哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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「お前なんて言った?(小声)」
作者「今月(一月)中に続き出すって……」
「一月中に投稿できましたか?(小声)」
作者「はぁ…できませんでした……」
「でしょ?(小声) …… じゃあお前来いよオラァ!!(豹変) 」

今回はぶつ切り感がすごいです。
次からは戦闘シーンではできるだけ一部に的を絞って描写しようと思いました(学習)。


第十五章二節戦闘パートRound3

「で、伝令! 敵左翼、文醜と許緒の隊が直角に右折! 我が軍中央に猛進しております!」

「なっ……!?」

 

 呉本陣に飛び込んできた伝令。敵軍の予想外の動きに孫権は思わず立ち上がった。

 この戦、魏の一部の者の読んだ通り、呉は敵を"巻き取る"つもりだった。方形に陣を取り、その実、兵を実用的な密度で配置しているのは右後方から左前方への対角線以降である。(特に敵左翼を)引き込みつつ進路を曲げ、『見届け人』と思わせて連れてきた蜀と共に"内と外"で挟み撃ちにする策だ。そして、それに感づかれて敵が慎重になっても、それならば『泥戦』になり防衛側としては一応の成功と言える。

 しかし文醜はそのどちらでもない行動を取った。策に気付いて深入りを止める利口さと、持ち場を放り出して自分のやりたいことを優先してしまうバカさの不思議な合わせワザだ。バカの上に大バカが乗っていたのが原因で生まれた稀有な存在、それが文醜と許緒。バカも常識人も、両方を視野に入れた呉の作戦だったが、この一手で歯車が狂う。

 

「私も前に出る。穏、予定とはかなり違う入りになったが、次の段階だ」

 

 一方、これに頬を緩めたのは魏だ。

 

「猪々子ちゃん、ずいぶん思い切ったことしましたね~」

「思い切ったというか、思うのを止めた結果でしょうけどねぇ」

「しかしこの瞬間では良い判断よ。これを機に前線へ一挙に増援を出しなさい。場が長引く前に平原中央を取る」

 

 指令は即座に実行へ移され、魏軍中陣は一気に慌ただしくなった。

 

「華琳のやつ、一気にエンジンかけてきたな。これじゃ分配する俺の身が持たないよ」

「隊長がそんなこと言っちゃダメなの!華琳様だったらきっと『この程度で持たない身ならさっさと潰れてしまいなさい』って言うの」

「だからなんとか捌くしかないんだよなぁ。……次来た部隊は右翼に回してくれ。あと、同じく右翼に『突撃は真前へ』と。それと、沙和も本格的に春蘭の援護に走ってくれ。突撃しすぎないように注意するのも頼む」

「それで止まってくれるかは自信ないけど、了解なの!」

 

 北郷は人垣の向こうに揺れる蜀旗を睨んだ。華琳から来た伝令は平原中央を取れというもの。それはつまり、平原中央より先へ進んでしまうことに注意が必要だということ。今、呉の向こう、平原の出口付近に在る蜀軍から腕が延びるように援護が動いているらしい。全軍ではなく一部だけを動かしてきているその意図を、俺は読まなければならない。また新しい指示を出しながら、北郷は考えを巡らせていた。

 

 そして呉軍中央。雑兵と密に連携を取り戦況を長引かせていた孫策らにも、魏の増援による圧力ははっきりと伝わっていた。

 

「くッ……一気に来たわね」

「所詮、これまではこちらに合わせてくれていただけということか。その傲りをアテにしていた面も有るが……」

「ここまでの急激な切り替えは予想外じゃったのう」

「次の策に移る他無いでしょう。本陣もそれで動くはず。雪蓮、祭、この場は任せるわ」

「言われなくても!」

 

 孫策が剣を握りなおしたその時だ。

 

「……早速来おったな」

 

 呉の兵を薙ぎ、雄たけびと共に夏候惇が現れた。そのまま一撃、孫策はこれを受け、更に一太刀切り返す。

 

「孫策、やっとマトモに戦う気になったか!いざ尋常にッ!!」

「はぁ、分ーかったわよ。時間が来るまではやってあげるわ。祭、後ろの副官二人、いけるわよね?」

「やれやれ、怪我人の老体に厳しいことを言ってくれる。無論、負けるつもりも無いがのう」

 

