達が帰投して。提督へと任務完了の報告をする。
それはいつもの風景、
になる筈が、今日は少しばかり違っていた。
深雪が持ち込んだソレにより、鎮守府の賑やかさはまた少し増す事になる。
はい、艦娘のぷち達が現れたらどうなるかという物語です。
基本ほのぼの、時折ちょびっとシリアス?な話の予定です、深く考えずお気楽に読んでいってください。
皇紀2660年、世界は深海凄艦の脅威に晒され続けていた。
深海凄艦。
突如現れたコレの正体は今だに分からない。
何故? どこから? どうして?
そんな疑問を解決する前に人は、明らかに敵対行動をとる深海凄艦への対応を迫られた。
しかしながら、この深海凄艦は通常の兵器では殆どダメージを負わせる事が出来ず、
人は惨敗を続ける。
そうして、かつて人が縦横無尽に行きかっていた七つの海は、今やこの正体不明のモノ達の
跳梁跋扈する場となり果て、各大陸は孤立、特に島国である日の本において
影響は大なるものとなった。
当時日の本は経済大国として名を馳せていたが、産出する資源は少なく、他国から原料を輸入し、加工した製品をもって利益を上げるという形をとっていた為、海を深海凄艦によって封鎖される
ことは死活問題であり、なんとしても海上輸送の復活を成す必要があった。
しかし通常の兵器では深海凄艦には歯が立たない、政府が対応に苦慮する中、意外な者達が協力を申し出て来る。
それは妖精と呼ばれる者達。
ここ日の元は八百万の神が住まう地と言われ、現に妖精と名付けられた不可思議な者達が、
全国に数多くある鎮守の森や、御山などに暮らしていた。
個人レベルなどの交流は除いて、普段は表舞台に出て来る事は無い妖精達であったが、
一たびこの国の危急存亡が訪れると、どこからともなく姿を現し、人と共に戦う。
そんな妖精達が姿を現した。時の政府も、今やこの国の危急存亡の時が来たかと、妖精達に助力を乞い、この危難を乗り切る為の方策に耳を傾けた。
そして妖精達は提案する、
「かつて護国の要として存在した艦達の魂を呼び戻し、艦娘として深海凄艦と戦ってもらう」
突飛と言えば余りに突飛に過ぎる提案ではあるが、通常兵器の通じない半ば亡霊のような
存在である深海凄艦への対応策である。
まともな手段でこの国難を解決する事は出来ないと、
時の政府は藁にもすがる気持ちでその提案を受諾した。
「今ひとたび、その力を貸して欲しい」
様々な儀式の果てに現れた艦娘達は、妖精と人の願いを了承、深海凄艦と対峙した。
他に方法が無く、半ば自棄気味の方策であったが、今までどのような兵器でも倒せなかった
深海凄艦を艦娘達が倒すのを目の当たりにした政府は欣喜雀躍し、早速正規に海軍へと編入、
各地の鎮守府にエリート士官を指揮官に任命、艦娘達をその指揮下に置いて、
深海凄艦撃滅を命じた。
が、それが非常な悪手となった。
その当時の提督達は艦娘達をあくまで兵器として扱った。
艦娘とは妖精達の手により作られた艤装と呼ばれる物を介して現界した者達。
例え艤装が完全破壊、所謂轟沈したとしても、魂はあるべき場所へと帰るだけで、
呼び戻せば再び現れる事が出来る。
しかしいくら復活が可能とはいえ、轟沈時の苦しみと悲しみは魂に刻まれる。
だが時の提督達はそんな事には斟酌せずに、ただいくらでも再利用の可能な兵器として、
艦娘達を過酷に取り扱った。
これが最悪な結果をもたらす。
この当時、深海凄艦は現在と違って現れるのが所謂駆逐艦クラスぐらいであった。
しかし、艦娘達の轟沈数に比例して、軽巡、重巡、果ては戦艦、空母クラスまで現れる事になる。
そして過酷な取り扱われ方をされていた艦娘達は提督達の前から消えた。
敵は強力となって、味方は消える。
この事態に慌てた上層部は、艦娘達の取り扱いに抗議の声を上げていた妖精達に、何故こんな事になったのかと訊いた。
