「虎杖くんに食べられたいから死にます」   作:倉之助

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げんざい

 

「い、いだぃ、だずげ、いたどッ」

 

 目の前に広がる赤い運河。わざとらしいほど艶やかなピンクと淡い黄色のコントラスト。贓物と肉片の混ざる血溜まり。りんごを握りつぶすように子どもの頭部を破裂させたバケモノを前に俺は立ち尽くすことしかできなかった。

 いまいち、そりがあわない人だった。祖父に育てられている俺を「親なし」と言って笑うような性格の人だった。得育クラスを「障害者クラス」と言いふらして生徒からも教師からも顰蹙を買っている、そんな人だった。俺がこんな場所にいるのも、コイツに盗まれた大事なものを返してもらうためだし。でも、こんなふうに死ぬのが正しいはずがない。

 血塗れの手をばちばち楽しそうに打ち鳴らして、バケモノが俺を見下ろす。真っ赤な手が俺に伸ばされる。

 

「あ、ああ……あああっ!!!」

 

 後ずさろうとして、尻もちをついた。膝が震えて立たない。バケモノから目を離せない。ずるずると地面を座りながら這って、壁にぶつかる。耳まで裂けたバケモノのくち。

 咄嗟に、両手で頭を庇う。

 

「やだ、死にたくない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「大丈夫だよ、ユウジ」

 

 片手が勝手に動いた。人差し指がバケモノの方に向いた直後、冒涜的な三重奏に側頭葉が殴られる。かき氷を削る音、ハンバーグをこねる音、そして怪物の断絶魔。同時に聞こえた三つの音は重なり合ってひどい音で。

 

「ーーーーっ!」

 

 音にならない絶叫。頭上に降り注ぐ肉片。脳が、理解を拒絶する。どうにか外に出なければと壁に手をついて体を支える、壁が崩れた。

 体が斜めに傾いて、つま先が地面から離れる。終わらない浮遊感に対する絶望。真っ暗闇の奥の奥。俺の腹の奥から声が聞こえた。

 

 

 「オレがユウジをたすけてあげる」

 

 

 暗く、低く、優しい、泥のような声が。

 

 


 

 着慣れぬブラザーに袖を通し、よくある形のありふれた門をくぐる。放課後のグラウンドには運動着の生徒と二級相当の呪霊が溢れていて雑多としていた。

 涎を垂らす呪霊の前を生徒が平然と通り過ぎる。頭から丸呑みにされそうな生徒を守るべく手印を組むが、未然でおわる。バチリと散った黒い火花とともに消滅する呪霊。思わず、伏黒は食われかけていた生徒を見た。呪霊が見えているとは思えない挙動、どこからどう見ても非術師だ。

 

「ここが仙台……盤星教の本拠地か」

 

 どういう仕組みかさっぱりわからないが、天元様の守護とは別の守りが生徒たちに適応されている。呆気に取られる伏黒の背後に新たな呪霊が出現する。が、またも呼び出した式神が屠る前に呪霊は祓除される。

 ぐちゃりと捻れて圧縮された肉塊。まるでピストルを打つように伏黒に人差し指を向けていた少年が呑気に伏黒に近づいてくる。

 そのまま、少年は呪霊を拾い上げる。そしてぐわっと大きな口を開けてーーーー呪霊を喰う。

 まるでコンビニで買った肉まんを買い食いする学生の用な仕草で、歩きながら呪霊を食べる少年。べろりと指先についた血まで舐めとり、再び彼の人差し指が遠くに向く。

 黒い火花が瞬き、呪霊が捻れる。圧縮され、拾い、そして食う。先ほど起きたことの再演。

 

「お前、何やってんだよ」

「ん?」

 

 深い意味などなかった。反射だった。思わず肩を掴んで引き留めた少年が不思議そうに首をかしげ、ごくんと喉を鳴らす。自分の手に残る肉片と伏黒を見比べて「んー?」と小さくうめいて、ハッと目を見開く。

 

「もしかして見えてる!?」

 

 頷く。「あちゃー」ともう片方の手で額を小突き、残りの肉を一口で食べ切ってから「やっべぇ、センセーに怒られる」とぼやく男に「そこじゃねえだろ」と心の中でツッコミを入れた。

 

「……腹壊すぞ」

「ダイジョーブ! 俺腹強いから!」

 

