放蕩女、魔女になる。   作:⬛︎黒幕⬛︎

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※重大な矛盾が発覚した為、後半部分を大幅に改変して再投稿します


放蕩ババア、劇的メタモルフォーゼを遂げる

 目を開けると、視界いっぱいに広がる知らない天井があった。

 ……どうやら助かったらしい。あの状況から入れる保険(生存の目)があったとは驚きだ。

 

 しかも、意識を失う前のフレヤは全身の骨が粉砕された正に死に体の状態だったはずなのに今はすこぶる調子がいい。というか驚くほど身体が軽い。加えて痛みはないし、固定や点滴などをされているような感覚もなし。

 

 ……まさか全身不随で感覚がないだけとかではないだろうな。

 

 脳裏をよぎった最悪の可能性を払拭するため、恐る恐る体を起こそうと試みてみる。

 六十を過ぎて重くなっていたはずの身体は、うら若き10代の頃のように軽やかに起き上がった。

 …………とりあえず全身不随の植物状態ではないらしい。

 

 周囲を見渡すと、昨今の病院にしては少し妙な内装が目に入る。白基調で清潔感がありながら少し古びたその雰囲気は病院のものとしてあまり違和感はないものの、何か言葉にできない違和感があるような気がする。

 ふむ、どこに違和を感じたのだろうか……と、考え事をするときの癖で口元に手をやったその時。

 

 フレヤは部屋の内装の違和感などどうでも良くなるような異常を目にした。

 

 一瞬見間違いかと思いかけたが、反射的に目の前に掲げた己の手を観察すれば見間違いなどではないと直ぐにわかる。

 シワもシミもなく胼胝も薄い、ありていに言えば劇的に若返った手がそこにはあった。

 

「は、いやいやいやいや……なんだこれは……って声も若々しくなってないか?!」

 

 咄嗟に挙げた困惑の声が、若かりし頃のハリを取り戻していることにさらに困惑する。

 

「いや本当になんなんだこの事態は……も、もしやこの前読んだ小説でもあったタイムリープというやつか?!このまま人生二周目に突入するのか?!」

 

 そんなことを呟きと言うには大きな声で思わず口走りながらフレヤは頭を抱えた。いや本当になんなんだ。意味がわからない。

 

 その時、フレヤの鋭い聴覚を誇る耳が病室と思しきこの部屋へと近づいてくる足音を捉えた。

 フレヤは即座に口をつぐみ、とりあえず身を起こしたまま扉を見る。

 拘束などをされていない時点で、マフィアに捕まって人身売買されかけているなどの本当に「まずい」状況ではないはずだ。とすればここではなるべく普通に対応するが吉。

 どんなに心細くても誰かが部屋に入ってきた瞬間に殴りかかったりしてはいけない。実際にやらかして退院まで医者とめちゃくちゃ気まずくなった上に料金を上乗せされた若気の至りの教訓だ。

 

 ドアが開く。

 

 そこから現れたのはライムグリーンのローブを着た中年の男で、白衣の医者か看護帽の看護師を想像していたフレヤは目をぱちくりさせた。

 

「おや、意識が戻っていたんですか……とりあえず身体に違和感などありませんか?」

 

 そう言いながら近くへやってきた男のローブに縫い付けられた紋章を見た瞬間のことだ。

 

 突如、フレヤの脳内に溢れた…………「存在した記憶」。

 

「お身体の具合は」「魔法生物にマグルが接触するなんて」「いえいえなんでもない」「オブリビエイト!」「このマグルバカじゃないですか?」「本人の前で言うんじゃありません」「さっさと治療しろ」「お願いします」「オブリビエイト」「これで3回目じゃないすかこいつ」「……よく生きてるなこのマグル」「オブリビエイト」「ノーマジがなんだってあんなところに」「それについてなのですがいくつかご質問を……え?ノーマジ……についてはお気になさらず」「オブリビエイト!」「オブリビエイト」「オブリビエイト!」「オブリビエイト!」「オブリビエイト」「オブリビエイト!」「オブリビエイト」「オブリビエイト」「オブリビエイト」「オブリビエイト」エトセトラエトセトラ

 

「………なるほど」

 

 フレヤは急に蘇った記憶を思い返しながら口を開いた。

 

「ここは聖マンゴー……だったか?なんというか、いつも思うのだがうまそうな名前だな」

 

 骨と杖が交差した紋章のついたライムグリーンのローブを着た男は、あんぐりと口を開けて手に持っていたカルテを取り落とした。

 

「…………あー、今なんと?」

 

「だからここは聖マンゴーとか言う()()使()()()()()だろう、何度か担ぎ込まれた記憶が()()()()

 

「…………うわああああ!マーリンのヒゲー!!!!」

 

 男は全力疾走……と思しき鈍足で部屋の外へ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、もう一度お聞かせいただいてよろしいですか?」

 

 数分後。

 フレヤは大勢の推定魔法使いであろう人々に囲まれて詰問を受けていた。

 蘇った記憶を思い返しつつ、とりあえずその場に待機しているとあれよあれよと言う間にローブを纏った推定魔法使いたちが大挙して部屋に押し寄せたのである。

 

「だから言っただろう、先程そこの男を見ていたら急に記憶が蘇った。魔法使いは実在するだとか、ここが魔法使いの病院だとか、何度か貴様ら魔法使いに記憶を消されたことがある、だとかをな」