「艦娘達が人の味方をしたのはその心ゆえに、その心を蔑にしたからこのような事になった」
だから幾度も注意したのだと、難詰する妖精達に上層部は、今度こそは誤らぬから今一度の機会をと平身低頭、それまでの提督達を一掃、新たに妖精達の推薦のあった者達を提督に任命し、
身近まで迫った深海凄艦達への対応に当たらせた。
しかしながら、その時の状況は最悪であった。
深海凄艦の大軍は鎮守府海域まで迫り、戦える者は皆無。
提督は一新したものの艦娘達はいない。
これではどうにもならないと、上層部は頭を抱え、
もはや衰滅避けがたし、確実に到来するであろう運命を嘆いた。
しかし、新たに任命された提督達はそんな益体も無い悲観に身を浸さずに行動を起こす。
「艦娘の居ない提督は提督に非ず」
提督達はそう言い放つなり鎮守府を出ると、単冠湾へと集結する。
そしてその地にDG旗を立てた。
「故国ノ興廃繁コノ征戦ニアリ。粉骨砕身各員ソノ任ヲ完ウスベシ。」
訓電を打つや、水杯を叩きつけ、
「これより武運つたなく死したる上は、もって護国の鬼たらん
我らの魂、常に諸子と共に在り」
提督達は小型の水雷艇を駆り、単冠湾を出撃する。
波頭をけたてて、目指すは深海凄艦が集結する地、鎮守府正面海域。
正に無謀なる者達。
しかし、そんな提督達と並走していたのは、居なくなった筈の艦娘達。
赤城が、加賀が、蒼龍が、飛龍が、その他様々な艦娘達が共に駆けていた。
故に希望の者達。
妖精達に見いだされ、新たに任命された提督達の縁が、去って行った筈の艦娘達を再び呼び戻していたのだ。
そして深海凄艦の大艦隊の居る鎮守府正面海域、いわゆる鎮守湾へと奇襲攻撃を敢行する。
提督と艦娘達の新たな絆による攻撃の戦果は凄まじく、集結していた深海凄艦は撃滅された。
その後も、大戦果に酔いしれることなく提督と艦娘達は追撃の手を緩めず、残る深海凄艦を
撃沈しつつ、各海域を掌握。
大陸や資源地帯への海上交通路を回復し、日の元は首の皮一枚の所で滅亡から免れた。
だが、全ての深海凄艦を完全に殲滅出来た訳でもなく、今だに各海域で跳梁跋扈していた為、
提督と艦娘達は各地の鎮守府へと戻り、海上交通路の保持と新たな海域の確保に
勤しむ事になった。
そして、再び艦娘達との絆を失わぬように、
『鎮守湾の戦いを忘れるな』
を合言葉に、現在も深海凄艦との戦いは続いている。
深海凄艦との戦いは完全に長期戦の形となっており。
当初鎮守府は横須賀、呉、佐世保、舞鶴の四か所だけであったのだが、領有する海域の増加に
伴い、それでは数が足らなくなり、新たに各地に基地が増設される事になる。
そしてここにまた、桜咲く季節、岩川基地が新設された。
岩川基地は主に資源を運ぶ輸送船やらタンカーの護衛、資源地帯に今だ現れる深海凄艦の掃討を
目的として設置されたものであり、百戦錬磨のベテラン提督ではなく、
新米提督が着任する事になり。
出迎えの秘書艦である吹雪と握手した新米提督は、
「まあ、ひとつよろしく頼む」
初対面でやや緊張していた吹雪の頭にぽふっと手を置き、鎮守府の門をくぐる。
こうして新たな鎮守府が発足した。
「司令官、たっだいま~」
岩川基地に所属している駆逐艦娘の深雪の声が響くや否や、勢いよく執務室のドアが
開け放たれた。
驚いて目を丸くする秘書艦である吹雪を余所に、書類仕事をしていた提督の前へ、
机を挟み、深雪がずずいっと出る。
「お、おかえり、その様子では今回の遠征は上手くいったようだな」
ハイテンションの深雪に若干引き気味になりながらも、提督は深雪を労った。
「そりゃもう、今回は大成功だったよ、なにせ凄いモノを拾っちゃったんだから」
「凄いモノ?はて、なんだそれは」
提督は、走らせていたペンを止め、吹雪から渡されたお茶をひとすすりして、訊きかえす。
