でもこんな地獄をどう救済するんだよ?!
答え:救済できそうな
それでこの話ができたってワケ。
フレヤ・グリーヴは自他共に認める放蕩女だ。
生まれは1910年、ウェールズ地方の小都市。
金貸しで成り上がった新興の名家に長女として生まれながら、結婚もせず社交界にも出ない。十五歳の誕生日に最初の家出をしてからは独り旅ばかりして、偶に思い出したように実家に金の無心に訪れる。
そんな生活を齢六十を超えた今まで続けてきたのだから、筋金入りの放蕩人間であった。
だが、彼女は決して無能でも阿呆でもなかった。二十世紀という時制において、女の独り旅を半世紀もの間続けられたことからもそれは明白だ。
最悪と言ってもいい素行にも関わらず彼女が家から見放されないのも、彼女が旅先から有用な
そんな彼女の行動原理は有り余る好奇心。その赴くまま、興味が湧いたら異国だろうが地球の裏側だろうが溢れまくる行動力のままに訪れ、旅先で面白そうな出来事があれば積極的に首を突っ込むのが彼女の生き方だった。
勿論そんなことばかりしていれば危険やトラブルに見舞われるのだが、彼女は生来の豪運と無駄に高いスペックに任せてその全てを乗り越えてきたのである。
しかし流石の彼女にも、年貢の納め時がやってきたらしい。
それは、1971年4月。彼女が久々にイギリス本土へと帰還していた時に起こった。
その日は朝から雲行きが怪しかった。
四十年前に日本を訪れた時に拾ってからずっと相棒としてきた愛猫、あんころもちが姿をくらましたのだ。
日本の菓子の名を冠した彼は気まぐれで、これまでもふらりと姿を消すことはあった。
だが、それは長くて一時間ほどの失踪であり、加えて言えば本当に離れられると困るときには側から離れないでいる利口さもあった。
しかしその日は朝起きた時からずっと、宿を引き払う時間になっても姿が見えない。
フレヤは焦った。
ギネスに載れそうなほどの高齢である彼のことだ、自分の目の届かない場所でぽっくり死んでいてもおかしくない。
そんな心配を胸に宿の周辺を探し回っていると、茂みの間から彼の黒茶のまだら色をした尻尾が覗いたのが見えた。
逃げるように茂みの奥へ消えていく彼の尻尾を追って走るうちに、彼女はいつのまにか鬱蒼とした林に迷い込んでしまった。それからはあまりよく覚えていないが、急に目の前がひらけて高所から落下したような覚えがある。
おそらく、ぎりぎりまで木々が生い茂った崖にでも出てしまい足を踏み外したのだろう。
今、フレヤは石と砂利でできた小さな砂浜に倒れている。
内陸の側は崖だし、左右は直ぐに砂浜が途切れていて道などない。
というか、そもそも四肢を中心に全身の骨がバッキバキに折れて激痛を発しているためろくに身動きができない。まずこの深傷で生きているのが奇跡だ。
そして最悪なことに、今は干潮だ。
おそらくこの砂浜は、あと数時間で水没する。
絶体絶命、いや絶
あれから何時間経ったのだろう。
ユーモアを欠いた老害に成り果てないよう常日頃から腐心しているフレヤにとっては屈辱的なことに、もはや冗談ひとつ飛ばす余裕もない。
身体は端が波に洗われ始め、海水が傷口に染みて言語化が困難なほど痛い。
誰かが通りかかる様子もない。
朝から何も食べていないせいで腹も減った。
……死んでたまるか、とは思うものの身体が言うことを聞かない。
ああ、私はここで死ぬのか。
めのまえ に ごくさいしき の ふにく
さかな なのに ひとのかお おもしろい
ふわふわ あたたかい おまえ いたのか
いたい はらがへった
「食え、フレヤ」
そうか おまえ が そういうなら
くちにした