狂愛   作:クロウト

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ちっさい奴に守られるシチュいいよね。


古馴染みの妖精にボロボロの状態に会ったら治療された上に迷宮にぶち込まれた。

 

薄暗い夜の帷が支配し、影法師が貴方の姿を暗くされど鮮明に映し出す鬱蒼とした森の中。貴方は自身の得物を握り締めながらひたすらに彷徨っていた。

 

貴方の足元には全身を鎧で覆った騎士の躯が無造作に打ち捨てられており、その様子は青緑色の森に一滴の赤を混ぜ込んだ様にも見え、人によってはそれを美しいと思うかもしれない。

 

だがその滴る赤は騎士だけではなく貴方の身体にも大きすぎる程の胸に刻まれた剣による傷から大量に溢れ出ていた。

 

──貴方はこのファルムス王国の騎士を目の敵にしていた。それは貴方が第二の故郷と呼ぶに相応しい程の自分が身を置いていた国がファルムス王国の薄汚い貴族らの欲望と魔物に対する絶対的な不信という大義名分を掲げて国に戦火を放ったのが貴方の心の中にドス黒い衝動を植え込んだ。

 

故に貴方から全てを奪ったファルムス王国も逆に全てを徹底的に奪われるべきだと判断した貴方は今もこうしてファルムス王国軍に見つかっては全てを返り討ちにするという殺人鬼めいた事をしていたのだ。

 

 

だが、その鏖殺の時間も長くは続かない。たった今、総勢100名を斬り殺した貴方は酷い疲弊と大量に刻まれた傷の激痛に苛まれながら死に場所を求める求道者の様に夜の森を放浪している。

 

 

アテのない復讐の旅を嘲笑うかの様に煌々と光る月光が貴方の矮小ながらも足掻く姿を映し出す。それがひどく屈辱的に見えようとも満身創痍の貴方はこうする事しか出来ないのだ。

 

 

視界が朧げになる。先程まで身体全体に掛けていた力が針を刺した風船の様に萎んで無くなろうとしている。手足は強烈な震えに襲われ、身体に悪寒が迸る。貴方の生物としての本能は瞬間的に死をその場に見出すだろう。

 

 

助けてくれ───そんな言葉を吐く余裕すら無い。ボロボロになった肺が最後の足掻きかの様に微弱な量の酸素を吸い込んで口から掠れた声と共に吐き出す。舌を回して言葉を放つ事すら出来ない貴方はこのままだと誰にも死の瞬間を看取られる事もなくただ静かに魂を空に放つ事になる。

 

 

──そして、貴方がいよいよ歩く力すらも完全に無くなろうとしていた時。自身の横から素早い()()が接近するのを感じた。

 

 

「あぁーーーーっ!?!? 」

 

 

貴方の視界に黄金色に輝く小さい光が素早く動き回るのを捉えた。それと同時に貴方の鼓膜に直接響く様な少女の叫び声も届き思わず耳を塞ぎそうになるも重くのしかかる疲弊がそれを許さない。

 

 

「ちょっとアンタ大丈夫?!?!?重傷じゃない!! 」

 

 

漸く黄金色の飛び回る何かが停滞して貴方の視界にはその光を纏っていた者の姿が朧げながらもくっきりと見える様になる。

 

焦燥を浮かべた表情に赤色の瞳に黄金色の長髪を携える掌サイズの少女。その少女を見るなり貴方は昔会っていた古馴染みの妖精を思い出した。長らく会ってなかったがまさかこのタイミングで会うとは思わなかったと貴方は不意を突かれた。

 

 

「全く!!私がちょっと目を離したらすぐアンタはそうやって無茶をするんだから!!ほら!ジッとしてなさい! 」

 

 

小さな妖精は貴方にそう言うなり自分の小さな両腕を貴方に突き出した。そしてその妖精は少しの間だけ目を瞑るとその手からは淡い翡翠色の光が溢れ出す。するとなんという事だろうか、先程まで致命傷と言っても差し支えない程の傷を身体に刻まれ続けて来たボロボロの貴方の身体が一瞬で癒されたではないか。

 

貴方の身体に迸る裂傷は何事もなかったかの様に消え、激痛も無くなった。痛みから来ていた意識が朦朧とする感覚も消失していく。脳が覚醒して視界がくっきりと映る様になる。先程までの死を覚悟するほどの圧倒的な激痛は妖精の淡い翡翠色の光によってあっという間に取り除かれたのである。

