「虎杖くんに食べられたいから死にます」   作:倉之助

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閲覧注意
クソペド主人公が虎杖悠仁に執着するストーリーです。ぶっちゃけガチできしょいので覚悟して閲覧してください





    








開かずの箱の中身は■■

【2006年10月31日】

 

「なあ、孔さん。アンタに頼みたいことがあるんだ」

 

 えらく爽やかに笑ったそいつは、呪詛師だった。京都呪術高専二年古戸行李(ふるとこうり)。1ヶ月前から指名手配されている二級呪術師。

 

 東京校との交流会で監視の目が緩んだ隙をついて忌庫を襲撃し貴重な呪物と禁書を強奪・逃亡。忌庫番二名と居合わせた呪術師一名が命を落とした。その後、何食わぬ顔で慰労会に顔を出し、教職員らと生徒複数名に睡眠薬入りの酒を飲ませて逃走した。事件発覚は翌日。京都校三年所属の庵歌姫の通報により露呈した。

 

 誰にも悟られず計画を実行した手腕と悪辣な所業。盗まれた物品の危険性の高さから即日呪詛師として指名手配された。しかし見事なまでの残穢の隠蔽により足取りは掴めず1ヶ月が経過。とうとう高専外部のフリーランスにも討伐依頼が出された。仲介人として間に立つことが多いため、俺もある程度の情報は把握している。古戸が盗んだ呪物の詳細を調べ次第、契約しているフリーランスにでも情報提供しようかと思っていたところだった。

 

 だが、こうして本人自ら、直々に尋ねてくるとは思っていなかった。噂の呪詛師は芸能人のような整った顔立ちに狂気を浮かべて俺に契約書を差し出す。受け取り、軽く目を通したがひどいものだ。まともな人間が思いつくとは思えない、吐き気すら感じる異常性。

 

「……なあ、アンタ。ほんとにこの内容でいいのか? 」

「? いいも何も、俺から提示した内容だぞ? 」

 

 不思議そうに小首をかしげる男。どこか不備でもあったか? と聞かれたがそういうことではない。右角をホッチキスで止めて纏められた契約文書一式と、添付されている『少年の顔写真』を見比べる。

 

「依頼料五千万。あんたが俺の頼みを受けてくれるなら、契約書にある通りきっちり死ぬ。あんたは俺にかけられてる懸賞金を総取り。念の為前金として俺の個人資産二千万を現金で渡す。まあ、縛りを結んでもらう。どこかおかしいところでも? 」

「おかしいところしかないだろうが」

 

 とん、と契約書の一文を指さす。古戸はニコニコ笑っている。

 

「どこの世界に自ら呪物になった挙句、未就学児に受肉しようとする術師がいるんだよ。それも非術師に」

「ここにいる。それに、彼はただの非術師じゃない」

 

 うっとりと少年の輪郭をなぞる。艶っぽい淫媚な指つきで、ゴクリと生唾を飲み込んでドロドロにとろけた声で囁く。

 

「世界の中心にいる、とても可哀い(かわいい)特別な子だ」

 

 


 

 【2005年4月】

 

「これが、問題の箱ですか」

「ええ、本当に気味が悪くて……」

 

 げっそり痩せた小男が言う。呪霊の祓除の依頼主(地元の有力者らしい)に「ついでと言ってはなんだが」と言って見せられた桐箱。これを持ってると不幸になるのだと悲壮感たっぷりの身の上話を聞き流し、桐箱を伺う。年季の入った不思議箱だ。かなり古いが、江戸時代以降に作られたのだろう。簡単そうな作りに反して開く工程は複雑な箱。頭の良くない俺は「壊してもいいですか」と許可をとりサクッと破壊した。

 

 物理的に開いた箱の中身を持ち主共に確認ーーーした、その瞬間だ。脳に情報を突っ込まれた、ように錯覚した。脳天を打ちぬくような衝撃。景色が二重に見える奇妙な視界。右目にうつるのはビデオテープを早送りしているような風景、左目には今現在の状況。ガチャガチャと騒がしい視界に目の奥が痛む。なんとか左目で中身を確認する。

 

 霧箱の中身は簡素なものだ。紫の布の上にポツンと一つ、棒が鎮座している。木の棒のような外観で、乾いた何かが張り付く質感。

 

「なんですかね、これは。枝、というわけではなさそ……」

「まて、触るな!」

 

 静止も虚しく、依頼主が中身を手に取る。くるりと一周眺めて、棒につるりとした物体が付着しているのに気づくーーー爪だ。

 

