哂・恋姫✝凡夫   作:なんなんな

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祖父遺書産業
自分がボケてからみんな意地悪だったけど
××(作者)は話をちゃんと聞いてくれたので
遺産は出来る限り××に相続させます。

母 伯父 伯母が敵になるのは予想したがまさか祖母までとは……。


第十章拠点フェイズ :【鑑惺伝】デートイベント その二

 「うーむ……もうちょっと自然な流れで行きたかったんだが……」

 

聆との待ち合わせ場所、王宮の大門の前で独り言ちる。というのも、聆のストレス解消を承諾した次の日には沙和がいろいろなところに、たぶん悪気はないだろうけど、誇張たっぷりに言いふらして廻り、華琳が面白がってスケジュール調整したり聆の部下の娘に睨まれたりいろいろあったからだ。

聆の性格からして、あまり大袈裟にすると逆に気を使うだろうからさり気ない親切を重ねるとかそんな感じでやりたかったんだけど……。

でも、こうなってしまったものはしかたない。この「デート」を存分に楽しんでもらおう。

先ずはショッピングから入って、どこか雰囲気の良い店で軽く昼食をとって、……そうだな、やっぱりアバウトに行こう。ガチガチに固めてもつまらない。俺だって警備隊の隊長で、いつも警邏に出てるんだ。話の流れからちょうど良い所を紹介出来るくらいにはこの街に詳しい。

 

 「よっす」

 

と、突然後から肩をたたかれた。

 

「おっ、聆か」

「ごめん ちょい遅なった……?」

「いや、まだ時間前だよ」

「あ、そう?服選ぶんに時間喰うたから心配しとったんやけど」

「服選び?」

 

その割に、聆が着ているのはいつもの私服だ。現代で言うところの鳶服に似たシンプルで丈夫なもの。……いや、微妙に違うとか?もしくはアクセサリーとか……。

 

「あー、真剣に観察してもらっとるとこ なんやけど、いろいろと探した挙句、デート向きの服なんか無かったことに気付いたって落ちやから……」

 

そっか、そう言えば聆の服装っていつも男っぽいか、そうでなかったらお茶会用のドレス(?)だもんな。

 

「いや、その服で全然大丈夫だよ。自然なのが一番だからな」

「うーん……でも、『無い』ってのもな。こう……嫌やん?」

「はは……じゃあ、まずは服屋さんにでも行こうか」

「おー、私、結構良え素材の服に拘るけど、大丈夫なん?」

「あ、奢らせる気満々?」

「え?そう言う催しとちゃうのん?」

「まぁ何も間違っちゃいないな」

「んだら行くでー。今日は久々にはっちゃけさせてもらうから死なんよーに気合い入れぇよー」

「え、ちょっと待てって!死の危険なんて有んのかよ今日……!」

「さーどーやろなー」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「……はじまったの」

「始まったな……」

「……ああ」

「でも聆ちゃんヒドイのー。言ってくれてたら、沙和がちゃんと勝負服選んで……って言うか作ってあげたのにー」

「せやなぁ。沙和の服が気に入らんくても、逢引き向きの服が無いんは昨日のうちに気づくよな」

「真桜ちゃん、『逢引き』じゃなくて『でぇと』なの」

「どうなんだろう……昨日の時点では何れかの服で納得していたが、今朝になって気が変わったとかか?」

「甘いわね。三人とも……」

「華琳様!?」

「大将!」

「……!!」

「アレは恐らく聆の策よ」(深読み)

「策……?」

「そう。『時間ギリギリまで悩んだ』こと、『でぇと向きの服が無い』こと。つまり『自分がこのでぇとに対して乗り気である』ことと、『これまでにでぇとの経験がない』ことを示したのよ。さり気ない行き先の提案は言わずもがな」(深読み)

「……!」

「それに、話題作りにもちょうど良いわ。試着室で着替えてそのままでぇとを行っても良いし――」

「あえて今日は着ないで、次のでぇとに着ていっても盛り上がるのー……」

「そう。聆はたった二言でこのでぇとの流れを作り、印象を良くし、次への布石を放ったのよ……!!」(深読み)

「なんちゅーこっちゃ……」

「心配で見に来たのがばからしくなりますね」

「なんなの……こんなの、完全に鑑惺先輩なの……」

「できる娘だとは思っていたけれど、まさかこの分野までとはね……」(深読み)

