哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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これは 第十二章X節その三 からの分岐です。

くっそ時間掛かりました。
さすか(作者にとっての)ハートモード√です。

『天才を描くには作者自身も天才でなければならない』
作者の天才力が試されてます。


βルート
第十二章X節その四 〈β〉


 黄蓋と鳳雛を部屋に入れ、一先ず落ち着いた城内。……しかし、しばらく経ったころ、また少しザワつき始めた。

 

「……なんだろう、さっきから外が騒がしいな」

 

警備報告書の整理を一旦おいて、ふらっと外に出る。

 何か面白いことをしてるんなら丁度いい気分転換になるし、バk……いつものメンバーが羽目をはずしてるんなら注意しなきゃな。……それで止まってくれるかは微妙だけど。

 

「って思ってたけど、どっちでもなかったぜ」

 

 耳をたよりに倉庫の方に行ってみると、なんてことはない。出兵の準備だった。武器庫から武器が運び出され、食料庫から食料が……て、待て待て。ちょっと大掛かり過ぎないか?確かに最近、哨戒やら賊の討伐やらの出撃命令は出てるけど、今日はもう春蘭が出てたし、そもそもそんな規模の作戦じゃあこんな騒ぎにはならない。大隊規模の人数が動く雰囲気だ。

 俺も、形式的にとは言え将軍格。大きな作戦が有るなら知らされるはずなんだけど……。

 

「ちょっと、コレ何やってるんだ?」

「はっ。詳しくは聞いておりませんが張勲様、鑑惺様による指令の下 出兵準備をせよとのことです!」

「聆と七乃さんが……?」

 

聆と言えば、西涼攻めや定軍山の戦いに代表される特殊作戦のエキスパート。七乃さんはと言えば同じく定軍山の軍略のことも有るし、何より元々この辺りを収めていた実績が有る。

 

「なら、今回もそういうノリか……」

 

考えられるのはやっぱり何か大掛かりな奇策の準備だろう。華琳ってそういう作戦思いついたら味方にも黙ってるしな。さっき言い合いしたばかりだけど、二人ともそういうのはキッチリ割り切るタイプだし。そういうところは見習わないとなぁ。

 作業の邪魔しちゃ悪いし離れてよう。っていうか俺も仕事有るから部屋に戻らなきゃな……。これだけみんなが働いてるのを見せられてるのにサボれるほど俺は腐ってない。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 その少しあと。物々しい雰囲気を漂わせる地下室では、やっと軍師会が終わろうところだった。といっても、議題でもある黄蓋の件が影響してか鑑惺は不参加。そして、調子の悪い馬がでてきていて風土病が疑われるとのことで、その対処のため馬騰も出席していない。よってメンバーは荀彧、郭嘉、程昱、張勲の所謂純粋な軍師連中に曹操を加えた五人だった。

 黄蓋をどう扱うかについての話が中心ではあったが、その話し合いは歪なもの。本来なら、三対一で厳しい監視もしくは追放が決定されるところだが、そこに主である曹操が。

曹操の意見は『黄蓋を客将(そこまででなくても好待遇)として扱う』ことだとハッキリしている。……のだが、それを言葉にしない。ものすごいシャレにならんレベルの不機嫌オーラを出しながら座っているだけなのだ。

 反黄蓋派としては発言し辛いし、しかし日和って自分の意見と違うことを言うのも軍師としてのプライドが許さない。黙っているしかない。

 ならば賛成派の程昱はどうかと言えば、議論を仕切っていくタイプではないし、そもそも対案を出していく型を得意とする。よって、一方的に議論展開して即終了ともならなかった。

 つまり……話し合いではなく、黙り合いと言った方が適当な会であった。

 

「――では黄蓋については、注視しつつもある程度泳がせるということで……?」

「ええ。それで構わないわ」

「……難題ですね」

「それを踏み越えてこそ、よ。もう良いわね?」

「………」

「………」

「では、臨時軍師会議はこれにて解散各自通常の職務に戻るように」

 

曹操の言葉によって、無駄に疲れたメンバーは解散を始めた。

 

「……黄蓋さんのこと、本気ですか?」

 

真っ先に扉を潜ろうとした張勲が、はたと立ち止まって問う。一人 椅子に深く腰掛けたままの曹操は、それに無言で返した。

 

「……」

 

再び向き直った張勲は、今度はもう振り返ることなくその場を後にした。

 

 

「遅かったじゃん」

 

地上に出たところで、文醜が出迎えた。

 

「ホントですよ。もぅ嫌になっちゃいますよね〜。曹操さんの遊び癖には」

 

二人はそのまま急ぎ足で廊下を進む。

 

「遊び好きなのはお嬢も一緒だろ?」

「お嬢様は可愛いからいいんです〜。……で、そっちの準備の方はどうなんですか?」

「だいたい済んでお嬢ももう出発してるぜ。『遅い!七乃は何をやっておるのじゃ!』なんて言いながらな」

「そのモノマネ似てません」

「悪ぃ」

「それで、気取られていませんね?」

「一人だけ心配だった秋蘭はありがたいことに自室に篭ってたし、あとは聆ねぇと七乃っちの名前出せばだいたい変に納得して引っ込んだな。でも……霞はちょっと引っかかってるっぽい。そっちには行ってないよな?」

「ええ。本当に何も問題無く」

「お固い組織ってのは、上が止まったら全部死んじまうから嫌だなぁ。さて、と」

 

