重返青春記録1999 作:ヤグルマギク
物語は様々混じり合い、縦と横、過去と未来に重なる。
お久しぶりですね。リバースのえっちなのとか、大学のレポートしてたらこんなに空いちゃいました。今回思いつきで色んな作品のパロディ増し増しなので、当てて見てね。
ところで、アトミックハートコラボシナリオ、ホシノに読ませたらぶっささりそうですよね。
それと、お気づきになっていない方が居るかも知れないのでお伝えします。タイトル変更に伴い、ネタバレ注意は『復楽園』終了まで広がっています。
深々とした空気を持ち、厳かな雰囲気を保った廃墟。それが視界に映ったものに対する百合園セイアの感想だった。手入れされていないではなく、破壊され尽くした場所。柱は折れ、手すりは崩れ、タペストリは千切れ・・・・・・ステンドグラスも多くは粉々になっている。だが、それでもセイアは、その廃墟の建築様式に少しばかり覚えがあった。
「・・・・・・まさか、アリウス自治区の?」
そうであれば、これは良くない夢だ。恐らく自分はまた、あの異形の会合に紛れ込んだのと同じような事になっている。彼女の強い閃きはその結論を与えた。
と、同時にセイアは、背筋を走る寒気と胃から吹き上がる嘔吐感に見舞われた。とっさに口を押さえるが、それで止めることは出来ず、指の隙間から吐瀉物が漏れ出る。一度吐いた物を再び飲み下す事などできない。セイアは押さえた手を離し、口の中の物を床に落とした。
「───そのゴミは、貴女がいなくなれば共に消え去るのでしょうね?」
膝を突き、肩で息をするセイアの背後からそのような問いが投げ掛けられた。その声をセイアは知っている。異形の会合で見聞きしたものだ。赤い貴婦人。孤立した過激派。
「たとえ廃墟であったとしても、バシリカはバシリカ。汚して良い場所では無いことは分かるはずでしょう」
ベアトリーチェが、セイアに急接近した。その移動速度は素早く、百合園セイアは咄嗟に反応できない。ただ、もしもセイアがベアトリーチェに対して警戒をしていたとしても結果は同じだろう。
ベアトリーチェの足がセイアの腹を打ち抜く。セイアはサッカーボールのように跳ね転がっていった。
「全く、何か気配があると思って見に来たら、やはり貴女でしたか───まさか、この至聖堂まで入ってくるなんて。夢の中だと思って油断していたのですか? 預言の大天使・・・・・・いえ、百合園セイア」
ベアトリーチェは追撃を試み、セイアに再び接近する。だが、何か思いついたベアトリーチェはピタリと足を止めた。彼女は口元を押さえクックッと笑いを零す。
「他のゲマトリアも訪れたことのない秘境です。光栄に思いなさい」
セイアはベアトリーチェを見上げる。彼女はステンドグラスを背にして立っていた。光が彼女の後ろから広がり、神秘性を与えている。その光景は一種神話的な壮麗さを持っていた。嗚呼、禍害なるかな。偽善な律法学者、パリサイ人よ。と救世の言葉を伝える古びた本の一節を思い出す。彼女の神話的壮麗さはそれである。外だけは清められた杯と皿。白く塗られた墓である。その内側には貪欲と放縦を、その下には死人の骨が眠っている。嗚呼、彼女は禍害である。
セイアの背筋には、あのアルカナと呼ばれた女と似た恐怖が素早く走り抜けた。この祭壇は何だ、この不吉な気配は何だ。そんな疑問が恐怖の間をくぐり抜けて浮かんで来る。彼女の閃きはこんな時こそよく働くのだ。セイアの脳裏に一つの光景が浮かび上がる。赤く染まるキヴォトス。それは血で染まるというような比喩では無く、文字通り世界が赤く赤く染まっている。空が真っ赤に染まり、地上は濁流で流されていく。人々は雨に打たれ、押し流されて崩れていく。そんな光景が見えた。
強烈な色彩と反転の悪夢。それが、キヴォトスへやってくる厄災だ。
そして、その光景を見たことを察したベアトリーチェはステンドグラスの御前から退き、自身の身体の向こうの光景を見せた。
そこにはいつの間にか、十字架が立っていた。その十字架に縛り付けられた少女が一人。聖者は十字架に磔られましたと言わんばかりに背後から色彩豊かなステンドグラスの光を浴びて輝く彼女の名前を百合園セイアは知っている。アリウススクワッドの構成員、秤アツコだ。
「貴女の肉体もここにあればよかったのですが・・・・・・」
