学園都市奇妙録   作:イロマス

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ようやく次話から本筋に戻せる。ただただ難産だった。


フライ・ミー・トゥーザ・ムーンその3

 

「こう言うの……不幸中の幸いって言うんだっけか」

 

 俺は目の前のアパートを見上げていた。件の敵〈スタンド〉の襲撃を躱した俺は、ある程度の休息をとってからまた本体の捜索を開始した。

 だが、まさか思ったより近くに本体の住む家があるとは思っていなかった俺は少し拍子抜けの表情で立っていた。

 四階建て、年季の入ったボロアパート。特にこれといった期待とかはしていなかったから大して驚かない。

 入ってみれば案の定、大して手入れの入っていない状態がありありと分かる。とは言っても重要なのはそこでは無い。

 本体の居場所だ。〈骨〉が方向を示すと言っても流石に上下までも示すほど出来たものじゃあないだろう。

 つまりここからは。

 

「一部屋ずつ探すか」

 

『オラァッ!!』

 

 一部屋ずつ。しかし全ての部屋が鍵の開いた部屋なわけない。それはザラにも程がある。しかし毎回中の人を確認して鍵を開けてもらうのも現実的ではない。居たとしても開けてくれるのか不明なのだ。セリカの事も心配だ、あまり時間を掛けたくない、無駄は省いておきたい。なので〈ムーン・アンド・サンド〉でドアをぶち抜いて部屋を確認する。

 万が一居たとしても不良だけだろう。それも不法に住んでいる輩かも。だからといってどう罪悪感とか湧くことは無いが。

 先ずは一階。粗方探しても誰も居ない。次は二階としらみつぶしに探していく。

 

「お邪魔しま──あ」

 

「て、てめっ……誰だいきなりドアぶち壊して来てッ!……へぶっ!」

 

 幸か不幸か、不良の生着替えに遭遇したり、(ちなみに不良は直ぐに気絶させた)いかにもな取引現場に居合わせたりした。ブラックマーケットでやってろよ。

 三階も以下略だ。何かあった訳でもなく、順調に四階に着いた俺はまたドアをぶち抜いて部屋を調べる。

 

「この部屋……誰かいるな」

 

 手始めに入った部屋だが。見る限り生活感のある部屋でしかもついさっきまで人が居たかのような痕跡をしている。

 寝ているのだろうか。そう思った俺は、極力起こさないように忍び足で奥へと進む。

 

「花京……ルカ?」

 

 そこに居たのは花京ルカだった。寝巻きの姿で倒れているその表情は険しい。

 不審に思った俺は近づいてその手に触れる。

 

「なっ、何ッ!熱い……何だこの熱さはッ!熱せられた鉄板のように猛烈に熱いぞッ!」

 

 流石に異常と感じ、直ぐに近くの体温計を持ってきて測る。

 ピピ、と音が鳴り確認すると。

 

「50°だとッ………確か、人が死に至るまでの温度は40°を超えてから………だがこれはあまりにも………き、危険すぎる。キヴォトス人だから耐えられているのか。だがこのままでは」

 

 本来ならば死んでいてもおかしくない体温。けれど呻くだけに止まっているのはキヴォトス人特有の頑丈さからくる耐久性か。しかしこのまま放っておけば死んでしまうのも時間の問題であった。

 どうすれば、考えているその時。ぶしゅり、そんな音が聞こえてきた。

 

「こ、これは〈骨〉が花京ルカの体にめり込んでいっているだと!やはり、敵〈スタンド〉の本体は花京ルカだったッ!だが………くそっ〈ムーン・アンド・サンド〉!」

 

 いつの間にか手から離れた〈骨〉は磁石の様に花京ルカの首筋に引き寄せられ、その体内へと入っていく。

 突然の状況に俺は戸惑う。花京ルカを助けなければ、いや〈骨〉を取り出すか?出血が酷すぎる。俺は衝動的に〈能力〉を使い、花京ルカの熱と傷を地面へと移す。

 熱が下がった影響か、花京ルカは安らかな表情になり、呼吸も安定する。

 半ばがむしゃらに〈能力〉を使ったが、案外上手くいったものだと内心自分自身を褒める。

 深いため息をついて花京ルカの眠るベッドの横にへたり込む。今日一日だけでかなり濃い体験をした。

 

「………しっかし、初めてマジマジと見たなコイツの顔。いや当たり前か。つい最近あって、しかもヘルメット被ってたもんな」

 