「あ、あ、うわぁぁぁぁ!」

 

 自分が持ち歩いていたのが指のミイラだとわかって、奇声を上げてひっくり返る社長。自分の視界に酔ってうずくまる俺。放り投げられた爪をかろうじて拾い上げ、桐箱の中の布でぐるぐる巻きにする。様子のおかしい俺たちにづいた補助監督が駆け寄ってくるのを「宿儺の指だ!」と怒鳴りつけて引き留め、壊れた桐箱の蓋を蓋を閉めてその上に覆い被さる。そこで俺の意識は途絶えた。現実を視認していた左目が閉じられ、より鮮明に見えるようになった別世界の光景。

 

 ーーーーーーー戦慄した。

 

 今でも目を閉じれば思い出す。瞼の裏に焼き付いて離れない。俺はあの日、未来をのぞいた。神の視点で世界を俯瞰していた。美しい世界だった。とても綺麗な、本当に綺麗な「光景」だった。

 

 それは一人の少年の破滅する過程。

 無垢で正義感の強い少年が呪術の世界に関わりを持ってしまったがために絶望していく光景。命を惜しみ泣き喚き、それでも仲間のために命を捨てる覚悟を持ち、自分の命は疎かにするのに他人ばっかり守りたがって。その癖、守りたいものは両手の隙間から溢れていく。当初の快活さがだんだんと翳り、昏い瞳に殺意の炎を宿して拳を振るう少年を見て……恥ずかしながら勃起した。泣き顔に震えて嘔吐く声に蕩け、絶叫に射精した。意味がわからなかった。どうしてこんなに興奮するのかと自問した。寝ても覚めても虎杖悠仁のことばかり。狂気と絶望で息も絶え絶えになる姿を見たくて悶々と日々を過ごした。

 

 今思えば奇妙なことだが、俺はこの景色を「今後起きる未来の出来事」と認識していた。どうしてそう思ったのかわからない。抑も、この記憶がただの妄想である可能性の方が高い。未来視の術式である可能性もない。だって俺は術式を持っていない。長いこと業界にいるのに二級以上になれる見込みがない、呪具使いとしても限界を感じて補助監督の道を考え出すほどの木っ葉だ。未来視の術式が付与された呪具がこの世にあるとして、あの時触れたのは宿儺の指以外ない。そしてアレにそんな効果はない。

 

 だから、確認した。この記憶が本当に「未来」の断片なのか確かめた。幸い、彼の通うことになる高校は今も実在しているし、祖父が入院する病院と思われるものも発見した。その周辺を調査し……あまりにも簡単に虎杖悠仁を発見した。運命が俺を導いているとしか思えなかった。

 偶然を装い虎杖倭助、悠仁両名との会話に成功した。彼らは突如として俺の脳に焼きついた「存在しない記憶」にでてくる存在そのもの。空想上のキャラクターの実在、パーソナルデータの把握。彼らの存在を認識したから確信に当たった。この記憶は妄想ではない。実際に起きる未来で、運命で、だが不確定故に介入する隙がある。だからだろう、俺は欲望のままに生きると決めた。

 

 俺はきっと、虎杖悠仁に恋をしているのだろう。世間一般の「恋」とは違うと思う。それでも俺は恋だと言おう。

 だって寝ても覚めても彼のことばかり考えてしまう。仕事中も「こんな時、彼はどんな顔で泣くのだろう」と思考が飛ぶ。陰惨な呪術事件の時は特にそう。

 眠れば虐殺の自責にかられて鳴き喘ぐ少年の夢を見て、絶望のそこで指一本動かせない彼に焦がれて目を覚ます。これを恋と言わずになんと言おうか。少女漫画の恋する少女に自己投影して、思わず月刊誌を購読していた。同期には引かれた。

 

 日を跨ぐごとに俺の性欲は高まりを増すばかり。俺は完全に「未来」と仮定するものに支配されていた。言い換えよう、俺は未来に呪われていた。悠仁のせいだ。俺はこんな捻じ曲がった性根の持ち主ではなかった。口に出すのも憚れる性的嗜好の持ち主ではなかった。俺が変わったのは悠仁のせいだ。なら、彼に責任をとって貰うのも当然の帰結というもの。

 

