東京の立川になんかすんごい神性が感知された!

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カルデアの管制室には、いつになく緊迫した空気が漂っていた。

 

マシュ・キリエライトが大型モニターを凝視し、その背後では藤丸立香が手に汗を握りつつ、レイシフトの準備を整えている。

 

通常なら異常な数値変動が起きた場合、技術スタッフが周囲をばたばたと走り回るはずなのだが、今回の特異点の座標は「現代日本の東京・立川」付近――しかも西暦20XX年と、さして古くも新しくもないはずの時代である。

それにもかかわらず、観測された魔力密度は過去の大きな特異点に匹敵するレベルにまで急上昇していた。

 

「先輩、これは……。どうやらまた新しい特異点が発生したようです。場所は日本の……東京・立川近辺。ですが、観測情報が断片的で、どうしてこんなに大きな揺らぎが出ているのかがわかりません」

「立川……? なんだか意外な場所だね」

 

藤丸が日本地図を頭に思い浮かべながらつぶやく。

冬木や新宿など、過去にも日本に関わる特異点はあったが、今回は現代日本のしかも立川という、いわゆる “東京のベッドタウン” 的なイメージの場所が舞台というのが妙に引っかかる。

 

「藤丸くん、マシュ。時間がない。すぐにレイシフトの準備を整えてくれたまえ」

 

ダ・ヴィンチが真剣な面持ちで声をかける。

レイシフトの段取りを説明するダ・ヴィンチの手元には、先ほど計測したばかりのグラフが映し出されていた。それはまるで巨大な山のように魔力値が跳ね上がった後、微妙に上下動しながら安定を欠いている。

 

「それにしても、ここまで現実世界とほぼ同じ時代、同じ場所で何が起きているのか……。うーむ、いま調べた限り、歴史上における大事件も確認されていない。それなのに、どうも“神性”に関わる反応値が強く感知されているね」

 

モニターを横目に見ながらダ・ヴィンチが言う。

神性に関わる反応値――サーヴァントではなく、なにやら別の存在から強大な神性を感じるということだろうか。

 

「神性……? アルテラさんやアルジュナさんみたいな神性を持つサーヴァントがそこにいるのでしょうか、それとも何かもっと別の……?」

 

マシュの顔には困惑の色がつく。

 

「なんにせよ、行って確かめるしかないね」

 

此度のレイシフトの地は日本だ。

ゆえに、現代風に着替えさせられた二人はそれぞれオシャレに服を装う。

藤丸が笑顔を浮かべ、マシュもそれに答えるように小さく笑ってからメガネを押し上げる。

 

「いつでも行けるよ、マシュ」

「はい、先輩!」

 

そして、藤丸とマシュはカルデアのレイシフト装置へと足を運ぶ。

周囲のスタッフが忙しなく最終チェックを終えると、ダ・ヴィンチが合図を出し、施設中央部から閃光が立ち昇る。視界を白く染める光のシャワーの中、二人は時空を超え――。

 

「レイシフト、開始!」

 

藤丸とマシュの意識は次の瞬間、現代日本、立川の街へと飛んだ。

 

 

ξ

 

 

ふと気がつくと、藤丸とマシュは見慣れた都会の景色のなかに立っていた。

 

周囲にはビルやマンションが並び、大きな道路を走る車の音が耳に届く。

人々が普通に行き交い、コンビニやファミレス、カフェなどがありそうな平凡な駅前の光景が広がっている。

 

「ここが……立川のはずですよね?」

 

マシュが周囲をキョロキョロ見回す。

目の前にはパチンコ店やショッピングモールの看板が見え、行き交う人々はスマホをいじったり、買い物袋を提げたりと、ごく普通の生活を営んでいるように見える。

 

これが本当に特異点なのか、と疑ってしまうほどの平和そのものだ。

 

「観測値では間違いなくここが特異点なんだけど、こうも普通に見えるとは……ううん」

 

藤丸が首をかしげたそのとき、ふと頬に冷たいものが当たる。

気づけば小雨が降ってきたようだ。急な通り雨だろうか。

行き交う人々が慌てて駅のコンコースへと駆け込んでいく。

 

