悪役令嬢ハーレム 〜乙女ゲームの負け役"正ヒロイン"に転生した俺は、死なないために悪役令嬢たちを堕としにいく〜 作:椿乃朱華
「さて。それじゃあ実際に作ってみましょうか」
食べ終わった後のお皿を水につけたら、ようやく二人の実践タイムだ。
「おいしく作れるように力を尽くしますわ」
「ほどほどに頑張る」
二人の意気込みが対照的でおもしろい。
「怪我だけはしないように気を付けてくださいね」
その他注意事項などを伝え、二人に材料を渡す。
一人ずつ包丁の持ち方を教えながら、みじん切りにしてもらう。
「こう、ですか?」
「そうですね。それでもいいのですが、包丁の先を軸にして切ると、もう少しやりやすいですよ」
「先を軸に、ですか?」
初めての概念だからか、上手く伝わらないみたい。
ミーシャの後ろに回って、背中側から手を伸ばし、彼女の手に添える。
そのまま手をガイドし、感覚を覚えさせた。
「こうです。この感覚でやれば、上手にできると思います」
「なるほど。ありがとうございます」
ミーシャから離れると、サリアがこちらを見ながら声を上げた。
「分からない。教えて」
とは、言うけれど……。
「……できてるじゃないですか」
あきらかに、途中まで切り刻まれている玉ねぎがある。
これで出来ていないと言うのは無理があるだろう。
もうガイドする必要はないと思ったのだけど。
「分からない。教えて」
壊れた機械のように、同じことを繰り返すサリア。
これ、あれだろ。
ミーシャに密着しながら教えていたのを見て、自分もやって貰おうとしてるだろ。
変な意図はなかったけど、今更恥ずかしくなってきた。
もうやらないから、その手には乗らないぞ。
「そうですね。お手本を見せるので、真似してみてください」
サリアから包丁を借りて、みじん切りのコツを交えながら教える。
一通り終わった後、サリアはぽつりと言った。
「分からなかったから、後ろから手を取って、感覚を覚えさせて欲しい」
いやもう、どストレートだな。
いっそのこと清々しいよ。
でもダメ。くっつくのが目的だと思われたくないから。
ここは、対サリア特効の兵器を繰り出すしかない。
「サリアなら見ただけでできると思ったのですが……難しかったですかね?」
自尊心を刺激してやれば、きっと自分から動くはず。
そう思って言ってみると、フリーズしたようにしばらく動かなくなった。
恐らく葛藤しているのだろう。
やがて動き出したかと思ったら、ものすごく手際良く、みじん切りをし始めた。
「見て。一発で覚えた。褒めて」
「すごいですよ。サリアならできると思っていました」
ってか本当にすごいな。初心者とは思えないぞ。
頭を撫でて褒めてやりたいくらいだが、包丁を持っている人にそんなことをするのは危ないから、控えておく。
そんな一幕はあったものの、二人ともつつがなく材料を切り終えた。
それが終わったら、卵とご飯を混ぜ、炒めの工程だ。
ミーシャは入れるタイミングが分からず、逐一こちらに確認していたが、サリアは一人で淡々とやっていた。
もうちょっと聞いて来るかと思ったけど、なにかをぶつぶつ唱えながら、迷うことなく材料を入れていってる。
邪魔しちゃ悪いし、話しかけないでおこう。
サリアは大丈夫そうだったので、危なっかしいミーシャに終始かかりきりだった。
そうこうしているうちに、二人の炒飯が出来上がった。
「できましたわ!」
「こっちもできてる」
ミーシャの炒飯は、もたついたりしていることが多かったので、少し焦げたような色が見える。
とはいえ、私が見ていたから黒焦げではない。
一歩手前の香ばしい茶色だ。
サリアの方は完璧と言っていい出来で、文句のつけようがなかった。
「レイナ様に味を確かめて欲しいのです。食べてもらえませんか?」
「いいですよ」
ミーシャの炒飯をスプーンですくって、一口いただく。
うん。少し香ばしさはあるけど、それが返ってアクセントになっていて、いいと思う。
「おいしくできていますよ」
「ありがとうございます!」
あの粘土味みたいなクッキーを作ったのと同一人物とは思えない。
まぁ、レシピ通りにやれば、変なことにはならないのだ。
これを機に、ミーシャには料理を極めていって欲しい。
彼女の成長に感銘を受けていると、サリアはスプーンですくった炒飯をこちらに向けてきた。
「私のも食べて」
「わかりました。いただきます」
サリアからスプーンを受け取ろうとすると、彼女は私の手を避けて、こちらの口の前に持ってきた。
「このまま食べて」
これは抵抗するだけ無駄かもしれない。
こぼしたら可哀想なので、そのまま流れに任せることにした。
口にいれると、どこか親しみのある味がする。
これは……。
「私の作ったものとそっくり……」
「そう。時間と分量を完璧に真似た」
天才か?
天才だったわ。
料理において、お手本通りに作ること以上に、美味しく作れることはあまりない。
それ以上の味は料理を知り尽くした人のアレンジか、稀に起こる偶然の産物でしか出せないのだ。
前者はまず無理として、後者は再現性がないから当てにするものじゃない。
ミーシャの炒飯が偶然の産物に近しいけど、同じ味を作るのは難しいだろう。
もう一度作れると期待するのは、あまりおすすめできない。
その点で言えば、サリアの炒飯は完璧だ。
同じように作るだけだから、再現性がある。
「……すごいですね。さすがサリアです」
サリアは、続けていればあっという間に料理を習熟しそう。
問題は、彼女にそのやる気があるかどうかだけど。
まぁ、私に食べて欲しいというモチベーションがある間はやってくれそうだ。
サリアの今後に思いを馳せていると、ミーシャが自分の炒飯をすくって、サリアと同じように差し出してきた。
「私のも、同じように食べていただけませんか?」
あー……これは断ると差をつけたみたいになって面倒臭くなるぞ。
……仕方ない。
一度やってしまったから、断るのはやめよう。
そう思って食べると、今度はサリアが二回目を差し出してきた。
これきっと、あれだな……食べるとまたミーシャが出して来るな。
そんな予感がしながらも、乗るしか道はなく。
口に入れると、案の定、ミーシャが待ち構えていた。
うん。もう二人が飽きるまで付き合うか。
――そう思ったのが運の尽きというか。
結局、全部なくなるまで付き合わされた。
美味しかったけど、もうお腹いっぱい……二人分はきついよ……。
というか、サリアは全然食べてないけど大丈夫なのか?
「サリアはほとんど食べていませんが、大丈夫ですか?」
「これがあるから平気」
そうして取り出したのは、糖分盛り盛りのエネルギーバー。
またそんなジャンクなものを持ち出して……。
「……簡単なものを作りますから、待っていてください」
そうして、余ったベーコンと卵で、簡単オムレツ風のなにかを作る。
ミーシャが羨ましそうな目で見ていたけど、元は言えば、ミーシャが欲張ったせいだからな。
ただ、あまりにも物欲しそうな目で見てくるので、仕方ないからちょっと分けてあげることにした。
こんな日常が永遠に続いたらいいなぁ。
そう思わされるのに充分なくらい、穏やかな時間だった。