 そうじゃねぇだろ。反射で思った。何言ってんだよ俺も、コイツも。

 

 「んー……見ない顔だけどテンコーセーとかだったり?」

 

 ウェットティッシュで手を拭きながら踵を返す。珊瑚色の髪が軽快な歩調と共にひょこひょこ揺れる。

 

「俺、虎杖悠仁。得育の一年、よろしく!」

「得育?」

「そ、特別育成コースの略称な。呪霊の対処法(こーゆーの)を習ってる。それ目的でこっちきたんじゃねぇの?」

「ちげえ、伏黒恵だ。

 依頼で呪物の回収に来た。お前も『そう』なのか」

「や、ちょっと違う。それっぽいことはしてるけど」

 

 差し出された手を握り返す。上下に振られて離れた手のひらをなんとなく見つめた。

 

「呪術高専みてーに祓除を専門でやる感じじゃないし。ボランティア活動みたいな? 一応、呪霊とか呪物に遭遇した時の対処法とかは習うけどさ」

「なんで呪霊なんか食った」

「俺も好き好んで食ってねぇよ。

 なんつーか、あー……体質? 詳しくは聞かないでくんね?」

 

 眉間に皺、つま先を見つめる横顔、拭うふりをして隠した口元。

 

「このへん、呪霊多いじゃん? だからテキトーに処理してる、少しは被害減るだろ」

 

 「最近やたら強いのが増えてて」と誤魔化しながらの作り笑い。訳ありなのは確実。だが、善人だ。やってることもフリーの呪術師みたいなもの。『体質』というのが気になるが、わざわざ問い詰めて吐かせる必要性はないと自分自身を納得させた。

 

「てかさ、んなこと聞くってことは伏黒って高専生?」

「ああ」

「うっわ、こんなとこまでお疲れさん。さっき呪物の回収って言ってたけど、何探してんの? あ、こういうの聞いたらダメなんだっけ」

 

 一瞬、迷った。虎杖は高専関係者じゃない。おそらく立場としてはフリーランス寄り。しかし、ここが仙台であるのが伏黒を迷わせる。何せ東北は夏油傑の膝元。証拠はないが、非術師大量呪殺を行なっていると噂される盤星教の、本部がある地が仙台なのだ。

 

「言ってどうする?」

「んー、内容次第で協力できっかも」

 

 もう一度、虎杖を上から下まで眺める。嘘ではなさそうだ。表情は穏やか、肉体はアスリート、呪術に対する基本的な知識あり、体質は異常だが怪しげな呪力なし。おそらく、善意での申し出。

 

「両面宿儺の指の回収、並びに特級呪物コトリバコの捜索が目的だ」

「……あー、まじかぁ」

 

 虎杖の表情が曇る。目線が斜め上を向き、眉が痙攣していた。ほんの少し傾げた首の角度と強く噛んだ奥歯。

 

「心当たりあんのか?」

「そりゃね、なんせ東北発祥じゃん」

「……そうだな」

 

 虎杖の話し振りでコトリバコのことだと悟る。有名になったきっかけは島根の怪談だが東北の民話や伝承に似たようなものがあり、それが起源とする説もある。もしくは岩手のリョウメンスクナだろうか、奇形児のほうの。

 

「てか、両面宿儺の指って言ったら特級じゃん。なんであんの?」

「ああ、知ってたか。なんでも呪霊避けに使っていたらしい。百葉箱にあるんだと」

「げぇ、んなとこにあったん? 全然気づかなかったんだけど」

 

 こわ〜とわざとらしく身を震えさせる虎杖が「百葉箱ね、こっちだよ」と誘導する。途中、陸上部の顧問とやらに声をかけられたり、オカルト研究部の先輩に挨拶したりと、虎杖の社交的な一面が目にうつる。「お前、誰にでもこうなのか?」と溢した言葉に「友達多い方が楽しくねー?」とピースで返して、「あった、あれ百葉箱!」と視線で語る。

 ありがとな、どういたしましてと軽く交わしながら南京錠をはずし扉を開け……。

 

「……なくね?」

「……ないな」

 

 あったのは空っぽの百葉箱。うっすらと残った砂埃の形跡から少し前まで「箱型のなにか」があったことが伺える。

 ……異様に多い呪霊。不自然に多い、二級呪霊。「最近やたら多い」という虎杖の証言。

 