忍び込み盗みを働くような狐にはそれが相応しいでしょう、とベアトリーチェは続ける。捧げ物は多いに越したことは無い。再臨を求めて贄を捧げるならば、一よりは三が良い。それを古来の出来事になぞらえるのであれば、捧げられた子の左右には盗人がいたのだから。
「何故、そんなものを呼び寄せようと?」
セイアの言葉にベアトリーチェは笑った。
カタコンベに静寂が訪れた。帳のようだった土煙は落ちて、薄暗い空間に戻る。その中心に彼女は居た。
聖園ミカ、魔女と呼ばれ恐れられる無慈悲の女王。彼女は感情の薄くなった顔で、地面に倒れ伏すモブを見た。ガスマスクで表情をうかがい知ることは出来ないが、その白いコートの下から月光のように輝く三つ編みが二つ飛び出している少し特徴を持ったモブ。彼女にミカは話しかける。
「それで、ロイヤルブラッドを『彼女』の命令で───アリウス自治区のバシリカに・・・・・・わ、私達が知っているのはそれだけ」
聖園ミカにとって必要なものは、その情報だけだった。目的地が分かれば追跡できる。そして必要の無いものにかける情は無い。女王は引き金を引いて無慈悲な弾丸を贈った。
「ふぅん───仲間を救うため、アリウス自治区に・・・・・・先生を連れて? そっか、そう。先生なら、きっとそうするよね」
カツカツカツとカタコンベに響く靴音。その音が鳴る度に彼女の表情は変わる。つまらなそうに、哀れんで、仕方ないとため息を吐くように、悲しんで・・・・・・本来ならばそれは彼女のチャーミングな部分だろう。しかし、今、それを見る者が居るならば恐怖と不安を覚えるだろう。それはコップの縁を越えて表面張力の限界を試しているのと同じである。
「でも、それでも・・・・・・私は───追いかけるよ」
追いついて、復讐する。そう彼女は口に出す。そうしなければ溢れてしまいそうだから。
追いついて銃を構えて、引き金を引いたとき、彼女はどんな顔をするのだろうか? 軽蔑するだろうか、それとも落胆するだろうか。どちらにせよ嫌われることは間違いが無いだろう。その事を分かりながらも、足は止まらない。道順は分からないが、きっと合流は出来る。運命はそう都合良く出来ている筈だから。
「・・・・・・でも、それでもね───私は自分を止められないの」
彼女は月のように無慈悲な女王。だが、同時に多感な思春期の少女でもあった。故に足は止まらない。ブレーキの壊れたトロッコ。悲しんでも不安でも、後悔しても止まらない。その揺れで水を零れさせながら運命の車輪はレールの上を進むのだ。
「ごめんね・・・・・・だって、私はアリウススクワッドを絶対に許せない───たとえ魔女と呼ばれ続けたとしても、地の果てまで追いかけて、復讐しないとダメなの・・・・・・だから先生、私を止めないでね」
岩の上を金属が滑り削る音がして、黒い穴が現れる。そこから顔を出した緑髪の少女はサッと辺りを見渡して、安全を確認すると自分に続く者へ声をかけた。
ヴェルティがはしごを登り切ると、そこは聖堂跡のようだった。辺りは暗いが星が光るのが見える。ここはどうやら外のようだ。
「確かにここは警備が薄そうだね、ミス・ヒヨリ」
ヴェルティは帽子の位置を直しながらミス・ヒヨリに声をかける。彼女は少し顔を青くさせながら、そうですねと頷いた。
ヴェルティはそのまま、他のメンバーを見る。ミス・シャーレは少し疲れて居そうだが、余裕がある。ミス・サオリの方はというと、随分血色が悪い。疲労もそうだが、額には脂汗が浮かび、目は細められ、歯を食いしばっている。戦闘の傷が癒えきっていないのだろう。
「ここがアリウス自治区・・・・・・?」
ヴェルティが尋ねると、ミス・ヒヨリは首を横に振った。
「本当の自治区はもう少し先です───昔はここもそうだったんですけどね。ここは、訓練場でした」
登ってきた縦穴に再び蓋を被せながら、ミス・ヒヨリは昔を懐かしんだ様子で言葉を続ける。
「もっと昔は、遺跡だったそうですが、内戦が終わった後に訓練場としても使われていて───」
ドサリとなにかが倒れる音がして、ヴェルティはそちらを向く。そこではミス・サオリが地面に倒れていた。リーダーッ!? とミス・ヒヨリは驚きの声を上げ、ミス・シャーレはすぐさま駆け寄り、額に手を当てて発熱具合を推し測った。
”すごい熱・・・・・・サオリ、聞こえる?”
