エルフのいない世界で自分を最後のエルフだと信じ込んでいるスラムの孤児(人間)。命を狙われていると勘違いして無関係な悪の組織を理不尽に潰す   作:フーツラ

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第23話 ラランとロミオン

 窓から光が差し、ラランの顔を照らしていた。

 

 ゆっくりと瞼を開き、部屋を見回す。ベッドがあり、机があり、近衛騎士の鎧や剣もある。ここは騎士団の宿舎の自室だ。かつて囚われていた牢獄ではない。

 

 ほっと息を吐き、ラランは立ち上がって伸びをする。固まっていた身体がほぐれ、徐々に熱を帯び始める。

 

 下着の上にシャツを羽織り、革のズボンに脚を通す。人前に出られる恰好になったところで、ドアがノックされた。

 

「……ん?」

「私だ。皇帝陛下からラランに勅令が下った。鍵を開けてくれ」

 

 近衛騎士団、団長の声だった。ラランは音もなくドアに近寄って開錠し、ノブを回した。

 

「朝からすまないな」

「……何なのです?」

 

 普段は何事にも動じないラランだったが、勅令と聞いて顔を強張らせていた。団長が一歩部屋に入ると、ラランは気圧されたように退く。

 

「ある少年に剣の指導をしてほしい」

「私が……?」

「そうだ。詳しいことは――」

 

 廊下からもう一人、部屋に入って来た。ローブを纏い、フードを深く被った女だ。

 

「私から話すわ」

「誰なのです?」

 

 ラランが赤い瞳に警戒心を灯らせる。女が只者ではないと察したからだ。

 

「私はアクラム魔法学園の学園長アリエル。今回、剣の指導をしてほしいのは私の学園の生徒なの」

「魔法使いに剣を? 何故なのです?」

 

 アリエルはドアを閉めると、声を低くして続けた。

 

「彼が求めているからよ。彼は、剣と魔法の両方を極めようとしているの」

 

 不可解な依頼を聞いて、ラランは眉間に皺を寄せる。

 

「残念だけど、これは勅令。従うしかないわよ?」

 

 アリエルの青い瞳から射貫くような視線。ラランは大きく溜息をつく。

 

「……その少年はどこにいるのです?」

「今は冒険者が使うような宿にいるわ。先日の魔人騒ぎで男子寮が全焼しちゃったからね」

 

 少しお道化るような声を出すが、ラランの警戒は解けない。

 

「早速、少年のところへ案内しようと思うけど、準備はいい?」

 

 アリエルの言葉にラランは腰に剣帯を巻き、短剣を差す。

 

「いいのです」

「では、いきましょう」

 

 ラランとアリエルは部屋を出て歩き始めた。

 

 

#

 

 

 冒険者の朝は早い。穴熊亭の食堂はギルドに行く前に腹ごしらえをする男達で賑やかだった。

 

 宿に着いたアリエルとラランは受付の前を無言で通り過ぎ、食堂の前にきて中を見回す。

 

「いないわ。もう、森へ行ってしまったのかしら」

「……」

 

 二人は受付カウンターへと引き返す。係の男はアリエルを見て、軽く会釈をした。どうやら、覚えていたらしい。

 

「お連れさんですか? ついさっき出て行きましたよ」

「剣は持っていたかしら」

「ええ。腰から短剣を下げていました」

 

 アリエルはフード越しに頭を掻き、「熱心なことね」と呟く。

 

「森へいったのです?」

「ええ。そうみたい。いつも修行している場所は分かっているから大丈夫よ」

 

 宿を出ると帝都の正門へと急ぐ。街道に出ると二人は身体強化魔法を使って走り始める。

 

 アリエルのフードが風圧で捲れ、彼女の容貌が明らかになった。蒼い瞳が凛と輝き、金糸のような髪が風に靡く。少し尖った耳が露わになる。

 

「えっ……?」

「うん? 私の顔がどうかしたの?」

 

 ラランはアリエルの容姿がおとぎ話に出てくるエルフに酷似していることに気が付き、目を丸くする。

 

「そんな……まさか……なのです……」

 

 森に向かって速度を上げるアリエルの後ろ姿を追いかけながら、ラランは思考を廻らせる。

 

 自分がダークエルフの末裔(褐色の肌の人間)であるのなら、エルフの末裔がいてもおかしくない。この世の中にはエルフやダークエルフの血を引く者達が、素性を隠して生活しているのかもしれない。

 

 赤い瞳に希望が溢れる。

 

 もしかすると、エルフの英雄にも出会えるかも……。

 

 ラランは身体に力が溢れるのを感じ、速度を上げて走り続けた。

 

 

#

 

 

「いつもはこの辺りでモンスターと戦っているんだけど……」

 

 帝都近くの森に足を踏み入れたアリエルとラランは、目的の少年を探して歩き続けていた。

 

「ん。ゴブリンの死体なのです」

 

 ラランが指差した先には頭を二つに割られた緑の小鬼が地面に横たわっていた。紫の血はまだ乾いておらず、つい今しがた絶命したと分かる。

 

「近いわね」

 

 無言で頷きながら、ラランは瞳を輝かせる。エルフの末裔であるアリエルが自分に会わせようとしている少年もエルフの血を引く者かもしれない。

 

 

 しばらく歩くと、空気に血の臭いが混ざり始めた。アリエルとラランは顔を引き締め、警戒を強める。耳を澄ますと、金属と金属がぶつかる音が微かに聞こえた。

 

 ラランはすっと前傾姿勢になると、音がした方へ駆け始める。一瞬遅れて、アリエルも続く。

 

 少し樹々が開けたところに対峙する二つの影があった。

 

 一つは人間の大人より遥かに背丈が大きく、体も厚い。豚面をした二足歩行のモンスター、オークであった。冒険者から奪ったのか、大剣を構えている。

 

 オークの正面に立つのはローブを纏い、フードを被った者。短剣を構えるが、リーチの違いに戸惑っているように思える。

 

 ブイィィィィ……!! と雄たけびを上げ、オークが大剣を振り下ろす。フードの者は勢いよく斜め前に踏み込み、すれ違いざまに短剣をオークの脚に這わせた。

 

 フードが捲れ、正体が明らかになる。

 

 ラランの瞳に映ったのは細く黄金色に輝く髪を靡かせ、強い意志を灯した青い瞳をもつ少年。その耳は少し尖っている。

 

 ラランが妄想の中で思い描いていたエルフの英雄、そのものだった。

 

「邪魔なのです!」

 

 瞬時に間合いを詰めて短剣を振るい、ラランはオークの首を飛ばす。

 

 クルクルと豚面が中空を舞っている間に少年は振り返り、ラランを見た。

 

 視線が交錯する。

 

「ロミオン!」

 

 ラランはエルフの英雄の名前を呼ぶと、短剣を捨て置いて走り、その胸に少年を抱いた。ぽろぽろと涙を流しながら、何度も「ロミオン」と繰り返す。

 

 やっと追い付いたアリエルは、まるで旧知の仲のように振舞うラランとロミオンを見て、首を捻るのだった。 

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