「なあ」

「まって、伏黒。おれも同じこと考えてる」

 

 宿儺の指くった呪霊が発生している可能性。ただのおつかいが一級相当に格上げされた瞬間だった。

 

 

 

 

 


 

 

『やめろ、コウリ』

 

 あの後、「オレの知り合いに強い人いる!」と走り出した虎杖を引き留め、五条さんに連絡を入れた。無理しない程度に調査しろとの無茶振りに舌打ちをかまし、結局了承した。

 虎杖に頼んで学校関係者に話をつけてもらい、急遽完全下校となった()()()()()()に帳をおろし、雑魚を祓除しながら巣の主の居場所にあたりをつけていく。

 あらかた探索し、あとは五条の到着を待つーーーそのはずだった。宿儺の指を喰ったと思われる呪霊に強襲されるまでは。できることはやり尽くした。やれる限りを時間稼ぎに注ぎ込み、逃げ続ける。なかなか来ない五条に対する苛立ちを呪力にかえて応戦し……負けた。腕ごと胸部を締め上げられ、出血過多と酸欠で薄れる意識のその間。突然、呪霊の腕が捩じ切れる。

 肉と骨が中途半端にのこる断面が目線の先にある。ぬるい液体と中心が赤い白い破片がポロポロ降ってきて頭のてっぺんから俺を汚す。まだ鳴り止まない、側頭葉にこびりつくモスキート。ブチ、バチと断線したイヤホンによく似た音に熱気を帯びた鉄錆の香り。未就学児の甲高い悲鳴。水たまりを踏んだ後の靴の音。

 全部まとめてひっくるめて、ぐちゃぐちゃと()()されていく。骨がリズミカルに折れていく。ポッキーをまとめて食べるASMRと同じ音だと逃避じみたことを考える。ああ、見たことがある光景だ。つい数時間前に見た光景とそっくりだ。空間ごと、帳ごと捻れてなければ。

 呪力を持つもの全てを巻き込み歪んで彎曲して屈折して圧縮されて、絞りすぎた雑巾のように丸い肉塊に変貌していく。歪みの端に黒が見えた。俺の玉犬が巻き込まれる、と。思考した刹那声がした。

 

「それ、伏黒の式神だろ。呪霊や呪物を入れるのは許容するけど呪術師はダメだ」

「いた、おぃ……」

 

 なんでとか。どうしてとか。疑問の前にこう思った。

 『虎杖、今すぐ逃げろ』と。潰れた肺は彼の名前すら言えなくて、迫り上がる血が口元を汚す。

 

「ごめん伏黒。俺、お前に嘘ついた」

 

 きっと、あの肉塊の中に宿儺の指が沈んでいる。虎杖から遠ざけなければいけない、お前は、アレに触れてはいけない。なんでそう思うのかわからないけれど。

 

「コトリバコのこと、知らないって言っただろ。あれ嘘なんだ。

 俺がそう。伏黒が探しに来たコトリバコって多分俺のこと」

 

 虎杖が手を翳す。呪力が逆回る。血を吐き出し、咳き込み、そして俺は立ち上がる。コイツは反転術式のアウトプットまでできるのか。ますます虎杖悠仁という存在がわからなくなる。危険なのかと言われたらそうと答える。だが、悪人かと聞かれたら答えに窮する。

 

「お前、コトリバコも食ったのか?」

「因果が違う。俺はコトリバコになったから、呪術を知った」

 

 目を伏せた虎杖が肉塊を漁る。手首を掴む。誰が? 俺が。

 

「離してくんね?」

「食わねえっていうなら」

「そっかぁ……」

 

 ギリギリと骨が軋むほど掴んでいるのに、虎杖の腕は前に伸びていく。体重をかけて引き止めても虎杖の歩みは止まらない。

 

「ごめん。でも俺、宿儺の指を食べなきゃいけないんだ。コーリくんと約束したんだ、呪術界をぶっ壊すって」

「そんなの、誰かに強要されてやるもんじゃねえだろ。そんなやつとは縁を切った方がいい」

「はは、そう簡単にできるもんじゃねぇんだわ」

「断言する、そいつは呪詛師だ。やばいやつなんだよ、関わるな虎杖」

「……やばいやつ、なぁ」

 

 視線が揺れる。薄暗い中、虎杖の暗い瞳だけが見えた。表情はわからない。だがそんなのいらない。目を見れば、どんな顔してんのかわかる。

 

「とっくに知ってるよ、コーリくんがヤバいやつなんて」

 

 泣きそうな目だった。悔しさが滲んだ、後悔が残る目だ。見慣れたその目に息が詰まる。俺の腕を振り解き、慟哭する。堰を切ったような悲鳴が鼓膜を貫く。

 

「でも俺が呪いを食べるとコーリくんが喜ぶんだ!

