悪役令嬢ハーレム 〜乙女ゲームの負け役"正ヒロイン"に転生した俺は、死なないために悪役令嬢たちを堕としにいく〜   作:椿乃朱華

18 / 74
「……食べるのか? これを?」

「これは……その、なんだ? 初めて見る食べ物だが、本当に食えるのか?」

 

 ミリアルドが、私の作ったモノを見て、戦々恐々としている。

 まぁ、王族はまず見ない食べ物だろうな。

 

 この世界、食べ物は地球と同じところがあるのだが、ゲームで描かれていないところは独自の発展をしていたりする。

 だから、前世にあったものが、あったりなかったりしているのだ。

 

 今回作ったものはゲームに登場するからか、この世界にも普通に存在していた。

 ミリアルドは食べないけれど、別のルートのキャラが作っていた覚えがある。

 

 絶対異世界にはないだろと思っていたが、現地人であるお母さんも作ってくれてたことがあり、たいへん驚いた。

 こいつがあることで、日本との関わりを疑っていたが、やはりと言うべきか、乙女ゲームの世界だったわけだ。

 

 でも、お母さんがこれを作ってくれた時は、驚きつつも嬉しかったなぁ。

 なんだか愛されている実感がして。

 時々、私が作ることもあったし。

 それくらい、思い出深い一品。

 

 その料理とは――

 

「これは、おじやと言います。米を煮詰めて具をいれたもので、たいていは病気の時に食します」

 

 そう。おじや。

 家庭の味をご所望だったから、ぴったりだと思ったのだ。他にも候補は色々あったけれど、前世と今世を含めて思い出深い食べ物と言えば、これだった。

 本当、今世のお母さんがおじやを作ってくれた時は、とてもびっくりした。おじやあるんだ、って。

 

 この辺は、ゲームに米が登場していたおかげだろう。

 そうじゃなければ、作れない料理は沢山あったはずだ。

 おかげで、前世のレパートリーが色々使えている。

 一人暮らしの大学生で、自炊はする方だったからな。

 今世でも困らなくて済んだ。

 

 そう言う訳で料理には少し自信があるから、本当はもっと手の込んだ物を作ってもよかったのだけど。

 所詮は素人に毛が生えた程度だし、お抱えシェフを雇っているミリアルドにとって、美味い料理は食べなれたもの。

 

 であれば、絶対食べたことがないだろうものを選ぶべきだと思ったのだ。

 ……でも、ちょっと選択ミスったかも。ミリアルドがあからさまに引いている。

 

「……食べるのか? これを?」

「まるで吐瀉物ですわ。本当に人の食べる物なんですの?」

 

 失礼な。下町では普通に広まっているはずだぞ。

 いくらミーシャでも許さないからな。

 

「見た目は悪いかもしれませんが、れっきとした食べ物ですよ。固形物すら食べる元気がない時に、食すものですので」

「……俺は病気ではないのだが」

 

 よほど食べたくないのか、ミリアルドは些細な抵抗をしている。

 いいよ、そんなに言うなら食べなくても。

 ちょうどお昼頃でお腹すいてたから自分で食べるし。

 

「家庭の味をご所望でしたからお作りしましたのに。私にとってはこれが母の味ですから。お口にいれたくないのであれば、自分で食べます」

 

 私は鍋からおじやをすくって器に盛り、ミリアルドに渡さず自分の口に入れた。

 だしの旨味と、野菜の優しい味が広がって、ほっとする。

 

「うん。おいしくできてる」

 

 私がおいしそうに食べているからか、ミリアルドも鍋から少量をすくって、器に入れた。

 が、そのまま食べようとしたところを、従者に止められる。

 

「まだ毒味が済んでいません」

「いい。作った本人が食べているのだから、これで毒殺などあり得ないだろう」

「ですが……」

「素性のわからぬ者ならまだしも、次期聖女だぞ? そんな捨て身の工作があるものか」

 

 ミリアルドの言葉に納得したのか、従者は引き下がり、食べるのを大人しく見守っていた。

 当人はというと、スプーンですくった後ごくりと喉をならしている。

 しばらくにらめっこしていたが、やがて意を決したように口に入れた。

 その数秒後。

 

「……うまい。なんだか落ち着く味だ」

 

 よかった。口にあったみたいだ。

 これでまずいって言われたら、立場がなかったからな。

 

「それはよかったです。おかわりもありますからね」

「ありがたい。ミーシャもどうだ? うまいぞ」

「……私は結構です。見た目が受け付けないので」

「そうか。まぁ、俺としては独り占めできるから構わないのだが」

 

 なんだと? 全部食べる気か?

 それは許さんぞ。

 私も食べようと思って多めに作ったんだから。

 

「私の食べる分も残しておいてください」

「いいではないか。これは俺に作ってくれた物だろう?」

 

 くっ。強情だ。さっき久しぶりに食べたら、もっと食べたくなったんだよ!

 私にもよこせぇ!

 

「作ったのは私ですよ。作らなければ存在しないのですから、私にも食べる権利はあると思いませんか?」

 

 強めに主張すると、返答はミリアルドではなく、ミーシャの方から聞こえて来た。

 

「いやしい人。そんなに食べたいなら、私が手料理を作って差し上げます」

 

 え。ミーシャが作るの……?

 嬉しいけど怖い……。

 箱入りお嬢様が料理なんて作ったことある訳ないだろうし。

 ゲームでもそんな描写はなかった。

 推しの手料理は食べてみたいけれど、ここは遠慮しておこう。

 推しを殺人犯にはしたくない。

 

「そんな、ミーシャ様にお作りしていただくなんて、恐れ多いですよ」

「私と仲良くしたいとミリアルド様からうかがいました。それなのに、作ったものが食べられないと?」

 

 う。それを言われると弱い。

 ……仕方ない。推しの笑顔のためなら死んでも構わん。

 例えそれが、恋敵を排除した悪辣な笑みだとしても。

 

「……わかりました。いただきます」

 

 覚悟を決めて承諾すると、ミーシャは自信ありげに微笑んだ。

 あぁ。この顔が見れただけでも満足。

 悔いがないと言えば嘘になるけど、死に際の思い出としては満点だ。

 

 ……なんて。まともな物を作るかもしれないし、こんな衆人環視の中で毒殺とか大胆なことはしないだろうから、大袈裟な心配なんだけど。

 なんとなくふざけてみたかっただけだ。

 

 お付きの従者たちも止めないし、実は料理が上手だったりするのかもしれない。

 

 ミリアルド?

 やつは夢中で口いっぱいにおじやを頬張っているよ。

 

 そんなに喜んで貰えたのは嬉しいけどさあ。

 ちょっとはしたないぞ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。