エルフのいない世界で自分を最後のエルフだと信じ込んでいるスラムの孤児(人間)。命を狙われていると勘違いして無関係な悪の組織を理不尽に潰す   作:フーツラ

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第17話 ロミオンは容赦しない

 アリエルの張った結界を背にして、ロミオンは魔人達を睨みつけた。強大な魔力の奔流に恐れを感じた一人の魔人が後退りをする。

 

「おい、逃げるつもりか?」

 

 ロミオンの言葉で仲間の様子に気が付いたビクトルは慌てて振り返った。

 

「何を恐れることがある! 俺達は魔人化したのだぞ! やってしまえ!」

 

 ビクトルが嗾けると、手下の魔人はロミオンに向かって手を翳し、魔法を放とうとする。が──。

 

「しかし、遅い」

 

 突然現れた真空の刃が魔人の腕を斬り落とす。続いて首が落ちる。

 

「どうなっている……!?」

 

 呆気なく沈んだ仲間を一瞥し、ビクトルは警戒心を高めた。一方、ロミオンは仮面の奥でニヤリと笑う。

 

 エルフの英雄のおとぎ話の中にはいくつか名台詞があった。「しかし、遅い」もその内の一つだ。しかも、ちょうどエルフ対魔人戦の中で発せられたものだったのだ。局面が完全に一致したことによって、ロミオンは極度に興奮していた。

 

「残念だが、すでにお前たちは俺の間合いに入っている。少しでも俺に危害を加える意思を見せたら、命はないと思え」

「そんな脅しが通じると思うなよ……!!」

 

 後方にいた魔人が手を突き出し、氷の杭を発現させた瞬間──。

 

「ごふっ……!!」

 

 その何倍もの大きさの氷の槍が魔人の体を貫いた。一瞬で絶命し、どさりと地面に転がる。

 

「さて。残りは三人だな」

 

 圧倒的な実力差にビクトルと仲間の二人は明らかに動揺していた。

 

 一番遠いところにいた魔人がガタガタと震えながら、両手を挙げて降参の意を示す。

 

「しかし、遅い」

 

 降伏したにもかかわらず、魔人の顔が青白い高温の炎に包まれ、一瞬で炭化した。

 

「何故殺した! 攻撃していないだろ!」とビクトル。

 

 しかしロミオンは意に介さない。すでにロミオンの頭の中は「一日で百体の魔人を討伐!」と、おとぎ話の再現をすることで一杯だったのだ。

 

「さて、次はどちらだ?」

「や、やめてくれ! 俺達はマジトラ教に騙されただけなんだ! 魔人になんてなるつもりは、なかったんだ! 見逃してくれ! お前には人間の心がないのか!?」

 

 ビクトルは両の掌を震わせて、情に訴えようとする。しかしそれは無意味だった。ロミオンは自分のことを「人間ではなくエルフ」と信じているからだ。当然、人間の心などない。

 

「ふん」とロミオンは鼻で笑い、走って逃げだす魔人の足元に鋭い岩の顎を発現させた。それは魔人をゴキゴキとかみ砕きながら地中へと消える。

 

「さて、最後に言い残すことはあるか?」

 

 ロミオンは仮面越しにビクトルを見つめた。

 

「お前は一体、何者なんだ……?」

「残念だが──」

 

 ビクトルの頭上に紫電が煌めき、ズドンと落ちた。

 

「──それは教えられない」

 

 肉の焼け焦げる臭いが早朝の空気を濁す。ロミオンがアリエルの張る結界の方を向くと同時に、ビクトルの死体は地面に倒れた。

 

 多くの生徒が畏怖の感情をロミオンに向けていた。

 

 仮面の男の正体を察したアリエルだけが、フッと息を吐いて気を抜く。

 

「俺は帝都に現れた全ての魔人を始末する」

 

 そうアリエルに向かって言い残し、青い光を纏ったロミオンはアクラム魔法学園から消え去った。

 

 

#

 

 

 スラムにあるスネークヘッド幹部マーウィンの拠点。随分と疲れた様子のルクレツィアが執務机の椅子に座り、脚を投げ出していた。

 

 その前にはマーウィンとその手下が立ち、息を切らしている。

 

「報告致します! マジトラ教によって生み出された魔人百体以上は、全て仮面の男によって討ち取られました!」

「全て……?」

「はい! 全てです!」

 

 ルクレツィアは蛇の瞳を細くして、嬉しそうにした。

 

「想像以上にとんでもない男じゃな」

「はい……! 剣聖や賢者、聖女。そして勇者と呼ばれる存在に並ぶかと!」

 

 マーウィンは額に汗を浮かべながら答えた。

 

「勇者そのものかもしれんぞ……?」

「勇者……」

 

 惚けたように繰り返す。

 

「奴が執拗に身体を隠すのは、その何処かに勇者の紋があるからなのかもしれない。もちろん、勇者以外の英雄職を授かっている可能性はあるがな」

「探りをいれますか?」

 

 ルクレツィアはロミオンと過ごした夜のことを思い出す。たった一晩であったが、ここ何十年も感じたことのない感情で彼女は満たされていた。

 

「いや、やめておこう。奴と対立するのは愚の骨頂だ。時がくれば、自然と表に出てくる筈じゃ。英雄とはそのようなものなのだから」

「承知しました……」

 

 こうしてロミオンは、帝都の地下社会でアンタッチャブルな地位を確立したのだった。

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