悪役令嬢ハーレム 〜乙女ゲームの負け役"正ヒロイン"に転生した俺は、死なないために悪役令嬢たちを堕としにいく〜 作:椿乃朱華
「できた。これなら王子の心をわしづかみ」
そこまでしなくて良いんだよ、アホ。
でも、言うだけのことはあって、自画自賛みたいになってしまうが、良いところのお嬢様にしか見えない。
足元までのロングスカートに、下品にならない程度のノースリーブ。白を基調とした色合いで、透明感がある。
サリア曰く、料理をするのに袖が邪魔になるだろうから、ノースリーブにしたそうだ。
自分で言うのもなんだが、清楚さが滲み出ている。
聖女というに相応しい服装になった。
「……すごいですね。素人目にも良さがわかります。本当にセンスがいいのか疑わしかったですが、文句のつけようもありません」
「一言余計。でも、まだ終わりじゃない」
「これで全部じゃないんですか?」
「アクセサリーがまだ」
そう言って、店内を物色し始めるサリア。
こうなると、私の出番はない。
これだけセンスのいい服選びをするのだ。
きっとアクセサリーも良いものを選ぶはず。
しばらくしてサリアが持って来たのは、磨き抜かれて鏡面状になった円形シンボルのネックレスだった。
「すごい綺麗ですね。これをつければいいんですか?」
「うん。つけてみて」
試着してみると、より聖女っぽさに磨きがかかったように思う。
鏡で確認しているが、鏡面状になっているシンボルに自分の顔がうつっており、なんだか不思議な気分だ。
神秘的な感じがして、雰囲気が出る。
これはいいな。聖女が持つアイテムっぽくて、わくわくする。
このシンボルに、相手の真の姿を映すのだー! ってな。
「いいですね、これ。気に入りました」
「よかった。それは私からのプレゼントだから。服の代金だけ払うといい」
「いいんですか?」
「構わない。そのかわり、私だと思って大事にしてね」
そう言って、サリアは私の胸元にさがる鏡面状のシンボルを手に取り、口付けをした。
なんだか一瞬、淡く光った気がするが、そんなことはどうでもいい。
それよりも気にすべきことは、サリアの好感度が既にやばいところまで来ていそうなことだ。
なんでこんなに好かれているんだ?
そんな大したことはしていないはずだぞ。
なにをどうしたらこうなるんだ。
この辺で探りをいれておかないと、まずいことになる気がする。
「どうしてここまでしてくれるのですか? 知り合ってそんなに経っていないですよね」
サリアは少し黙ったかと思うと、ゆっくりと、噛み締めるように言葉をつむいだ。
「……私にとって初めての友達で、一人だけの、大切な友達だから」
ゲームではでてこないセリフ。
すこし俯いて、恥ずかしげにしながらこぼされた、心からの言葉。
だからだろうか。
このまま行けば監禁されるかもしれないと分かっていても、素直に受け入れられることができたのは。
ここまで思われて、怖いから遠ざけるなんて酷いこと、できるはずもない。
監禁がなんだ。
洗脳がなんだ。
そういう道に走らせないように、共に歩めばいいだけじゃないか。
間違ったことをしようとしたら止めてあげて、困っていたら助け合う。
そういう関係であれば、良き友となれるはずだ。
……それに、サリアから望まれて、どこか安心している私もいる。
この世界で、私は異物だと思っていたから。
前世が男だったせいか、今までどこか現実味がないまま生きて来た。
それに加えて、実はゲームの世界が元になっていると分かった。
なんだか現実味が薄く、夢の中にいるのではないかと思ったことさえある。
そんな世界でも、私を私として見てくれて、大切に思ってくれる人がいる。
今まではお母さんだけだったけれど、サリアという、元がゲームのキャラに認めて貰えて、なんとなく安心した。
ゲームのシナリオではなく、自分の意思で選んでもらえたのだと思えたから。
だって、ゲームではこんなに早く仲良くなるルートなんてない。
サリアの交友関係が壊滅的だから、生まれたての雛鳥理論でよく思われているのもあるのかもしれない。
でも、そうであるならば、余計に大事にしなければならないと思った。
私しか仲のいい人がいないのなら、彼女の性格を簡単に歪めることができてしまうだろうから。
ここまで尽くしてくれる友達に、そんなことはしたくない。
尽くされたから尽くし返す。
どこか利害関係じみたところがあるが、人間関係なんて最初はそんなものだろう。
それが段々と変化していって、見返りを求めない関係になると思うのだ。
そして、これはその最初の一歩で。
「……私も、あなたのことを大切な友達だと思っています。変な道には、絶対進ませないですから」
サリアに、監禁なんて絶対させない。
監禁は、不安の証拠だろうから。
監禁されたくないよりも、サリアにそんなことはさせたくなかった。
思い詰めさせて、変な行動を取らせたくない。
自分の行動を気をつけると共に、サリアの情操も育てていかなければ。
監禁なんてしなくてもいいんだよって、安心させたい。
その心を知ってか知らずか、サリアは屈託のない、綺麗な笑顔で言った。
「ありがとう。信じてるね」
ゲームにはでてこないが、スチルのような光景。
心の中にしか保存できないけれど、きっと生涯忘れることはないんだろうと、そう思えた。