書類仕事の最中だが、今の深雪を無視して仕事を続ける事など、出来はしない事は
今までの経験から良く分かっている。
邪険にすると後でヒドイいたずらをされる羽目になるので、提督は深雪の報告を優先させる事に
した。
水を向けられると、深雪は良くぞ訊いてくれましたと、提督の前に人形を置いた。
「む?」
一目見た提督は唸る。
その人形は結構大きい、顔は人形を持って来た深雪に似ており、じっと提督を見つめる様はまるで生きているよう。
ぷしっ
人形の手が覗き込んでいる提督の目をつついた。
「ぬあっ」
いきなりの目つぶしに提督は仰け反る。
その滑稽な様に深雪は、キシシと笑い、人形も同じように笑う。
「って、人形じゃないだろう、それ!?」
「あったりー」
心配して駆け寄った吹雪に背を撫でられていた提督が指摘すると、深雪はパチンと指を鳴らした。
「いやー、この子を見つけた時には、驚いたよ、ほんと、うん」
深雪が頭に手を置いた人形は両手を上下にぶんぶん動かしていた。
拾ってきた深雪と同じく元気が良いらしい。
だが。
こは、なんぞ?
提督は再び目つぶしを喰らわぬ様に距離をとり、再び人形だと思っていたモノと深雪をまじまじと見比べる。
見れば見る程、
「ん?なに?」
提督に目を向けられた深雪が小首をかしげた。
「似ているな」
思わずそう漏らすと、
「だよねー」
深雪は嬉しそうに人形に見えたモノを抱き上げた。
「なんなんだ、それは?」
深雪に抱きかかえられて、心地よさ気にしているモノを見つつ、提督は当然の疑問の声を上げた。
人形のようであって、人形では無い。
深雪のようであって深雪では無い。
それは何かと尋ねたら。
「ぷちむすです!」
バンッと扉を開けて、赤城が入って来た。
バケツを抱えて。
しかもその中に一杯のボーキを入れて。
「またつまみ食いか、赤城っ!」
「違います、おやつです」
堂々と言ってのける岩川基地に所属する艦娘達の中でのエースの一人、正規空母の赤城は
手に持ったおはしの先を、深雪が抱え持つ人形だったもの、赤城曰く、ぷちむすに向ける。
「その子は私達、艦娘の魂なんです」
「魂、だと?」
赤城の言葉に提督は首を捻る。
深海凄艦はもとより、艦娘についても、その正体、というよりどのようにして魂を呼び出して
現界させているのかは、実はよく分かっていない。
それらは妖精の領分なのだ。
鎮守府に妖精が常駐し、装備などの開発をするのも、人には艦娘用の艤装や装備を作り出す事が
出来ない為だ。
しかしながら、艤装は機械なので人にも整備は出来る。
だが、一から作り出す事は出来ない。
ネジ一本の規格に至るまで、正確に真似た物を作る事は出来るが、それはただの精密機器の集まりであり、何の働きもしない。
妖精の手を経る事によって初めて、艦娘が生まれ、艤装は動き出すのだ。
その仕組みは人には解らない。
謎である。
なにせ艦娘は一つの名前で一人では無い。
まるでコピーしたかのように、そっくりな艦娘が何人も各鎮守府に居る。
そこからして艦娘の生態は人には不思議な存在である。
元になった艦は一つなのにどうしてそんな事が起きるのか?
分魂と妖精からは説明されているが、その仕組みは人には理解の外にある。
艦娘は人よりも妖精側に近い存在なのだ。
だから提督は首を捻りつつも、艦娘である赤城に言い切られてしまえば、そういうものなのだろうかとも思うが、それでも納得しかねる所もある。
なにせ、これは今までにないケースだ。
深海凄艦との戦いの中で時折艤装が見つかる事がある。
それらを用いて新たな艦娘を呼ぶ事も出来るのだが、それらはみな、少なくとも10代以降の
女性の姿で現れる。
こんな人形みたいな姿の艦娘は見たことが無い。
では今までにない、新たな艦娘なのだろうか?