使った呪力を貯めるためだって最初は言われて喰ってたよ、あとで嘘だと知ったけど。コーリくんは行李くんじゃない、そんなの言われなくても知ってんだ。俺ん中にいるコーリくんは俺の知ってる行李くんじゃない。生前の行李くんの皮を被った呪いだ。俺が呪いにしちゃったんだよ!!

 俺が、世界で一番強くなって、行李くんの敵をやっつけるって言ったから。じゃあ、ユウジを世界で一番強くしてあげるって、言ったんだ。毎日、あの日の夢を見るんだ。『ユウジ、俺が世界で一番強くしてあげるね』って、コーリくんがいうから!!

 俺は、約束守らないといけないんだよ……」

「お前にそんな責務はない! 死んだ人間に禊立てて自分の人生棒に振ってんじゃねぇよ!」

「最初に行李くんを壊したのは呪術師だろ! 初めて会った時、死にそうだったってじいちゃんが言ってた!

 行李くんが世界を呪う理由が呪いなら!呪いならさぁっ!」

 

 腕が落ちる。だらりと指先が床を指す。深い影と前髪で目元すら見えない黒い塊が呻き声を上げる。

 

「……呪霊も呪物も全部俺が食べて、呪術師が必要ない世の中になればさ、元に戻るかも知んねーじゃん。

 それがムリでも、行李くんが望む死にかたをかなえてあげたいんだ」

「さっきから言ってるコーリって、古戸行李のことか? お前、何された?」

「守られた」

 

 なにから? 聞かなくても察することはできる。呪術界の闇は濃くて深い。醜悪と外道と我欲の煮凝り。悍ましいなんて言葉では言い表せない罪業の塊と言ってもいい。虎杖もその残忍酷薄の被害者の一人なのだろう。

 

「コーリくんは『虎杖悠仁(おれ)が生き残る』のために、『虎杖悠仁(おれ)を世界で一番強くする』呪いになった。俺のせいでたくさん人が死んでいる。

 先週も、俺のじいちゃん死んじゃってさ。最後に『お前が生きたいように生きろ』『最後に胸張って死ね』って言い残されちゃって。

 んでさ、伏黒が宿儺の指探しに来るわけじゃん? もう、そういうことだろ」

「何が言いたい」

「運命って、奴なんかなって」

 

 目元を隠して俯く。途切れ途切れで風に消えそうな音の羅列。震えと吃音の混ざった言葉尻に、確信する。

 

「虎杖、お前世界壊したくないだろ」

「は……?」

 

 顔を上げた。深い絶望に支配された泣けない顔に驚愕の表情が乗っていた。

 

「お前のじいちゃん言ってたんだろ、生きたいように生きろって。お前はただ流されてるだけだ。やりたくねぇことに理由つけて自分の義務みたいに言って、それで満足か? 胸張って死ねんのかよ。

 自分のせいで人が死んだとかいうけど、お前が直接殺したのか? 違うなら、それはお前の責任じゃない。何人死のうがお前に罪は一つもない」

「いや、違うだろ。そうじゃねえだろ、なんで今更、どうして!」

 

 崩れた格好。色濃い歪み。曇りきった表情。呪いに関わったせいで変貌してしまった快活な少年の一番最初の絶望と諦念が噴出する。

 

「伏黒は知らねえから言えるんだよ。しらねぇところでバカスカ人死んでて、『俺のため』とか言われてさ!

 だったら、俺はその犠牲に見合った生き方をしなくちゃいけないだろう!?

