千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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69話:補習授業クライシス! ~中編~

 

「まさか、またこの合宿所に来ることになるなんて……うぅ、最悪」

「コハルは真面目だな。私は本当はいけないことだが……また、みんなと一緒に学べて嬉しく思っている」

 

 合宿所の教室で、またここに来てしまったと、頭を抱える、コハル。

 また、みんなで勉強が出来るとウキウキしている、アズサ。

 

「はい、私もアズサちゃんと同じ意見です。また、みんなで熱ーい夜を過ごしましょう」

「あうぅ……まさか、テストの日程を見間違えるなんて……でも、復刻販売はあの日程でしか買いに行けなかったですし」

 

 計画通りとニコニコした顔で笑う、ハナコ。

 テストの日程を間違えていたと、白々しい言葉を吐くヒフミ。

 

「それで……先生はどちらにいらっしゃるんでしょうか? 先生にこの教室にみんなで集まるように言われたんですが」

 

 そして、あくまでも自分は普通の優等生だとでも言うように、教師が来るのを大人しく待つ。

 テストを放棄するという不良のような行動を取っているというのに、本気で言っているのだから性質が悪い。

 

『はーい、注~目!』

「この声はミカ様…!?」

「ホワイトボードにスクリーンが映し出されているな」

「……先生の差し金ですね」

 

 そして、そんな4人の下に流れて来る声。

 スクリーンで映し出されたミカの姿に注目が集まる。

 

『いえ~い! みんな楽しんでる~? ──()()()()()合宿』

 

 私の居ないを強調して告げるミカの目は、まさに魔女と呼べるものであった。

 仲間外れにされた恨み骨髄である。

 

『せっかく、コハルちゃんとハナコちゃんでピンク髪同盟を結成してたのに、裏切るなんて……私、怒ってるよ?』

 

 コハル(蛮勇)ハナコ(悪知恵)ミカ(暴力)のピンクのトライフォースをよくも壊してくれたなとミカが告げる。

 

「あわわわ……ミカ様が怒っています。やっぱり、追放じゃなくて卒業と言った方が良かったでしょうか?」

「大丈夫ですよ、ヒフミちゃん。これは録画でしょうから。その証拠に……ピー! バキューン! ズキューン!

「エッチなのは駄目! 死刑!!」

「?」

 

 ハナコが放送禁止用語を連呼するが、反応を示したのはコハルだけ。

 画面の中のミカは動きを見せない。

 

『あれ? 先生なに? カンペ? えーと、「今頃ハナコが変なことして、これが録画か生放送か確かめてる頃だろうけど、時間がもったいないから本題に入る」だって』

「……読まれてるわよ、ハナコ」

「うふふ、先生と私は以心伝心ですから」

 

 が、動画撮影者の扉間にはバレていたのか、釘を刺される。

 まあ、反省したような顔はしないのが、ハナコクオリティだが。

 

『こほん! じゃあ、本題に入るね。みんなには当然、補習授業を受けて貰うよ。でも、ただの補習授業じゃないよ。今回はスパルタなんだから!』

「前回もトイレまで監視カメラがあって、割とスパルタだったような気が……」

「まあ、ミカはカメラ撤去後に入ったからな」

 

 コハルの前も結構あれだったなと告げる言葉に、アズサも頷く。

 流石のアリウスも、監視カメラ100台での監視生活は慣れていないのだ。

 

『今回はね、()()を取ってるんだ!』

「ひ、人質…? そんな、なんて酷いことを…!」

 

 ハハ! 少し前にイブキを人質に取ったファウストが何か言ってら。

 

『人質はハスミちゃんとヒヨリちゃんだよ』

「ハ、ハスミ先輩が!?」

「……ヒヨリ?」

 

 驚きに目を見開くコハルとアズサの前に、ハスミとヒヨリが映し出される。

 

「こ、これは…!」

 

 そのあまりに悲惨な光景に、2人は思わず声を荒げてしまう。

 その光景とは。

 

 

『今から、72時間。2人には最高級パフェを食べ続けてもらうよ!!』

 

 

 ハスミとヒヨリが強制的にパフェを食べさせられる、拷問風景だった。

 お代はもちろん、ミカのポケットマネーである。

 

