悪役令嬢ハーレム 〜乙女ゲームの負け役"正ヒロイン"に転生した俺は、死なないために悪役令嬢たちを堕としにいく〜 作:椿乃朱華
「どうしてサリア様までいるのですか?」
「何? いちゃいけないの?」
翌日。厨房の一角をお借りして、料理を教えることになったのだけど。
話を聞いたサリアが、黙っているはずもなくて。
こうしてついてきてしまった。
「一人が二人に増えてもあまり変わりませんが、サリアは料理を覚えて、作る機会があるのですか?」
「レイナに食べてもらう」
「そうですか。それは嬉しいですね」
上部では愛想良くお礼を言ったけれど、正直顔がひきつる思いだ。初心者の手料理かぁ。
お腹を壊さないといいけど……。
まぁ、来てしまったものは仕方ない。
ミーシャが少し不機嫌そうではあるが、私が許可している手前、嫌とは言いにくいのだろう。
しぶしぶながらも、受け入れている雰囲気だった。
喧嘩しないことを願っておこう。
まぁ、たぶん大丈夫、なはず。
それに、ライバルがいた方が上達も早いだろうし。
二人に教えるのは大変だろうけど、頑張ろう。
「さて。さっそく作っていきますが、あまり難しいものは挫折するだけなので、簡単なものから始めます」
「そうですわね。あまり難しいものは、まだ作れる気がしませんわ」
「私はできる」
「サリアは料理をしたことがあるのですか?」
「ない。初めて」
一体どこからその自信が来るんだよ……。
ミーシャも無謀だと思っているのか、鼻で笑っているような雰囲気だ。
サリアは自信満々にしているが……初心者にありがちな慢心だろう。
現実を知って諦めないといいけど。
「ま、まぁ、初めてでも、レシピ通りに作れば問題はありません。きっと」
「わかった。レシピ通りに作る」
「今日は何を作るのですか?」
作るものは決めてある。
基本の工程が入っていて、応用が効きそうなもの。
「
「炒飯ですか。食べたことはありませんが……どういう料理なのですか?」
「炒める飯と書きますが、その名の通り、ご飯を具材と一緒に炒める料理です」
「初めて聞く料理」
おかしいなぁ。この世界にも存在している料理なんだけど。
お母さんが作っていたし、名前も一緒だった。
だからきっと、ゲームに登場していたはずだ。
ただ、どこで出ていたかは覚えてないんだよな。
あるからには、誰かが作っていた可能性が高い。
そのルートが、誰のものか分からないのだけど。
でもたしかに、貴族が食べるイメージはあまり湧かないかもしれない。
だからこそ、どこで出ていたのかは気になるな。
まぁ、今は考えても仕方ない。
まずは二人に、どういう料理か見せないと。
「では、私が先にお手本として作りますので、よく見ていてください。レシピはそのあとに教えます」
「承知いたしました」
「わかった。よく見る」
二人の了承も得たところで、早速作っていく。
まずは、具材を細かく切るところからだ。
使うのは、人参と玉ねぎ。それからベーコン。
普通の炒飯なら、人参と玉ねぎはいらない具材ではあるけれど、野菜も取れるし、かさましになる。
なにより、切る工程を多く体験させたいからな。
初めてでみじん切りは少し大変かもしれないが、形を気にする必要がないので、適していると思う。
究極の炒飯は、マスターした後に各々作ればいい。
今は簡単お手軽が目的なので、こだわりは避けるが吉。
ただ、見ている方には難しそうに映るのか、ミーシャが不安そうに言葉をこぼした。
「そんなに細かく切るのですね。できるか不安ですわ」
「大丈夫です。やったら慣れます。それに、本来の炒飯に、これらの野菜は入らないことが多いので。どうしてもできない場合は、抜いても構いません」
「わかりましたわ。できるだけ頑張ってみます」
ミーシャが意気込んでいると、それを見ていたサリアがふんっと笑った。
「こんなの魔法を使えば一瞬」
「ダメですよ。それじゃあ練習になりませんから」
「えー」
えー、じゃないんだよ。
何のために練習すると思っているんだ。
「料理は過程を覚えないと、他のものに応用が効きませんから。具材が切れていればいいと言うわけでもないのです」
「……わかった」
サリアが納得したところで、次の工程に移る。
卵を割り、用意したご飯に混ぜて、よく絡ませる。