「……しかし、だからこそ、見ておく価値が有りますね」

「せやな。見守るつもりやったけど、技を盗む方向に軌道修正で……」

「そうね。そうと決まれば早速後を追うわよ」

「あ、華琳様も来るんですね」

 

  ―――――――――――――――――――――――――――

 

 と言う訳で、やって来ました服屋街。思えば、仕事以外で聆とここに来たのは初めてな気がする。

 

「いやー、やっぱ若い娘らが多いなぁ」

「聆も若いだろ」

 

かなり意外だけど、聆って実は凪より一年年下で、魏の将の娘たちの中でもかなり若い方だ。

 

「単純な歳やのぉて、はしゃぎっぷりと言うか……沙和が何人も居るみたいな?」

「まぁ、それは……」

「北側やったら割と落ち着いとるんやけどな」

「あの辺は貴族向けの店だからなぁ。でも、やっぱデート用の服ってなると、こっち側だよ」

「さすが変隊長はよぉわかっとらすなぁ」

「……って沙和が言ってたんだよ」

「苦しい言い訳……」

「そ、それよりもほら、あの店なんか良いんじゃないかなっ?」

 

『やれやれ』とでも言いたげな聆の手を引き、店に入った。

 

 

 「へぇー、結構良え店やん」

 

店内を見回し、感嘆の声を漏らす。よし。気に入ってもらえたみたいだ。

実はこの店、メイド服を作ってもらったりしたのがきっかけで懇意にしている行きつけ(?)の店なのだ。ちょっと値段が高いのがアレだけど。でもその代わりに品質は良いし、混みすぎることが無い。

 

「丈とか合うのん有るかな」

「作り直してもらえるから大丈夫だよ。それに、聆って引き締まった身体してるし、着れることは着れるんじゃないか?」

「ちょっぴんぴんなるやん」

「『ちょっぴんぴん』が何かは分からないけど、前の西涼衣装は良かったよ」

「あれ結構はみ出し気味やった気ぃするんやけど……まぁ良えわ。コレとコレ、どっちが良えやろ?」

 

そう言って聆が取り出したのは、黒のロンティー(?)と、黒の……

 

「ちょっとそれじゃあ普段と変わらないよ」

「えー、でも黒って無難やん?」

「せっかくなんだしいつもと違う感じにしないか?」

「うーん……あ、んだら隊長選んでぇな。そーや、それで行こ」

「お、おう!そうだな。任せとけ!」

 

批評した手前、断ったら絶対文句言われるもんな。……それにしても、どうするべきか。さっきはあぁ言ったけど、聆に黒が似合うのは事実なんだよなぁ。普段が露出度極低で、ボトムにボリュームを持たせる感じだから、イメチェン自体は脚中心に露出度を上げるだけで割と簡単に出来るんだけど……。薄い色のロング丈ニットに補助でミニスカでニーソ……あ、これは凪の制服スタイルとかぶるな。と言うか、スタイルが良かったらニットが万能無双なんだよな。下品にはならずにボディラインを強調しつつふわっとした柔らかみを表現する。……タイト寄りのニットワンピなんてどうだろう。ちょっと胸元を大きめに開けて、でもギリギリで肩は出さないくらいの。で、足下は"ゆる"めのブーツだ。

あとは頭の中のイメージに近いものを選べば完成だな。

 

「つってもそんなの、都合良く有るかな……」

 

ブーツっぽいものは有る。問題はニットワンピだ。

 

「ん?何が?」

「いや、大体頭の中で完成図はできたんだけど、こっちの世界に有る品かな、って」

「どんなん?」

「毛糸でできたワンピース……えーと、一枚で全身覆う服なんだけど」

 

セーター自体はこの前、沙和と服の話になった時に紹介して実際に幾つか作ってたから、街にまで広まってるかもしれないけど……。

 

「これは?」

 

聆が俺から少し離れたところに掛かっていた一着を手に取る。

 

「ん?え!?これこれ!正しくこんな感じ!」

 

すげー……。もう、なんだろう。コスプレ関連以外のファッションに関しては殆ど時代の違いを感じないレベルにまで来ている気がする。

 

「似たよぅなん結構有るけど……?」

 

しかも多種多様選べるときた!