「……え? なんですか、これ?」

 

 普通の感性を持つヒフミはその光景に困惑する。

 

『今、何これって思ったでしょ? でも、これはれっきとした人質だよ。2人はね、ダイエット同盟を組んでいるの……私を除け者にして。まあ、とにかく! コハルちゃんとアズサちゃんは72時間。つまり、3日以内にテストで合格点を取らないと、2人はダイエットをしないといけないのに、このままパフェを食べ続けることになるんだよ!』

 

 そんな困惑する補習授業部に録画の中のミカが、ババーンと告げる。

 

『えへへ、どうせ痩せるなら先に太った方がお得ですよね』

『私達は気づいたんです……ダイエットをして痩せるのなら、その前にいくら食べてもカロリーは0になるという世界の真理に』

「ちょっと、何を言っているのか分かりませんね……」

 

 何言ってんだ、こいつら。

 ヒヨリとハスミの言葉に、ハナコも思わず口に出して毒づいてしまう。

 だが、当事者達は違った。

 

「やめろォ! ヒヨリは食べ物をあげたら際限なく食べてしまうぞ! このままでは豚になって魔女に食べられてしまう!!」

『ミカさん。本当の本当に、いくらでも食べていいんですよね?』

『もちろん、おかわりもじゃんじゃんあるよ? ほら、ヒヨリちゃんカメラに向かってピース』

『えへへ、私、今すっごく幸せです』

 

 カメラに向かってエヘ顔ダブルピースを決めるヒヨリ。

 そんな、パクパクとパフェを食べ続けるヒヨリにアズサが叫び声をあげる。

 このままでは、お腹を壊してポンポンペインになってしまう。

 

「ハ、ハスミ先輩…!」

『……コハル聞こえていますか? よく聞いてください。私はコハルのためになるのなら、この程度の責め苦は何でもありません。そう、例え……一流パティシエが作った超高級デラックスイチゴパフェを無限に食べ続けることになっても、あなたが責任を感じることはないのです』

「私のことをそこまで思ってくれてるなんて……」

 

 コハルの瞳からキラリと涙が零れ落ちる。

 ハスミは強いられているというのに、それをおくびにも出さずにパフェを口に運び続ける。

 何という忍耐力! これが正義実現委員会の副委員長の精神力なのか!? 

 

『パフェだけじゃないよ! ロールケーキにマカロン、セムラ……何でもあるからね?』

『うわぁああん! ミカ様に一生ついていきますぅ!』

『くッ、食せ!』

 

 2人はヘンゼルとグレーテル。

 ミカという魔女に食べられる運命(さだめ)を背負うのだ。

 

『というわけで、頑張ってね2人とも? あ、それとヒフミちゃんと、ハナコちゃんは特別メニューね。恨むなら、頑張って作られたテストを侮辱した自分達を恨んでね。テストを作るのにもお金と時間がかかってるんだよ?』

 

 最後にそう言って、画面から消える、ミカ。

 

「特別メニュー…?」

「ワシからの特別メニューだ、受け取れ」

「せ、先生! いつからそこに!?」

 

 そして、動画が終わると同時に扉間が姿を現す。

 

「ちょっと、先生! ハスミ先輩を人質に取るなんて、どういうことよ!」

「ヒヨリもだ! ヒヨリが本気で72時間食べ続けると思っているのか? その通りだ! お腹がいっぱいになったら寝て、そして起きたらまた食べるのサイクルを繰り返すぞ!」

「2人とも同意の上だ……捕らえる前には2人共ダイエットをする予定だと意気込んでおったことは、ワシの知ったことではないがな」

「ひ、ひどい……先生は人の心を不法投棄でもしたの!?」

 

 ダイエットを頑張ろうと誓い合ったあの日の少女達はもういない。

 彼女達はもはや、目の前の最高級パフェを食べるだけの人間火力発電所だ。

 そう、彼女達はスイーツを食べることを強いられているのだ! 