そう思うが、それにしては深雪に似ている。
まるで深雪の魂そのもの。
そこまで考えた提督は、ハッとして深雪を見る。
艤装を用いて現れたのが今までの深雪である。
ならば艤装を経ないで現れた深雪はどのような姿となるのか?
それがもしかしたら、今深雪が抱き抱えている、このぷちむすかもしれない。
改めて赤城の言った事の意味を噛みしめ、提督はぷちむすを覗き込み、
ぷすっ
また目つぶしを喰らった。
ぬぉぉぉぉっ、目を押さえて仰け反る提督を見て、キシシッと笑うぷちむす。
その笑い声を聞きつつ、涙目となる提督の背を誰かの手が摩る。
この場でこういう事をするのは吹雪しかいないので、
「すまない吹雪、私は大丈夫だ」
そう言って顔を上げた提督の目の前、
「・・・・・・」
深雪が抱き抱えているぷちむすとは別のぷちむすが居た。
それは吹雪に似た顔を持ち、今度は顔を上げた提督の額を摩り始めた。
「えーと、あはは、私のも居るみたいですね」
苦笑いしながら、吹雪が新たなぷちむすを抱き抱えた。
「赤城、これはどういう事だ?」
二人に増えたぷちむすに、どう対処したものか分からなくなった提督が赤城に尋ねると。
「おかわり、良いでしょうか?」
「・・・・・」
空になったバケツを差し出す赤城に、提督は無言で頷く。
「私が見る所、別にどうという事も無く、ではないでしょうか」
取り敢えずおかわりゲットが確実になった事で安心したのか、赤城が提督の問いにスラスラと
答えた。
「いや、いきなりお前たちに良く似た者が現れたんだぞ、大珍事ではないのか?」
「でも、私達にとってはそういう者でしかないですし、別に不可思議な事では無いです」
いきなりのぷちむすの登場に全く動じていない赤城を見ていると、提督も取り立て騒ぐ事でも無いのだろうかと思いかけてしまうが、ここが軍事施設であることを鑑みれば、正体のよく知れぬ者が紛れ込んだのに、どうって事ないですませる訳にはいかない。
「うーん、でもここに住むとしても、同じ名前じゃ、ややこしいよね、よし、お前は今日から、
みゆきちゃんだ」
どういう処遇をしたものかと悩む提督を余所に、深雪がぷちむすを抱え上げてそんな事を言う。
なんですと!?ここに住まわせるですと!?
驚き、待てそれはと、言いかける提督の傍らで、吹雪もまた、
「なら、貴女はふぶきちゃんでいいよね」
抱き抱えたぷちむすに名前をつける。
「待て待て、お前たち、ここは鎮守府だ。許可なく見知らぬ者を住まわせる事は出来ない」
「じゃあ、どうするんです?」
提督が一般論を述べると、赤城が口を挟んだ。
どことなくその声が冷たい。
提督は言葉に詰まる。
「捨ててこいって言うんですか?」
ぷちむすをきゅっと抱き締めた吹雪に不安げに言われて、ますます提督は言葉に詰まってしまう。
規則に従えば駄目だと言うのが模範的である。
だが赤城の言うように、ぷちむすが艦娘の魂であるのなら、
四角四面な対応で追い出す訳にはいかない。
今まで例の無い見知らぬ者だから艦娘とは関係無いというのは、取り繕いの言い訳でしかないだろう。
赤城はこんな事で嘘は言わないし、吹雪も深雪も赤城の言う事を否定はしてはいない。
だとすれば、提督としては、このぷちむすは姿の変わった艦娘だと思うしかない。
「いや、そんな事は言わないし、しない、ただちょっと突然の事で少々混乱しただけだ、
お前達がそう言うのなら、私も信じよう」
提督は、ぽふっと吹雪の頭に手を置き、
「さて、取り敢えずは上の方にはどう説明したものか、考えなくてはいけないな」
そう言う提督に、吹雪は顔を綻ばせた。
その後、、ぷちむす常駐の為の許可を取る為に、どうやって説明したものかと
