エルフのいない世界で自分を最後のエルフだと信じ込んでいるスラムの孤児(人間)。命を狙われていると勘違いして無関係な悪の組織を理不尽に潰す   作:フーツラ

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第3話 彼女もエルフではない

 帝都にあるアクラム魔法学園の研究室。学園長であるアリエル・ルーベルグは机の上の板状の魔道具を青い瞳で見つめていた。

 

 魔道具に映し出されていたのは帝都の地図。ある場所で赤い光が点滅している。

 

「帝都の中でこんな魔力反応があるなんて……。一体、どんな化け物よ……。私が最上位の魔法を放ったときよりも、強い反応じゃない……」

 

 アリエルは窓を開け放ち、外を見る。夜風が彼女の金糸のような髪を揺らした。

 

 帝都の空気に、特に変化はない。大規模魔法が使われたなら、何かしら影響がある筈なのに。

 

「あっ、消えた……」

 

 外の様子を窺っているうちに、魔力反応は消えていた。

 

「確かスラムの辺りだった筈……」

 

 アリエルは赤い光があった辺りを指差し、顔を険しくした。スラムに自分を超える魔力量を持つ存在がいるのだ。もしそれが帝国に仇をなす者だとすれば、厄介なことになる。

 

「行ってみるしかないわね」

 

 覚悟を決めたアリエルは部屋を後にした。

 

 

#

 

 

 翌日。アリエルは眼鏡をかけ、黒いフードをかぶってスラム街を探索していた。

 

 彼女の掛けている眼鏡は生物の体内魔力の量を測る魔道具だった。アリエルはスラムを歩きながら、昨日の魔力反応の原因を探していたのだ。

 

 相手は人間だろうか? 亜人の可能性もある。下手すると魔人かもしれない。帝都に魔人が侵入しているとなると、一大事だ。差し違える覚悟で臨まなければならない。

 

 あれこれ思考を巡らせながら、アリエルは歩き続けた。

 

「おかしいわね……。魔法を放った形跡がない……」

 

 あれ程の魔力反応があったのだ。どのような魔法が使われたのかは分からないが、スラム一帯が消し飛んでいたとしてもおかしくはない。

 

 それなのに、辺りは普段通りに見える。深まる謎にアリエルの顔はますます険しくなった。

 

 

 何気なく細い路地を覗いた時。アリエルの視界が光で埋め尽くされ、何も見えなくなった。

 

「えっ……!?」

 

 あまりの光量にアリエルは最初、魔道具が反応したと分からなかった。慌てて眼鏡を外すと、そこにはフードを目深く被った少年が立っていた。

 

 青く美しい瞳がアリエルに向いている。今のところ敵意は感じない。

 

 アリエルは確信した。昨日の魔力反応の原因はこの少年だと。

 

 警戒されないように笑顔を作りながら、アリエルは路地に入る。

 

 高速で思考しながら、ゆっくり慎重に歩いた。

 

 少年は魔人ではない。その美しい顔立ちはスラム育ちにも見えない。帝国に潰された国の貴族だろうか? その佇まいから王族の可能性すらある。

 

 魔法の才能は親から子供に伝わることがほとんどだ。貴族や王族は自分達の権威を高めるために、魔法の才能のある者の血を積極的に婚姻に絡める。

 

 アリエルが少年のことを亡国の貴族と勘違いしたのはこの為だった。

 

「こんにちは」

 

 明るい声を作り、アリエルは挨拶をした。少年は警戒している様子だった。

 

「何のようだ?」

「そんなにツンツンしないで。ただ挨拶しただけよ。私はアリエルっていうの。あなたは?」

 

 少年はじっとアリエルの顔を見る。

 

「その前に、フードを脱いでもらっていいか?」

「……いいわよ」

 

 アリエルがフードを脱ぐと、金糸のように美しい髪と少しだけ尖った耳が現れた。非常に整った容姿と青い瞳を合わせると、少年と同じような特徴をしていると言ってよかった。

 

