エルフのいない世界で自分を最後のエルフだと信じ込んでいるスラムの孤児(人間)。命を狙われていると勘違いして無関係な悪の組織を理不尽に潰す   作:フーツラ

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第13話 新しい宗教

 帝国のある中央大陸における最大の宗教はイヤイナ教である。しかし、帝国内での力はそれほど強くない。

 

 それは帝国内に絶えず新しい宗教が生まれ、信徒の獲得競争が繰り広げられているからだ。ラング帝国では新しい宗教団体を立ち上げることは自由だ。

 

 これは一つの宗教の力が強くなることを恐れた初代皇帝からの方針だ。争わせることによって、力をつけさせない。国の運営に宗教を絡めないことが帝国の強さの秘訣の一つと言えた。

 

 それでもポコポコと新しい宗教が生まれるのは、教祖になりたい人間と新たな教えに救われたい人間が常にいるからだろう。

 

 最近、帝国に新たに興った宗教があった。

 

 名前は、マジトラ教。帰依することにより魔力量が向上するという分かりやすさから、貴族の間で急速に広まっていた。

 

 アクラム魔法学園に通う生徒の中にも、マジトラ教の信徒になる者はいた。特に、成績の良くないものや、挫折を味わった者は救いを求めて熱心に活動していた。

 

 フェルゼン伯爵家の嫡男ビクトルもその一人だった。

 

 土の巨人に踏みつぶされかけてすっかり自信を喪失していたが、マジトラ教の教えを得てからは変わった。魔力量は大きく増え、あらゆるテストで好成績を収めていたのだ。

 

「マレーゼ嬢! 見たか! 先日のテストの結果を! 私が三位だったぞ!」

 

 学園の昼休み。ビクトルは得意げな表情をしてマレーゼの席にやってきて、さっそく自慢をしていた。

 

「ビクトル君、最近調子いいね。累計順位もぐんぐんあがってる」

「その通りなのだ!!」

 

 ビクトルは右手をグッと握り、大声で応えた。

 

 近くで眠そうにしていたロミオンは迷惑そうに耳に手を当てる。

 

「ふん! 落ちこぼれのロミオンめ! 耳を塞いで現実逃避をしているのか……!?」

「ビクトル君……。さすがにそれは言い過ぎじゃない? 別にロミオン君に何かされたわけじゃないでしょ?」

 

 ロミオンが怒り出したらどうなることか? と戦々恐々としながら、マレーゼは嗜めた。

 

「このようなクズがいるだけで、学園の評判が下がってしまうのだ! マレーゼ嬢もこんな奴と関わるのはやめた方がいい!」

「……そんなことより、ビクトル君はなんで急に調子がよくなったの? 修行のやり方を変えたのかな?」

 

 マレーゼは露骨に話題を変えようとした。すると、ビクトルは瞳を輝かせる。

 

「よくぞ聞いてくれた! 実は最近、新しい宗教を始めたのだ! それによって魔力量が飛躍的にのびたのだ!」

「宗教で魔力量が?」

 

 首を傾げてマレーゼは訝しむ。

 

「マジトラ教のことを知っているか?」

「ごめんなさい。知らないわ」

「ふふふ。マレーゼ嬢は遅れているなぁ。今、帝都で爆発的に信徒を獲得している新興宗教がマジトラ教だ!!」

 

 ビクトルは俄かに興奮し、また声が大きくなった。ロミオンが露骨に顔を顰めた。

 

「そうだ! マレーゼ嬢も次の休み、教会に見学にこないか?」

「えっ……? それは……」

 

 マレーゼは助けを求めるようにロミオンを見た。

 

「ロミオン君もどうかな?」

 

 しかし、魔力量に絶対の自信を持つロミオンが首を縦に振るわけがなかった。「興味ない」と一言いって顔を伏せてしまう。

 

「こんな奴は呼ばなくていい! そうだ! キキ嬢も誘って三人で行こう! 本当に見学だけでいいから!」

 

 話を振られたキキが興味を持ってしまったこともあり、結局マレーゼは休日にマジトラ教の教会へ行くことになった。

 

 

#

 

 

 マジトラ教の教会は帝都の南側の新興地域にあった。周りには新しい住宅や商店が並び、なかなかに活気がある。

 

「ここが教会だ! 立派だと思わないか!?」

 

 ビクトルは白い建物を指差し、得意げに声をあげた。信徒から多くの寄進を受けているのか、敷地内には大きな聖堂と修道院がある。

 

「さぁ、大聖堂にいこう! マジトラ教の素晴らしさが分かる筈だ!」

 

 赤髪を掻き上げると、ビクトルはマレーゼの手をとって歩き始めた。

 

 顔をしかめるが、ここで手を振り解いては伯爵家同士のいざこざに発展しかねない。マレーゼはぐっと我慢してついて行った。

 

 

 大聖堂の中は多くの人でごった返していた。服装から判断すると、裕福な商人や貴族ばかりのようだ。

 

「うわぁ……。アレがマジトラ教の神様?」

 

 キキが指差したのは大聖堂の奥に祭られていた奇妙な像だ。顔は人間の男性と同じだが、腕が四本ある。

 

「そうだ! あれが偉大なるマジトラ神! 信仰すると、魔力量を高めてくれるのだ!」

 

 マジトラ神の像を見つめるビクトルの瞳には熱が籠っており、狂信的だ。ただそれは彼だけではなかった。見渡す限りの人々はビクトルと同じような表情をしていた。

 

 マレーゼとキキは二人揃って困った顔をする。大聖堂内の妙な熱気に圧倒されているのだ。

 

「大司教ビガンテ様だ!」

 

 奥の扉から現れたのは白いローブを着た男だった。身体が重たいのかゆっくりと歩き、なんとか説教台に立つ。

 

「今日! マジトラ神から新たな神託が下った!」

 

 おおおぉぉぉ……!! と、どよめきが起こった。

 

「本日金貨を十枚寄進したものに、新しいタリスマンを授けると!!」

 

 大司教が宣言した途端、何人もの信徒が説教台につめより小袋を渡そうとする。きっと金貨が入っているのだろう。

 

「ふははは! そんなに焦らずともタリスマンはたくさんある! 順番に並ぶのだ!」

 

 いつもは威張り散らしているだろう商人や貴族達は素直に大司教の言葉に従い、綺麗に一列に並んだ。

 

「私も並んでくる! タリスマンを握ってマジトラ神に祈りを捧げると、魔力が増大するのだ!」

 

 ビクトルも懐から小袋を出し、列に加わった。その様子をマレーゼとキキは唖然としながら見つめている。

 

「マレーゼ、帰ろう……。ここはちょっと普通じゃないわ」

「そうね……」

 

 二人は後退りをするように、大聖堂を去った。

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