 

「なんとでも言えばいい。これも全てはお前達の成績向上のため……延いては補習授業部の解散のためだ」

「っ! 補習授業部の解散ですか…?」

 

 扉間の言葉に、今まではハスミやヒヨリが生クリーム(白くて粘り気のあるモノ)を口にするのを動画撮影して、()()()()()()()()()ハナコが慌てたように口走る。

 

「そうだ。現在は嘘で塗り固められた虚構で、親善団体ということになっているが……そもそもの発端は、お前達がテストでろくな点を取れなかったゆえだ。ホストのナギサですら、それがなければお前達を一纏めにすることは出来んかっただろう」

「つ、つまり?」

「もう、補習授業などしなくていいように、スパルタで勉強を叩き込んでやる」

 

 全員の成績を上げる(補習授業部を潰す)

 その冷徹な宣告に、ヒフミが顔を青ざめさせる。

 

「というか、流石に言わせてもらうが……なぜ顔ぶれが変わらんのだ? 普通は増えるか減るかぐらいはするものだろう。一体何人の生徒がトリニティに通っていると思っておるのだ?」

「うぐ…!?」

 

 最初期、補習授業部メンバーと同じ顔ぶれ。

 要するに、おバカランキングトップ4の顔ぶれは変わっていないのだ。

 フェデラー、ナダル、ジョコビッチ、マレーのBIG4の再来である。

 

「だが、これはワシのせいでもある。単なる落ちこぼれを実情の伴わないエリートにしてしまった。これでは、お前達が増長してしまうのも仕方ない」

 

 増長=バカのまま。

 

「勉強にペナルティというものをつけるべきかは、意見が分かれるところだが……少なくとも、学の無い人間が歩める道などヘルメット団などのごろつきぐらいのもの。ワシは心を鬼にする」

 

 このままおバカのままでは、アビドスに財布として搾取されるだけ。

 そう、このスパルタは扉間なりの親心なのである。

 

「い、一体何をするのよ!?」

「下江コハル、アズサ。お前達2人はワシが直接指導をする」

「わ、私とハナコちゃんは…?」

「ヒフミ。お前は……いや、この際全員だな。他人に見せて貰うのも無しだ。テスト当日までスマホを没収して、外の情報を断たせてもらう。また、グッズやライブのために脱走されてはかなわんからな」

 

 外部との連絡を徹底的に断つという本気を見せる、扉間。

 多分、扉間的には前回の時よりも気合が入っている。

 

「そして、ハナコは──」

 

 扉間はジロリとハナコを睨む。

 そして、ハナコへの一番の罰を言い放つのだった。

 

 

「──1人で自習だ」

「1人で自習……ですか?」

 

 

 剣呑な目で扉間を睨み返す、ハナコ。

 それは扉間の狙いが分かったため。

 みんなで一緒にという、ハナコの楽しみを奪うためだ。

 

「そうだ。お前には()()()指導の必要などない。何なら、今ここでテストを受けて合格すれば、そのまま()()()()()()()()()()()()()()()。合格した生徒を拘束する権限などワシにはないからな」

「お言葉ですが、先生。先生が指導するよりも私が指導した方が、コハルちゃんもアズサちゃんも成績が上がりますよ?」

「だろうな。だが、アズサはともかくコハルは1年生。お前の方が先に卒業する。お前に頼るというやり方では本人のためにならん」

「先生もいつまでも居られる訳ではないのは、先生自身のお言葉だとお聞きしていますけど?」

「だからこそ、コハルが1人でも勉強していけるように、勉強法から教えるのだ」

「ミカ()からの差し金ですか?」

「先生とは、真面目な生徒のお願いを聞くものだ」

 

 冷たい舌戦。

 木ノ葉の卑劣と、トリニティの才媛。

 頂上頭脳の決戦に、あたりの空気が冷たくなっていく。

 

「あ、あわわわ……お、お2人共、落ち着いてください!」

「そうよ! 私達が合格すればいいだけなんでしょ? 先生も、言い方がキツイわよ!」

「そうだな。それに、以前の監視に比べれば別にハナコに不利益はない。何を怒っているんだ、ハナコ?」

 

 そんな空気を払拭するべく、残りの3人が必死に止める。

 

「ふぅー……そうだな。少々きつく言いすぎたようだ」

「いえ、こちらこそ……私は先生の言う通り1()()()自習をしておきますね」

 

 表面上の和解。

 しかし、内部はまだ凍ったまま。

 ハナコは踵を返して、教室から出ていく。

 

