迷子になった少女と、親切な誰かのお話。




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めちゃくちゃ忙しい一年でしたが、正月ぐらいは時間が空いたのでパパっと気楽に書きました。2時間で書き上げたので設定とかありません(ある)。





世界は不思議に満ちていて

 

 

ここ、どこだろう。

 

 

突然意識が繋がったような感覚。

我に返って周りを見渡しても、知っているようで知らない住宅街のようで。

道に立っている。ならばどこからか歩いてきた、のだろうと。

道を振り返っても、薄暗い夕焼けの世界がどこまでも続いていて、酷く頼りない。

私の影だけが、すっと先へと伸びていく。

知らない道を戻る怖さに、肩を落とす。

本格的な迷子である。しかもその過程の記憶すら迷子である。

 

 

困ったな。

 

あれ。困りごとかな、お嬢さん。

 

 

零れた言葉を誰かが拾ってくれた。

振り返る。そこには赤い太陽を背に佇む黒い影。

長身。影と見分けにくい黒一色。帽子、手袋、肌の色が見えない。

 

怪しすぎる。ぶっちゃけ関わりたくない、が。

この人を無視して他の人を探しに彷徨うのもナンセンスな気がする。

背に腹は代えられないし、この人にも失礼だろう。

だから、腹を決めて言葉を紡いだ。

 

 

ええ、迷子なんです。

 

ほう。....お名前は?

 

 

答えられない答えたくない。なので聞き返すことにした。

 

 

あなたは誰ですか?

 

私ですか?私は業鈴(ごうりん)と申します。リン、とでもお呼びください。

 

リン....さん。

 

はい。あなたの、お名前は?

 

 

名前、なまえ、なまえ....ええと....

 

 

わかりません....

 

 

自分で言って、小さくないショックを受ける。

そんなことが、あり得るのだろうか。

名前すら迷子とくると、さすがに記憶の障害を懸念せねばならない。

どこかで頭を打ったか、はたまたストレス的な何かか。

 

 

なるほど、結構進行しているようですね。

 

 

長身の影は頷いている。

首をかしげる。“進行”、つまりこの障害、症状を知っているような雰囲気だ。

けれど、ここで聞いたって仕方がないだろう。

記憶の欠落、名前という最重要情報の紛失なんてものが一夕一朝で戻るわけがない、と思う。

だから、ここで聞くべきことは、

 

 

すいません、帰り道知りませんか。

 

帰り道、ですが。あなたは帰りたいのですか?

 

もちろん、帰りたい....です。

 

 

ここは不気味だし、家でゆっくりくつろぎたいし、夕飯も食べたい。

だから帰る必要がある。帰りたい。

 

 

ここはとても良い場所ですよ?

比較はなく、欠落もなく、恐怖もなく、苦痛もなく、過去もなく、社会の縛りもありはしない。

とても好条件な世界です。どうです? 一緒に住みませんか?

 

 

____背後に伸びる少女の影が揺らぐ。

 

それは良いかもしれない。

実のところこんなところに来てから、肩にのった重みが消えたような、そんな安寧を感じている。

 

 

それは良いかもしれませんね。

 

 

____揺らぐ。

 

 

でしょう? こんなナリをしていますが、こちらでは不動産をやっておりまして。良いお部屋をご提供しますよ。ああお金は必要ありません。こちらにはそんなものはありませんので。

 

どうぞ、ご案内しますよ。

 

 

腕が伸ばされる。その、真っ黒な手袋に覆われた手を反射的に握ろうとして。

 

____揺らぐ。捻じれて、

 

ふと、“手を握る(繋ぐ)”ことを思い出した。

 

____影が、弾けた。

 

あと数ミリ、触れ合おうとした手の隙間から眩い火花が散った。

 

 

むう....!

 

 

黒い長身に光が穴が開けて、向こうから沈む太陽が覗ける。それは全て影のようで。

すさまじい速度で後方へ退いた影をしり目に、私は己へと語りかける。

 

 

繋ぐ、ツナグ、つなぐ、手を結ぶということ、

繋がりが満ちる。縁を満たす。営みを象徴するもの。

折り重なる創造たる黄金の輝き。一つの完全性の象徴。

 

私の名前は、ミツ。白恵三繋(しらえみつ)

思い出した。私の名前。

 

 

思い出しましたよ、私の名前。

 

....それは幸いで。それで、一緒に行くのですか?

 

 

太陽はまだ沈んでいない。

 

 

いえ、申し訳ないのですが帰ります。私にはまだやりたいことがたくさんありますし....リンさんのお話をもう一度よく考えてみたのですが、魅力がちょっと弱かったですね。

 

ほう? 参考程度にお教え願えますか?

 

あなたの言う“良い場所”に楽しみが感じられませんでした。幸せも、彩も、夢も、先のことも。

多分、そういうものを犠牲にして、ここは在るのですよね?

 

ええ、ご名答。確かにあなたには要らない場所のようだ。

 

 

_____長身の影が膨らんでいく。夕焼けの世界が闇に沈んでいく。

 

けれど。はちみつ色の双眸を宿す少女は、気丈にも相対し続けている。

 

 

お願いがあります。

 

....ほう。

 

 

_____影の膨張が止まった。鎌首がもたげ、形のない目が少女を見る。

 

 

私を帰してくれませんか?

 

報酬は。

 

報酬は、私のここでの記憶です。これで十分でしょう?