 黄蓋はゆっくりと威圧するように楽進と李典へと目を向けた。

 

「二人に勝てるワケあらへんやろ!……って言えん辺り辛いとこやなぁ、凪」

 

しかし返事は無く。

 

「……ッ!!」

 

楽進は既に一発の氣弾を放ち、更に次の手に移ろうとしていたのだ。

 

「いきなりかいな!?」

「その意気や良しっ!敵ながら天晴じゃ」

「ウチは味方ながら仰天やで……」

 

 そして魏軍最右翼、華雄も孫尚香と正対していた。荀彧が兵の誘導のため少し後ろに退いたおかげでお小言が減った華雄はまるで水を得た魚のようなはしゃぎっぷりである。

 

「はァッ!!」

「獣みたいに吠えまわって、全っ然優雅じゃないわね!」

 

 叩き上げる刃を躱し、戦輪を腕に滑らせ切りつける。他人を貶めるだけあって、孫尚香の独特な武術は確かに花が風に舞う姿を思わせる優美さだ。

しかし……

 

「討ち合いに優雅さなど要らん!」

 

 堅く厳しく、魅せ要素など微塵も無い華雄の武がそれを撥ねつける。

 

「それにあなたも、かなり息が上がってきてますよっ……と!」

「危ない!」

 

 放たれた巨大ヨーヨーに周泰が割って入った。刃に沿わせて受け流すも、手元にミシりと嫌な感覚が伝わる。あと一回受けられるかどうか、辛いところだ。

 

「明命ありがと!こんどはこっちの必殺!」

 

 周泰に手間をかけさせた分を補うように、孫尚香は渾身の一撃を放つ。全身をしならせ最高速で戦輪を走らせる……が、これもまた華雄に止められる。

 

「フン、軽い軽いッ!」

「えぇっ!?あーもーこれだから筋力バカの相手は嫌なのよ!」

 

 同じころ、反対側の魏軍左翼……の担当のはずだった文醜と許緒。こちらも良い調子で雑兵を跳ね飛ばしながら進んでいた。

 

「良し良し、相手もやーっとヤル気になったみたいだな。ここはアタイたちもこのまま孫策に突っ込ん――っと」

「あわわっ、って、孫権!?」

「……」

「今回は大将だったよな?出て来ていいのか?アタイは遠慮なく刈っちまうぜ?」

「刈れるものなら刈ってみるが良い」

「へぇ……何か潜んでる気配も無し。何が目的だよ?まさか犬死にしに来たワケじゃないよな」

「無論、勝つつもりだ」

「お前がアタイら二人相手に斬り勝てるなら、建業はあと一日くらいは長く呉の都だったろうぜ」

「以前の私と思うな」

「ふーん、そうならこっちも嬉しいんだけどな。じゃ、遠慮無く行く、ぜ!」

 

 中段に剣を構える孫権に、真正面から一息に踏み込む。勢いそのままに、腰元に構えた大剣を、全く明後日の方向へ振るった。

 

「!!」

 

 その一撃で甘寧が弾き飛ばされる。孫権の背後の雑兵に紛れて機を待ち、奇襲を行う腹積もりが失敗してしまった。

 

「へへっ……確かに氣はきれいに消えてたけど、予感はしてたんだよなァ!!……許っちー!」

「うんっ!!」

「クソッ」

 

 そして間髪入れずに許緒が鉄球を振り回す。それ単体に孫権たちを倒すほどの速さは無いが、圧迫感と、文醜との戦闘を困難にする効力は十分だ。

 しかし、文醜有利はそう長く続かない。

 

「おわッ!?」

 

 轟音と共に金属の杭が地面に文醜の肩を掠め、土煙を上げながら地面に突き刺さった。

 

「遅まきながら、撤退の支援に参った!孫権殿、甘寧殿、健在か!」

「厳顔殿!」

「『豪天砲』の厳顔だな。一度真正面からヤってみたかったんだ」

「それは嬉しいな『斬山刀』の文醜よ。じゃが、またの機会だ。皆、退け、退けぇい!!」

「なっ……!」

「逃がさないよ!」

 

 

