純狐の息子は二度目の生で母を追う   作:四国の探索人

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第1章のまとめです。


第131話 洩矢諏伯の幻想入りまで まとめ回

守矢神社。

 

諏伯とぬえがまだ結界にいた頃、神奈子や純狐らが集まっていた。

 

だからといって今さら作戦会議をすることもない。

 

やることのなくなった神々と妖怪達は、境内で茶を飲みながら談笑していた。

 

「私もいつか孫から『おばあちゃん』って呼ばれるのねぇ……楽しみ」

 

純狐が頬に手を当て、うっとりと呟く。

 

その隣では諏訪子も満更ではなさそうに笑った。

 

「『諏訪子おばあちゃん』かぁ。悪くないねぇ……」

 

「…………」

 

神奈子も湯呑みを持ったまま黙っていた。

 

(『神奈子おばあちゃん』か……ふふふ)

 

どうやら同じ妄想をしているらしい。

 

しかし、そんな神奈子へ諏訪子が何気なく視線を向けた。

 

「でも神奈子は血の繋がりないから、『神奈子おばさん』でしょ」

 

「なっ……!」

 

神奈子の顔から笑みが消えた。

 

「それはないだろ。ないよな?」

 

思わず周囲へ同意を求める。

 

すると射命丸文がニヤリと笑った。

 

「いやぁ、二人の恋路が楽しみですねぇ。――神奈子おばさん」

 

「天狗貴様! 誰に向かって言っている!」

 

「冗談ですよ、冗談!」

 

文は笑いながら両手を振った。

 

「武神・八坂神奈子は神話の時代から変わらず、強く美しいままではありませんか」

 

「そ、そうか?」

 

途端に神奈子の怒気が引っ込んだ。

 

「まあ、分かっているならいいんだ。うんうん」

 

「ちょろいねぇ」

 

「何か言ったか諏訪子」

 

「なーんにも」

 

文はそんな二柱を眺めてから、ふと純狐へ視線を移した。

 

「それはそうと……せっかく諏伯さんを育てた方々がこれだけ揃っているんです」

 

「ん?」

 

「聞いてみたいですねぇ」

 

文が手帳を取り出す。

 

「――洩矢諏伯の、これまでを」

 

諏訪子が目を細めた。

 

「……そうねぇ。いくら母親だからって、純狐も知らないことは沢山あるだろうし」

 

「ええ。あの子の二度目の生については、私も知らないことばかりだもの」

 

純狐も興味深そうに身を乗り出す。

 

その時だった。

 

何もない空間に一本の亀裂が走った。

 

「――あら、面白そうなお話」

 

空間が裂け、そこから八雲紫がニュッと顔を出す。

 

「せっかくですもの。関係者も呼んでしまいましょうか」

 

「待て紫、お前まさか――」

 

神奈子が止めるより早かった。

 

境内のあちこちにスキマが開く。

 

「きゃっ!?」

 

「な、なんだ!?」

 

「紫!?」

 

八意永琳。

 

蓬莱山輝夜。

 

藤原妹紅。

 

聖白蓮。

 

村紗水蜜。

 

ナズーリンなど

 

そして先ほどまで華扇との戦いで伸びていた寅丸星まで、次々と境内へ放り出されてくる。

 

「…………」

 

永琳が周囲を見渡した。

 

幻想郷でも指折りの面々が勢揃いしている。

 

「宴会?」

 

「いいえ」

 

紫が扇子を開いた。

 

「せっかくですから、関係者を集めて洩矢諏伯について話そうかと思いまして」

 

「……休憩中とはいえ、いきなり連れてこられると驚くんだけど」

 

「嫌なら帰ってもよろしくてよ?」

 

永琳が周囲に開いているスキマを見る。

 

「どうせ自力では帰してくれないんでしょう」

 

「もちろん」

 

「分かったわよ」

 

諦めて座った。

 

そして、最初に口を開いたのは純狐だった。

 

「あの子は――伯封として生まれた」

 

先ほどまで孫の話ではしゃいでいた声が、少しだけ穏やかになる。

 

「それはもう、大切に育てたわ。本当に可愛かったのよ」

 

「でしょうねぇ」

 

諏訪子が苦笑する。

 

純狐の表情が変わった。

 

「ただ……そんな幸せな生活を、嫦娥と夫がぶち壊した」

 

場の空気が少しだけ重くなる。

 

その続きを引き取ったのは映姫だった。

 

「伯封は死後、本来ならば転生を受けることができました」

 

