哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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周りにインフルエンザの人が増えてきました。
でも作者は頑張って予防接種を受けたので救われるはずです。
だってそうじゃないと理不尽じゃないですか。

そして又操作ミスと言うね……。


第九章拠点フェイズ :【荀彧伝】続・人を呪わば穴二つ その三

 「あら、一刀が最初の目印に到着したみたいね」

「えっ!?そんなはずは……」

 

二度寝から目覚めた主の言葉に、桂花は愕然とする。第一チェックポイントの方角に目を向けると、確かに一刀の到達を表す白い狼煙が上がっていた。

 

「うそ……私のあの罠を突破したというの……。ま、まあ良いわ。アレは三段の内の一つに過ぎない。それよりも七乃よ!あれだけ自信満々だったくせに、怪人精液まみれの一人も仕留められないなんて!」

 

自分のゴミみたいな落とし穴は棚に上げ、恐らく最も過酷である七乃の罠をけなす。こんなんでも戦略についての才能は抜群なのだから人は見かけによらない。

 

「ところで桂花」

「はい!なんでしょう、華琳様」

 

そして、主の声がかかればすぐさま眉間の皺も負のオーラも消して最高の笑顔を作れるのもなかなか稀有なことだ。だから桂花は無能じゃない。決して無能じゃない。その辺勘違いしないように。

 

「昨日は随分と遅くまでおりえんていりんぐの準備をしていたみたいだけど?」

「えっ……そ、そのようなことは……」

 

華琳は、桂花がこのオリエンテーリングを成功させるために全力を尽くしていたのだと勘違いしているが、その実、下着やその他を穴に埋めるのを見られたくないがために遅くに行動していただけだ。

 

「ふふ、誤魔化さなくても良いのよ。桂花の頑張りはちゃんと見てるから」

 

見ていない。いや、見ているのかもしれないが、ちゃんと見えていない。

 

「……華琳様、私のことを気にかけてくださっているのですね……」

 

今にも昇天しそうな表情でうっとりと呟く。安い女だ。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 四苦八苦の末、やっと一つ目のチェックポイントをクリアした俺たち。俺たち、といっても、一人減ったんだけど。

 

「さぁ、なにはともあれ頑張ろう!さっきのは悪い夢だったんだ!」

「…………」

 

俺の空元気にも、凪は応えてくれない。狼煙の道具一式が入っている箱に仕掛けがしてあり、顔に、蛆が大量に湧いたネズミの死体を叩きつけられたからだ。それから意気消沈してしまっている。道中のつまらない子供騙しレベルの罠にも頻繁に引っ掛かっているしまつだ。

 

「あれ?」

 

凪に話しかけるのを諦めて顔を上げると、見慣れた姿が目に入った。

 

「………?」

「禀じゃないか。なんで道端に座り込んで……」

「………隊長」

「あ、ああ。用心しなきゃな。どんな罠が仕掛けられているか分からないぞ」

「ええ……。もう嫌です……………あんなのは………」

 

こりゃ相当参ってるな。俺と凪は周囲を警戒しながら、禀に近付いていく。一方の禀も、すぐに俺たちの接近に気付き、視線をこちらに向けてくる。

 

「そんなに警戒しなくても、もうこの辺りには罠なんてありませんよ」

「そうみたいだな……」

 

罠が無い、と言うより、全部作動済み、という感じだ。

 

「はぁ。全くあの人たちは……。まさか全部の罠にかかって、全部の罠を突破するなんて」

「それは……まぁ、春蘭と華雄さんと季衣だし」

「あ、季衣なら真桜の、この辺では最後の罠にかかりました」

「え、そうなの?」

 

ふと見ると、禀の足下に直径一メートルほどの穴が開いている。

 

「ア、ニイチャーン?」

 

そして穴の中から季衣の声。

 

「って、随分反響したような声だけど……」

「ええ。のぞき込んでも季衣の姿が見えないほど深いですからね」

 

……真桜本気出しすぎだよ……。

 

「それで、禀は座り込んだまま何をしてるんだ?」

「別に何も。私には武の才が無いですからね。用意していた罠を壊されてしまっては――」

「……っ!!」

 

とっさに身を退く。さっきまで俺が立っていた地面から網が飛び出し、木にぶら下がってゆれた。

 

「――このように一刀殿に気付かれる程度の急造の罠を仕掛けることしかできませんから」

「……はは……そっか……じゃあもう行くよ……」

 

思わず乾いた笑いが漏れる。……軍師恐ぇ………。

 

「ご武運を」

「ガンバッテネニイチャーン」

 

これ、まだ半分行ってないんだよな……。並みの戦場より緊張してるよ……。

 

罠により許緒行動不能。残り競技者四名。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「どう思う?」

「……やっぱり、落とし穴なのでしょうか?」

「そうかなぁ、そうだよなぁ……」

 

俺たちの前にあるのは落とし穴。落とし穴ならこれまでもいくつか有った……それも、そのせいで二人ほど犠牲になったし、驚くようなことじゃないけど――。

 

「雑だな」

「……これを作った人は多分いい人ですよ。他の罠のような意地悪さが有りませんから」

 

凪がそう言うのも無理はない。カモフラージュが雑で、見つけて下さいと言っているようなものだ。

 

「きっと人を騙したことがないような人なんですよ」

 

ちょっと凪のテンションがおかしいのが気になるが。

 