「とりあえず、雨宿りしながら情報を集めましょう。レイシフト直後で、まだカルデアとの通信も不安定ですから」

「そうだね。雨に濡れてもしょうがないし、どこか……あ、あそこにファミレスがあるみたいだ!」

 

 藤丸が指差した先には、「GUST◯」と書かれたファミレスが見える。

日本の日常といえばファミレス、というイメージは少しステレオタイプかもしれないが、ともかく雨宿りがてら入るにはちょうどいい。

二人はさっそく店内へと駆け込んだ。

 

 

 

店内に入ると、ちょうどランチタイムが終わったばかりなのか、客はまばらで落ち着いた雰囲気。

 

店員さんに案内され、窓際のテーブル席へと腰を下ろす。

ひとまずドリンクバーを注文してメニューを広げてみるが、特に目につく変わった点はない。ごく普通のファミレスのメニューだ。

 

「普通においしそうですね、先輩。どれにしようか迷います」

「ほんと……。特異点っていうよりは、ただの街並みだなあ」

 

藤丸は端末を取り出して、カルデアとの通信を試みようとするが、やはりノイズが入ってしまい、安定しない。

通話はおろか、メッセージさえ受信できない状態だ。

マシュも甲斐甲斐しくコミュニケーションデバイスの調整をしているが、状況はあまり改善しない。

 

「気になるのは“神性”の反応でしたよね。近くに神社や仏閣があるということなのでしょうか」

「立川周辺なら、いくつかお寺や神社もあると思うけど……。でもそれだけでそんな強力な神性反応が出るかなあ?」

 

藤丸が首をかしげると、マシュも同調するように首をかしげた。そのとき――

 

「わあ、もうお金なくなっちゃったよ、イエス。どうするよこれ。バス代がヤバいよ」

「大丈夫だよブッダ。今日は雨も降ってるし、天界に電話してお金振り込んでもらうから……」

 

ファミレスの奥の席から、男性二人の声が聞こえてきた。

 

どちらも二十代後半くらいの若い男性に見えるが、一人は長髪に優しげな顔立ち、もう一人は落ち着いた短髪(というか螺髪)で、どこか気品ある雰囲気を漂わせている。

が、その会話の内容がやたらと俗っぽい。

 

(イエス? ブッダ? まさか……)

 

藤丸とマシュは思わず互いの顔を見合わせた。

突飛な会話ではあるが、「神性」というキーワードとリンクしてしまうと、この二人がただ者ではない可能性が頭をよぎる。

 

「よし、雨があがったらこの辺りの古着屋見て回ろうよ。せっかくここまで来たわけだし、巡礼、巡礼~って感じで」

「はぁ……イエスはいいけどさ、僕の服はもうボロボロだよ。何せ天界からの仕送りだけじゃ足りないし。アルバイトでもしようかなあ」

 

どう考えてもただの冗談には思えない内容だ。

天界? 仕送り? それに、「イエス」と「ブッダ」の組み合わせなどというのは、どこかで聞いたことがあるような、ないような……。

 

「先輩、あの二人……もしかして……」

「うん、どう見てもただの一般人じゃなさそう……」

 

神性の反応が強く出ているという情報、イエスとブッダとの名を名乗る彼ら。

藤丸たちは、思い切って声をかけてみようと、席を立ち上がった。

 

 

「ん? なにか僕たちに用かな?」

 

長髪の男――イエスが振り向き、優しげな笑みを浮かべる。

もう一人の短髪の男――ブッダも不思議そうに藤丸とマシュを見やる。

 

「その……何か困りごとでも?」

 

ブッダの口調はどこか穏やかなもので、そのあまりの無警戒さに、藤丸は一瞬息を呑んだが、勢いで言い切った。

 

「あ、いえ、えっと……。お二人は、その……“イエス”と“ブッダ”って呼び合っていましたよね。もしかして、本当に……その……」

 