申請書類とにらめっこをし始めた提督に、赤城が、ああ、そうそうと、
なにか思い出したように声をかけてきた。
「そう言えば提督、明日は提督会議でしたね、加賀さんからくれぐれも必要書類を忘れたり
しないように、念を押しておいてくれって頼まれてました」
この騒ぎで言うのを忘れてましたとの赤城に、提督は、ああそうか、明日だったかと天井を見上げた。
提督会議とは、会議とは名ばかりの言うなれば新米提督に対する活入れである。
百戦錬磨のベテラン提督らの集まる場所で着任して日の浅い提督が、今までの戦績を
発表するのだが、その事を考えると、どうにも気鬱となる。
別に、ベテラン提督達は重箱の隅を突くように失敗をあげつらったり、
派手な戦果を挙げない事に嫌味を言ったりする訳ては無い、しかし報告の間、一挙手一足投
一つも見逃さぬとばかりに、ずっと凝視してくるその強面な面々に必要以上に緊張させられるのである。
ベテラン提督達は効率を口にする事は無い。
数字だけ追って艦娘を蔑にするのは許されないところであるからだが、
かといって艦娘達と親睦ばかり深めて、怠惰に過ごしているような不心得者に対しては容赦の無い罰が与えられる。
不埒な提督の末路の話は両手の指では足りないくらいあるのだ。
必要十分で良くても過不足は無しに。
これが求められるわけだが、さじ加減は意外に難しい。
そのチェックをされる場なので、気が重いのだがサボる訳にもいかない。
そんな事をすれば、
『提督が鎮守湾に着底しました、これから棺桶と葬式を始めます』
などど、提督通信に書かれてしまう。
明日の会議用に書類を集めながら、提督はちらりと、深雪、吹雪と遊ぶぷちみゆきと
ぷちふぶきを横目で見た。
本来であれば、その会議でぷちむす達の事を言わなければならないだろう、
しかしながら提督もぷちむす達の事を把握しきれているわけでは無い。
いきなり会議で
「ぬいぐるみな艦娘ゲットだぜ!」
そんな事を言いだせば、その場で16ビートで尻に海軍魂を叩き込まれてしまうだろう。
「仕方が無い、今回は黙っておいて次回の会議にお披露目といこう」
提督は一人そう結論づけて、書類の整理にとりかかった。
そして次の日。
提督は見事に会議に必要な書類を忘れた。
「馬鹿な、こんなことが」
忘れはしまい、忘れはしまいと思いすぎて、却ってぬかってしまったのか、提督は重要な書類は
遺漏なく持って来たのだが、参考資料的な書類を忘れてしまっていた。
しかし気付いた時は遅かった。
岩川基地へと取りに戻る事は出来ない、ならばやむ無しと、提督は資料無しで会議に臨む事に決める。
幸い内容は頭に叩き込んである。
口頭のみでもごまかしは利くだろうと、腹を決めた提督は会議に出席し、前と横、
ベテラン提督達に囲まれるようにして、重厚な会議用のテーブルの椅子に緊張しつつ着座した。
提督の報告を聴くのは四人のベテラン提督。
テーブルを挟み前に居るのは舞鶴鎮守府提督、全提督の中でも筆頭格の提督で
噂では羅針盤の目すらも自在に操ると言われる程の爆運の持ち主で、伝説の賭博師と言われている。
もう一人その横に居るのが横須賀鎮守府提督、空母機動部隊の運用に長け、必殺のアウトレンジ
戦法は深海凄艦の反撃を許さずに悉く撃沈していくと噂されている。
右に位置するのが呉鎮守府提督、攻撃精神旺盛ながらも艦娘に対する情は人一倍深く、
かつての不心得提督達全てを矢の的にして一掃したと言われ、その苛烈ぶりに、
ヒト○ロシ、キ○ガイとまで言われている。
左に位置しているのが、単冠湾泊地提督、現場主義者で、心より駆逐艦を愛する
生粋のロリコ・・・ではなく水雷屋と評されている。