 

 

 

「ほら、もう終わったわよ!!! 」

 

 

ペチペチと妖精は両手で貴方の鼻を叩きながら唖然としていた貴方の意識を呼び覚ます。妖精はその様子を見て酷く焦燥を浮かべていた顔から安堵していた表情へと変わってまた貴方の眼前に戻る。

 

 

「...アンタ、あのままじゃ数分後には死んじゃうところだったんだよ。私が来なかったらどうなってた事やら...。 」

 

 

まるで母親かと言わんばかりの小言を呟くその妖精だったが貴方自身はその妖精と何の血の繋がりも無かった。だがこの妖精が来なければ貴方が激痛の中でただ死を待つだけだった事もまた事実なので貴方はとりあえずその妖精に軽い礼を述べた。

 

 

「... !!! ...へっへーんだっ!!この()()()()様にかかればアンタの傷なんてちょちょいのちょいだよ!! 」

 

 

貴方の側をうろついていた妖精───ラミリスは自分の名前を言いながらえっへんと言わんばかりに胸を張った。自慢気にしているのが少しだけ鼻に付くが子供の戯言と捉えればそれも可愛いものだろうと貴方はこれ以上何も考える事は無かった。

 

ラミリスは巷では魔王と称される程の実力者であり、また迷宮妖精という二つ名も冠しているらしく貴方はそんな場面は一度たりとも見た事は無かったが今回の一件でその片鱗を見た。そんな気がした。

 

貴方からの感謝の言葉がよほど嬉しかったのかラミリスはまた貴方の側を空を切る音と共に飛び回るとまた貴方の眼前に現れては照れ隠しなのか咳払いを一つ放ちながら言う。

 

 

「それにしても、アンタってよく怪我するよね〜。知り合った時から今に至るまであちこちに怪我してるんじゃないの?? さては私を過労死させる気かっ!! 」

 

 

ラミリスはぷんぷん、と擬音が付きそうな漫画で良くありそうな怒り方をしながら貴方をその小さな瞳で思いっきり睨み付けていた。本人は精一杯頑張っているかもしれないが貴方からしたらなんかちっさい奴が眼を合わせてるだけなので気にしなかった。

 

だがこうして貴方の怪我を治してくれるのも一重に彼女の善意から来ているのであろう。貴方はかけがえのない仲間の為なら喜んで我が身を削られるある意味人格者と呼べる人格を持っている。故に貴方は大怪我を何度も負ってもその度に傷を治してくれるラミリスには自分の我儘に巻き込んでいる気がしてしまってどことなく罪悪感なるものを感じていた。

 

 

貴方はラミリスのその言葉に、自分でやれるから大丈夫だ。とラミリスに告げたが...。

 

 

「......アンタ、あの様で良くそんな事言えたわね!!! 」

 

 

正論である。訝しげな表情を浮かべながらそう告げるラミリスに貴方は黙り込んでしまう。なかなか痛いところを正論で殴られた為に貴方はこれ以上言及する事は無理だろうと悟った。

 

「良い!? アンタは確かに強くて普通の奴じゃ手も足も出ないかもしんないけどそうやって一人でなんでもかんでもやろうとしたらさっきみたいに死にかけるのがオチって訳!! 」

 

その言葉は紛れもない真実だった。ラミリスは珍しくどことなく真剣な雰囲気を纏っていてさっきまでのお調子者のラミリスは何処にもいない。貴方が少しだけ驚いている間にも問題無用で言葉が続いていく。

 

 

「だからアンタには私みたいに側で癒してあげられる存在が必要って事!!!少しは人を頼るって事を覚えた方が良いんじゃない!この馬鹿ちんが!! 」

 

ラミリスはそう言いながら小さい手で貴方の頭を思いっきりチョップした。貴方は大して痛くもなかったが本人は全力でぶつけたつもりなのだろう。その証拠にいつの間にかラミリスの眼には少しだけ涙が溜まってるのが見えた。またお調子者ムードに戻って来た風に見えたものの彼女自身にはそんな雰囲気は感じられなかった。

 

 

 

「.....なんでアンタはいっつも誰にも頼らないで無茶なんてするのさ。 」

 

 

ラミリスのその質問に貴方はただ自分の我儘に人を巻き込みたくないだけだと答えた。その答えが良くなかったのかラミリスは怒りを顔に滲ませながら思いっきり喝を入れる。

 