半ばあやふやなまま、藤丸は二人に尋ねた。

神性の強い反応があるとカルデアで報告を受けていた手前、この男たちがまさかとは思うものの、まるであり得ないとは言い切れない。

マシュも隣でごくりと生唾を飲み込みながら、細い視線を彼らに向けている。

 

対する二人組――イエスと名乗った長髪の男と、ブッダと呼ばれた短髪の男は、一瞬顔を見合わせたあと、互いに「さて、どう答えようか?」と言いたげに目で合図し合った。

すると長髪の男が先に口を開く。

 

「ええっと……“イエス”と“ブッダ”って、まぁ呼ばれてるには呼ばれてるんだけど、うーん……ほら、最近は変わったあだ名をつける友達とかいるじゃない? そういう感じというか……なんというか……」

 

 曖昧にはぐらかすイエスの様子を見て、ブッダも慌てて頷いた。

 

「そう、あだ名です。あだ名。私たちの知り合いにああ呼ばれて、それが定着したというか……つまり。ね、イエス? ほら、あの、某漫画とかアニメとか、そういうのから取っただけで……」

 

不自然なほどに早口で弁解する短髪の男。

妙に歯切れが悪い。

 

まるで「自分たちが神様そのもの」という真相を隠そうとしている――と察した藤丸とマシュは、半信半疑のまま顔を見合わせた。

 

が、どう考えても普通のあだ名にしてはおかしな点が多い。

話に出た「天界からの仕送り」や「奇跡を使う」などの発言は、いくらなんでもあだ名の域を超えているはずだ。

 

「そ、そうなんですか? あの、つまり“イエス”さんも“ブッダ”さんも……ただのニックネームっていうことで……」

 

マシュが恐る恐る確認を取ると、イエスは苦笑い気味にうなずく。

 

「うん、まぁそういうことかな。いやはは……まさか君たちに“その筋”の人だと思われるとは、びっくりしたよ。いやあ、まいったまいった」

「……ホントだよね。まさか神様扱いなんて……ははは」

 

ブッダも引きつった愛想笑いを浮かべる。

どうもごまかそうとしているのは間違いないが、その言い訳はあまりに薄っぺらい。

藤丸もマシュも、彼らを不審がりながら会話を続ける。

 

「でも、さっき聞こえてきた会話だと“天界に電話してお金を振り込んでもらう”とか、“巡礼”とか、ちょっと気になる単語が色々出てきてましたよね……? その……本当に、ただの“あだ名”なんでしょうか?」

 

藤丸がまっすぐ問いかけると、イエスとブッダはまたしても目を見合わせ、どちらが先に口を開くか押し付け合うように小声でヒソヒソ相談し始めた。

 

「どうするブッダ……これはまずいよ。どうやってごまかせばいい?」

「いや、イエスが何とか上手く話をまとめてよ。ぼく、嘘つくの苦手だから……」

「ちょ、ちょっと、僕に押し付けないでよ! でも確かにこれ以上変な言い訳するより……」

 

そんな二人のやり取りは、ファミレスの静かな空間では丸聞こえである。

藤丸とマシュは唖然として会話を盗み聞きする形になったが、これではごまかしきれないだろう。

 

「あ、あの……お二人とも?」

「あっ……!」

 

藤丸の呼びかけに、イエスとブッダは慌てて姿勢を正す。

明らかに彼らの“相談”は失敗だ。二人とも諦めたかのように視線を交わし、苦笑いを浮かべると――

 

「えーっと……正直に言ったほうがよさそうだね。うん、ごめんね。ごまかそうとしちゃって」

 

イエスが最初に白旗を上げるように頭を下げた。

それからブッダが続く。

 

「ぼくらは、その……まぁ、いろいろ長い経緯があって、今は“下界”――つまり人間界で生活してるんだけど、あんまり大っぴらに言うといろいろ騒ぎになっちゃうから……。つまり、――世間的には“神様”とか“仏様”とか呼ばれてる立場なんだ」

 

その言葉に、藤丸とマシュは……。

 

 

「「…………ジョークですか?」」

 

「「ジョークじゃないよ‼︎」」

 

ーENDー

 




つづかない(迫真)

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