 振り返って花京ルカを見る。乱れた赤髪をまるで乱雑に撒かれた紙のようにベッドに広げ、まだ少し赤みがかった頬は妙にアレだ……色気がある。マナーが悪いがじっくりと見れば中々可愛い顔をしている。ウチの学校がレベル高すぎるだけで花京ルカも良い勝負をしている。

 

「───って、何言ったんだか」

 

「ん、うぅ──」

 

 頭上で布ズレの音と寝起きの声が聞こえてきて恐る恐る確認すると。

 

「───んあ?」

 

「あっ」

 

 バッチリ目が合った。それはもう恋人同士が路地で今からキスでもしますよと言わんばかりに目と目を合わせる、そんな感じだ。

 花京ルカは寝ぼけた目で俺をジッと見続ける。さらにズイと顔を近づけてきた。

 しばらく花京ルカは目をパチパチと瞬く。するとワンテンポ遅れて。

 

なっ、何やってんだッ!ていうか誰だお前エェェェ〜〜ッ!!

 

「ゴブッ──!」

 

 瞬間ッ!加減もへったくれもない渾身のビンタを俺はモロに食らう。それはもうキヴォトス人としてのスペックを遺憾なく発揮したビンタだ。

 

 こ、このビンタ……ディ・モールトッ!(凄く)痛い!腕だけの力とは思えないッ、まるで腰の入りと手首のスナップが上手く噛み合わさり、不倫にキレた女房が謝る糞親父に全身全霊のビンタをかます。そんな感じだ。

 潰れたカエルの様な声を上げながら吹き飛ばされた俺の姿に、花京ルカは初めは息を荒げて警戒心マックスの表情でいたが、段々と顔が青ざめていった。

 

「あっ!だ、大丈夫かよ!別に謝るつもりはないけどッ………私からすれば不審者はアンタなんだからな!?でも一応心配はするッ」

 

「いや、断りも無く部屋に入った俺が悪い。君が謝る事はない、本当に」

 

 荒波の様に波打つ視界に若干の気持ち悪さと吐き気を催しながら立ち上がる。

 肝心の花京ルカというと心配そうな表情はしているが、その目は極めて自分の正当性を強調していた。実際非はこちらにあるのだから彼女の怒りと正当防衛は真っ当なものだ。ただ痛い。

 

「花京ルカ……今君の体には何か変化があるか?」

 

「変化?いや、そんなのは無いけど」

 

「………君に送られた〈骨〉なんだが………余り時間を掛けたくはない、単刀直入に言う」

 

 息を落ち着かせて花京ルカの前に立つ。その時彼女の首筋を確認したが、大した傷もなく、赤い腫れがあるだけでついさっき親指大の〈骨〉が彼女の首に入り込んだとは思えないほど綺麗さっぱりと傷口が塞がっていた。

 

「〈骨〉って。アンタに渡した筈だけれどよ。何かアタシと関係あるのか?」

 

「───君は〈スタンド使い〉になってついさっき〈骨〉が君の体の中に入り込んだ」

 

「───は?ちょちょちょちょッ、ちょっと待て………あー、すまん。寝起きで耳遠くなってるのかな、何言ってるのか理解出来なかった。すまん、あと順序もおかしい。ちゃんと順を追って説明してくれ………私が?〈スタンド使い〉?バカも休み休み言ってくれないか?あと、私の中にあの〈骨〉が?」

 

 花京ルカは俺の言ったことが至極分からないといった風でその目は常に動いている。

 流石に急だったか。俺は一旦話を整理し、ゆっくり説明した。

 

 

「───つまり、私は〈骨〉の力で〈スタンド使い〉になり、生死を彷徨った挙句、〈スタンド〉が暴走してお前を殺し掛けた……と」

 

「Exactly(その通り)。理解が早くて助かったぜ……」

 

「実感が湧かない……いや、人を殺すに実感が湧くこと自体、おかしいけれど……」

 

「これと言っちゃあなんだが、右足を見てみろ」

 

 俺の右足には、まだ制服の紐が縫われており、そこから血が少々垂れている。

 切断部は完全に治っているとは言え、よく見れば赤い跡は残っている。

 

「アンタの〈スタンド〉に俺は右足、左鎖骨、肋骨と至る所をボッコボコにされた。肋骨は折れているし、鎖骨は砕けている。表面上は普通に見えるが、内臓もダメージを負っている。本音を言うととっとと倒れたいくらい辛い」