 破綻した理論だと理解している。だけど、思考が止められない。全てを失って空っぽになる悠仁を俺が愛でる。そんな未来を夢想して、気づけば仙台に通い詰めて。当初、倭助にはやや警戒されていたが気付けば虎杖宅に訪れることを許された。今ではむしろ歓迎されている。先日は「多少マシな顔になった」と言われた。初対面時、今にも死にそうな顔でもしていたのだろうか? まあ、どうでもいいか。悠仁に会えれるならば。この子の記憶に生前の俺を焼き付けて、偶像を作り上げ、そして呪物の俺と再会してその落差に顔を歪めてくれるなら。そのためなら俺はこのどうしようもない欲を完璧に隠して生きていける。

 

 ああ、早く、早く。悠仁の中に入りたい。彼の心に入りたい。一生残る傷になりたい。「コーリくん」としたったらずに名前を呼んで、俺を思って枕を濡らし、俺を憎んで怒って欲しい。俺は、美しく曇る顔を全力で愛でよう。彼が眠るたびに生得領域に招き、嘘を囁き希望と絶望の落差を楽しみ、壊れかけの悠仁を視姦し、昏い色に染まる眼球を舐めしゃぶるのだ。

 

 一刻も早く呪物になりたかった。両面宿儺に負けない悍ましい呪いになりたかった。生きた人間を呪物にする禁術は加茂憲倫(ゆうじのおや)が後世に残してくれていたから可能。だが俺に特級呪物になるポテンシャルはない。ならばどうすればいい? 他の呪物で補えばいい。

 己の体を箱に【見立て】て、中に片っ端から呪物をぶち込む。呪物で行う蠱毒。しかし開封しない。勝者を決めない。だから、どんな呪いができてるのか誰もわからない。

 シュレディンガーの思考実験だ。1/2の確率で毒ガスが充満する箱に詰められた猫。誰かが開けて確認するまで猫は死んでいるか生きているかわからない。死んでいるのか生きているのか。死因は毒か、それとも餓死か、それとも病死か。そもそも、生きているのかいないのか。

 俺も同じだ。成功してるかしてないか、箱の底にあるのは希望か絶望か。「わからない」から恐ろしい。【未知】という普遍的な恐怖を利用し、まとめ上げ、呪霊とも呪物ともつかない何かになる。それこそ俺の求める「呪い」の形。自分の名前が行李なのもちょうどよかった。

 

 以前はふざけた名前をつけたと憤っていたが……今、このためだったのだろう。親には感謝する。禁呪を用いて俺の肉体を呪物化させら準備は整った。あとはありったけの呪物を集めるだけ。高専の忌庫がちょうどいいだろう。箱に詰めれるだけ呪物を詰める。一斉に受肉しようとする呪物は争い、食い合い、蠱毒となる。そして、未開封のまま呪物箱の俺を悠仁が食べる。最高だ。

 

 シュレディンガーの猫箱は有名な話だ。SF映画でも度々取り上げられるため民間人の認知度も高い。今後、悠仁の体で渋谷大虐殺を行うとしよう。派手にテレビでもジャックしてその様子を中継したらどうだろう?

 あっという間に日本中が恐怖する犯罪者の出来上がり。日本中が悠仁を恐れ、戦き、憎み、嘆き、悲しみ、怒る。日本人口一億人が『負の感情(ネガティブ・フィードバック)』を俺たちに叩きつける。俺はそれら全てを箱にしまう。そうして完成する呪物は、黒幕が謳っていた「一億人呪霊」に匹敵するだろう。いや、それ以上かも。

 

 毎日こんな調子だから、計画の大枠は決まっている。あとは実行するだけだ。だけど、そこで少しつまづいた。俺が箱になった後、呪物を押し込む役がいない。ただの呪物じゃダメなのだ。呪物となっても虎杖悠仁に受肉できないのでは意味がない。だが欲望に忠実な俺は冴えていた。協力者を作ればいい。金さえあれば動くやつ……一番に冥冥が浮かんだがやめた。あいつは口を開けは金のことばかりだが性根が呪術師、非術師の幼子に呪物に転輪した呪詛師を食べさせるという俺の計画を台無しにする可能性がある人間には頼めまい。ならば誰だ。

 

「あ、いるじゃないか」

 

 思わず笑ってしまった。少し前の俺は知りもしなかった非術師の仲介人。伏黒甚爾の関係者。孔時雨。こいつでいい。だがこいつは呪詛師の仲介人なんて仕事をしているのに妙に「人がいい」ところがある。元刑事らしいし、性質が善人寄りなのだろう。何があって裏の世界に来たのか知らないが……まあ、巻き込まれたのだろうな。奴の身の上などどうでもいいが、そう言った面があるのは不都合だ。事前に計畫を伝えたとして、情報が流出するとも限らない。不都合だ。俺の詳細を知る人間は少ければ少ない方が都合がいい。

