悪役令嬢ハーレム 〜乙女ゲームの負け役"正ヒロイン"に転生した俺は、死なないために悪役令嬢たちを堕としにいく〜   作:椿乃朱華

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困っている人がいたら手を差し伸べる。

「……このお金は使ったらダメ!」

 

 ばっと起き上がったリリアナが、大きな声でそう言った。

 一体なんの夢を見てたんだ……不穏な叫びに、面食らってしまう。

 

 と、そこですぐに建て直したミーシャが、リリアナに問うた。

 

「もう体調はよろしいのですか?」

「あ、はい! なんだか身体がすっきりしています! でもなんで、私は倒れてしまったんでしょう?」

「魔力欠乏症みたいですね。恐らく、魔石に魔力を込めすぎてしまったのかと」

「そう、ですか。限界ギリギリまでと思っていたのですが、限界を超えてしまっていたのですね……ご迷惑をおかけいたしました」

「いえ。何もなかったようでなによりです。ですが、もうこんな無理をしてはいけませんよ?」

 

 ミーシャが優しくたしなめるも、リリアナはかぶりを振った。

 

「それはできません。私はどうしてもお金を稼がないといけないんです」

 

 なんでそこまで必死になるのだろう。

 聞いたミーシャも不思議に思ったのか、更に突っ込んで問うていた。

 

「失礼ですが、理由をお伺いしてもよろしいですか?」

「それは……言えません。お客さんに言うことでもないですし……」

「……そうですか。では、お名前を教えてください。名も知らぬ人を助けるというのも格好は付きますが、私は助けた人のことを知っておきたいのです」

「リリアナ・シュトルンと言います。昔は貴族だったので家名はありますが、名ばかりのものです」

 

 やっぱりリリアナで合っていたのか。

 ゲームの内容を覚えていれば、彼女が無理する事情も分かったかもしれないんだがな。

 忘れてしまったものは仕方ない。

 この先がどうなるかわからない以上、近づかない方が無難だろう。

 そう思っていたのだけど。

 

「私はミーシャです。少し前まで高位貴族でしたが、奴隷落ちしたので、ただのミーシャですわ」

「あぁ。あなたが……お城には呼ばれなかったので直接は聞いていませんが、噂はよく耳にします」

「奴隷と話すのはお嫌ですか?」

「いえ、そんな。私もただの没落貴族ですし。偏見とかはもう無くなっています」

「ありがとうございます。私たち、お互いのことを知って、もう友達のようなものですわね?」

 

 いきなりの暴論に、リリアナもたじたじだ。

 彼女は言葉を濁しながら、曖昧に笑った。

 

「あー……まぁ、そういう距離感の人もいるんじゃないでしょうか?」

「友達でしたら、事情を話してもおかしくないのではないですか?」

 

 なるほどね?

 奴隷になっても、ミーシャの気高さは変わっていないんだな。

 困っている人がいたら手を差し伸べる。

 たとえ貴族でなくなっても、その信念は変わりないのだろう。

 

 我が身かわいさで見捨てようとした私が恥ずかしいよ……あれだけ、人を見るようにしようと思っていたのにな。

 また、今のリリアナじゃなくて、ゲームのリリアナを見ていた。

 

 そうだよな。美化委員に入らなかった時点でもうゲームからは外れているし、友達としてなら、敵対する理由もない。

 

 初対面でそこまで首を突っ込むのはどうなんだと思わなくもないが、そこで優しくなれる人間でこそ、聖女だと胸を張って言えるように思う。

 

 聖女なんて、今までゲームの称号くらいにしか思っていなかったけど、この世界では立派な役割を持っている。

 ミーシャを見ていると、それを実感するのだ。

 

 私は聖女であると誇れる人間になりたい。それでこそ、ミーシャの主人と言えるだろうから。

 

 そう考えれば、ここで手を差し伸べられなくて何が聖女か。

 この世界で生きる立派な人間になるためなら、あるかも分からない死亡フラグなんて気にしていてはダメだろう。

 ミーシャが手を差し伸べるなら、私もそれに倣うべきだ。

 

 そんな覚悟を決めていると、サリアが苛立たしそうに吐き捨てた。

 

「……奴隷が勝手にそんなことして」

「いいんですよ、サリア。私もリリアナさんの事情は気になっていましたから」

「……でも、これでまた面倒事になる。場合によっては命の危機もあるかも」

 

 そうか。サリアはサリアで、私の心配をしてくれているんだな。

 嬉しく思っていると、ミーシャが私たちの方を向きながら、真剣な眼差しで想いを伝えてきた。

 

「私は、レイナ様に命をお救いしていただきました。サリア様にも同様に、です。見捨てても咎められなかったのに、好意を寄せた人のため、親愛なる友のために、命をかける。そんなお二人に、私は憧れました。命をかけるまではいかなくとも、誰かの助けになれる人間でありたい。そう思うからこそ、ここで見捨てたくはないのです。どうか、彼女に手を貸すことを許していただけませんか?」

 

 私は別に反対してなかったけれど、やっぱり勝手に行動した負い目があるのかな?

 私はそういうミーシャが好きだから、褒めこそすれ、咎めることなんてないのだけど。

 

「私は構いませんよ。そうして手を差し伸べられるミーシャが好きですから」

「……レイナがいいって言うなら好きにすればいい」

 

 ミーシャは折り目正しくお辞儀をして、お礼を述べて来た。

 

「ありがとうございます。お二人に恥じないよう、精一杯努めます」

 

 そんな空気の中、リリアナが、所在なさげに言葉をこぼした。

 

「あー、これ、私が話さなかったら、ものすごく気まずい空気になるやつですよね?」

 

 ……すまん。私たちで勝手に暴走していた。

 そもそも向こうにも拒否権があるよな。

 勝手に盛り上がって恥ずかしくなった私は、逃げるように言葉をたたみに行った。

 

「申し訳ありません。そちらにもご事情がありますよね。出過ぎた真似をいたしました。ご迷惑でしたら、私たちはもう行きますね」

「いえ! 思わず気持ちを言っちゃっただけです! 助けてくれるならそっちの方が嬉しいので!」

 

 見捨てられると思ったのか、慌てて訂正するリリアナ。

 でも、気持ちを言ったってことは、気まずくなるなと思ってはいたんだね?

 素直で可愛い子だなぁ。

 

 こんな子と仲良くなれるなら、少しくらい危険があってもいいかもしれない。

 ……少しだけね?

 めちゃくちゃは嫌だよ?

 フリじゃないからな?

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