食料庫の中に入る。

普段欠かさず居るはずの倉庫番は、今は居ない。

 

「……何か、猪々子さんがそーゆーことやってると違和感が凄いですね」

 

その場に有った縄と油で簡易の導火線を作っていく文醜を見て、目を丸くする。

 

「あたいも真正面から切り合う方が好きなんだけどなぁ」

「いえ、そうじゃなくて、工作する程の知恵が有ったんだなって」

「ん?一緒に燃やしてやってもいいんだぜ?」

「遠慮しときます」

「遠慮なんかしなくてもいいのに。さて、できた」

 

幾度か折り返されながら床に置かれた縄。その片端は運び出された後の残りの食料へと続いている。火事が起こるまでの時間差を作る簡単な仕掛けだ。

 

「これで私たちの仕事は終わりですね」

「意外と火が広がるの早いからゆっくりはできねぇけどな。あ、火ぃ起こしといてくれた?」

「もちろん」

 

張勲がいつの間にか用意していた火種で導火線を作動させる。小さな炎が少しずつ進んでいく。

 

「じゃ、急いで行くか!」

「はい!行っちゃいましょ〜」

 

 

 時は少し遡り二人が倉庫へ急いでいる頃。同じく執務室へ急いでいた荀彧と郭嘉は奇妙な違和感を感じ取っていた。

 

「……おかしいわね」

「ええ。何か様子が……」

「劇的にではないけど、静か過ぎる……。人が……減っている?」

「まさか、黄蓋が……?」

「そんな、争ったようなあともないわよ。……そこの!」

「は、はい!」

「この半刻の間に何かあったか?」

「え?えっと、兵の出撃が有ったのですが、荀彧様はご存知ないのですか……?」

 

使用人の予想外の言葉に、二人は顔を見合わせる。

 

「聞いていない。……有り得るの?そんなことが」

「兵の出立、そして帰還の際には必ず私達に連絡が入るはず。それにそもそもこんな予定は……これはどういう…………?」

「まず、落ち着きましょう。このただでさえ面倒くさい時期に私達が動揺しているのを見られては軍全体の統率にかかわるわ」

「そうですね。では、まず考えられるのが報告漏れ。……徹底するように言い聞かせてありましたが。次が、華琳様直属の極秘作戦。しかし、それにしては使用人にまで認知される程の大規模……」

「やっぱり納得行かないわね。七乃と風を呼びましょう。風は確かあの後すぐ自室に引っ込んだのよね?あと、華琳様に確認を。それと秋蘭、霞、聆、北郷に遣いを出しましょう。約一名不本意な奴が居るけど、この四人なら比較的正確に情報を集められるはずよ」

「いえ、この際その四人も含め、将軍格を一度呼び寄せましょう。その方が状況を整理しやすいはずです」

「……そうね。じゃあそうしましょう。……黄蓋の監視も強めましょう。今は緊急事態……華琳様もわかってくれるはずよ」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 なんでこう、今日はゴタゴタしてるんだろうなぁ。

 せっかく机に向かって気合を入れ直したのに、その途端に呼び出されて今は小さな会議室に居る。

 

「――全員集まったようね」

「全員……って言うにはちょっと少ないんじゃないか?」

 

いつもの半分くらいに見えるんだけど……。

聆と七乃さんは任務があるとして、余所者の黄蓋と鳳雛を何か重要な話には呼べないのは分かる。けど華雄と猪々子に真桜、普通の会議には出ないのに緊急会議にはいつも出てる靑さんも居ないのは不思議だ(美羽はもとから除外)。

 

「確かに、言葉が不十分だったわ。……"所在の分かっている者は"全員集まったようね」

「それって……?」

「まるで今居ない者は行方不明であるかのような……」

「『行方不明であるかのような……』じゃないわよ!コイツらどころかその辺の兵も武器も減ってるし文官も消えてるし工兵隊舎と厩に至っては蛻の空ッ!!」

「……!?」

「は?」

 

言ってることがよく分からないんだが……。いや、分かる。一応分かってるぞ?色々消えてるんだろ?

でも……

 

「待て、そんなこと有り得るのか?」

 

兵が減るのは分かる。武器も。だけど、文官が減るのは新たな領地できたときくらいだし、工兵隊とか馬とか、そういう一ジャンルが完全に枯渇するのは有り得ない。絶対に。

 

「有り得ないわよ!普通は!!」

「しかしコトは実際に起こっているのですよ……」

「ですから問いたい。私達が会議をしている間に貴方たちは一体何をしていたのか?」

「あんた達を呼ぶためにちょっと遣いを出しただけでこんだけメチャクチャだって分かったのよ?何やってたのよ!?あんたたちは!!」

「桂花。そんなに捲し立てる必要は無いわ」

 

半分泣き声になりながら叫ぶ桂花を、華琳が制する。

 

「華琳様……」

「コレはたった一言の問いで真相が明らかになる簡単な事象よ」

 

そしてゆっくりと俺を見据えた。

 

「上に居た者も異変には気づいたはずよね。……そのとき、なんと説明を受けた?」

「………聆による指揮だと」

「そうでしょうね」

 

華琳は納得したというように頷いた。

 

「私は聆にそのような命令を下していないわ」




……つまりどういうことだってばよ?

続きはWEB(次話)で!

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