学園都市奇妙録   作:イロマス

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よくよく見たらいまだにアビドスストーリーの中盤にすら行ってないことに驚いてます。
やだ、ウチの展開スピード低過ぎ………。


記憶とスタンド

 

"はぁ、ままならないなぁ"

 

 日もかなり傾いてきた頃、私は一人公園のブランコに腰掛けて居た。

 セリカが教室を出てから、私は幾度もセリカと話そうと試みてみたのだが、そのどれもが悉く失敗、挙句の果てには更に警戒されるなど散々な目にあっている。

 どうしてなのだろう、精々セリカの行く先を常に予測してその先の曲がり角で偶然を装って話しかけたりセリカの好みを調べ上げてさり気なくジュースを渡したりetc……。

 

"くっ、一体何がダメなんだッ……!"

 

「今言った行動全てじゃあないかな?」

 

"うわっ!ミツキ?いつの間に。ていうか声に出てた?"

 

「そりゃあもう。ハッキリと、包み隠さず。先生、キヴォトスに来る前はそういうのを趣味にしてたのかと誤解し掛けたよ」

 

 ふらっと現れたミツキは近くの自販機に近寄りジュースを買う。少しして戻ってきた。

 

「えーと、『餡蜜風おしるこ』と『波紋風コーラ』があるけど、どう?」

 

"ちょっと待って、フツーの物無くない?『餡蜜風』とか、しかも『波紋風』って何?初めて見た"

 

「さァー、目に入ったからちょいと買っただけなんすけど………えっ、マジ何なのこれ。いいや、どれ飲む?」

 

 差し出された二本の缶。デカデカと写された名前からはこのジュースがどんな味なのか見当もつかない。

 じっくりと考えた私は『波紋風』と書かれた缶を手に取る。

 

「じゃあせーので飲もう。………怖くなってきた」

 

"買ってきたのはミツキでしょ………じゃあいくよ、せーのっ"

 

 ぐいっと私とミツキは缶を煽る。

 

"あれ?案外、いけ──いったぁっ!"

 

 飲んだ瞬間は何処にでもあるコーラの風味。名前の割に普通なんだなと思ったその瞬間、喉から口内奥に掛けて駆け巡った弾ける痛みに咽せる。

 涙目になりながら隣のミツキを見る。

 

「甘い………猛烈に、強烈に………これ考えた奴バカだろ。なんで許可したんだ、作った奴ら」

 

 全身を縮こませながらうめき声に似た声でボソボソと悪態をつくミツキ。

 物理的なダメージは私だけど精神的なダメージはミツキの方が上みたいだ。どっちを飲んでも痛い目に遭うのは変わりなかったらしい。

 

「はあ………散々な目にあった、はい水」

 

"いつの間に"

 

「さっき〈能力〉を使ってちょちょいと。自販機の水を一本沈めて持ってきた」

 

 それ絶対ダメなやつ、とジト目で見てもミツキはさも知らん様子で水を飲む。

 

「はいよ。口直しに」

 

"あ、ありがとう"

 

 ミツキの〈能力〉、確か〈ムーン・アンド・サンド〉って名前だったか。このキヴォトスにおいて最も特異で、奇妙な能力。生徒の持つ神秘とも違う、不思議な力。

 

"ホシノ達から聞いたんだけど、その〈能力〉……〈スタンド能力〉だよね。それ、一体何?"

 

 キヴォトスの生徒には神秘と呼ばれる力がある。それは超人的な力だったり、銃弾を物ともしない頑丈さだったり、様々な恩恵を与える。

 

「何って言われてもな。分かりやすく言うなら、人の生命エネルギーが作り出す実体を持った(ビジョン)かな。側に現れ立つ事からその名前は〈スタンド〉。そしてそれは様々な形をしている。人型、異形、もしくは銃や本。そこんところは人それぞれかな」

 

"人それぞれ?まるで他にも〈スタンド使い〉がいる様な言い方だね"

 

「───自動的にって言うか、分かるんだよ。本能がこんな〈スタンド〉が居るって語りかけてくる………しかし、もしかすると俺はキヴォトスに来る前に()()()()()()そんなことが言えるのかもな」

 

 そう言うとミツキの目の前に2メートル超の異形が現れる。こうしてまじまじとミツキの〈スタンド〉を見るのは初めてだ。

 全身は黒。胴体から腰にかけてパイプの様な物が通っていて、その顔は三日月を模した目が日の光に負けないくらい輝いている。下半身は脚の代わりに支柱の様な棒が四本ある。

 

「やっぱ見えるんだな。〈スタンド〉は神秘を持った生徒か、もしくは同じ〈スタンド使い〉でしか視ることは出来ない。それが自然のルールであり、変えられないルール」

 

"でも私は神秘も無ければ今まで〈スタンド能力〉みたいなものも無いんだけど"

 

「それが分からない。俺も先生からは〈スタンド〉は見えないから多分違う。先生が分からないものが分かるわけないし、別に良いか」

 

 それは流石に楽観的ではないか。しかしミツキはさして問題無さそうにブランコを漕いでいる。

 こんなに長くミツキと話したのは初めてだろうか。シロコは言っていた、ミツキはあまり自分自身を話したがらないと。

 隣で遠くを見つめているミツキの姿は、いつもの様子とはかけ離れた、どこか寂しい目をしていた。

 

「なあ、先生。この後暇か?」

 

"うん。どうしたの?"

 

「少し──、行きたいところがあって。ついてきて欲しい」

 

"行きたい……所?"

