エルフのいない世界で自分を最後のエルフだと信じ込んでいるスラムの孤児(人間)。命を狙われていると勘違いして無関係な悪の組織を理不尽に潰す   作:フーツラ

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第8話 キザな貴族が現れた

「マレーゼ嬢、久しぶりだね。私がいなくて寂しかっただろ?」

 

 ある日のアクラム魔法学園の朝。見慣れない男がマレーゼの机にやってきて、燃えるような赤髪をかきあげている。

 

「……ビクトル君。久しぶりだね。ご実家は無事だったの?」

 

 少し困った顔をしたあと、マレーゼはビクトルに返した。

 

「あぁ。モンスターのスタンピードなんて私にかかれば赤子の手を捻るようなものだよ。得意の火魔法で焼き払ってやったさ」

 

 ビクトルは右手を胸の前に持ってきて、力強く握る。その様子をマレーゼの横に座るロミオンがつまらなさそうに見つめていた。

 

「この見慣れない男は? 教室の中でフードをかぶって、いかにも怪しいが……」

 

 目に付いたのか、ビトクルはロミオンのことを指差して尋ねた。マレーゼは顔を引き攣らせながら答える。

 

「最近編入してきたロミオン君だよ。恥ずかしがり屋だから、ずっとフードをしているの。大人しい子だから、そっとしておいてあげて」

 

 庇うようなマレーゼの発言がビクトルの癇に障ったようだった。ロミオンの机の前に立ち、じっと睨みつける。

 

「フェルゼン伯爵家の嫡男、ビクトルだ! マレーゼ嬢に迷惑をかけるようなことをすれば私が許さないからな! 肝に命じておけ!」

「あぁ」

 

 一方のロミオンは覇気のない返事をする。毎晩遅くまで行っている魔法の修行で、疲れていたのだ。授業は真面目に受けていたが、それ以外の時間はほとんど寝ているに等しかった。

 

「フン!」と鼻を鳴らし、ビクトルは自分の席へと戻っていった。

 

 マレーゼはフッと息を吐く。もし、ビクトルがロミオンを怒らせてしまったらどうやって止めようか、ヒヤヒヤしていたのだ。

 

 同じ表情を少し前の席に座るキキもしていた。二人で目配せをして、苦笑いをしている。

 

 二人の中で「ロミオンが眠そうな理由」は、夜な夜な謎の組織と戦っているからであった。だから、可能な限りフォローしようと相談していたのだ。

 

 もちろん、ロミオンはそんなことを知る由もなかった。

 

 

#

 

 

 昼休み。教室はある話題で持ちきりだった。それは帝都近郊の草原に現れるという謎のモンスターについてだ。

 

 冒険者ギルドと繋がりの深い貴族の令息が、まるで怪異譚でも語るように面白おかしく披露し、生徒を煽ったのだ。

 

 謎のモンスターについてはいくつも目撃例があるらしい。ある冒険者は霧の巨人を見たといい、別の商人は炎の巨人を見たという。

 

 共通しているのは、背丈三十メルを超える巨人が夜な夜な草原を徘徊しているということ。

 

 今のところ被害は出ていないが、もしそんなモンスターが帝都に入ってきたら大変なことになると、近く討伐隊が組織される予定らしい。

 

「マレーゼ嬢! 謎の巨人の話、とても興味深いと思わないか?」

 

 朝と同じく、ビクトルはマレーゼの席にやってきて話し込む。

 

「うん……そうだね」

「討伐隊が組まれる前に、私が討伐してやる! マレーゼ嬢には見学にきてほしい!」

「えっ……」

 

 マレーゼは不安そうに眉を落とす。

 

「そんな謎のモンスター、危険じゃないの……」

「私の心配はいらない! なにせ、スタンピードを鎮めた男だからな!」

 

 赤髪を何度もかき上げながら、得意気に話す。マレーゼは助けを求めるように、机に伏して寝息を立てるロミオンを見た。余程疲れているのか、ぐっすり眠っているようだ。

 

「そんな男のことを気にかける必要はない! 話を聞くと、魔法の発動すらままならない出来損ないらしいじゃないか!? 何故こんなクズがこの由緒正しきアクラム魔法学園にいるのか、甚だ疑問だ!」

 

 教室にビクトルの声が響く。シンとした後、ようやくロミオンは机から顔をあげた。眠そうに瞳を擦る。

 

「……一体、何事だ?」

「最近帝都に現れた謎のモンスターについて話していたんだ! 私が討伐する予定だ!!」

「そうか。頑張ってくれ」

 

 パタリと顔を沈め、ロミオンはまた寝息をたて始めた。素っ気ない対応をされたビクトルは怒りのやり場を無くす。

 

「とにかく! 私は謎の巨人を倒す! そして、その首をマレーゼ嬢に捧ぐとここに誓う!!」

 

 教室に囃し立てる声と拍手が響く。ここまで大々的に宣言されては、マレーゼとしても無視するわけにはいかなかった。

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