「わ、私、ハナコちゃんを追ってきます…!」

 

 その後ろ姿を追っていく、ヒフミ。

 

「わ、私も行くわよ!」

「ああ、行こう」

 

 コハルとアズサもそれに続こうと椅子から立ち上がる。

 

「タイムリミットは72時間だ。泣いても喚いてもそこは変わらんぞ?」

 

 そこへ、扉間が既に10分が経過したぞと淡々と告げる。

 

「うるさい! うるさい! うるさーい! 確かにテストで点を取れない私はバカ呼ばわりされるけど、友達を見捨てる奴はそれ以上のバカよ!」

「同感だな。すまない、先生。例え、トリニティを退学になるのだとしても、私は仲間を取る」

 

 しかし、コハルとアズサは堂々と扉間に言い返して、ハナコの後を追っていく。

 教室に残されたのは、扉間1人。

 痛いほどの静寂の中で、扉間は頬を小さく上げて溜息を吐く。

 

「まったく……教えることがなくなってしまったではないか」

 

 どこか、火の煌めきを見つめるように眩しそうな表情で。

 

 

 

 

 

「これは愛ではない。ただの躾だ。主から卑しいメイドへの躾。決してその行動に愛などない。『ご、ご主人様……お許しください』口では必死に己の罪を主へと詫び続ける。だが、それは虚言である。体は喜びに打ち震え、甘い稲妻が脳髄を駆け抜ける。このメイドは、主の躾を心の底では望んでいるのだ。主から罰せられることに歓喜を感じる、歪んだ存在。主が自分に無関心なら、メイドはその事実に、生きる意味すら見出せない。だから、どんな形であれ、主の注意を引きたいのだ。罰としてでも構わない。それで主が自分に向いてくれるのなら。ただのメイドは主を愛することなど許されない。身分違いの恋。ああ、なんて甘美な響きだろう。もしも、この胸の内の想いが受け入れられるのなら、命すら要りはしない。けれど、そんなことは決して起こりはしない。主は主。メイドはメイド。この身はただの道具、恋も愛も抱くことは出来ない。だからメイドは、主からの罰、つまり躾を、愛の代わりに受け入れるのだ。それが、それだけが、メイドの生きがいなのだから。罰でも構わない。主の瞳が自分を捉えるだけで、この胸は灼熱に焦がされたように熱くなる。己を叱咤する声が鼓膜を打つたびに、麻薬のような快感が脳に満ち溢れる。ああ、甘美な地獄。誰にも分からない、この密やかな狂気。メイドは、主を深く、深く愛しているのだ。身分を超え、理性を超え、全てを超えて。愛故に想いは伝えられない。だから、罰を告げる声を睦言として聞く。躾を愛撫として受け入れる。今日も、明日も、永遠に。それが、それこそが──メイドの卑しい愛なのだから」

 

「………エッチじゃないから、無罪!」

 

 扉間が夜な夜なシャーレでメイドプレイをしているという噂から、インスピレーションを受けたハナコが即興で書き上げた小説『卑愛(ひあい)』。

 その最終章の朗読を終えたハナコに対して、コハル裁判長が無罪判決を下す。

 

「え? コ、コハルちゃん、どうしたんですか…? 病院を急いで呼びます!」

「落ち着け、ハナコ。呼ぶなら医者だ」

 

 無罪判決だというのに、宣告されたハナコの方は顔を真っ青にして、慌てふためく。

 コハルがエッチに耐性をつけるなんて、全人類の損失である。

 

「いや……今回はなんか普通の恋愛パートみたいだったし」

「ハナコちゃんは、本当に文才がありますね。思わずドキドキしちゃいました」

「私は芸術には疎いんだが……メイドには報われて欲しいと思った」

 

 圧倒的な才能に裏打ちされた文章。

 そして筆が乗った結果と、ハナコの悲恋(性癖)が化学反応を起こした結果、まともな小説になったのだ。

 

「ち、違います……私、そんなつもりじゃ…!」

 

 ツッコミ待ちだったのに、送られた称賛にハナコの目が曇る。

 友達からの頭良い発言に脳破壊されているのだ。

 

「あんたって普段はいやらしいことばかり言ってるけど、根は純情よね」

「コフッ!?」

 

 さらにもう一発! 

