難産だった。強くし過ぎたかな、スタンド。
「───起きたか」
「あ、アンタは……」
「定城ミツキ。このアビドス高等学校の生徒。そういうお前はこのアビドス高を襲撃してきた襲撃者さん」
目の前の生徒──花京ルカはまだハッキリしない頭でミツキの言葉に返事をする。身動ぎをすれば、両手首を圧迫する痛みに顔を顰めて、後ろを確認する。
「起きた時にアンタらが妙な事を起こさないか心配でね、何個か〈保険〉を掛けさせてもらった。具体的に言うと今アンタ達の直ぐ下にはピンを抜いた爆弾が仕掛けられている………変な動きをした瞬間、ボカンだ」
「正気かよ……いや、マジなんだろうな。そういえば、アビドスの生徒達はどうした?」
「今は教室に戻ってもらってる。先生もついでだ。今この場には俺とお前たちだけだ」
後ろにはルカと同じように縛られた生徒達が並ばされている。完全に詰みの状況で、この場の打開策は到底考えられないルカは大人しくする。
「さて………余り時間を掛けたくは無いから手短に質問する。………この〈骨〉はどこで手に入れた?」
その手にあったのは、一欠片の〈骨〉だった。それはルカにはとても見覚えのあるものだった。
「………それはアタシの家のポストに手紙と一緒に入っていた物だ。手紙には【ギフト】だなんて書いてあって、見ていると妙な感覚がしてくるから、願掛け程度に持ってきたものだ。結局、この様で【ギフト】とは程遠い物になっちまって、厄病神同然だ」
忌々しげに〈骨〉を見るその姿に、嘘はついていないのだとミツキは判断する。
とにかく、この〈骨〉を送った奴はクレイジーな奴なんだな、と言うとルカはそれに同意するように肩を竦める。
「提案なんだが、この〈骨〉。俺がもらっても良いか?お前にとってコイツは厄病神同然なんだろ、なら良いはずだ」
「喜んでアンタにやるよ。………それ、アンタにとって何かあるのか………アンタに関係あるものなのか?」
「お前………妙に察しが良いな」
「まあ良いよ……やるよ。アタシにとっちゃあもう用のないものだ。持ってきな」
案外簡単に渡すものなのだな。〈骨〉をポケットへ仕舞い、縛り上げた不良達を解放する。
まさか解放するとは思ってもいなかったのか、驚いた顔してコチラを見る。
「アンタ………本当に解放してくれるのな」
「俺は誠意を見せてくれれば何もしない。それに……アンタは良い人だ。俺が〈保険〉の事を話した時に時々仲間の事を確認していた。こういう時は大抵自分だけが助かろうとする………でもアンタは違った。その覚悟と仲間に対する誠意で助けるだけだからな」
そう言って全員の縄を解く。ルカは体に異常が無いかと調べてから、不良達を連れて校舎を去って行った。
3日前のことだった。
「うぐえッ!!」
本体不明のスタンドに襲われて10分が経った。コイツは何処に行っても
今も咄嗟に逃げ込んだ家の玄関の前に現れて俺に迫りかかってきた。
それにしても、一体どうして3日前のルカとの会話を思い出したのだろう。単純に血の迷いか、それとも
「クソっ……こ、こいつ、何処に行っても現れるッ!〈スタンド〉には射程距離があるはずなんだ……だ、だがこいつは余りにもッ!」
ここでは不味い。家に逃げ込んだのは悪手だったと直ぐに家の外に出る。
すると、何か固いものが俺の頬を掠るようにして側を走り抜けていった。
「──痛」
頬に発生した痛みに顔を顰めて、手を当てる。ネトリ、と生暖かいものが絶えず流れていた。それは血だった。傷口は擦ったようなものではなく、まるで鋭利なものでかっ裂かれたような傷口をしていた。
ゆっくりと、投げられたものを見る。
「包丁……だと?だがなぜ?」
例の〈スタンド〉はまるで射程距離などお構い無しに現れて攻撃してくる。今更包丁を投げることなど意味がない筈と思い、一歩踏み出す。
「…………いや違う、そう言えば……奴は一定の距離を離れると突然攻撃を止める時があった………分かりかけてきたぞ、コイツの能力ッ!だとするなら、今この包丁に触れるのは不味いッ!」
俺の予想は的中した。一歩包丁から下がったその瞬間に、例の〈スタンド〉瞬時に現れて俺の腹目掛けて拳を突き出してくる。
身を逸らし、〈ムーン・アンド・サンド〉で拳を蹴りつけた反動でまたも距離を取る。
『貴様ハ妙ニ察シガイイ………コノ距離モ、ワタシガオマエニ攻撃ヲ与エラレル距離ノギリギリ外ニイル。ダガ……貴様ハモウ逃レラレルコトハナイ。我ガ〈フライ・ミー・トゥーザ・ムーン〉ニ弱点ハ無イッ』
見上げる俺と、見下ろす敵。まるで今のパワーバランスを表している。