あらかじめ卵と混ぜるのを邪道だと言う人もいるかもしれないが、失敗しにくいし、タイミングに迷う必要がない。
初心者なら、これくらい単純なレシピでいいんだ。あまり難しいと、続けたくなくなっちゃうし。
下ごしらえはこれで終わりなので、あとは炒める作業だ。
まずは油をしき、人参と玉ねぎをフライパンに入れる。
玉ねぎが透明になるまで炒め、ご飯を投入。
絡まった卵が固まってきたら、塩胡椒をしたあと、ベーコンを入れて火を通す。
ここで一度味見。
しょっぱくなりすぎていないようなので、塩胡椒は足さずにこのままで。
ちゃんと火が通ったら、醤油を鍋肌からそそぎ、さっと混ぜて、完成だ。
再度味見をして、きちんとできているか確認してから、二人に振り返る。
「できました。こんな感じの料理です。具材や卵の入れ方などは違う場合もありますので、これが正解というわけではありませんが……私はこのように作ります」
「わかりましたわ。難しそうですが、やってみたいと思います」
「味がわからないと作れない。食べさせて」
サリアが言うことも正論なので、まずは二人に食べてもらうことにした。
「わかりました。食べてもいいですよ」
「ずるいですわ。私もいただきます」
サリアだけに許可したと思ったのか、ミーシャが横から炒飯をすくって、勢いよく取り皿に盛っていく。
そんなに取ったらサリアの分がなくなるよ。
サリアはなにも言わず、ぼーっと眺めている。
何を考えているのかは分からないが、結局、ほとんどの炒飯を持って行かれてしまった。
それでも何も言わないのだけれど……ただ黙っていると言うよりは、呆然としているように見えた。
「おいしいですわ!」
ミーシャが感嘆の声を上げている横で、サリアはお皿にポツンと残っている炒飯の残骸を見つめるのみ。
その姿がなんだか哀愁漂っていて、とてもさみしげだった。
「……大丈夫ですか?」
「とても悲しい……私の炒飯……」
サリアのではなかったけどね?
でも、これはちょっと可哀想だ。
「……もう一回作りますか?」
「……大変だと思うからいい。でも、代わりに、食べさせて欲しい」
「食べさせてって、私がですか?」
「そう。レイナがすくって欲しい」
どこか潤んだような目でこちらを見るサリア。
すくうの意味が、なんだか違う意味に聞こえた。
そうだ。今のサリアを救えるのは私だけ。
そう思ったら、取る行動は一つ。
「わかりました。それで気が済むのなら、してあげます」
そう言った瞬間、ぴたりと、ミーシャの動きが止まった。
信じられないものを見るかのような目でこちらを眺めた後、頬張っていた炒飯を置いてから、サリアに詰め寄った。
「ずるいですわ! 最初からそのつもりだったのでしょう!?」
「なんのこと?」
「とぼけても無駄ですわよ! そうやって同情を誘って、食べさせてもらうつもりだったのでしょう!」
「誰かさんが勝手に食い意地張っただけ」
「っ……でしたら、残りを差し上げます! それなら満足でしょう!?」
「食べかけはやだ……」
それはそう。
というか、もうほとんど残ってないし。
「ミーシャ。あまり意地悪をするものではないですよ」
「ぐぬぬ……」
ぐぬぬとか言う人初めて見た。
食い意地の張ったミーシャは放っておいて、お皿にちょこんと残った炒飯をすくい、サリアの口の前に持っていく。
すると、彼女はぱくりと食いついて、満足そうに咀嚼していた。
「……おいしい」
「それはよかったです」
残った炒飯もすくって、何度もサリアの口に持っていく。
何だか餌付けしてるみたいで楽しいな。
全て食べさせ終えて、お皿を片付けようとすると。
ミーシャが自分の炒飯をすくったスプーンを携え、待ち構えていた。
「……なんですか?」
「私にも同じことをしてください」
「ダメですよ。ミーシャにまでやったら不平等じゃないですか」
「そんな……」
絶望した顔のミーシャに、サリアが追い打ちをかける。
「欲張りは馬鹿を見る」
あんまりな言い草だけど、その通りだ。
結局、ミーシャは残った炒飯を、一人さびしく食べていた。
同情を誘うような雰囲気を漂わせているけれど、意図が透けているので、無視だ無視。
効果がないことが分かったのか、彼女は諦めて完食していた。