 とばかりに、叩き込まれる笑顔でのコハルの発言。

 隠したい恥部を無理やり見られたハナコは、露出狂設定も忘れて白目を剥く。

 

「あはは……でも、ハナコちゃんのそういう所、可愛いと思いますよ」

「ああ、別に隠すことではないと思うんだが……」

「やめてください。傷口にデスソースを塗るのはやめてください」

 

 3人には色々とお見通しだったのが恥ずかしくて、顔を手で覆う、ハナコ。

 露出プレイはいいけど、羞恥プレイはちょっと……。

 

「それで、なんであんなに怒ったのよ? 自習すればいいだけなんでしょ? あんたは頭も良いんだから、()()()()()()()?」

「カヒュ…ッ」

「大丈夫か!? ハナコ! すぐに人工呼吸を!」

「ヒュー…ヒュー…」

「ハ、ハナコちゃんが今の発言をからかわずに、ただダメージを受けてます……」

 

 1人でいいでしょ? と、コハルに言われて過呼吸状態になる、ハナコ。

 アズサのエ駄死な発言に反応する余裕もない。

 

「な、なによ……そんなに1人が嫌なの?」

「そ、そんなことは……」

「じゃあ、1人で自習してなさいよ」

「カヒュー……」

「もう、なんなのよ!? 新しい私の弄り方なの、それ!?」

 

 アズサに背中をさすってもらいながら、何とか呼吸を整えようとする、ハナコ。

 よほど、コハルから1人で居ろと言われるのが堪えるらしい。

 

「えっと、ハナコちゃん……話してくれませんか? 私は普通なので……ハナコちゃんみたいに1を聞いて10を知ることは出来ないので」

「そうだぞ、ハナコ。話さなければ何も伝わらない。世界はいつだって、自分から動かないと何も変わってはくれないんだ」

 

 話さなければ何も伝わらない。

 今の勘違いが渦巻くトリニティのように。

 まあ、話しても真実が伝わらないことも多々あるが。

 

「………笑わないでくれますか?」

「あんたの今までの言動の方が、よっぽどおかしいから平気よ」

「あの……コハルちゃん、なんだか当たりが強くないですか?」

「自分の今までの行動を、胸に手を当てて考えてみなさいよ」

 

 水着で礼拝に参加。

 広場の噴水で水浴び。

 所構わず、卑猥な言葉を使う。

 なるほど、2アウトってところか。

 

「実は私……1人で居ると寂しいんです」

 

 重々しく、それでいて、か細い告白。

 そんなハナコの一世一代の告白は──

 

「え? 知ってるけど」

「はい、知ってます」

「それがどうしたんだ?」

 

 友人達には当たり前のものとして認識されているのだった。

 

「……え?」

「何事かと思って心配して損したわ。それじゃあ、私はハスミ先輩のために勉強頑張るから!」

「ああ、私もヒヨリが豚にならないように、頑張らないといけない」

 

 解散、閉廷とばかりに教室に戻っていくコハルとアズサ。

 そんな姿を、ハナコはポカンと口を開けて見送る。

 

「えっと……ハナコちゃんが寂しがり屋なのは、みんな分かってますよ? ミカ様も含めて」

「え? え?」

 

 ヒフミから太陽が東から昇るような常識とばかりに告げられて、ますます困惑する、ハナコ。

 

「寂しがり屋でも、別にいいじゃないですか。私も1人より2人。2人より3人の方が、楽しいですし」

「……迷惑じゃないでしょうか?」

 

 露出して、サクラコ様に迷惑をかけたりするのに、関わりすぎて嫌われるのは恐れる。

 なんで、そこだけ気にするの? と、言いたくなるような性格だが、ヒフミは笑顔で答える。

 

「だって、私達は……お友達ですから!」

 

 ハナコの瞳が潤む。

 

「確かに、色々あって喧嘩をすることもあるかもしれませんけど……喧嘩をしたら、また仲直りをすればいいじゃないですか? きっと、喧嘩して仲直りしてを遠慮なく出来るのが、友達だと思うんです」

 

 うるせぇ、バーカ! 

 はぁ!? バカって言う方がバカだし! 

 絶交だ! 絶交! 