 

 

長身の影だったものは、“なんだそれっぽっち”と思い、思いついて、思い直して、歯を剝いて笑った。

 

 

契約、成立です。

 

 

影は高く高く伸びる。そのまま弧を描き、頭を少女に向けて、

濁流のように。少女を飲み込んだ。

 

影が、墨のように赤い世界を汚す。

闇に溶け墜ちた住宅街の一角、その道の中心に、不可思議な影溜まりができて、すっと消えていった。

もう誰もいない。時間はとうに夜だった。

 

 

 

 

 

 

ここ、どこだろう。

 

 

突然意識が繋がったような感覚。

我に返って周りを見渡してみれば、ここは見知った住宅街の一角だった。

 

 

なに、してたんだっけ。

 

 

記憶が酷く曖昧だ。

荷物はいつも背負っているショルダーバックのみ。スマートフォンを立ち上げても特に異常無し。

 

帰ってこれた帰ろう。

 

なんとも言えない気分だ。ぽっかりと空いた記憶の淵に立って覗き込み、首をかしげながら家路を進む。

こういう時は、なんかあったのだろう。そう思うことにする。

不思議なことなんてざらにあるし、忘れたことなんて殆どがそうすべき事柄だ。

私は、私が忘れないと思ったことは絶対に忘れないので、そう信じることにしているのだ。

 

 

過去の私に、“グッジョブ!”と熱い自画自賛をカマし、それはそうと今日の夕飯へと思いをはせる。

 

残暑も果てた秋の夕暮れ、迫る夜に紛れて、影がどこかで笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処かで錫杖が鳴る。

鳴る度に思い出す。

 

“お前の名を裏切るな。”

 

正直、凄まじく面倒くさい。

家柄は重いし、お父さんと違って、お祖父様達の視線が痛い。

年のお家行事もイヤだ。この町自体もあまり好きではない。

古い。坂ばかり。田舎。虫ばかり。電車だって一日十数本。ちょっとした天候変化で止まる。獣が出ても止まる。

町ぐるみで知り合いだっていうのも息が詰まる。

いつの間にか外行きの顔(天真爛漫)を演じるのも自然になった。

時々やって来る物見遊山な観光客も、正直気に入らない。

そうパシャパシャ写真を撮らないで欲しい。田舎最高とのたまわないで欲しい。

珍しいは惨めだ。特別は嫌いだ。

このみんなと違う色の目だって....昔は毟り取りたいと何度も願ったものだった。

 

けれど、それももう昔だ。

母からの手紙を思い出す。こんな環境が辛抱ならなくなって消えていった彼女を。

人は母親失格と言うだろうけれど、まあわからなくもないので私は許している。

小さなかった頃の私の話が話題に出る度に、母は私の目のことを情景に含める。まるではちみつのようで綺麗でしょう、と。

だから、私はこの特別を誇る。偽りでも演じてでも、“はちみつみたいで綺麗でしょう”、と。

 

一年一回、不定期に届く母からの手紙は、いつだって無愛想な見た目である。

多分場所を特定されたくないのだろう。紙質も使われてるペンも切手も記載された情報も常に一定だ。多分私に届く前にお祖父様達に覗かれている可能性を危惧しているのだろう。この町で育った彼女らしい考えである。

 

 

 

 

....私には夢があります。

 

ほう、聞かせてくれるのですか?

 

この町から出ていって、何処かで生きる母を探す旅に出たい。

 

....。

 

だからどうか、帰してください。お願いします。

 

 

 

変わらない夢がある。

手紙にはありきたりなことしか書かれていない。

物理的な手がかりは無い。母を見つける手段は無い。

けれど、この世界には不思議が満ちていて。

この手紙には、母との縁が強くある筈だから。

 

“お前の名を裏切るな。”

 

ショルダーバックを優しく握る。

なんとなく、全てに毒が回って、本音が口からまろびでた。

 

 

ほんと、こんな町、イヤだなぁ。

 

 

そんなこんなで私は掻き消えた。

赤い世界は、日常を嫌う者を引き込むことを私は忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 





白恵三繋(しらえみつ)
ミツ、密、蜜、三。
それは繋がり、繁栄、黄金、そして完全の象徴。
煤けた茶髪をおさげにした、はちみつ色の瞳が特徴的な今を生きるJK。
小柄ながら優れた身体能力と、誰とでも明るく接する様子がチャーミング。
そのきらきら輝く黄金の瞳に射抜かれたものが多数いるとかいないとか。
イメージはモモンガ。かわいい。

連関と豊穣を司る何らかの児。地上の星。神秘度数2000年ぐらいのものを継承している。無自覚。

母への感情は半分嘘。今は許してる、と思っている。


業鈴(ごうりん)
名持ち。
それは影、黒、捉える者、吸いつくす者。蛇。
長身のイケメン。影にイケメンも糞も無いが設定上はそう。性別は無い。
赤い世界の住人を装うナニカ。不動産をしているらしい。それで契約とかも得意なのか?
一応危険人(?)物だが理性や良心がある方だと思う。
まあ赤い世界を使って商売をしている時点で悪。
神秘度数は3000年ぐらい。キラキラしているものが大好き。


赤い世界:
入るにも代償がいる。(意思とか関係なく入り込んだ時点でアウト)
出るにも代償がいる。(入る時より重い。性悪。)
結果的に迷い込んだものを食い物にする系の異界。
わざと入り込みやすくしている節がある。
夜になった瞬間綺麗に消化されます。
業鈴が邪魔過ぎる。餌取るとかおかしくない?
神秘度数200年ぐらい。






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