同一HNでpixivにも投稿済みです。
その日の朝、俺・リュウは、いつも通り三重科学防衛研究所に出勤し、いつも通り司令室に入室した。
俺の同僚、サンゴッド1のパイロットであるタケルと、サンゴッド2のパイロットであるカオリも、一緒に司令室に入室した。
「おはようございます。」
俺たちは、またいつも通り所長が座るデスクに朝の挨拶をしたんだが…。
「おはようございます。」
返ってきたのは、聞き慣れない女の声だった。
俺たちが所長の席を見たら、そこには所長…サイモン益田博士の姿はなかった。
益田博士の代わりに、一人の女が所長の席に座っていた。
女は臙脂色のジャケットを着て、頭の左側に艦橋みたいな髪飾りをつけた、長い黒髪、白い肌の女だった。
タケルが、女に尋ねた。
「な、何ですか、あなたは…?」
女は、答えて言った。
「初めまして、ご覧の通り私は扶桑、通り名を黒鉄扶桑と申します。」
「海神警備・岩川台営業所から参りました。」
所長席に座っていた女は、艦娘…戦艦・扶桑だった。
タケルは続いて、女…扶桑さんに質問した。
「…海神警備の艦娘が、どうして所長の席に座っているんですか?」
「って言うか、所長は…益田博士はどうしたんですか?」
「益田博士でしたら、昨日付で罷免…いえ、退任されました。」
「それで、私がこの席に座っている理由ですが…。」
扶桑さんは、何で自分が所長の席に座っているのか、その理由を説明し始めた。
…って言うか、扶桑さん…益田博士について「罷免された」って言おうとしたよな?
「簡単に言うと、法律…三重県全域防護特別法の改正があったからです。」
「同法の改正によって、三重科学防衛研究所の活動内容も変わります。」
「法改正を受けて、<委員会>は三重科学防衛研究所の体制を刷新することを決定しました。」
「その決定事項の中に、所長の交代も含まれていたというわけです。」
「…扶桑さん…それじゃ、あなたが新所長というわけなんですか?」
「でも、扶桑さんはあくまでも海神警備・岩川台営業所の艦娘なんでしょう?」
「はい、確かに私はあくまでも海神警備・岩川台営業所の艦娘です。」
「ですから私が正規の新所長になった、というわけではありません。」
「海神警備は<委員会>からの依頼を受けて」
「正規の新所長が決まるまでの間、改正法体制を”軌道に乗せる”仕事を請け負いました。」
「私は”臨時の”新所長というわけですね。」
「あと、申し訳ないのですが。」
「どうして今、正規の新所長が決まっていないのかとか」
「どうして<委員会>が、改正法体制を”軌道に乗せる”仕事を、海神警備に委託したのかについては」
「私も詳しいことは知らされていません。」
どうして扶桑さんが所長の席に座っていたのか、一応の説明は済んだ。
その説明の後、今度はカオリが扶桑さんに質問した。
「私たちの…三重科学防衛研究所の活動内容が変わるって仰いましたけど」
「どんな風に変わるんですか?」
「少し長くなりますが…」
扶桑さんは、カオリの質問に答えだした。
「ご存知の通り、このところ三重県は、頻繁に怪獣・怪ロボットの攻撃を受けています。」
「それで、三重県全域防護特別法が制定され、三重科学防衛研究所が、超合体戦闘ロボ・サンゴッドVを以てこれら怪獣・怪ロボットに対抗してきました。」
「ところで、三重県を攻撃する怪獣・怪ロボット、特に怪ロボットは明らかに人工物です。」
「…ということは、これら怪獣・怪ロボットを運用するための施設が、どこかにあると言うことになります。」
「なら、怪獣・怪ロボットが出現してからこれに対処するよりも」
「怪獣・怪ロボット運用施設を捜索・発見し、怪獣・怪ロボットが出てくる前にこれら運用施設を破壊する方が良いのではないか。」
「ですから、三重科学防衛研究所の活動内容は、怪獣・怪ロボットへの対処から」
「三重県内のパトロール・情報収集、および敵性施設の捜索・破壊に、重点を移すことになります。」
「そんな…急にパトロールとか、情報収集とか言われても…。」
カオリが戸惑いを見せると、扶桑さんはすぐに応じた。
「いえ、皆さんには、それほど難しいことをお願いするわけではありません。」
「…皆さん、先ずご自分の席に着いて、端末を起動してください。」
扶桑さんに言われた通り、俺たちは自分の席に着いてコンピュータの電源を入れた。
コンピュータを起動すると、見慣れない文字列が画面に表示された。
GRAND ANGE
「な、なんですか?これは?」
カオリの問いに、扶桑さんはすぐに答えた。
「対話型AI、グランダンジュです。」
「AI?」
扶桑さんとカオリのやりとりの直後、端末から音声が流れた。
「おはようございます、グランダンジュです。」
「皆様、昨日はどんなことを見聞きされましたか?」
「是非とも私にお聞かせください。」
AIの声らしい。
戸惑う俺たちに代わって、扶桑さんがAI…グランダンジュの声に答えた。
「おはようございます、グランダンジュ。」
「今、皆さんにあなたのことを説明している途中です。」
「もう暫く待機してください。」
「かしこまりました、黒鉄扶桑さん。」
扶桑さんは俺たちの方に顔を向けて…。