 そうじゃなきゃ、俺はなんのために生きればいいんだよ!」

「生きる理由を他人に任せてんじゃねぇぞ! いいように利用されて道具になって死ぬのが他人を語るな!」

 

 胸ぐらを掴み上げて叫んだ。なんでムキになっているのかわからない。自分の言葉が本当に自分のものなのか不思議だった。虎杖に言っているのか自分に対して言っているのか曖昧で、でも図星をついていて。だからか余計に頭に血が登って冷静じゃなかった。

 

「それでも理由がほしいならくれてやるよ、呪術師になれ、虎杖。高専に来い。俺が『いい』というまで死ぬな、虎杖」

「……なにそれ、うけんね。俺たち今日が初対面なんだけど」

「そうだな」

「俺が生きる理由、伏黒のせいにしていいの?」

「甘えんじゃねぇ、生き方は自分で決めろ」

「はは。死に方はいいのかよ」

「ああ」

「……おれさぁ、高専嫌いなんだけど」

「俺も好きじゃねえ」

「でも行けと」

「そうだな」

「めちゃくちゃじゃん」

「悪いか」

「……なぁー、伏黒。俺の保護者の説得、任せていい?」

「呼んだんのに全然来ない担任にやらせる」

「じゃあ、そういうことで」

 

 ぽん、と固いものが手のひらに乗る。細長いそれは見なくてもわかる。任務が終わった。

 


 

「古戸行李は最低最悪のクソペド野郎だって言ってんだろうが。良い加減古戸に夢見てんのやめろ」

「コーリくん貶めるなよ、オッサン」

「いい加減古戸行李の洗脳から抜け出せってんだよ」

 

 盤星第一高校理事室。いかにも不良な、しかしなんとなく見たことがあるような顔のオッサンと虎杖が睨み合っている。視線を右にずらす。認めるのは癪だが俺の呪術の師匠とも言える担任とおそらく虎杖に呪術を教えた呪詛師であろう長髪の生臭坊主が対峙している。

 

「(なんだこれ)」

 

 凄まじく居心地が悪い空間で縮こまる……ことはせず。開き直って高級ソファを堪能する。眠くなってきた。

 

「両面宿儺の指を回収に来たんだって? そういうことなら申し訳ない。こちらも諸事情があって宿儺の指を回収しているんだ。まさかうちの高校の百葉箱にあったなんてね、流石の私も見落としていた。」

「へぇ? 絶賛指名手配中の呪詛師から言われると警戒しちゃうね。理由次第で今すぐ殺すこともできるんだけど」

「君が私を? できるならしてみろよ」

「誰にもの言ってんの?」

 

 いや、寝れない。五条さんがこんなに殺気立っているのは初めてじゃないだろうか。

 

「理由ときかれてもね。私の大義は君もよく知っているだろう、弱者救済さ。いずれ訪れる世界滅亡を回避し、弱きを守るために全力を尽くしているだけだよ」

「世界滅亡〜〜〜?? 

 ノストラダムスか? もうとっくに終わってんぞ」

「まさか、そんな生ぬるいものじゃない。特級呪物古戸行李の宣戦布告さ」

「あ? フルトコウリって歌姫の同期?」

「ああ。その歌姫の同期のクソペドサディストゴミカス呪詛師。そこの猿からの密告でね。今年、全人類が呪力を起点に呪い尽くされて絶滅する予定なんだよね」

「……何言ってんの?」

 

 腕を組み、長い足をガラスのテーブルの上に乗せた態度最悪の五条さんがアイマスクをあげる。

 

「だから世界滅亡だよ、悟」

 

 葬式の坊主のような格好をした男ーーー夏油傑がオッサンと睨み合っていた虎杖の頭を掴んで引き寄せる。テーブルに乗り上げた虎杖を五条さんが見下ろして、「最悪」と一言。

 

「彼は虎杖悠仁くん。呪詛師古戸行李の蛮行と共犯の孔時雨の手により特級呪物()()()()()の器になってしまった実に哀れな少年で、両面宿儺の指を飲んだ瞬間世界を滅亡させちゃうお茶目さんなんだ」

 

 お茶目ですまない説明に、虎杖が「えぇっと……いぇ〜い!」とダブルピースで無理やり笑う。空気最悪の理事長室。

 

「とりあえず、宿儺の指全部あつめて宇宙に飛ばすか」

 

 投げやりな声がなんとも空虚だった。

 

 

 

 

 

 





*だがすでに箱は完成してるのである。
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