ミス・サオリの意識の有無を確かめながら、ミス・シャーレは自身の荷物を探って解熱剤などを取り出す。それを飲ませながら、彼女は少しここで休もうと提案し、全員がそれに了承した。
「不寝の番は私が?」
”いや、みんなで交代しながらしようか、二人とも先に休んで”
ミス・シャーレの言われるままに、ヴェルティ達は動く。ミス・ヒヨリの荷物から敷物を取り出し、地面の上に敷いた。
「さっきの話、続きを聞いても良い?」
ヴェルティは自身の横に寝転がったミス・ヒヨリにそう尋ねた。彼女はどこまで話しましたっけ、と言いながら話し始めた。
「アリウス自治区は10年くらい前まで内戦をしていました。私たちと同年代のアリウス生ならみんな知っています。アリウスが真っ二つに割れて・・・・・・その割に何で別れてるのかよく分かりませんでしたけど、それで───あぁ、そういえば、アズサちゃんと初めて会った場所がここで」
ヴェルティの知らない名前が出てくる。ヴェルティはその人物について尋ねた。
「え? アズサちゃんですか? ・・・・・・アズサちゃんは、長く白い、綺麗な髪の毛を持ってて、いつも頑張っている、とってもすごい子です。トリニティにスパイとして潜り込んで、大切な友達を作って、私たちの計画を防いで・・・・・・大事なモノを得れたんですよ」
あまり説明にはなっていないが、懐かしい思い出に浸るミス・ヒヨリにとってそれは些細な事であった。ヴェルティもあえてそれを指摘することは無く、ミス・ヒヨリの好きなようにさせた。
「───どの訓練だったかな・・・・・・射撃か、爆弾制作か。大人の『命令』に従わなかった子が、ひどく殴られていて・・・・・・でも、その子は何度も起き上がって、ずっと大人を睨んでました。でも、このまま放っておいたら、その子のヘイローが壊されてしまいそうだったのに───私は怖くて動けなかったんです」
チラリとミス・ヒヨリは視線を横にずらした。その視線の先にはミス・サオリとミス・シャーレが居た。推測するに、それに仲裁に入ったのが、ミス・サオリなのだろう。
ヴェルティは語られた思い出に誘発され、一人の友人を思い返す。焦げ茶のショートボブ、黒いジャケットと鳥の羽のようなドレス。くりくりとした赤の瞳。そう、あの赤い拳銃も忘れていない。彼女であればこの世界にも馴染みやすいのではないだろうか。
「───
忘れるはずが無い。ずっと心に残り続けている。その小さく呟いた言葉にミス・ヒヨリがえ? と聞き返す。ヴェルティはそれに何でも無いよと答えた。
「───先生、私の声が届いているかい・・・・・・?」
知らない声を聞いた。目を開くと、そこは白い空間で、その中心に心配そうな顔をした狐耳の少女がいた。先生と言っていたので、ミス・シャーレに語りかけているのだろう。そう思い、辺りを見渡してみるが、周りには誰も居なかった。
夢の中に紛れ込んだのかも知れないと思う。もしここにミス・メスメルが居てくれたら───そう、思っていると、狐耳の少女は更に言葉を続けた。
「私の声が届いているなら・・・どうか、耳を傾けてくれ・・・・・・」
残念ながら彼女の言葉は届いていない。自分が眠りについてからすぐに始まっているのだとすれば、恐らくミス・シャーレは今もミス・サオリの看病をしていることだろう。
「私は今、夢でも現実でもない狭間の世界に閉じ込められている・・・・・・。いつまで此処に留まれるのか、定かではない。時間があまり残されていない───先生に、今の状況を伝えなければ・・・・・・」
私は過ちを犯してしまった。と彼女は語り出す。ゲマトリアという組織の会議をのぞき見てしまったことが過ちだったと、偶然とはいえ巡り会ったことが不幸だったと話す。だが、そのゲマトリアのメンバーに聞き覚えのある名前が挙がった。
「黒服、黒服、マエストロ、デカルコマニー、ベアトリーチェ───そしてアルカナ」
ドキリと心臓が跳ね上がる。今、確かに聞いた名前はアルカナだったはずだ。そして、それが偶然同じ名前の別人であるというような予測は、何故か頭からすっぽりと抜け落ちる。絶対に彼女だと不思議な確信めいた閃きが脳裏に輝く。
「アリウス自治区を支配しているベアトリーチェは、バシリカで儀式を行おうとしている・・・・・・」