「…皆さんにしてもらうことは…」
「三重県各地を巡回パトロールすること」
「パトロール先で、地域の方々と交流すること」
「そして、そこで見聞きしたことを、グランダンジュに聞かせることです。」
カオリは続けて扶桑さんに質問した。
「見聞きしたことを聞かせるって…何でですか?」
「グランダンジュは皆さんから聞いた情報を基に」
「怪獣・怪ロボット運用施設が建造されている可能性」
「怪獣・怪ロボット運用施設が存在すると思われる場所」
「これらを計算・推測します。」
「…パトロール先で、見聞きしたことを聞かせるって仰いましたけど」
「パトロールに出ても、パトロール先の人に、何を聞いたら良いのか…。」
「ああそれでしたら、パトロールに出る前に」
「どんな情報が必要か、グランダンジュに聞いてみてください。」
「グランダンジュが参照する情報は、皆さんがパトロール先で見聞きする情報だけではありません。」
「X(旧ツイッター)、各種掲示板、ブログ、ネット上を流れる広告やニュース…」
「…広く公開されている情報を、可能な限り参照して、それらを基に」
「怪獣・怪ロボット運用施設が建造されている可能性」
「怪獣・怪ロボット運用施設が存在すると思われる場所」
「これらを計算・推測します。」
「その際、皆さんにどのような情報を収集してもらうかも特定するようになっていますから。」
ここで扶桑さんは、話を次の段階に進めた。
「それで、怪獣・怪ロボット運用施設…敵性施設を発見してからのことですが。」
「…皆さん、ちょっと表に出てください。」
扶桑さんに促されて、俺たちは研究所の外に出た。
そこには、一台の人型ロボットがあった。
そのロボットは、背中に大きな飛行ユニットを背負っていた。
飛行ユニットは、まず普通の飛行機のコクピット部分を取り除いたような形をしていた。
それで丁度人型ロボットが、飛行機のコクピット部分になっていた。
飛行ユニットの翼は短めで、翼の端に大きなジェットエンジンが付いていた。
いわゆる垂直離着陸機ってやつらしい。
そして飛行ユニット胴体部の上部分には、小型のミサイル発射ポッドが取り付けられていた。
扶桑さんは説明を始めた。
「これが、新法体制におけるもう一つの柱」
「航空移動ミサイル発射台、トゥエレ・アンヴァンシブレです。」
俺は思わず呟いた。
「航空移動ミサイル発射台…?」
「はい、パトロールによって敵性施設を発見したら」
「このトゥエレ・アンヴァンシブレのミサイル…R2ミサイルによって、当該敵性施設を攻撃する運びになります。」
「トゥエレ・アンヴァンシブレは、三重県のどこからでも敵性施設に攻撃を仕掛けることが可能です。」
扶桑さんの説明を聞いて、カオリが尋ねた。
「三重県のどこからでもって…」
「…
「
「見晴らしの良い、開けた丘の上に建設されていますよね。」
「それに皆さん、ここへは電車とかバスとか、公共交通機関を使って出勤されているのでしょう?」
「ちょっと申し上げにくいのですが…これでは秘密の基地とは言えません。」
「ここからミサイルを発射しようとしても、発射する前にこちらが襲撃を受けて、阻止されてしまいます。」
「それなら、ミサイル発射台はどこかに移動、潜伏させて、そこから攻撃した方が良い…ということになったのです。」
「あ、あの…。」
扶桑さんがカオリの質問に答えた後、今度は俺が扶桑さんに質問した。
「この…トゥエレ・アンヴァンシブレ…航空移動ミサイル発射台って言いましたよね?」
「それじゃ、そのミサイル発射台を背負ってるロボットは、何なんですか?」
「あれはロボットではありません。」
「え、で、でもあれはどう見てもロボットじゃ…」
「人が乗り込んで操縦するものを、ロボットと呼んではいけません。」
「MSとかATとか、SPTとか、別な名前で呼ばなければなりません。」
「別な名前って…。」
「発射台の前に取り付けられているあれは、
「アーム?」
「Armed Armored Manipulator…武装装甲マニピュレータの略です。」
「そしてあれは、トゥエレ・アンヴァンシブレのコクピットであり、制御部であり、自衛兵装でもあるのです。」
「コクピットで、制御部で、自衛兵装で…って?」
「トゥエレ・アンヴァンシブレの操縦・操作は、あれのコクピットで行われます。」
「R2ミサイルの発射キーも、あれのコクピットにあります。」
「そしてあれは、トゥエレ・アンヴァンシブレの自衛兵装でもあります。」
「右腕に内蔵された60ミリバルカン砲で、接近する敵ヘリコプター、装甲車両などを退け…」
「…左腕に内蔵された120ミリ徹甲コイルガンで、接近する敵怪獣・怪ロボットに対処します。」
「あと、敵怪獣・怪ロボットへの対処中にコイルガンの弾丸が尽きた時は」
「肘打ち、膝蹴りによる格闘戦で対応することも可能です。」
「夕張さん…技師の説明では、なんでも心意六合拳という拳法の動作がインストールされているそうです。」
扶桑さんはここで一息置いて、続けて俺に説明した。
「そしてリュウさん…トゥエレ・アンヴァンシブレには、あなたに搭乗してもらいます。」
俺に?