 

 決行は早いほうがいいだろうな。星漿体の事件のあとだとうっかり五条悟に殺されてしまう可能性もある。ならやはり、次の交流会の時期だろう。あらかじめ忌庫の場所を確認しないと。名目は……そうだ。学長に頼んで呪具を借りるということにして進入しよう。計畫を推敲し、当日の流れをシュミレートし、デバックを繰り返し万全な体勢で挑んだ交流会。俺の企みは順調に進み、残すは最終段階。節操なく飲み込んだ呪いが胎の中で蠢く。死ぬことを前提に組んだ縛りにより箱の耐久性を極限まで引き上げられたからと、両面宿儺の指をのぞいた一級以上の呪物を収めたのが祟ったのか魂が穢れていく感覚がずっとある。

 

「あははは」

 

 内臓を溶かし、骨を腐らせ、腹の中で呪いが廻って弾けてまた沈む。リーフティーがティーポットの中でジャンピングするのと同じことが俺の中で起きているのが見なくてもわかる。

 だけどそれでいい。それがいい。泥に沈んでいくのが楽しい。ハイになって、酒場の客に絡む。最高にステキな思考回路。ちゃんとごっくんしてもらうために、己の体を極側まで圧縮する方法を考える。目の前で「知り合いのお兄さん」が呪物に転じて、それを腹に収める悠仁を妄想する。どんな顔をするだろう。どんな声で泣くのだろう。そもそも泣いてくれるだろうか?

 契約通り孔が悠仁に俺を食わせたら、記憶をのぞいてみようかな。

 

《次は、仙台。仙台》

 

 ああ、やっとーーーー

             ぐちゃり

 


 

 

「悪いな坊主、俺もやりたかねぇんだが」

 

 金が振り込まれたからな、とやつれたスーツのおっさんが言う。じいちゃんに連れてこられたコーリくんのお葬式。仙台の駅で、血を吐いて死んでいたらしい。二、三日まえに、ジジョーチョーシュ?のためにうちに来たケーサツのおっさんから聞いた。事件性があるかもしれないって。おっさんが言うには、闇サイトでコーリくんに懸賞金がかけられていて、いろんな人がコーリくんを狙っていて、駅で倒れたのも毒を盛られた可能性があって。コーリくんは身内と疎遠で、変な学校でキョーセーロウドウ?してたかもしれなくて、コーリくんの発信履歴から「仙台に来たのは虎杖家に行こうとしていたからなのかもしれない」とじーちゃんを尋ねてきた。

 ケーサツが帰った後、じーちゃん泣いてた。何か知ってたのかもしれない。それで、「葬式だけでも、してやらにゃあ」って、今日が来た。

 

「まあ、なんだ。お前も可哀想にな。古戸行李なんかに関わったせいで」

 

 でもお葬式にコーリくんはいなかった。死体が盗まれたらしい。空っぽの棺桶にじいちゃんが怒ってた。式場の人と火葬場の人にすごい怒鳴ってて、おれはちょっとその場から離れた。そしたら変なおっさんが話しかけてきて鼻と口を覆われる。息ができない。ばたつく体を押さえつけて、おっさんはレゴブロックよりちょっとデカめな箱?みたいなのをもう片方の手で弄ぶ。

 

「アイツは悪魔だよ。まともな神経してたら五千万でこんな依頼するか? 

 頼むから俺を恨むなよ。呪うならペド野郎でも呪っとけ」

 

 俺の口を塞いでいた手が離れる。大きく息を吸った瞬間、箱を口の中に入れられた。吐き出そうにも無理やり水を飲まされたせいで吐き出せない。

 

「ぐ、ぅおぇ……」

 

 ーーーーー硬いものが喉を通る不快感。

 

 地獄のような苦しみの中で、おっさんの言葉がぐるぐる回る。闇に足首を掴まれて、引きずられるように眠りに落ちる。

 

「依頼達成ありがとう。後金は振り込んでおくよ」

「クソ野郎が……」

「悠仁、かわいいね悠仁。これからずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとず〜〜っと一緒だよ」

 

 最後に見たのは、憐れむようなおっさんの顔で、最後に聞こえたのは俺を探すじいちゃんの声。

 

 

「この度は、ご愁傷様でした」




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