「でも、しなかった」

 

純狐が呟く。

 

映姫は頷いた。

 

「母親と再会したい。その一念で死後の世界に留まり続けました。待って、待って……それでも再会は叶わなかった」

 

「…………」

 

「そして最後には、記憶を引き継げないことを承知の上で――転生した先で再び母親と出会える可能性に賭けた」

 

諏訪子が懐かしそうに笑った。

 

「そして次の生で、私の子供として生まれた」

 

「洩矢諏伯……」

 

純狐がその名を口にして、ふと首を傾げる。

 

「そういえば、どうして『諏伯』という名前になったの?」

 

「ああ、それ?」

 

諏訪子が笑う。

 

「生まれて少し経った頃だったかな。『名前、何がいい?』って聞いたらね」

 

少し間を置いて、

 

「『はくふー』って」

 

純狐の目が見開かれた。

 

「…………伯封」

 

「多分、魂のどこかに残ってたんだろうね。だからそこから取って――諏伯」

 

「そう……」

 

純狐の表情が柔らかくなる。

 

しかし神奈子が口を挟んだ。

 

「お前、私に感謝しろよ」

 

「なんで?」

 

「最初そいつの名前を『男だから諏訪男』にしようとしてただろ!」

 

純狐の表情が固まった。

 

「…………諏訪男?」

 

「いやぁ、分かりやすいかなって」

 

「私が止めたんだぞ! そんな適当な名前を息子につけるなって!」

 

「神奈子」

 

純狐が神奈子の手を握った。

 

「ありがとう」

 

「そこまで!?」

 

笑いが起こった。

 

神奈子は咳払いする。

 

「まあ……そんなこんなで、私達の元で育った。そしていい歳になったところで――」

 

「旅に出ちゃった」

 

諏訪子が続けた。

 

すると待ってましたとばかりに文が立ち上がる。

 

「そう!」

 

全員の視線が集まる。

 

「その旅の始まりで出会った、心優しく美しい妖怪こそがこの私! 射命丸文です!」

 

「負けてどうにもならなかったから、抜け道を教えてやったんだろ?」

 

神奈子が即座に暴露した。

 

「なっ……!」

 

文が振り返る。

 

「神奈子様!?」

 

「事実じゃないか」

 

「せっかくいい話にしようとしてたのに!」

 

輝夜がクスクス笑った。

 

「その少し後かしらね、私と出会ったのは」

 

「あなたと?」

 

純狐が尋ねる。

 

「ええ。確かきっかけは五つの難題の休憩時ね、紙飛行機だったわ」

 

輝夜は遠い昔を思い出すように空を見る。

 

「まだ子供だった妹紅とも遊んでいたわね」

 

妹紅が腕を組む。

 

「竹取物語の始まりと、ほぼ同じ時期だったな」

 

「そして私――稗田阿礼と出会ったのも、その頃です」

 

阿求が口を開いた。

 

「都ではちょうど、ある妖怪による騒動が起きていました」

 

視線が自然と、今ここにはいない一人へ向けられる。

 

「封獣ぬえ」

 

永琳が続ける。

 

「竹取物語の終焉では私とも戦ったわ。そして、その直後だったかしら」

 

「蓬莱の薬」

 

妹紅が呟く。

 

「ええ。諏伯はどこからか蓬莱の薬を手に入れた」

 

阿求が少し申し訳なさそうな顔をした。

 

「恐らく……都の陰陽師達でしょう。当時の諏伯さんの活躍を快く思わない者は少なくありませんでしたから」

 

「嫉妬?」

 

「ええ。そして陰謀によって、、その関連で帝に捕縛され――」

 

阿求が一度言葉を切る。

 

「生きたまま、土へ埋められました」

 

純狐の笑顔が消えた。

 

「…………誰が?」

 

「純狐、落ち着いて」

 

諏訪子が即座に肩を掴む。

 

妹紅が俯く。

 

「その時……私は何もできなかった」

 

拳を握る。

 

「怖くて逃げて……ぬえに泣きついた」

 

阿求が続けた。

 

「そして事情を知った封獣ぬえは激怒。都を壊滅させました」

 

「……壊滅?」

 

「正確には、要石を引き抜いた結果ですが」

 

紫が笑う。

 

「それこそが、後世に残った封獣ぬえの二つ名――」

 

扇子を閉じる。

 

「『平安京の悪夢』」

 

純狐はしばらく黙っていた。

 

やがて、小さく呟く。

 