 少年は目を輝かせ、自分もフードを脱ぐ。心を許したらしい。

 

「俺の名前はロミオン。今はスラムに住んでいる」

 

「今は」というところに含みを持たせる言い方だった。アリエルは「ロミオンは亡国の貴族に違いない」との思いを強める。

 

 実際のところ、ロミオンは「前は孤児院ぐらしだった」と暗に示したつもりだったのだが……。ちなみに、ロミオンが過ごした孤児院は院長の死をきっかけに廃院となっていた。

 

「ねぇ、ロミオン。昨日の夜に変わったことはなかったかしら?」

「なんだ。知っていたのか。俺達のことを嗅ぎ回っている奴等がいたからちょっと脅しただけさ」

 

「俺達」とは、ロミオンとアリエルのことを指していた。自分と同じような特徴をもつ目の前の女のことを、ロミオンは「エルフ認定」していたのだ。

 

 この勘違いについてはタイミングも悪かった。「エルフを狙う組織(帝国を狙うギャング団)」と接触した翌日に「エルフの特徴を持つ女(少し耳が尖っただけの金髪碧眼の人間)」が現れたのだ。ロミオンが関連付けないわけがなかった。

 

「どうやって脅したのか教えてくれない?」

 

 試すようなアリエルの視線。

 

「こうやってだよ」

 

 ロミオンは挑発にのった。身体の奥から魔力を引き出し、全身に廻し始める。青く発光し、周囲の空気が震え始めた。

 

「も、もう大丈夫よ! 凄まじい魔力ね」

 

 アリエルは冷や汗を流す。

 

「俺に出来るのはこれぐらいさ」

「えっ? 他の魔法は使えないの?」

「あぁ……」

 

 ロミオンは遠い目をした。魔法の技術も知識もないことを自覚しているのだ。

 

 これは彼にとってのコンプレックスでもあった。おとぎ話の中のエルフの英雄は多彩な魔法を使ったのに、自分は身体強化魔法しか使えないと……。

 

「もしよかったらだけど、魔法の勉強をしてみない?」

「えっ……。どこで?」

「この帝都にあるアクラム魔法学園よ。あなたであれば特待生枠で入学出来るわ」

 

 アリエルの提案にロミオンは悩む。

 

「しかし、あまり人前に出ることは……」

「大丈夫よ! あなたの素性は探らないように教師に指示を出すわ。それに、学園では今と同じようにフードを被っていても構わない」

 

 アリエルの提案はロミオンを「亡国の貴族」と想定してのものだった。

 

 このままスラムで暮らしていれば、いずれ何処かの勢力に取り込まれるだろう。それならば、帝国の管理下に置く方が良いと考えたのだ。

 

「アリエルにそんな力があるのか?」

「私、今の皇帝に気に入られて学園を任されているの。大抵のことは融通がきくわ。寮にも押し込むから安心して!」

「なるほど………。しかし、俺には金が……」

 

 ロミオンは恥ずかしそうな顔をした。エルフの末裔ともあろうものが、金に苦労しているのは情けないと思っていたのだ。

 

 一方、アリエルは別の受け取り方をした。「元貴族がお金に困っているのは情けない」と思っているのだろうと。

 

「心配しなくて大丈夫よ! ロミオンのことは私が丸っと面倒をみるから!」

「しかし、俺だけスラムを抜けるなんて……」

 

 ロミオンは下を向く。

 

「馬鹿ね! あなたの友達はあなたが成功するのを僻んだりするほど落ちぶれてはいない筈よ! 恩義を感じているなら、少しずつ返せばいいだけよ!」

 

 少し考えた後、ロミオンはしっかりとアリエルの方をみた。

 

「本当に世話になっていいのか?」

「いいって! 私達、仲間でしょ?」

 

 ロミオンは瞳に涙を溜めた。生まれて初めて、エルフの仲間(ただの人間)を得たと。

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