この四人は鎮守湾奇襲作戦時の提督達であり、始まりの提督と呼ばれていた。
空気すら質量を持っているのではないかと感じられるほどの重圧の中で、岩川基地の提督は報告書を読み上げていた。
そんな中、コンコンと、扉が叩かれ、会議中失礼いたしますと、舞鶴湾鎮守府提督の従卒が入室する。
なんだ、こんな時にと提督達は鋭く視線を入ってきた従卒に向け、
すぐにその従卒が抱き抱えている者に視線が降りた。
その瞬間、岩川基地提督の顎がカクンと落ちる。
です~。
従卒の腕の中、ぷちふぶきが居た、
岩川基地提督としては白昼夢と思いたいが、ぷちふぶきは手を挙げて思いっきり自分の存在を
アピールする。
その手には岩川基地提督が忘れて行った書類の入った封筒をしっかりと持っていた。
ぷちふぶきは従卒の腕の中から飛び出して、床に着地すると、トテトテと岩川基地提督の元へと
歩み、両手で封筒を差し出す。
忘れ物持って来たの。
見上げるぷちふぶきの前で真っ白になる岩川基地提督。
どんどん影が薄くなるばかりで、全く反応が無い岩国基地提督にぷちふぶきは首を傾げた。
「貴様――」
まるで地獄の底から響いてくるような声に、岩川基地提督は我へと帰った。
気が付けば始まりの四提督全てが、岩川基地提督を凝視している。
何れも、まるでどのように獲物を始末してやろうかという肉食獣のそれに岩川基地提督には
見えてしまう。
「いや、これは」
なんとか言葉を紡ごうとした岩川基地提督だが、呉鎮守府提督が首をゴキリと鳴らしただけで、
言葉が喉の奥に引っ込んでしまった。
「何をしている」
暫くの沈黙の中、重々しく正面に位置する舞鶴鎮守府提督が口を開いた。
まるで死刑判決を告げられる心地の提督は、恐る恐る舞鶴鎮守府提督を見る。
すると舞鶴鎮守府提督は指を上げ、喉を掻っ切る仕草を・・・
しないで、
「さっさと受け取ってやらんか」
提督が受け取ってくれないので、一生懸命受け取ってもらおうと、
背伸びしているぷちふぶきを指さした。
「え?」
間抜けな声を出す提督に、
「困ってるだろう」
舞鶴鎮守府提督はトントンと指でテーブルを叩く。
「は、はぁ」
気の抜けた返事を返した提督はぷちふぶきから封筒を受け取り、よくやったありがとうと頭を撫でた。
にへら~
嬉しそうな顔をするぷちふぶきに、ホンワカ癒された提督だが、自分に向けられる視線を感じて、ここがどこで、どんな状況か改めて気付いた。
今、自分は虎の咢に頭を突っ込んでいる状態だったんだと、提督は冷や汗を流す。
ぷちふぶきの方はといえば、一仕事終えた後も帰るでもなく、そのまま提督の身体をよじ登ってテーブルの上に上がると、他の四提督に向かってぺこりとお辞儀した。
ここまで来ると、もはやぷちふぶきの事は隠しようが無い。
元々無かったようなものだが、それでもここまであからさまになっては提督も覚悟を決めるしかない。
ちらりと提督は呉鎮守府提督を見た。
腕組みをしている瞑目している呉鎮守府提督は、心の内で何を考えているかは、外から見ても
容易に知れない。
処刑執行の口火を切るとすれば、まず間違いなくこの呉鎮守府提督だろう。
ごくりと唾を飲み込む提督に向かい、舞鶴鎮守府提督は、再び口を開いた。
「そのぷちなのだが」
「は、はひ」
なんだ?と訊かれた時の答えを、提督は頭の中で幾通りも考えるが、どれを言っても四提督を
納得させられる自信が無い。
最悪、
『まさか、艦娘との娘か!? 貴様ナニしてくれた、このたわけがぁ!』
などと大喝され、軍刀で開きにされるかもしれないと思って身構えた提督に、
「貴様も遂にぷちむすと出会えたか」