 

「えーっと、じゃあコレかコレ……うーん、こっちだな!聆、ちょっとこれ、着てみてくれ。試着室はあっちだ」

「くく……何か私より隊長のんが活き活きしとるな」

「そりゃ、聆のかわいい姿が見られると思うとな」

「……そんなんさらっと言えてまう辺りさすがやわぁ………」

「……? 何が?」

「いや、えぇ。着てくるわな」

「おう!」

 

今のうちに靴も用意しておいて、ここからは新しい服で廻ろうか。先にお会計も済ませとこう。

 

 

 「聆ー、もう着れたか?」

 

いろいろと順調に進み、軽く鼻歌なんかも出たりしたけど、今度は聆がなかなか試着室から出てこない。

 

「……何か騙された気分なんやけど」

 

カーテンの向こうから困ったような声が返る。

 

「どんな感じだ?取り敢えず見せてくれないか?」

「見せるけどぉ……」

 

ゆっくりとカーテンが開き、躊躇いがちに聆が姿を見せる。

柔らかい、フレンチベージュの生地が、豊かな胸に押し広げられ、腰ではきゅっと締まり、そしてその下でふわりと広がる。少しだけ心配していた袖の丈も、元々余裕を持って作られていたようで、全く問題ない。予想外だったのは、聆の緩くウェーブした髪とニット生地の親和性が思った以上に高かったことだけだ。

 

「完璧じゃないか……どこが不満なんだ?」

「いや、こう……裾、短ない?」

 

膝上丈を想定して作られていたらしいニットワンピは、聆の長身のおかげで太腿の半分も隠せていない。けど、

 

「何も問題無い!」

「うぇっ!?」

「聆の脚はさ、こんなに綺麗なんだから!」

「んっ……ちょ、急に撫でんなや!」

ドカッッ

「ごフッっ。……悪い、つい」

「もぉ……」

「でも、それくらい素敵だってことなんだよ。だから自信持ってくれ」

「分かった分かった。デート用やしな。隊長が喜ぶ服が正解やわ」

「ありがとな。それと、向かいの靴屋で靴も買っといた」

「ふふ……はしゃぎすぎやろ、隊長ェ……」

 

  ――――――――――――――――――――――――――――

 

 「お嬢様ー、これなんていかがでしょうかー?」

「む……もう少しお腹周りが楽なのが良いのじゃ」

「あれー、おかしいですねぇ。もしかして、お嬢様太りました?」

「ふ、ふ、ふ、太ってなどおらぬのじゃ!成長したのじゃ!」

「でも背の高さもおっぱいの大きさも変わってませんしぃー。それにこっちに来てから余計にぐぅたらしてますしー」

「い、猪々子!猪々子は何か見つかったのかや?」

「えー、そうっすねー……これなんてどーでしょう?」

「却下じゃ」

「却下ですねー」

「即答!?どーしてですかぁ!七乃っちもひどいぜ!」

「いえいえ、酷いのはその服ですよぉ。何で股間の辺りから白鳥の頭が飛び出てるんですか」

「悪趣味の極みなのじゃ」

「えー……姫はこーゆーの好きだったんだけどなぁ」

「あのくるくるパーと妾を一緒にするでない!」

「そーですよぉ!私の目の黒いうちはお嬢様をあんな感じの人にはさせません!」

「なんでだろ……主を貶されてるのに少し安心してるアタイがいるんだぜ……」

「うーむ……それにしても、もうこの店は粗方見終わったかのぅ?」

「そうですねぇ……あ、あの店とかどうでしょう?あの、斜め向かいの」

「あー、あの、今背の高い女の人と白銀服の男が出てきた……」

「そうそう、……って、え、アレって聆さんじゃありません?」

「いやいやいや、レイ姉があんな色っぽい格好……まさかそんな、なぁ?」

「でもあんな背の高い女の人なんかそうそう居ませんって言うか見たことないですよ?聆さん以外に」

「ふむ、男の方は一刀じゃの」

「マジかよ……なんかこう……なんか、なんか……っ!」

「面白そうですねぇ……姦し娘と華琳さんも後つけてますし」

「良いの。服選びにもちょうど飽きてきたところじゃ。七乃、猪々子。行くぞよ!」

「おー♪」

「おー……」




魏勢の衣装は大体みんなどこかしらに髑髏が入れ込んであって面白いです。
あと、七乃さんのタイと美羽様の帯が同じデザインなのが好きです。

GA〜芸術科アートデザインクラス〜 はとてもためになるマンガです。

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