 

 などと言い合った1時間後に再び一緒に居るのが、友達というものである。

 ハナコは変なところで遠慮しすぎているのだ。

 

「ハナコちゃんが、1人で自習したくないのは寂しいからなんですよね?」

「正面からハッキリ言われると恥ずかしいですね……」

「でも、ハナコちゃんに勉強の指導が要らないのは、事実です。私は友達だからこそ、ハナコちゃんの頭の良さを知っています」

 

 ケアレスミスさえなければ、ハナコは知識問題も含めて100点がデフォだ。

 彼女自身、学ぶことそのものは別に嫌いではないのに、手を抜く。

 それは、彼女が完璧すぎて息苦しいと思われるのを避けるための処世術だ。

 授業で手を上げるのがいつも1人で、周りから浮いてしまうあれである。

 

「だから……ハナコちゃんの頭の良さで何とかしてください!」

「えっと……それは私に丸投げということですか?」

「はい! 普通の私が何か考えたところで無駄です! なので、ハナコちゃん自身で裏道を見つけてください!」

 

 普通の人間は裏道を見つけるという、発想すら思い浮かばないとは言ってはいけない。

 

「うふふ、期待されるのは嫌いですけど……頼りにされるのは悪い気はしませんねぇ」

 

 ハナコは肩の力を抜いて、抜け道はないか思考を巡らせる。

 そうして、思い出す。

『そうだ。お前には()()()指導の必要などない。何なら、今ここでテストを受けて合格すれば、そのまま()()()()()()()()()()()()()()()。合格した生徒を拘束する権限などワシにはないからな』

 扉間の言葉を。

 

「………ふぅ、先生は本当に意地が悪いですねぇ」

「え? そ、そうでしょうか?」

「はい。罰と同時に手も差し伸べるなんて、本当に意地が悪いです」

 

 頭に血が上ると、冷静さを失って持ち前の頭脳を活かせなくなるのがハナコだ。

 扉間は最初から抜け道を示していたのだ。

 

「ヒフミちゃん、私はすぐにテストを受けさせてもらいます」

「そうですか……じゃあ、ここでお別れですね。あ! 後、可能なら、外部からモモフレンズの情報を流して欲しいんですが」

「私も大概な性格をしている自覚がありますけど、ヒフミちゃんは私以上ですねぇ」

 

 自分が何でここに呼び出されたのか分かっているのかと、流石のハナコもツッコミを入れる。

 

「そ、そうですか?」

「ともかく、私は最短で合格して自由の身になります。そして、そのまま先生の手伝いに回ります」

「え?」

 

 そのまま帰らないのかと、ヒフミは視線でハナコに問いかける。

 

「合格さえすれば、私は()()()()()()()です。合格した生徒を拘束する権限は先生にはないと、先生自身が言いましたから」

「えっと、つまり……合格したら後は何をしても勝手ということですか?」

「はい。コハルちゃんとアズサちゃんへの直接的な指導は、断られると思いますけど……先生のお手伝いなら大丈夫なはずです。『先生とは、真面目な生徒のお願いを聞くもの』らしいですので」

 

 補習が終わるまでは、顧問の扉間の指示に従わなければならない。

 だが、補習が終われば従う理由などない。

 大手を振って、自由な行動が出来る。

 

「それから……ミカさんも呼びます。仲間外れは、ダメですよね」

「そうですね…!」

 

 1人で自習でもしてろ。

 その痛みは、ミカが補習授業部を追放される際に受けた傷と同じ。

 同じ痛みを知り、分かるってばよ……という解に辿り着いたのである。

 

「では、ヒフミちゃん。15分ほどで戻ってきます」

「はい、テストを解いて来るんですね……え? 15分!?」

 

 あまりの短時間に思わず声を上げる、ヒフミ。

 

「5分で先生と話して、テストを貰います。その後10分でテストを解きます。大丈夫ですよ。私、こう見えて()()()()()()

 

 そう言って、茶目っ気たっぷりにウィンクをして見せる、ハナコ。

 彼女の中で、何かが1つ整理がついたようだ。

 こうして、補習授業部の新たな1日が始まる。

 

