エルフのいない世界で自分を最後のエルフだと信じ込んでいるスラムの孤児(人間)。命を狙われていると勘違いして無関係な悪の組織を理不尽に潰す   作:フーツラ

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第6話 元A級冒険者アレスは見た

 冒険者には等級がある。登録したての新人はE級だ。依頼をこなし、冒険者ギルドの定めたポイントを達成する度に等級は上がる。

 

 才能がなくてもコツコツと努力をすればC級までは上がることが出来ると言われている。しかし、B級以上になるには人より秀でた能力が必要となる。

 

 そしてA級ともなれば英雄の域に足を踏み込んだ存在だ。災害級モンスターの討伐に成功したり、国家の存亡にかかわるような事件を解決したりと、冒険者ギルドにその功績を認められるような人物でなければ、A級たりえない。

 

 最近、アナスタシア商会の食客となったアレスもつい先日まではそんなA級冒険者の一人だった。四十歳になったのを機に引退し、しばらくのんびりするつもりで大商会の世話になることにしたのだ。

 

「ふん。あの小僧がねぇ」

 

 アレスの視線の先にいるのは、フードを目深にかぶった少年だった。アクラム魔法学園の正門から出て、夕暮れ時の帝都を南に進んでいく。

 

「まぁ、暇つぶしだとおもってやるか」

 

 顎に生えた無精ひげを指で触ると、アレスはカフェのテラス席から立ち上がる。そして給仕の娘に紅茶の代金を払うと、気配を殺して歩き始めた。

 

 アレスがアナスタシア商会の食客になって初めての仕事は「ある少年の実力を暴け」という奇妙なものだった。

 

 話を持って来たのは商会長の一人娘キキ。標的の少年と同じく、アクラム魔法学園に通う。

 

 キキの話によると、標的の少年ロミオンは何故か魔法の実力を隠しているらしい。テストでも手を抜き、この調子では「第一学年で最下位の成績になるだろう」と。

 

 この話にはアレスも疑問を覚えた。本当に魔法の実力がないのなら、そもそもアクラム魔法学園に編入など出来ない。学園への推薦権をもつ貴族が、ただの無能に貴重な枠を使うはずがないからだ。

 

「何かしらの事情がある」というキキの読み自体は間違っていないように思えた。

 

「スラムに向かっているのか……?」

 

 迷いなく進んでいくロミオンの背中をアレスは静かに追う。陽はどんどん落ち、灯の魔道具がポツポツと点きはじめた。

 

 いよいよスラムの入り口。という辺りで、ロミオンは急に暗い路地に入った。アレスは一定の距離を保ちながらも、続く。

 

 いくつか角を曲がったところで、ロミオンは立ち止まり背負っていた大きなリュックから何かを取り出した。それは仮面だった。

 

 ロミオンは仮面を取り付けると、首を振って周囲を確認する。アレスは闇に紛れて、その様子を見ていた。

 

「……おいおい……」

 

 青白い光がロミオンの身体を覆うのをみて、アレスは額に汗を浮かべた。とんでもない魔力量で身体強化魔法を発動させているのだ。

 

 ロミオンはリュックを背負い直すと、一瞬膝を落とし空へと飛んだ。

 

 助走もなしで軽く飛んだだけで、二階建ての家屋の屋根に上がっていた。

 

「キキお嬢ちゃんの勘は当たったな。こいつは何かある……」

 

 その日は尾行を諦め、アレスは引き上げることにした。じっくり腰を据えて対応することにしたのだ。

 

「待っていろよ。ロミオン。俺がお前の実力を暴いてやる」

 

 元A級冒険者は現役の頃の瞳の輝きを取り戻していた。

 

 

#

 

 

 アレスは二十日ほどロミオンの行動を観察した。ロミオンは多くの時間を学園内で過ごしていたが、五日に一度の割合で夜のスラムに足を延ばした。

 

 スラムに入ると身を隠し、仮面をつける。

 

「今日も一緒か……」

 

 アレスの視界にはあばら家の扉の前に包みを置いてまわるロミオンの姿があった。包みの中身はアクラム学園の食堂で廃棄される予定だったパンだ。

 

 そう。ロミオンはスラムの子供に食料を配っていたのだ。別に毒など入っていない。ただの善意だ。

 

 もし、ロミオンが仮面をつけて悪事を働いていたならアレスも行動しやすかったであろう。しかし正体をかくしてのささやかな善行。咎めて襲い掛かるのには気が引けた。

 

 そこでアレスの取った手は逆に狙われることだった。

 

 あえて尾行の精度を下げ、アレスの存在をロミオンに知らせることにした。「お前をつけ狙う者がいるぞ!」と。

 

 ロミオンがパンを配り終えたのを見届けると、アレスはスラムの中でも人のいない場所を目指した。その一帯はつい最近まで新興ギャング団ブラックハンドが支配していた。ギャング団同士の抗争に敗れ、今は空白地帯となっている。人目を避けて荒事を行うにはうってつけの場所となっていた。

 

 アレスは廃屋の壁に凭れ掛かり、時が過ぎるのを待つ。雲が月を隠し、辺りは完全な闇に包まれた。そこに、青い光が二つ現れる。仮面の奥で光る、ロミオンの瞳だった。

 

「まだこんなところに残党がいたのか……。懲りない奴等だな」

「なんのことだ? 俺は散歩をしていただけだぜ?」

 

 アレスは飄々ととぼける。

 

「何日も俺のことを尾行していただろ?」

「知らねえなぁ~」

「まぁいい。俺達のことを狙う奴は排除するのみ」

 

「俺達」という言葉がアレスに思考を促した。ロミオンは一人ではない。何かしらの組織に属しているのか?

 

 対峙していると、雲が流れ月光がロミオンの姿を照らした。辺りの空気の流れが変わる。いや、ロミオンが変えていた。

 

 その身に風を纏っていたのだ。風は次第に荒れ始め、暴風となる。

 

「……テンペスト……」

 

 アレスが呟いたのは風の最上位魔法の名前だった。身体に嵐を纏わせてあらゆる攻撃を防ぎ、あらゆるものを破壊する攻防一体の魔法。

 

 規模は小さいものの、ロミオンが発動しているのは間違いなくテンペストだった。

 

「いくぞ……!」

 

 嵐を纏いながら、ロミオンの身体は青く発光する。身体強化魔法も並行して発動させたのだ。一歩踏み込むだけで弾丸のようにその身は射出される。アレスがなんとか反応して躱すと、その背後にあった廃屋が一瞬でバラバラになった。

 

 塵芥が辺りを覆う。それがアレスに味方した。

 

 隠形術によって気配を完全に消すと、アレスは闇に身体を溶かした。青い光から逃れるように、その場を後にした。「化け物め」と心の中で呟きながら。

 

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