 

「それでアンタが死んじゃったら、元も子も無いじゃんかっ...。 」

 

 

段々と大きかったラミリスの声は縮んで行く。わなわなと震えていたラミリスの腕はすんとその震えが収まり、烈しい怒りを顔に表したと思ったら今度は深い悲しみが顔に出ていた。

 

 

 

「...私ね、アンタが大怪我してるって聞いて、とても生きた心地がしなかったの。 」

 

 

──ラミリスがその小さい腕で貴方の頬に触れる。だが貴方は激痛から逃れられた安堵から押し寄せて来た疲弊と元々貴方の身体に蓄積されてた極度の疲労が相まって貴方は酷い眠気に襲われるだろう。だがラミリスは言葉を止めなかった。

 

 

「アンタが迷宮に迷い込んで来た時からずっと私を守ってくれたんだもの。その時間は私にとってはかけがえのないものだったんだよ。 だからアンタと過ごした時間が無くなるかと思うとすっごく怖くなっちゃったんだ。 」

 

 

貴方は激しい眠気の中でラミリスの言葉を淡々と聞く。唐突に訪れた眠気と争う中で貴方が見たのは慈愛の表情を浮かべた女神とも勘違いしてしまいそうないつもとは一線を画す迷宮妖精(ラミリス)の姿だった。

 

 

「だからね、帰ろうよ。私たちの住処にさ。アンタが望む事なら何でもしてあげるし傷だっていつだって治してあげる。アンタが私を守り続けて来た恩返しって訳じゃないけどさ... 」

 

 

ラミリスは精霊女王と呼ばれる魔王だ。だが彼女は自身の住処とする迷宮には名実共に自身の配下となる者がいなかった。つまり自分を守る存在がラミリスには存在せず、彼女自身も配下を欲しがっていた。

 

そんな所に現れたのが貴方だった。貴方は転生者で偶然この迷宮に迷い込んだ冒険者の類だった。ラミリスは最初こそは揶揄いのある奴が来たと思い、迷い込んで来た貴方に嫌がらせの限りを続けて来たが、迷宮に仕掛けられたトラップを易々と攻略する貴方を見てラミリスは次第に恐怖と同時に興味を持ったのが接点だったのだろう。

 

 

貴方はラミリスの配下になれという提案は却下したものの暇つぶし程度だがラミリスの側に居る事は承諾した。ラミリスにとっては妖精や魔王以外の転生者としての最初の友達ができた様な感覚で酷く喜んでいた。

 

そして貴方と共に過ごして行く度にラミリスの貴方に対しての庇護欲や愛情といった類が日に日に燻っていった。だがラミリスの燻りが全盛を迎えたと思ったら貴方は一度だけこの迷宮から立ち去ってしまったのだ。

 

 

恐らくそれが彼女の感情のトリガーを弾く要因になったのだろう。彼女は漸く自分の手に戻って来た大切な人を絶対に離すつもりは無かった。そして貴方のボロボロになってる姿を見て、二度と貴方に傷を付けさせはしないとラミリスは決意した。

 

 

 

「───人が話をしてんのに眠そうにするなんて、アンタも随分と強情な奴になったもんね。 」

 

 

その言葉とは裏腹にラミリスは怒りの表情を浮かべてなかった。そして貴方の瞼が重くなってやがて完全に閉ざしてしまう時。ラミリスは貴方の顔をその小さな身体で覆うと貴方は何処か心地良い気分になっていた。

 

 

「普通なら許さないけど、アンタは特別。今だけは自分の使命なんて忘れてゆっくり眠ると良いさ。 」

 

 

貴方はその言葉を皮切りに自身の体勢が崩れた。武器を握る手には力がもう入らなくなり、完全に眠気に身体を支配されたのだ。そして必死に撓めていた貴方の意識が刈り取られそうになったその時だった。

 

 

 

「おやすみ────。今度は私がアンタを護るからね。 」

 

 

 

意識が刈り取れる瞬間に貴方が感じたのは鼓膜に伝わる様なラミリスのその言葉と

 

 

額に仄かに感じた口付けの音だけだった。

 

 

 

 

そして貴方が目覚める頃には貴方は知らない天井を見ながら目覚める事になるのだった...。




依存型×少しだけ監禁型のヤンデレを書こうと思ったけど

ヤンデレか?これ
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