狐耳の少女は一方通行の通信で、情報を語り続ける。それは終末世界に流れるラジオ放送のように、悲痛さと孤独を漂わせていた。
「ベアトリーチェ───彼女が儀式で何をしようとしているのかは依然として判明していない・・・・・・だが、キヴォトスには存在しない『何か』を呼び寄せようとしているのではないかと推測される・・・・・・その儀式の果てに、キヴォトスは終焉を迎えるだろう」
頭にボウと赤い色眼鏡越しに見ているような映像が浮かぶ。ニューヨークの摩天楼よりもシンプルで乱立したビル群。それが彼女の見ている終焉なのだろう。
「私は、明晰夢の中でベアトリーチェに攻撃され───儀式の向こう側にいる存在と接触してしまった・・・・・・。そう───『アレ』に触れてしまったせいで、私の器が崩れ始め・・・・・・」
狐耳の彼女は自身の身体を抱きしめる。肩から震えがあふれ出し、顔から更に血の気が引いている。言葉が詰まって出ないのか、小さく開かれた口は僅かに吐息が漏れただけで声は続かない。
だが、しばらくして、彼女はハッと何かを思い出したらしく、こちらへ顔を向け、そうだ、これを伝えなくては、と話し始める。
「今、ミカがそっちへ向かっているはずだ。もしかしたらもう合流しているかい? きっと先生の助けになろうとしている筈だ。彼女なら私の言葉を理解して駆けだしてくれるだろうし、彼女の強さは知っているだろう?」
友人のことを思い出し、幾分か恐怖が和らいだのか、にへらと緩んだ頬にまだ疲れは見えるが、彼女の顔色は少し温かみを取り戻す。だが、悲しいかな、その友人は現在敵対関係に居る。どこかで食い違ったのだろう。そう思うが、そのことを目の前の少女に伝えることは出来ない。それはこちらからの声が届かないからというのもあったが、それ以上に今の彼女に現状を突きつける事が可哀想だったからと言うのが大きい。
「私はいつも───あの子に助けられてばかりだ・・・・・・ミカは己を責め、取り返しのつかない罪を購おうと無茶をするかもしれない・・・・・・先生、私はこの、夢でも現実でもない狭間に閉じ込められているが故に───あなたに届くか分からない言葉を投げ掛ける事しかできないが、私は此処から抜け出し、ナギサと他のみんなの力を借りて、助けに行く」
せめて、この言葉が友人に届けば良いのにと僅かに考えてしまう。だが、このことをその友人が知れば、より自罰的に、より破滅的な方へ進んでしまうかも知れないとも思える。もし、スーツケースの仲間たちが同じ状況になってしまったとき、自分であれば届いて欲しくないと思うかも知れない。
「ベアトリーチェの儀式は、このキヴォトスを終焉へと導く切掛足り得る───其の過程で、アリウススクワッドのアツコは、命の花を散らすだろう。先生・・・・・・気をつけてくれ。あなたはベアトリーチェに狙われている・・・・・・私の声が届いているのなら・・・どうか、逃げてくれ───そしてできる限り、アリウス自治区から遠ざかってほしい」
その瞬間、世界が明滅する。
夢との接続が切られる。その感覚を自分は知っていた。
「閉じたってことでいいのか?」
目の前の壁を見ながらリーリャが言った。先ほどまで開いていた道が壁に切り替わった様は、強大な神秘術を前にしたときと同じ感覚を抱く。
「たぶんね、とりあえず今、敵は居ないわ」
リーリャの質問に答えたのはメラニアだった。彼女は帽子で服の埃を払い、最後に帽子を叩いて被り直した。相棒、というより教師であるアッシも一つ大きなため息を吐いている。
リーリャは手に持っている銃の点検をしようとして上手くいかず、舌打ちして放り投げた。
「武器は?」
「私は後方勤務だぞ~? そこまで持ってきてないから、これが最後」
そう答えたのはコーンブルメ。フリフリとマガジンを振ってから再び懐にしまい直す。
やはり三人では足りなかったかとリーリャは思いながら、辺りを見渡す。まだ使えそうな武器は無い。
「・・・・・・こりゃまた隠密だな」
途中に弾薬庫でもあれば良いんだが、と言いながらカタコンベの奥へ三人は踏み込んでいった。
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