「ところで、もう一度聞きますが……ハナコちゃんの知恵で、外部からモモフレンズの情報を流してもらうことは」

「すいません。流石の私も、試験を受けないという発想はないので我慢してください。私もスマホに触れるのを我慢しますので。一緒に我慢しましょう」

「そんな……」

 

 始まるのだった。

 

 

 

 

 

『やあ、ミカ。君に永遠に目覚めぬ眠り姫にされかけた百合園セイアだよ』

「ど、どうしたの、セイアちゃん? 急に電話なんてしてきて……しかも怒ってる?」

 

 パフェを食べ、優雅に(この世のものとは思えぬ)紅茶をしばく至福の時間(ほどの残虐な拷問)に浸っていたミカ達の下に一本の電話が入る。

 セイアからのお気持ち表明である。

 

『ミカ、私は君のことを友人だと思っている。親友だと思っている。だが、同時に底無しのバカだとも思っているし、大人しく左の頬を差し出せとも思っている』

「ねえ、セイアちゃん? それって私を褒めてるのかな? 貶してるのかな?」

『半分は当たっているね。耳が痛いだろう?』

 

 いつもとは違う、直接的な嫌味の連打にミカは訳が分からずに困惑する。

 何かしてしまったのだろうかと、記憶を掘り返すが結構な割合で金鉱に当たるので困る。

 

「えっと……どうしたの?」

『君がクーデターを起こそうとしているという、噂が流れている件だよ。ひょっとしてあれかい? 君はクーデターを、ちょっと小粋なパーティーのサプライズだとでも思っているのかい? 今度の私は、派手に打ち上げ花火にでもなって殺された方がいいかな? ん?』

「………は?」

 

 自分がクーデターを企んでいると言われて、目が点になる、ミカ。

 

「………あ、ひょっとして前にやろうとしたのがバレたの?」

『残念なことに、過去形ではなく現在進行形だよ。DidではなくDoingというわけだ。英語の授業で習っただろう?』

 

 ナギサと同じく、過去の件が掘り返されたのかと思うミカだったが、セイアに否定される。

 

「いやいやいや! 出鱈目だよ!? 私がクーデターなんてやるわけ……あるけどさぁ」

『どうやら過ちを認めることは出来たようだね。私も長々と死んだフリを続けたかいがあったというものだ』

 

 否定したいが、疑われるに足る理由はあるので涙目になる、ミカ。

 しかも、言ってきた相手は弾みで()っちゃった、相手。

 状況証拠的に決めつけられても文句は言えない。

 

『ゲヘナへ侵攻するために、補習授業部(親善使節)を潰し、ゲヘナ嫌いの羽川ハスミとアリウス生を取り込んでいるらしいが、首尾はどうだい?』

「誤解だよ! 誤解! 私、今回は本当に何もしてないからね!? 補習授業部を潰すって言うのは、成績を上げて補習しなくても良いようにしてるだけだし、ハスミちゃんとヒヨリちゃんはただの人質だよ!」

 

 ただの人質(パクパクですわ!)。

 

『なるほど……正義実現委員会とアリウスを取り込むために人質を取ったのか。随分と小賢しい手を使うようになったじゃあないかい。君もトリニティらしい陰湿さ(奥ゆかしさ)が身についてきたようで何よりだ』

「だ~か~ら~! 違うってばッ! コハルちゃんとアズサちゃんのやる気を引き出すために、人質役になって貰ってるだけだから! 内容はお菓子を食べることだし! というか、セイアちゃんも誤解だって分かって言ってるでしょ!?」

『おや、バレたかい?』

 

 本当にミカがクーデターを起こそうとしていると思っているのなら、悠長に話したりはしない。

 そのことに気づいたミカが、指摘するとセイアは電話越しにペロロと舌を出す。

 

「セイアちゃん!」

『ハッハッハ。まあ、小粋なジョークだと思ってくれたまえよ。流石の私も、先生がクーデターを起こす手伝いをするとは思っていない。君と一緒に居るんだろう?』

「そうだけど……その言い方だと、私がまたクーデターを起こすかもしれないとは、思っているんだね?」

『おっと、電波の状態が悪いようだ。さっきの言葉は聞こえなかったことにするよ』

 

 突如として都合よく起きた電波障害に、ミカは溜息を吐く。

 確かに、過去の件はあるがもう少し信用して欲しいものだと。

 