「初めに見つけた落とし穴と似てるな」

「……そうですね。何か入っているかもしれません」

「開けて見るか」

 

落ちていた木の枝を使って、落とし穴を隠して……いや、塞いでいた小枝を取り除いてみる。

 

「……………」

「……………」

 

俺と凪は穴の中をのぞき込み、そのまま思わず顔を見合わせてしまう。

 

「艶本だな」

「艶本ですね」

 

穴の中に置いてあったのは、一冊の艶本。さっきの下着に続き、妙なチョイスだ。この落とし穴を掘った人間は、一体……。

 

「あ、そう言う事か……?」

「隊長、どうしたんですか?」

 

低質な罠、それに、変なものを入れておくような人間に、俺は一人だけ心当たりがある。と言うか、これ桂花だろ。全く、アイツは学習というものをしないのか?俺がこんな罠に嵌まるわけがない。春蘭でもかからないだろ。

 

「とりあえず、この艶本も回収しておくか」

「隊長……」

「違うぞっ!?決して使用目的での回収じゃないからなっ」

「使用って………」

 

うぅ……、凪の視線が冷たい。そもそも、こっちの艶本ってやっぱり中国語で書いてあるから難しくて楽しめない。……勉強頑張ろう。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「美羽様寝てもたんやけど」

「ええ。かわいいですねー。まさに天使ですよー」

 

今、私たちが居るのは、第三チェックポイント手前、髪飾りが吊るしてある 桂花作の謎罠付近だ。

 

「やっぱここまで来るんって結構かかるなぁ」

 

おかげで私の背中でちゃん美羽が昼寝を始めてしまった。……かわいいなぁ。子供が欲しくなってくるんだが。うわ、一度そう思うとどんどん欲しくなってきた。

私、この戦争が終わったらさ……

一刀さんに種付けセックスしてもらうんだ………。

 

「確かに、ここまで来るには時間がかかりますけど、そのおかげでお嬢様が安全にいたずらできますからね」

「……あ、何か凪ェを脱落させる秘策が?」

「そうですねー……。トドメは刺せないかもしれませんが、大分削れると思いますよ。それに、聆さんに分けてもらった"アレ"も仕掛けましたし」

「うわ、エグぅ……」

 

やはりこの娘は恐ろしい。第一チェックポイントでは、放心状態の沙和が救出されたようだし。

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「……これはまた、酷いな」

「人間性を疑いますね」

 

第二チェックポイントは、根本に穴の有る木で、その穴の中に箱が入っているんだが……。

 

「この辺のほとんど全部の木の根本に穴が掘ってあるっていうね」

「一つ一つ覗いていくしか有りませんね」

「ああ。でも、第一チェックポイントみたいなこともあるだろうから、気を引き締めて行くぞ」

「はいっ!」

 

 

……………

…………

………

……

 

 

 「隊長……」

「……どうした………」

「帰りたいんですが………」

「華琳がそれを許してくれると思うか………」

 

俺たちがグロッキー状態になるのに十分もかからなかった。お馴染みの死体に始まり、気味の悪い蟲の群れ、開けると汚物が炸裂する偽の箱などなど……。

特に俺の精神を抉ったのは上半身だけのウサギの死体だった。「あ、ここはウサギの巣穴か」と、一瞬穏やかな気分になったのも束の間。違和感に気付く。ウサギがぴくりとも動かない。不思議に思ってそっと触れると……。まぁ、後はお察しの通りだ。

凪は凪で、こちらもガッツリやられていた。蛇だ。穴を覗き込むと箱が見える。「ああ、偽箱かもしれないから開けるときは気をつけないとな」と思いながらそれを引っ張ったそうだ。予想外に軽い手応えに、バランスを崩して尻もちをつく。手元を見ると、箱は正面と側面の一部だけの偽物だった。そして穴に目を移すと……。まぁ、後はお察しの通りだ。

穴を覗いて探さなければならない、という状況を利用した避けられない罠の数々。精神力と言うか、このオリエンテーリングへの参加意欲がゴリゴリと削られていった。褒美がもらえるらしいけど、この苦痛に見合うだけのものが思いつかない。とりあえず、コレを仕掛けた奴を一発殴らせてほしい。

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 「二つ目の目印も一刀が取ったようね」

「そ、そんなっ!?」

「ほら、見てみなさい。一刀の通過を示す狼煙が上がっているわ」

 

桂花はしぶしぶといった様子で華琳の指差す方を見る。確かに、あの忌々しい淫魔の活躍を示す白い煙が細く――いや、途切れた。

 

パアンッッ

「っ!?」

 

そして破裂音。

 

「でかしたわ……七乃」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 同じ頃、森の中。二頭の猪がズンズンと進んでいた。

 

「ふふ……。禀や風もなかなかのものだったが、我らの敵ではなかったな。華雄よ」

「ああ。真桜も懲りずに二度も仕掛けてきたが、恐るに足りず、だ」

「季衣が脱落したのは惜しかったが……」

「なに、経験が足りなかったのだ。奴はまだ子供。これから幾らでも伸びる」

「ああ。そうだ。私も季衣には期待しているんだ。力は私があのくらいの頃とは比べ物にならないくら――

パキッ

――すまん。何かやった。来るぞ」

「分かっている。だが、どんな罠だろ……うが…………??」

「な……っっ!?」

 

この日一番の悲鳴が響き渡った。




避けられない攻撃はルール違反だぜ!
月のアイツらみたいに干されちゃうぜ!

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