 

「あぁ。俺の、俺の記憶が始まった場所さ」

 

 

─────────────────────

 

 

"ここって……"

 

 ミツキについて行った先は、アビドス砂漠。

 周りは草の一片もなく、ただ砂の海が地平線の向こうまで広がっている。

 寂しい所。一目見た印象はそれであった。私は先頭を歩くミツキに問いかける。

 

「俺が生まれた所さ。いや、厳密に言えば……俺が、定城ミツキとしての今が生まれた所なんだ」

 

"ここが………"

 

 両手で掬い上げた砂は夜の寒さもあってひんやりと冷たかった。見上げると満月が私達を照らしている。

 

「俺は自分の過去も、名前も、何も知らない。家族の名前すら知らないんだ、そもそも家族なんて居ないのかもしれない………定城ミツキはこのキヴォトスでの名前であって、本来の俺の名前じゃあない………砂の中の〈定城ミツキ〉なんだ。〈本当〉が無いんだ………〈大切〉と〈本当〉……それを人は記憶や思い出って言うんだろう」

 

「先生。アンタは良い人だ。そして何か強い力を持っている………それが何なのか、俺も先生も分からない。だが、先生と出会ったのは偶然ではなく運命だと俺は受け取った」

 

 振り返ったその瞳は強い決意を秘めていた。私は思う、記憶の無い人生はどうなのだろうと。きっと、それはとても怖く、辛いものなのだろう。

 ミツキはずっとその怖さと戦っていた、どれぐらい怖いかなんて、私なんかでは到底測りきれない。

 ミツキは強く、気高い芯を持って言う。

 

「俺はアビドスに拾われた。非正規とは言えアビドス高校の生徒なんだ。皆んなには恩を感じている。だがッ、俺は必ず記憶を取り戻す!これは宣言………俺の記憶の手がかりが手に入ったんだ………俺は知りたい。自分が何をしてこのキヴォトスに来たのかをっ!」

 

"………ミツキはまるで自分一人で記憶を取り戻そうとしてるけど、それは少し違う"

 

 先生は生徒を教え導く。ミツキもまた私の生徒なのだ。ならばやることは変わりない。

 

"私も乗るよ。私とミツキの出会いは運命の流れだと言うのなら、その旅に私も同行しよう"

 

 一歩踏み出しミツキの隣に立つ。

 

"ミツキのその中にある気高さと、黄金のような夢に賭けよう"

 

 手を差し出した私にミツキは躊躇いなく握り返す。

 この日から私とミツキの奇妙な関係が始まった。

 

 

 

─────────────────────────

 

 

「セリカちゃんを尾行しませんか!」

 

「お前は何を言ってるんだ?」

 

「ん、賛成」

 

「お前も何を言ってるんだ?」

 

 ある日の放課後。セリカを除く全員が揃い、各々が適当に過ごしていた時にひょいとノノミがそんな事を言い始めた。

 内容はこれからセリカを尾行して毎日どんな事をしているのかを知ろうという内容である。

 がしかし、しかしだ。ノノミの、尾行をしようという提案自体俺は慣れた。大抵しょうもない事を言うのはノノミに決まっているから。けれどそれが人の……ましてや後輩の日常を勝手に知ろうと言うのは如何なものかと思う。

 何言ってんだって表情でノノミを見ればいつもと変わらない、いや、少し周りに煌びやかなエフェクトが見えた状態でニコニコと笑っている。

 隣のシロコにノノミを止めるよう目配せしようと横を見ると肝心のシロコも何処となく瞳を輝かせながら賛成していた。

 

「面白そうだね〜。おじさんも賛成かな〜」

 

「いやいやいやいやいや。そんな簡単に言っていいものか?」

 

「でも気になるじゃないですか!セリカちゃんはこの中で一番借金返済を頑張っています……けれど私たちは今の今までセリカちゃんが毎日何をしているのか、知らないんです!同じ対策委員会のメンバーとして知らなければ!と思うんです」

 

 なるほど、ノノミの言うことも一理ある。あるが……。

 

「お前絶対楽しみ100パーだろ。楽しんでるの、雰囲気が」

 

「でもミツキ君も気になりますよね?どうです、先生も尾行してみませんか?」

 

「───はぁ。先生も何とか言って──」

 

「私も同行しよう……!!」

 

「先生!」

 

 意外ッ。てっきり止めると思っていた俺はまさかの答えに椅子から転げ落ちそうになる。

 

「おいおいおいおいおい。あのな、人を尾行するってのはな、なぁおい……信用や信頼に関わるものなんだぜ?刑事ドラマやミステリー映画なんかで憧れたのならそれは辞めた方がいい。アレは信頼に足り得ない、警戒すべき人だから尾行しているのであって、俺達仲間をわざわざ尾行してやるもんじゃあないんだ」

 

「特に先生こそ分かっているだろ。バレたら終わりなこの提案、まさかマジで乗るわけじゃあ───」

 

「『アロナ』、付近の監視カメラと交通情報、あとセリカにバレないポイントをマークして」

 

「オーマイガッ!マジにやる気だコイツら!」

 

「ミツキ先輩……」

 

 やる気満々の四人に頭を抱えていると、ポンと肩に手を置かれる。アヤネは俺に軽く微笑んだあと、首を振って。

 

「諦めましょう」

 

目の前で早速準備に取り掛かる四人を尻目に、俺とアヤネは揃ってため息を吐くのだった。

 

 

 

 




こっからペース良く行けたら良いな。

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