意外な事を舞鶴鎮守府提督は言った。
「ふむ、意外と時間がかかったな」
「いや、早いほうでしょう」
「うむ」
他の三提督も岩川基地提督を責めるでもなく、寧ろ認めるような言い方をする。
「え?どういう事ですか?もしかしてこのぷちむすを知っているのですか?」
「無論だ」
間髪入れずに舞鶴鎮守府提督は応えた。
続けて呉鎮守府提督も、
「そのぷちむすは提督と艦娘との絆の証。提督が艦娘より信頼を得た時にぷちむすは現れるのだ、見ろ!我らは常に艦娘と共にあり」
そう言って立ち上がってくるりと背を向けて、岩川基地提督にそこに張り付くぷちむすを見せた。
「こ、これは!?」
「我が無二なる者である、ぷちひりゅうだ」
堂々たる宣言をする呉鎮守府提督に、横須賀鎮守府提督もまた続く。
「そして、我がぷちむすもここに在る」
「なっ!?」
横須賀鎮守府の頭の上、ぷちむすが乗っていた。
「これこそが、ぷちたいほーだ」
横須賀鎮守府提督がぷちむすを披露すれば、単冠湾泊地提督も黙ってはおられず、
「今まで塞がっていた目を、刮目して見よ、ここに居るぷちむす達を」
単冠湾泊地提督の前に第六駆逐隊娘達のぷちむす達が居た。
「つまりはそういう事よ、ここに居る全員がぷちむすの事は知っている」
ニヤリ。
舞鶴鎮守府提督は人の悪い笑顔を顔に浮かべた。
あまりの急展開に付いて行けず、口をパクパクさせていた岩川基地提督であったが、
心配したちぶきに顔を撫でられ、我に帰った。
「何故、教えてくれなかったのですか、こういう存在が居るという事を」
「バカめ、信頼の証の事など口にするようなものでは無い、こういう者が居るという事は
艦娘達との信頼関係を築けて初めて知って良い事なのだ」
舞鶴鎮守府の言葉に岩川基地提督も、あえて教えられなかったのかと納得した。
そして、自分は漸く艦娘達に認められたのだと改めて分かり、喜びの感情が胸にこみ上げ、
感無量といった表情を顔に浮かべる。
そんな岩川基地提督の様子を見て、舞鶴鎮守府提督は、ふんっと鼻をならす。
「嬉しいのは分かるがな、信頼を得たという事はそれだけ重い責任を持つと言う事でもある、
今までは艦娘達の好意によるサービスタイムだ、いわば貴様はお客さん扱いだったと言って良い、
だから多少の失点は目を瞑ってくれたが、今後はそうはいかん」
舞鶴鎮守府提督にじろりと睨まれ、岩川基地提督は身を固くした。
「壁がなくなるという事は遮る物が無くなった代わりに守るものもなくなる事を意味する、
良い事も悪い事もそのまま直接に届く、信頼に胡坐をかいて、無茶な事をすれば・・・」
舞鶴鎮守府提督の目に凄みが増す、呉鎮守府提督が指をゴキゴキと鳴らした。
「か、艦娘達より預けられた信頼の重さ、肝に銘じます」
おもわず岩川基地提督は立ち上がり、敬礼をした。
「ま、肝心な所を押さえてりゃ、後はそう気難しく考える事もなかろうよ、
おめでとう、貴様もこれでいっぱしの艦娘達の提督だ」
急に相好を崩して、身に纏う雰囲気を弛緩させた舞鶴鎮守府提督は、岩川基地提督に笑いかけた。
「深海凄艦の数は多い、これから何かと協力体制を取る事もあるだろうが、ま、よろしく頼む」
横須賀鎮守府提督が砕けた口調で言うと、剣呑な雰囲気を醸し出していた呉鎮守府提督も
纏っていた闘気のようなものを霧散させて頷き、単冠湾泊地提督はピカリと坊主頭を光らせた。
「は、はあ、こちらこそ、これからもご指導ご鞭撻をよろしくお願いします」
頭を下げる岩川基地提督を真似してぷちふぶきもぺこりと頭を下げた。
こうして、ぷちむす達はその存在を正式に認知され、たたでさえ姦しい鎮守府は新たな住人を得て、益々姦しい場となることとなる。