「……それで、どういう状況なの? ひょっとして、不味い感じ?」

『いや、今はただの噂レベルだよ。ナギサも極秘に正義実現委員会に準備をさせている程度だ』

「信用ないなぁ……」

 

 ナギサが自分に備えて準備をしていると思って、へこむミカ。

 

『友人が自分を殺そうとして来たのだ。疑心暗鬼にもなるさ』

「はい……ごめんなさい……」

 

 まあ、セイアからのド直球の嫌味の前には平謝りするしかないのだが。

 可哀想なミカちゃん。ひとえに、てめえがアリウスと組んでクーデターを画策したせいだが。

 

『まあ、何はともあれ、これで君に敵意がないことは分かった。噂は所詮は噂だったというだけの話だ。安心したよ。ナギサにも伝えておくとしよう』

「うん、お願いね。私はハスミちゃんとヒヨリちゃんを人質に取って、補習授業部を潰そうとしてるだけだから」

『ミカ、言い方には気を付けたまえ。私以外には犯行声明にしか聞こえないよ?』

 

 こうして、誤解の原因たるミカの行動の真実はセイアの知ることとなったのだった。

 

(しかし、なんだろうね……この想定外のことが起こりそうな嫌な予感は?)

 

 セイアの胸の内の予感を解消することなく。

 

 

 

 

 

 正義実現委員会某所。

 

「ツルギ先輩、いつでも出動可能な準備は出来たっすよ。指示通り、こっそりと」

「ああ、ありがとう。イチカ」

「いえいえ、これも仕事ですから……ツルギ先輩」

 

 何やら、スマホを見つめるツルギにイチカがおずおずと尋ねる。

 

「どうした?」

「これって、その……理由を聞いたら不味いやつですかね? それにハスミ先輩が居ないのも……」

 

 ナギサから正義実現委員会に下された命令は、極秘での戦闘の準備。

 誰と戦うか、何が目的か等も、何一つして明かされていない。

 故に、イチカは不安に思っているのだ。

 

(風の噂で聞いた、ミカ様のクーデター……それにゲヘナ嫌いのハスミ先輩が加担しているかもしれない)

 

 副委員長であるハスミが自分達を裏切っているかもしれないと。

 

「……ハスミの件は私に任せろ」

「え?」

 

 先程まで見ていた()()を閉じて、コキリと首を鳴らす、ツルギ。

 臨戦態勢。

 まさしく、その構えを取るツルギにイチカは最悪の事態を想像する。

 

(まさか、本当にハスミ先輩が裏切って……)

 

 ゴクリとつばを飲み込むイチカ。

 

(ハスミ……あのままパフェを食べ続けたら、後悔するのは未来のあなた……)

 

 ハナコから送られてきたハスミのパクパク(拷問)動画を見て、止めねばならぬと意気込む、ツルギ。

 

「私がハスミを(パフェを食べ続けて太るから)止める」

「ハスミ先輩を(クーデターしないように)止める…!?」

 

 こうして、トリニティの誇る最強の(ツルギ)と地獄の天使ミカの激突が決まったのだった。

 




ナギサ:サクラコが怪しいので監視(ナギサ視点のみ。クーデターの噂は知らない)。
サクラコ:ミカがクーデターするかもしれないので監視(クーデターの噂は知っている)。
イチカ:ナギサに指示を受けたが極秘なのでナギサの意図は知らない(噂は耳に入っている)
ミカ:ハスミとヒヨリと一緒にお茶会中(誤解は解けたと思っている)。
セイア:なんかおかしなと思うが、クーデターはないと分かり一安心(ナギサがシスフを疑っているとは知らない)。
ツルギ:ハスミの暴食を止めるべく動き出す(ハスミのプライベートな件なので詳細は語らない)。
ハナコ:扉間への対抗として動画をツルギに送ったが、色々あって忘れてる。まあ、ツルギがミカの下に行くぐらいだろうと思っている。
補習授業部:ヒフミのせいで外からの情報が遮断中なので、事態に気づかない。
扉間:珍しく特に何も企んでない。


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後、息抜きのオリジナル短編です。
こちらもよろしければどうぞ。
コンテニュー https://syosetu.org/novel/391253/
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