 

「やはり忘却術が解けているだとッ?!」

「どういうことだ、至急魔法省に連絡を」

「もう送りました」

「ええいそれより原因の究明ですよ!なぜ解けているのか、それが問題です!」

「全くだ、そう簡単に解けるものならここの五階にいる無期限入院患者はもっと少ないはずだ」

「このマグルは正体不明の魔法生物を摂食したと聞きました、その効果では?」

「いや、そこは若返りであると推定されていたではありませんか」

「複数の効果があった可能性もあるでしょう」

「そもそも一体いかなる魔法生物なのか、そこの特定はまだなのですか」

「ニュート・スキャマンダー氏を筆頭に著名な魔法生物学者には連絡済みだ」

「しかし実際にブツを観察したスキャマンダー氏は新種の可能性が高いと……」

「では再び迷宮入りか」

「しかし───────」

 

 一つ質問に答えただけでこの有様である。

 

 しかも先程から全然話が進まない。

 

 さらに、彼らは基本的にこちらを蚊帳の外にしている。………おそらく、こちらが「マグル」あるいは「ノーマジ」────どちらも魔法が使えない人間を指すものと思われる────であるから、魔法が関連していると思しき今回の事態については理解させる必要はないと思っているのだろう。

 今回も治療と原因の究明が済んだら、過去の三十回余りと同じようにこちらの記憶を消して放逐するつもりであろうことが見え見えである。

 

 正直言って、人より長いはずのフレヤの堪忍袋の緒も決壊寸前だった。

 こんな扱いを受けて、キレない奴がいるだろうか。いや、いない。

 

 フレヤは募る怒りを吐き出すように、これ見よがしにため息を吐いた。

 それでもこちらに一瞥もくれない推定魔法使いたちに向けて、口を開く。

 

「すまんが幾つか言いたいことがある」

 

 病室にドスの効いた声が響き渡った。

 

 怒りに満ちたフレヤの一喝である。

 ただの一喝ではない。

 時に土着のマフィアと銃撃戦を繰り広げ、時に魔法界絡みのごたごたに巻き込まれ、時に野生動物に襲われ、時に未開の地を踏破し、四十年以上も旅を枕にしてきた海千山千のババアの魂がこもった一喝だ。

 

 それだけでも今まで彼女を無視して議論に励んでいた魔法使いたちが揃って口をつぐんでしまう程度の効果はあっただろう。

 だが、問題は怒りの言葉と共に起こった怪奇現象である。

 

 まず、彼女の怒りに呼応するように部屋の壁にビキリと亀裂が入った。

 そして、額に青筋を浮かべたフレヤから周囲へ向かい、波紋が広がるように強烈な衝撃波が放出されたのだ。

 

 フレヤの長い髪を波打つように逆立てるのみならず、全く予想外の衝撃に晒された魔法使いたちを揃って転倒させてしまったことからもその威力は歴然であった。

 

 それから数瞬は、部屋の誰もが予期せぬ現象に出くわした人間特有の間抜け面を晒していた。

 

 数秒が経過した後も、フレヤや何人かの魔法使いはそのまま困惑していただけだが……魔法使いたちの一部、状況から()()()()()に思い至ってしまった聡明な者たちは揃って青褪めていた。

 

 すなわち、院内に存在するいくつものカルテからもマグルであることは確かなはずの、何故か若返った状態で数時間前に担ぎ込まれたこの女が、先程の怪奇現象────()()()()の震源であるという可能性に。

 

 それは、あり得てはいけない事態であった。

 

 マグルが後天的に魔力を得るなどと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、イギリス魔法省に激震が走った。

 

 それというのも、謎の魔法生物の亡骸を口にした一人のマグルが若返り、かけられていた忘却術を自力で解除し、おまけに魔法力まで得てしまったという、「ありえない」ことであり「あり得てはいけない」ことでもある事態の報告が、泡を食った(セント)マンゴの癒し手(ヒーラー)たちからもたらされたからである。

 

 当然、役人たちは大いに混乱したし、いくらなんでも冗談かデマだろうと念入りな事実確認が行われては、件の報告、その全てが真実であると証明されてしまったことでさらに混乱と衝撃が深まった。

 

 だが、真に混乱の中にあったのは()()()()()()だ。

 

 何せ、誰も彼も『マグルの女が担ぎ込まれた』ことは思い出せても、そんな記録はどこにも存在しなかったし……そもそも誰が彼女を連れてきたのか、誰も覚えていなかったのだから。

 

 今まで何度も担ぎ込まれたことのある傍迷惑なマグルの老女が、何故か若返った状態で謎の魔法生物の残骸と共に担ぎ込まれた。

 

 皆がその事実を認知し記憶しているにも関わらず、実際の記録は白紙。

 何なら記憶の中でさえ、事態の細部は情報が抜けている。

 

 しかし真に異常なのは、これほどの異常な事態にありながら────ある時点までは、誰も何の疑問も抱かなかったということだ。

 

 この異常事態は速やかに介入した魔法省神秘部の手で隠蔽(オブリビエイトと情報操作)され、最終的にこの事実を知る者は一部の無言者と幾人かの魔法界の重鎮のみとなった。

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