「そらそらどうしたどうした。軽口はどこへ行ったのだ」

「くっそぉ……」

「小蓮様!」

「貴女もよそ見してるヒマは有りませんよ」

「よそ見する必要も無いしね!」

 

 声と共に、一騎の騎馬が兵の頭上を飛び越えて現れた。そのまま華雄と孫尚香の間を走り抜け、また身を翻して馬の上から突きの雨を降らす。

 

「ぬ、馬岱か!貴様とはよく顔を――ウワップ!?くそ、砂を投げるとは小賢しい」

「ホントはどっかのデカ女みたいに毒撒きたかったんだけど、ちょっと練習してみたら上手く行かなくてね。見てよこの手荒れ。ほんとサイアク」

 

 そう言って見せた馬岱の左手は、いったい何の取り扱いを間違ったのか、赤く爛れていかにも痒そうだった。

 

「助かったわ、馬岱」

「あんたも意外とたいしたことないね、こんな猪一匹に押されるなんて」

「……うるさいわね。今から本気出すのよ!」

「ああ、私も本気を出そう。実力も無しに猪猪と愚弄しおって……躾のなっとらん小娘の相手は一人が限界なのでなッ!!」

「一つの物事にしか対処できないなんてホント猪ね」

「……貴様には泣いて謝るヒマすら与えん」

「べ~っ、だ!真面目にアンタなんかの相手するワケないでしょ。退くよ!」

「こちらとて、逃がすワケが無い。……覚悟しろ」

「あのー、あまり挑発に乗らないでくださいね……?」

 

 典韋の注意が耳に入ってすらいないのか、華雄はそのままの勢いで追撃戦に入った。

 対して、再び中央。ここでは双方拮抗し、激しい戦いを見せていた。

 

「やるわね、夏候惇……!」

「当たり前だ!はあああああああ!!!」

「ラァっ!!」

 

 似通った体躯、同じ長剣という武器で、実力も同等。孫策の方が柔軟な技で勝るも、夏候惇は筋力と反応速度の優で隙を作らない。

 黄蓋の方はと言うと、こちらも見事に楽進らの連携に対応していた。怪我の影響で氣も物理的な能力も目減りしてはいるが、それでも尚楽進の近接戦闘に対処しながら後方支援の李典に牽制の矢を放つ余裕が有る。連撃の速度には目を見張るものが有るが、やはり素直な性格が拳に現れている分、あの鑑惺より大分(強いか弱いかは別にして)戦いやすかった。

 

「やはりまだまだ本調子とはいかぬのぅ」

「本調子やなくてこれかいな……ホンマ化けもんやで」

「だが、それもここまで。……流石に、二度も敗北すれば大人しく隠居してくれるだろう」

「このまま行ったらそうやったかもしれんけど、そんなに簡単やないかもしれんな」

 

 土煙と共に呉蜀の援軍が現れ、戦線に若い将が走り出た。

 

「孫策様、黄蓋様、この魏延、ただ今到着しました!」

「うわぁ……なんやあのゴッツイ金棒は」

 

 一抱えでも足りないような太さの大金棒だ。名のある将の中でも特に力に特化していることは語るまでも無い。

 

「心配無用!こっちも、于禁、到着なの!」

「……ちょーっと頼りないなぁ」

「そんなことないの。双剣と用兵術を組み合わせた全く新しい格闘技が火を噴くの」

「それはまた今度見せてね。中央も退くわよ!」

「なんか呉って最近いっつも撤退しとるなぁ」

「……ちょっと利口になったのよ」

「待て!逃がすか――」

「てやあっ!!」

 

 踵を返した孫策に、思わず踏み出した不用意な一歩。そこに、魏延の一撃が叩き込まれた。すんでのところで防御は間に合ったが、その威力は見た目相応以上である。

 

「ぐおっ!?」

「なんちゅー圧や……ちょっとやけどあの春蘭さんが飛んだで」

「沙和、その新しい格闘技でなんとかしてきてくれ」

「沙和がここに来たのは深追いしすぎて孤立しないように警告するためなの。自ら剣を振るって戦うためではないの」

「せやろね」




ブロック崩しにうつつを抜かさなければもっと早く投稿できたと思う。

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