オルクセン王国国有鉄道 ~鉄道員(ぽっぽや)物語   作:M☆E☆T☆A

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オルクセン国鉄で採用されている、通標式閉塞を考察。更には切っても切れない「ポイント(分岐器)」と「信号機」も。
現実の時代でもそうですが、この頃は鉄道初期の試行錯誤が落ち着き、鉄道の運行が増えるほどに多発する各種事故からの教訓が、技術面にも反映される時期であり、ポイントと信号機を同時に連動して操作することで、安全を保つ連動装置の発展へとつながりました。
興味をお持ちの方は、昭和15年に鉄道省製作の「鐵道信號(鉄道信号)」という鉄道ファンにはお馴染みの記録映画を動画サイトでご覧いただくとよりご理解いただけるかと。


ヒルシュミットグロッケ ① ~閉塞と信号

 ”チンチンチン”

 

 クルトたちがシルトローテンベルグを発車する少し前。次のヒルシュミットグロッケ駅事務所に据えられた二台のファーレンス電機製作所製通票閉塞機の内、シルトローテンベルグ間の閉塞を司る一台の電鈴が鳴る。閉塞開始を知らせる合図の電鈴だ。閉塞とは列車を運行する線路を一定の距離で区切り、その線路上には同時に複数の列車を入れないことで衝突を防ぐ信号保安システムの事である。

 オーク族の鉄道電信技士、エルンストがすぐさま閉塞機の応答ボタンを同じく三度推すと、隣に据えられた電信機の通信音が信号を伝えてくる。それを受信した彼は、傍らに立つ同じくオーク族の駅長、エミールに受信録を渡した。

 

「上り六一〇列車閉塞です」

「閉塞承知」 

 

 駅長の返答を聞いたエルンストが、折り返し電鍵を叩いて承知の旨返信する。相手と直接やり取り可能な通信手段(    鉄   道   電   信)が整備されたおかげで、鉄道の安全・保安技術的には大きな進歩となる一方、符号による電文を聞き取る電信技士の需要に育成が追いついていない現状では、列車増発に必要な閉塞区間を増やせられぬ重い枷となっている。軍参謀本部で試験運用中だという音声による通信( 鉄 道 電 話)が実用化されるまでは、電信技士の数が閉塞区間の上限となってしまい、列車運行本数を増やすことは難しくなる。さらに踏み込んで言えば、通票による閉塞は閉塞機が置かれた駅もしくは信号場との間でしか運用が出来ず、現在研究途上にある電気信号による自動閉塞制御技術が導入されない限り、列車運行間隔を現状より短くすることは、安全管理上極めて困難なのだ。

 

 続いて閉塞機の電鈴が二度鳴った。閉塞開始の合図である。すぐさま送信ボタンを二度押し、閉塞承認の応答をする。今度は閉塞機に付いた検電器の針が【半開】を指し示す。そこで解錠ボタンを押しながら、本体下部にあるタブレット取出し部の引手を引いて出そうとする、が、半分ほど開いた所で止まってしまい、中に収納してあるタブレットが出せない状態になる。実はこれが閉塞完了の目印となる。この半開きの状態を見れば、この区間が閉塞状態にあることがすぐにわかるようになっている仕組みである。後は列車が定時に出発しだい、発車駅側で送信ボタンを一度だけ押し、こちらの電鈴を一度鳴らす決まりになっているのだ。

 

 今度はもう一台の方、西隣ヘルム側の閉塞機の電鈴が鳴った。

 

 ”ボンボンボン”

 

 振り子時計の時報のような太い音。ヘルム側の閉塞機にはお椀形の電鈴でなく渦巻き状の太い針金を使う事で、音色を変えて区別がつけられるようになっている。返答まもなく、ヘルムからの電信機が下り列車の閉塞確認を伝えてきた。南部本線は単線であるため、この駅で上下の列車がすれ違うダイヤが組まれているからだ。

 

「下り三一列車閉塞です」

「閉塞承知」

 

 六一〇列車とすれ違うシルトローテンブルグ行旅客三一列車の閉塞作業となる。エルンストはこちらの閉塞機も同様に操作し、これで両区間の閉塞作業は完了する。この時間は、双方の駅から届いた通票をそのまま交換し、折り返してまた双方の駅へ戻す運用となり、閉塞機での通票処理を一時中止することになるため、【通票折返し使用中】の札を両方の閉塞機に掛ければ終了である。

 

 閉塞作業の次は駅へ進入する列車の転轍機と信号機の操作の番だ。駅長エミールがプラットホーム上、駅舎に隣接して設けられている信号扱所へ向かうと、各列車ごとに各転轍機と信号機の切替操作と確認を行う。遠く離れた位置に設置された主要な転轍機と信号機は、ここに設置された転轍梃子からは鉄管で、信号梃子は鉄索でそれぞれ繋がれ、機械的に遠隔操作が出来る様になっている。それだけに距離の離れた分岐器、信号機の梃子は重くなり、その操作にかなりの力を必要とすることも多い。

 

