悪役令嬢ハーレム 〜乙女ゲームの負け役"正ヒロイン"に転生した俺は、死なないために悪役令嬢たちを堕としにいく〜 作:椿乃朱華
「これは……その、なんだ? 初めて見る食べ物だが、本当に食えるのか?」
ミリアルドが、私の作ったモノを見て、戦々恐々としている。
まぁ、王族はまず見ない食べ物だろうな。
この世界、食べ物は地球と同じところがあるのだが、ゲームで描かれていないところは独自の発展をしていたりする。
だから、前世にあったものが、あったりなかったりしているのだ。
今回作ったものはゲームに登場するからか、この世界にも普通に存在していた。
ミリアルドは食べないけれど、別のルートのキャラが作っていた覚えがある。
絶対異世界にはないだろと思っていたが、現地人であるお母さんも作ってくれてたことがあり、たいへん驚いた。
こいつがあることで、日本との関わりを疑っていたが、やはりと言うべきか、乙女ゲームの世界だったわけだ。
でも、お母さんがこれを作ってくれた時は、驚きつつも嬉しかったなぁ。
なんだか愛されている実感がして。
時々、私が作ることもあったし。
それくらい、思い出深い一品。
その料理とは――
「これは、おじやと言います。米を煮詰めて具をいれたもので、たいていは病気の時に食します」
そう。おじや。
家庭の味をご所望だったから、ぴったりだと思ったのだ。他にも候補は色々あったけれど、前世と今世を含めて思い出深い食べ物と言えば、これだった。
本当、今世のお母さんがおじやを作ってくれた時は、とてもびっくりした。おじやあるんだ、って。
この辺は、ゲームに米が登場していたおかげだろう。
そうじゃなければ、作れない料理は沢山あったはずだ。
おかげで、前世のレパートリーが色々使えている。
一人暮らしの大学生で、自炊はする方だったからな。
今世でも困らなくて済んだ。
そう言う訳で料理には少し自信があるから、本当はもっと手の込んだ物を作ってもよかったのだけど。
所詮は素人に毛が生えた程度だし、お抱えシェフを雇っているミリアルドにとって、美味い料理は食べなれたもの。
であれば、絶対食べたことがないだろうものを選ぶべきだと思ったのだ。
……でも、ちょっと選択ミスったかも。ミリアルドがあからさまに引いている。
「……食べるのか? これを?」
「まるで吐瀉物ですわ。本当に人の食べる物なんですの?」
失礼な。下町では普通に広まっているはずだぞ。
いくらミーシャでも許さないからな。
「見た目は悪いかもしれませんが、れっきとした食べ物ですよ。固形物すら食べる元気がない時に、食すものですので」
「……俺は病気ではないのだが」
よほど食べたくないのか、ミリアルドは些細な抵抗をしている。
いいよ、そんなに言うなら食べなくても。
ちょうどお昼頃でお腹すいてたから自分で食べるし。
「家庭の味をご所望でしたからお作りしましたのに。私にとってはこれが母の味ですから。お口にいれたくないのであれば、自分で食べます」
私は鍋からおじやをすくって器に盛り、ミリアルドに渡さず自分の口に入れた。
だしの旨味と、野菜の優しい味が広がって、ほっとする。
「うん。おいしくできてる」
私がおいしそうに食べているからか、ミリアルドも鍋から少量をすくって、器に入れた。
が、そのまま食べようとしたところを、従者に止められる。
「まだ毒味が済んでいません」
「いい。作った本人が食べているのだから、これで毒殺などあり得ないだろう」
「ですが……」
「素性のわからぬ者ならまだしも、次期聖女だぞ? そんな捨て身の工作があるものか」
ミリアルドの言葉に納得したのか、従者は引き下がり、食べるのを大人しく見守っていた。
当人はというと、スプーンですくった後ごくりと喉をならしている。
しばらくにらめっこしていたが、やがて意を決したように口に入れた。
その数秒後。
「……うまい。なんだか落ち着く味だ」
よかった。口にあったみたいだ。
これでまずいって言われたら、立場がなかったからな。
「それはよかったです。おかわりもありますからね」
「ありがたい。ミーシャもどうだ? うまいぞ」
「……私は結構です。見た目が受け付けないので」
「そうか。まぁ、俺としては独り占めできるから構わないのだが」
なんだと? 全部食べる気か?
それは許さんぞ。
私も食べようと思って多めに作ったんだから。
「私の食べる分も残しておいてください」
「いいではないか。これは俺に作ってくれた物だろう?」
くっ。強情だ。さっき久しぶりに食べたら、もっと食べたくなったんだよ!
私にもよこせぇ!
「作ったのは私ですよ。作らなければ存在しないのですから、私にも食べる権利はあると思いませんか?」
強めに主張すると、返答はミリアルドではなく、ミーシャの方から聞こえて来た。
「いやしい人。そんなに食べたいなら、私が手料理を作って差し上げます」
え。ミーシャが作るの……?
嬉しいけど怖い……。
箱入りお嬢様が料理なんて作ったことある訳ないだろうし。
ゲームでもそんな描写はなかった。
推しの手料理は食べてみたいけれど、ここは遠慮しておこう。
推しを殺人犯にはしたくない。
「そんな、ミーシャ様にお作りしていただくなんて、恐れ多いですよ」
「私と仲良くしたいとミリアルド様からうかがいました。それなのに、作ったものが食べられないと?」
う。それを言われると弱い。
……仕方ない。推しの笑顔のためなら死んでも構わん。
例えそれが、恋敵を排除した悪辣な笑みだとしても。
「……わかりました。いただきます」
覚悟を決めて承諾すると、ミーシャは自信ありげに微笑んだ。
あぁ。この顔が見れただけでも満足。
悔いがないと言えば嘘になるけど、死に際の思い出としては満点だ。
……なんて。まともな物を作るかもしれないし、こんな衆人環視の中で毒殺とか大胆なことはしないだろうから、大袈裟な心配なんだけど。
なんとなくふざけてみたかっただけだ。
お付きの従者たちも止めないし、実は料理が上手だったりするのかもしれない。
ミリアルド?
やつは夢中で口いっぱいにおじやを頬張っているよ。
そんなに喜んで貰えたのは嬉しいけどさあ。
ちょっとはしたないぞ。