どうする、どうする。こういうとき、素数を数えるんだ。いつからか追い詰められた時は素数を数えるようになっていた。
素数を数えていれば心は落ち着き、次の一手が思いつく。今必要なのはそれなのだ。
(2……3……5……7……11……13……次は何だったか………あ、17か……19……)
思考が落ち着いてきた。今自分がやるべき事、覚悟が決まった。
『貴様ヲ始末スルノハ確実………最後ニ教エヨウ。ワタシノ〈能力〉、ソレハ物体ニ憑依スルコトダ。コンナ風ニナ』
敵〈スタンド〉が隣の石塀に拳を当てるとまるで石塀に吸い込まれるように溶けて消えていく。瞬間、俺は咄嗟に制服のブレザーを脱いで横から現れた奴の拳を包む。
「おおぉおぉぉッ!!」
『憑依ヲ防イダカ』
ブレザー越しからでも感じる重さと速度。ブレザーと〈ムーン・アンド・サンド〉で衝撃を和らげはしたが、右腕と肋骨が何本か折れた感じがした。
奴の〈能力〉が物体に憑依ならば、今の憑依先はブレザー。危なかった、と冷や汗を流す。もしもろに拳を当てられていたのならば、今頃俺の体は奴に憑依されていただろう。そうなったらどうなっていたか分からない。
俺の持つスタンド〈ムーン・アンド・サンド〉は近距離パワー型だ。その為、スタンドの射程距離は短く設定されている。だが敵〈スタンド〉はその能力故に実質的な射程は無限同然。
なるほど、逃れられないと言うのも尤もだ。既に俺は敵の射程圏内に入っており、そこから離れるにはどうやっても時間が足りない。
半歩前には敵がいるのだ。
「………俺の、〈ムーン・アンド・サンド〉のパワーでも敵わない、ましてや、初動も勝てるかどうか甚だ怪しい………だけどな、俺がどこに行こうがお前の射程に入ってしまうのなら、逆に
『訳ノ分カラナイコトヲッ!トドメ食ラエッ!!』
眼前に迫る拳。それは確実に俺の体を貫くだろう。が、それは目の前で止まり、振り抜かれる事は叶わなかった。
敵〈スタンド〉は何故拳が届かなかったのか、疑問に思うように、何度も拳で殴りかかろうとする。けれど、そのどれもが寸前で止まりその距離は次第に離れて行っている。
「〈ムーン・アンド・サンド〉。お前に則って能力を言ってやる。能力は"触れたものを地面に沈める能力"だ。………察したよな、俺は既に
ようやく自分の置かれている状況に気づいたのか、奴はまた別の何かに憑依しようとするが、既にブレザーは地面の下へ下へと落ちていき、敵〈スタンド〉はそれに引っ張られるようにして地面の中へと沈んでいった。
数秒もしないうちに完全に敵〈スタンド〉の姿は見えなくなり、後に残ったのは欠けた石塀と地面に落ちた包丁だった。
「何とか………危機は脱したか。クソ、骨が何本かイッてる……だが、またいつ〈スタンド〉が来るか分からない……」
精々気休め程度だろう。
別に〈スタンド〉の本体を倒した訳ではなく、遠ざけただけである。今直ぐにでもまた現れる可能性だってある。
「〈骨〉は………大丈夫だな」
また方向を示した〈骨〉に従って動く。その時だった。
足元で異音が鳴ったと同時に、俺の目の前には地面があった。
「───は?」
ズダンッ!と受け身を取る余裕もなく地面に打ち付けられた俺は痛みに呻きながら異音の正体を見る。
それは──俺の足首だった。俺の右の足首から先がすっぱりと切断され、絶え間なく血が流れていた。
「ぐ、おおぉおおおぉぉおッッ!!!」
足ッ!まるで熱したナイフで切られたバターの様に滑らかに切られているッ!
俺の足を奪った犯人──敵〈スタンド〉は平然とした様子で地面から現れた。
『ワタシノ〈能力〉ハ物体ニ憑依スル。地面ニ埋メラレタ時ハ焦ッタ………ダガ、コノ地面ニ触レレバ射程ハ文字通リ関係ナクナル』
やらかした………。生き残るために取った策がまさか敵〈スタンド〉を成長させるとは。
触れたものに憑依するという奴の能力。それは俺の想像以上に幅広い解釈のできる能力だった。
こ、コイツは……ッ!この能力はッ………もはやこの〈スタンド〉に射程という物差しは意味がないッ!地面に触れる………それはつまり小さく見積もっても、この住宅街の全てが奴の射程範囲内だと言うことッ!
無敵か、コイツは。こんどはこちらが追い詰められる番だった。
冷や汗が溢れ出る。死の危機に直面した体はうるさいほどか心臓を鳴らす。
流れる血。迫る敵〈スタンド〉。どうやら、まだ戦いは始まったばかりらしい。
久しぶりに3000文字行けた……疲れた。
半ば見切り発車で始めたので、矛盾や粗がとんでも無いけれど、優しい目で見てください。あと、感想を頂けると執筆意欲が湧くので、もし出来たら感想をッ!下さいッ!