「……あの子、昔から諏伯のためにそこまでしてくれていたのね」

 

その場の何人かがニヤニヤする。

 

「なるほどねぇ」

 

諏訪子も笑った。

 

「そりゃ好きになるよね!」

 

「そこは後で本人達に聞きましょう」

 

文が嬉しそうに手帳へ書き込んだ。

 

紫が話を戻す。

 

「都から逃れた諏伯は、故郷まで被害が及ぶことを恐れ、妹紅を守矢神社へ預けた。そして自分はしばらく佐渡ヶ島へ避難した」

 

「そこ! そこよ!」

 

突然、村紗が立ち上がった。

 

「佐渡へ向かう途中! あいつに鎮められたのよ、私は!」

 

「村紗」

 

白蓮が静かに呼ぶ。

 

「あなた、その時には既に死んでいたでしょう?」

 

「うっ」

 

「しかも船を沈めていたのでしょう?」

 

「…………」

 

「逆恨みはいけませんよ」

 

「……はい」

 

村紗は大人しく座った。

 

その横で星が苦笑する。

 

「そして佐渡ヶ島で諏伯さんと出会ったのが、私です」

 

「星と?」

 

「はい。当時の私は妖怪になったばかりで……色々ありまして。諏伯さんには救っていただきました」

 

神奈子が懐かしそうに笑った。

 

「妹紅も喜んでたよなぁ。星を連れて帰ってきた時」

 

「妹、妹ってな」

 

諏訪子も笑う。

 

妹紅が顔をしかめる。

 

「その話はいいだろ……」

 

「ほとぼりが冷めた頃、諏伯は再び旅へ出た」

 

白蓮が静かに語り始める。

 

「その道中で行き倒れていたところを、私の弟――命蓮が助けました」

 

「そして二人は旅を共にした」

 

ナズーリンがため息をつく。

 

「問題は、命蓮がとんでもなく優秀だったことだ」

 

「問題?」

 

純狐が首を傾げる。

 

「あまりにも優秀すぎて、余計な術まで諏伯に教えた」

 

ナズーリンが星を見る。

 

「結果――」

 

星も苦笑した。

 

「二人で宝塔を作ってしまいまして」

 

「宝塔を?」

 

「それだけじゃない」

 

ナズーリンが頭を抱える。

 

「星蓮船まで作った、テキトーに打った先にあった入道雲が妖怪化し、雲山に。」

 

純狐が数秒黙る。

 

「……私の息子、何をしているの?」

 

「私達も時々そう思います」

 

白蓮が微笑んだ。

 

そして――。

 

「その後くらいね」

 

紫が口を開いた。

 

それまでの和やかな空気が、ほんの少しだけ変わる。

 

「私が諏伯を連れていった」

 

純狐の視線が紫へ向く。

 

「第一次月面戦争へ」

 

「…………」

 

「そして」

 

純狐が冷たい声で続きを引き取った。

 

「誰かさんに月へ置いていかれた私の息子は、そのまま月で監視される日々を送ることになった」

 

紫が視線を逸らす。

 

「あら、結果的には良かったじゃありませんの」

 

「何が?」

 

「だって――」

 

紫が純狐を見る。

 

「そこであなたと再会できた」

 

純狐は黙った。

 

月へ侵攻した純狐。

 

月へ置き去りにされた諏伯。

 

本来ならば出会うはずのなかった母と息子。

 

「……ええ」

 

純狐が静かに笑った。

 

「月を攻めた私と、偶然あの子は出会った」

 

そして――。

 

「何故か、失われていた伯封としての記憶まで取り戻した」

 

諏訪子が純狐を見る。

 

純狐も諏訪子を見る。

 

一人の少年。

 

伯封として生まれ、一度死に。

 

母を待ち続け。

 

記憶を失う覚悟で転生し。

 

洩矢諏伯として生まれ。

 

神々に育てられ。

 

天狗と出会い。

 

人間と出会い。

 

月人と戦い。

 

蓬莱人となり。

 

土へ埋められ。

 

大妖怪に都を滅ぼされ。

 

佐渡へ逃げ。

 

妖怪を救い。

 

僧侶と旅をし。

 

宝塔を作り。

 

空飛ぶ船まで作り。

 

挙げ句の果てに月へ攻め込んで置いていかれ――。

 

ようやく。

 

母親と再会した。

 

「そして、そこからは――」

 

紫が扇子を開いた。

 

「幻想入りというわけね」

 

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