そう言って戸惑う間もなく、俺はトゥエレ・アンヴァンシブレのコクピット…正確にはA.A.M.のコクピットに乗せられていた。
A.A.M.の操縦は、これで良いのかと思うほど簡単だった。
座席に取り付けられた左右のレバーと、フットペダルで操縦する仕組だった。
操作方法はちょっと説明を受けただけで簡単に頭に入った。
バルカン砲やコイルガンの射撃、格闘戦などの動作も、レバーに付いたボタンやトリガーで簡単に実行出来た。
トゥエレ・アンヴァンシブレは航空機でもある。
俺もサンゴッドVチームの一員として、航空機を操作する技能は、一応あった。
(…本当に一応、だったが…。)
だから、トゥエレ・アンヴァンシブレを飛ばせることも、それほど難しくはなかった。
左手レバーの下にある鍵穴には、キーが差し込まれていた。
これがR2ミサイルの発射キーだった。
右手レバーの下には、ボタン群が備え付けられていた。
説明によれば、このボタン群でR2ミサイルの目標設定などを行うのだそうだ。
俺がトゥエレ・アンヴァンシブレの操作に慣れてきた頃、扶桑さんからの通信が入った。
「操作には慣れましたか?」
「そろそろR2ミサイルの発射試験を行いましょう。」
「ではまず、ミサイル発射システムを立ち上げてください。」
「それから、Reconnaissance drone を選択して…Target Confirmation を選択してください。」
言われた通りの操作をすると、俺の正面にあるモニターに、小さめのウィンドウが開いた。
…そのウィンドウには…俺の乗機、サンゴッド3が映し出されていた。
扶桑さんが、続けて説明した。
「新法体制への移行に伴いまして、サンゴッド3の廃棄も決定されました。」
「ミサイル発射試験の標的は、サンゴッド3です。」
サンゴッド3の…廃棄…?
俺が、この手で…って、ことか?
「さあ、発射を。」
何故か扶桑さんは、俺を急かした。
だがサンゴッド3は、俺が三重科学防衛研究所に勤め始めてからずっと乗り続けてきた機体だ。
…それを、俺がこの手で…?
俺がためらっていると…。
「ああリュウさん、そう言えば、武蔵からあなたに言伝がありました。」
武蔵?
そう言えばこの扶桑さんは、海神警備・岩川台営業所の艦娘だった。
ってことは、この扶桑さんは、俺にナンパの仕方を教えてくれた武蔵の同僚だってことだ。
そしてその武蔵が、同僚の扶桑さんに、俺への言伝を…。
「武蔵…さんから?」
「武蔵さんは、何て言ってたんです?」
「はい…」
「忌まわしい過去を断ち切り、ケリをつけろ。」
「…とのことでした。」
忌まわしい過去を断ち切り、ケリをつける。
…そうだ、サンゴッド3は…サンゴッド3なんか、俺にとっては屈辱のシンボルだったじゃないか。
何をためらう必要があったんだ?
やってやる。
サンゴッド3なんか、俺が、この手で、木っ端微塵に粉砕してやる。
ためらいを捨てた俺は、左手レバー下のキーを回した…。
この日から、俺の日常は大きく変わった。
意味の無い車に乗って、意味も無く戦場で、意味の無いドライブをしていた俺は、もういない。
俺は今、毎日のように三重県中を廻って、パトロールと情報収集に従事している。
今の俺は、意味も意義もある仕事に就いている。
付き合っている彼女…サチも、意味のある仕事が出来るようになった俺を、祝福してくれた。
俺も、サチが愛してやまない三重県を護るために、意味のある仕事が出来るようになったことを喜んでいる。
武蔵に教わったナンパの仕方は、情報収集の仕事にも応用が利いた。
俺が収集した情報が、どの程度有用なのかは俺自身にもよくわからない。
だが、三重県に存在する怪獣・怪ロボットの運用施設は次々と所在を特定された。
そしてサンゴッド3を捨てた俺は、トゥエレ・アンヴァンシブレを駆り、特定された怪獣・怪ロボット運用施設を次々と撃破していった。
…A.A.M.の肘打ちが、トゥエレ・アンヴァンシブレに接近しようとした怪ロボットの胸部に叩き込まれた。
胸部をぶち抜かれた敵怪ロボットは、そのまま機能を停止した。
…俺は、ついにロボット…じゃなかった、A.A.M.を駆り、敵ロボットと戦い、これを打ち倒した!