「六一〇列車上り本線到着、二一番定位、二五番定位、二二番定位、確認。信号遠方二番反位、場内二番反位、出発二番定位」

「三一列車下り本線到着、一一番定位、一二番定位、一三番定位、確認。信号遠方一番反位、場内一番反位、出発一番定位」

 

 最初は分岐器の転てつ機から。列車が本線上より駅構内の指定番線へ入線する進路を決め、次いでそれに沿って信号表示を変えていく。それぞれの駅、信号場には【構内分岐器及び信号機操作図表】が必ず備えられており、構内線路配置図を基に、各種信号機、標識等のほか、連動して操作せねばならない分岐器の表示一覧やそれらの操作順番が列車運行の分類毎に記載されている。それに従って順に操作を行う決まりとなっているからだ。

 その決まりの元となる現行の【オルクセン国有鉄道運転取扱心得八七四年訂版】によれば【転てつ機においては常時開通して置くのをその定位とする】とし、【反位は必要時のみ切り替え、その必要性が消失したらすぐに定位に切り替えなくてはならない】と定められている。故に単線区間の駅で上下線を分岐させ列車を交換させる線路配置の場合、上り列車は上り本線、下り列車は下り本線へ入線させる進路がそれぞれ定位となる。

 一方、信号機は【安全管理上、常時停止信号を現示するのをその定位とする】とし、【列車の運転を行うときのみ、信号梃子を反位に制御して進行を指示する信号を現示する】としている。この信号機については役割ごとの種類が多く、多岐にわたり事細かく定められているのだ。例えば信号遠方とは本線上に設置され、場内信号機の現示を予告する遠方信号機。制動力に劣る重両列車や、駅を通過する優等列車の運行には欠かせない信号機。場内とは駅構内への進入の可否と、開通している進路を示す場内信号機。出発とは文字通り駅から出発の可否と開通している進路を示す出発信号機。合わせて【この先線路上に問題なく、場内信号機に従い指示線路へ進入のち、出発信号機前で停止】を現示することとなる。

 まずは転轍梃子を。それから信号梃子を。一台づつ転換操作漏れが無いように確認を進めていく。分岐器一つでも、ついうっかり間違えただけで大事故につながりかねない。なればこそ、常に慎重に、がこれまで血で贖われてきた経験則。各駅構内の操作一切は全て駅長(とその代行たる駅助役)だけの専決業務だけに、その重責を担うエミールも時には「夢」にうなされることもある。

 かつてデュートネ戦争のとある会戦で、擲弾兵連隊の一中隊長でありながら、退却するデュートネ軍部隊に対して持ち前の慎重さと観察眼でその陽動策を見破り、直後に受けた側面からの騎兵突撃も、すかさず兵たちに方陣を組ませるや、味方の反攻までひたすら耐え凌いで見せたという経歴の持ち主で、現在も予備役ながら中尉の階級を持つ牡ではあるが、駅長の重責は現役の部隊指揮官であった時と何ら変わりはないのだ。

 その立場ゆえになのか、列車運行を司る駅長、運行助役や運行掛職員は、時には参謀本部鉄道部からの急な運行命令や変更命令や、事故、遅延による運転区からの運行指示命令も重なって、常に激務になりやすいためか、普段から無口で不愛想な者も少なくない。更には指示を出す時は細かな所にまで及ぶため、それらの指示を受ける機関士たちには大変に煩く思われる存在になりがちである。時には指示を出す側の『疲れからくるつっけんどんな態度』も相まって、陰気で融通が利かず、いけ好かないヤツという印象を与えがちになる。職域的にも機関区、車両区を中心とした機関士や車掌、運転掛等の現場に携わる者たちに多い、陽気で明るく、豪放磊落な牡たちに比べると、実に対照的に受け取られやすい。そうなれば感情的な反発からは逃れ難くなり、各職域上長にとっては、部下の掌握、管理上の悩みのタネとなるのも、軍、民間を問わずどこにでも共通する課題であるようだ。

 

「これでよし、と」

 

 最後に誤操作の有無と転換後の誤動作を防ぐ鎖錠梃子による鎖錠(インターロック)を完了して終りである。

 後に近代鉄道信号の父と称される人族鉄道技師が興した鉄道信号機の大手製造会社、キャメロットのジョン・アンド・ジョン・シグナル社と技術提携をしたライテナウ社が製造開発した最新型機械式信号連動装置は、先年ようやくオルクセン国鉄が採用する所となり、目下ヴィルトシュバイン鉄道管理局を中心に、北部方面の路線へ重点的に導入されている。が、こちら南部方面での設備更新はまだまだ先の予定である。いかなオルクセン国鉄とて、戦争準備も相まって、リソースはまだまだ有限なのだ。




「近代鉄道信号の父」と呼ばれる人物ですが、日本ではあまり知られていないかな、と言う気も。
彼が開発した各種信号機や連動装置は、その後に世界中へと広がり、日本でも最近まで現役でした。
ちなみに彼の起こした会社は、後にウェスティングハウス・ブレーキ・アンド・シグナル・カンパニーと合併し、更にはホーカー・シドレー社(!)に買収されました。そして今世紀になってからは、シーメンス社の傘下となってます。
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