 

「何が言いたいんだ。死にかけたアンタに謝れって事なら、喜んで謝るよ。無自覚にもアタシがやった事なんだ、仕方ない」

 

「謝る?そんな事はしなくてもいい……そんな事よりももっと意味のある事の為に君を使う………」

 

「マジに何言ってんだ……まさかお前ッ!」

 

「別にソッチの方向じゃあねぇ!いやなんだ、ここに来る前にアンタの仲間がアンタの様子を心配していた。……チームってのは信頼関係で成り立っている、信頼がなけりゃあついてくる者もついてはこない。もちろん、運も流れも……力も、な」

 

「だから何言って──!」

 

お前達を仲間にしたい

 

「な、何だってッ───!!」

 

 花京ルカはつんざくような声で叫ぶ。

 

「待ってくれ、アタシらを仲間にするだと!?数日前に戦ったんだぞ!アタシとアビドスは………!確かに、今日アンタを殺し掛けたのは理解して、深く反省している……これはマジだ。けど、だからってアタシらが仲間になるっていう事が理解出来るわけじゃあないッ!」

 

「君の仲間から少し話を聞いた。君達不良グループは最近物資が乏しいんだろ、金は他人から巻き上げればいくらでも手に入る。けど物資や人員はどうしたって腕っぷしだけで手に入るわけじゃあない。それに不良グループは他のグループとも争うんだろ、そのせいで困窮的だって言っていた、そして!」

 

 バッと花京ルカを指差す。

 別に親切心だとか、心が痛むとかじゃあないんだ。花京ルカの懐事情とかグループの問題とかはある意味建前。重要なのはもっと先。

 

「君の〈スタンド〉は強力だ。それこそ、スタンドルールが通用しないくらいには………なぁ、考えた事はあるかい……君の〈スタンド〉の力が大事な仲間に向けられる事を」

 

「何ッ………」

 

「〈スタンド〉は〈スタンド〉でしか触れる事が出来ない。それがルール、絶対のルールだ。断言する、君の〈スタンド〉は君を守る為なら手段を選ばない。もしまた君の〈スタンド〉が暴走したならば、君の仲間は殺されるぞ………!」

 

「何だってっ──!!」

 

「────だからこの俺が〈スタンド〉を制御できるように教える。そのギブアンドテイクだ。教える代わりに仲間になってもらいたい」

 

 しかも、しかもだ。今俺達のバックには超法外的な権限を軽々と行使できるシャーレの先生が居る。簡単な話、先生からの支援を花京ルカのグループにも施せるということ。

 5〜10分くらい悩み抜いた結果、花京ルカは決心がついたのか俺の方を見て言った───。

 

 

───────────────────────────

 

 空を見上げれば、既に日は傾き、仄かに赤みが掛かっていた。長いし過ぎたらしい、ノノミからの頼まれごとは果たせなかったなと帰った後の言い訳を考える。

 あの後、花京ルカは悩んだ末に保留にしてくれと言ってきた。有耶無耶な答えになんとも煮え切らない感情が湧くが、時間はある。じっくり待とう。

 〈骨〉はいつの間にか俺のポケットの中に戻っていた。これが何を目的として、何故花京ルカの元へ、そして俺の元へと来たのか結局分からず仕舞いだった。単に〈スタンド使い〉を増やすだけなのか、それとも、この行動に意味は無いのかもしれない。

 

 俺の〈ムーン・アンド・サンド〉は骨から発現したものじゃあない。砂の中に埋まって、救い出されたその時からあったものだ。

 

「誰が言ったか……人の出会いも『重力』。似てる……コイツと俺みたいな」

 

 人が〈骨〉を引き寄せるんじゃなくて、きっと〈骨〉が人を引き寄せているのかも知れない。そしてそのギフトが〈スタンド〉。

 非現実的な事はそれなりに経験してきた自負がある。だが、俺と〈骨〉の関係性や引き出すその〈スタンド能力〉も、今の俺では到底理解不可能であった。

 空には朧げに月が浮かんでいる。今頃皆んなは帰っているのかもしれないが。

 

「俺に……帰る場所はあるのか………本当の、帰る所は……」

 

 砂漠の風がそっと体を撫でる。まだ少しぬるい筈の風は、妙に冷たく、痛く感じた。

 

 

 

 

 




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