「うおおおおおおおお!やった!やったあああああ!」
感極まった俺は、思わずコクピットで雄叫びを上げた。
この時、俺のテンションは上がりすぎていた。
それで、扶桑さんから通信で…。
「リュウさん、勝鬨を上げる前にミサイル発射をお願いします。」
軽く叱られてしまった。
…でも、A.A.M.の肘打ちが敵怪ロボットの胸部を打ち抜いた時、俺の中にあったドロドロしたドス黒い感情は、確かに消え去ったんだ。
グランダンジュとトゥエレ・アンヴァンシブレが導入されたばかりの頃は、サンゴッドVはまだ頻繁に出動していた。
何事も、結果が出るまでには時間が掛かる。
グランダンジュが敵施設の存在可能性を計算し、敵施設位置を推定し始めるまで、敵怪獣・怪ロボットは頻繁に出現していた。
だから、出現する敵怪獣・怪ロボットに対応するために、しばらくの間、サンゴッドVは頻繁に出動していた。
でも、グランダンジュが成果を出すようになってからは、トゥエレ・アンヴァンシブレの方が動くようになっていた。
次第にサンゴッドVの出撃回数は少なくなっていって…。
新体制移行から2ヶ月ほど経った時点で、三重県の人びとは、サンゴッドVのことを忘れ始めていた。
ある日、俺がパトロール・情報収集から戻ると、司令室でタケルと扶桑さんが何か話をしていた。
様子を見ていると、どうやらタケルが扶桑さんに詰め寄っているらしかった。
タケルに問い詰められて、扶桑さんは答えて言った…。
「仰りたいことはわかります。」
「ですが、三重科学防衛研究所のお仕事・業務は、サンゴッドVを運用することではありません。」
「三重科学防衛研究所のお仕事・業務は、あくまでも三重県を怪獣・怪ロボットの脅威から防護することです。」
「サンゴッドVを運用することは、そのお仕事の一環でしかありません。」
「確かにサンゴッドVは、出現した怪獣・怪ロボットに対する強力な対抗手段です。」
「ですが、怪獣・怪ロボットが出現するということ自体が、既に三重県に対する脅威なのです。」
「三重科学防衛研究所のお仕事が、あくまでも三重県を脅威から防護することであるのなら」
「脅威が出現してからこれに対処するよりも、脅威の出現自体を阻止することに重点を置くべきでしょう。」
「グランダンジュとトゥエレ・アンヴァンシブレの導入」
「それに何より、パトロール・情報収集に活動の重点を移したことによって」
「怪獣・怪ロボットは、すっかり出現しなくなりました。」
「三重県の平和は、護られています。」
「…怪獣も怪ロボットも出現しない三重県が、やっと戻ってきたのです。」
「サンゴッドVを主役としたお話は」
「超合体戦士・サンゴッドVというお話は、終わったんです。」
「確かに、人から忘れられて終わりというのは、終わり方としては寂しい終わり方でしょう。」
「ですがこの世には、もっとメチャクチャな終わり方をしたお話だってあります。」
「例えば、敵の作戦が成功して地球人類が滅亡して終わり、とか。」
「そんな終わり方と比べたら」
「怪獣も怪ロボットも出現しない三重県が戻って、役目を終えたサンゴッドVが人びとから忘れられるという終わり方は」
「お話の終わり方としては、むしろ綺麗は終わり方なんじゃないでしょうか。」
タケルは言い返すことが出来ずにいた。
そう言えば、俺はこの時からタケルとカオリの姿を見ていない。
研究所を辞めたわけではないようだが、俺があの二人の姿を見ることはなくなった。
それから程なくして、正規の新所長が決まり、扶桑さんは海神警備・岩川台営業所に帰っていった。
新法体制は、俺の目から見ても軌道に乗り、三重県を脅かす怪獣・怪ロボット運用施設の建造は、ことごとく阻止された。
でもどういうわけか、三重県を怪獣・怪ロボットで脅かそうとする企みは止まない。
俺の彼女・サチが愛して止まない三重県を、俺の彼女・サチが居るこの三重県を護るために、今日も俺は意味のある仕事に励んでいる。