画面隅のカウントに追い立てられる毎日。
誤字多いェ……
その日の軍議は、各方面に放っていた間諜の報告から始まった。
「……そう。劉備は、益州周辺の諸侯を次々と取り込んでいるのね」
「はい。荊州の大半は我々が抑えていますし、益州の一部にも勢力を拡大しましたが、……それが諸侯の反感を買ったようです。黄忠や厳顔、魏延といった主要な将は、軒並み劉備に降ったと」
「黄忠も……か」
「黄忠がどうかしたの?一刀」
「確かに弓の名手として名高いが……厳顔や魏延と比べて突出しているわけでもないぞ?」
「いや、何でもない」
一刀も気になっているようだが、ここに来て蜀が形を整えつつ有る。西涼からの馬超、馬岱に続き、厳顔、魏延、黄忠、そして、後で話に出るだろうが、南蛮ももうそろそろだろう。
「……まぁ、隊長が何に引っかかったんかはさておき、大規模な弓兵隊となるとめんどいなぁ……」
魏延はちょろいから問題無し。馬超の方は、私と当たることはないだろう。鑑惺隊が騎馬に強いのは広まっているだろうから、孔明が止めるはずだ。
「確かに、聆殿の歩兵隊にとっては脅威ともなる存在ですね」
「在野相手に経験も積んどるし、盾使ったりいろいろ試行錯誤もしとんやけどな。苦手なんはどーにも」
「聆の隊は小回りは効くが移動速度自体はそう速くないからな……。被害が出る前に突撃、というのも無理な話か」
「………」
「………」
「………」
春蘭の発言に、場が固まる。
「……どうしたのだ?」
「いや、春蘭がマトモなこと言ってるから……」
「なにおー!!私がマトモなことを言うのがそんなに不思議か!」
「はいはいどうどう。話が進まないから、一刀を殴るのはまた後でね」
「むぅ……分かりました」
「え、俺、殴られんの?」
「それで、今、劉備は?私達の領に攻め入るような動きは無いようだけれど……」
「南蛮の連中との戦いを断続的に行っているとのことです。既に何度か大きな激突が有り、その度に劉備の側が南蛮を打ち破っているとか」
「……何度も?それほど南蛮の将は層が厚いというの?」
「或いは、引き際が神がかっているとかでしょうかー?」
「いや、南蛮王と名乗る首領格の人物が居るのだが……それを捕まえるたびに、劉備の命で逃しているのだとか……」
いわゆる……あれ、名前が出てこない。七なんとか七かんとか、だ。
「……はあ?おい桂花、どういうことだ」
「こんな時だけ私に頼らないでよ!」
「そういう戦略が有るんですか?」
「だから、私に聞かないでよ」
「だって、桂花ちゃんは軍師じゃないですか〜」
「そうですよー桂花さん。軍師として迷える仔羊の疑問にこたえてあげないとー」
「あんた達も軍師でしょうが!」
「なら風、七乃。お前たちなら分かるのか?桂花では分からんらしい」
「……ぐー………」
「……っは!お嬢様が呼んでる気がするので帰っていいですか」
「あんた達も分からないんじゃない」
「全く嘆かわしい……」
「なら禀、お前なら分か「分かりません」
「ふふっ。……一刀、あなたはどう思う?」
面白半分、という具合に一刀に振る華琳。
「華琳様!どうしてこんな奴に……!」
即座に噛み付く桂花。
「俺たちみたいに、武力で屈服させたくないんじゃないの?劉備らしいと思うけど」
そして華麗にスルーの一刀。ここまでで一ネタ、って感じだ。だが今回はここで私も加わる。
「でも結局んとこ、相手の心が折れるまで叩きのめすってことやんな?」
蜀ルートの蜀は、武力の行使もやむなしという考えだったはずだが、魏ルートの蜀は武力そのものを否定していたはずだ。前の説教で少し大人になったのだろうか?
「まぁ……そうだな。何やってんだあの娘?」
「分からないわね……あまりにも馬鹿なことをやっていると愛想を尽かされそうなものだけど、そういう気配も無いし」
「まぁ平定してからじっくり聞くか」
案外、「可愛かったからトドメが刺せなくて逃がしてる」とかありそうだ。
「しかし華琳様。劉備が南蛮と戦闘中だと言うのなら、これはまたとない好機かと。それに、これ以上勢力を大きくされても厄介です」
「……まぁ、劉備の側の話ばかり聞いて判断するのは迂闊だわ。南方の孫策はどうなっているの?そちらの間諜も戻っているわよね」
「こっちも地盤固めで忙しいみたいですねー。お嬢様から奪った江東を制圧したあと、周辺のお嬢様派の豪族相手に戦ってますよ。まぁ、そこで追われた軍勢が続々こっちに付いてくれるんで大助かりですけどー。お嬢様派の顔はしっかり覚えてるんで安全性もバッチリですよー♪」
「統治が完了するのにどれくらいかかりそう?」
「あまり時間はかからないんじゃないですかねー……。さっきも言いましたけど、お嬢様派が逃亡するんで戦自体は少ないですしー。私がせっかくバラバラにしてた呉の旧将も復帰してますからねー。あの人たち、やたら血の気が多いんで大変なんですよー」
「ならば、どちらも背後は隙が有るけれど、攻め時を逃せば厄介ということね。どちらを先に攻めるべきかしら?」
「劉備かと。アレの思想は今のところ穴だらけですが無知な庶民には甘い蜜。そして、有力な将を引き寄せているのも奇妙です。放っておくのは大変危険です」
「風としては孫策を打つべきだと思うのですよー。今の勢いを維持したままこちらを攻められるくらいなら、これ以上勢いがつく前に叩いておいた方がいいのではないかとー」
「……禀、七乃、聆。貴女たちはどう?」
「え、私も?」
「そうよ。どうかしら」
「動かんで良えんちゃうん?」
「同じく、動くべきではないと考えます」
「動く必要は無いですねー」
「何?」
「へぇ……」
「どういう事だ?ぼやぼやしていては連中の下に優秀な将が集まってしまうではないか!」
「まずそこが違いますよねー。確かに、劉備さんや孫策さんは戦力を高めてますけど、それは私たちがずいぶん前に済ませた段階です。そう恐れることはないんですよー」
「むしろ今の勢力の安定度を見て豪商がこっちに来ぃ、文化の発展度を見て学者が来ぃ、芸術家が来ぃ、技術者が来ぃでどんどん差が出とるわなぁ」
「西涼を手に入れたことによって羅馬からの通商も開けましたしね。兵の練度は言わずと知れたことですし」
「あと、簡略化して話すけど、『攻城戦は守り手の三倍の兵力が必要』の観点から言ったら守りは攻めの九分の一の兵力で済むし」
「疲れて帰る相手を背後からドーン!って逆に領地取れますよねー」
「まぁ、実際は九分の一とは行きませんが、必要数が大幅に違うのは確かです。補給線も伸びませんし」
「逆に、今どちらかを攻めようとすると逆側から攻撃を受けかねません。南蛮討伐とか豪族平定とか、中断してもすぐに滅亡するわけじゃないんでー」
「片方に粘られて片方に全凸されたらちょい厳しいよな」
「一方で守り、一方で攻め、というのは……」
「……ならばどうするつもり?相手が同盟を組んで、仲良く攻めてくるのを待つ?」
「はい」
「それが最善でしょうかねー」
「え、それって大丈夫なんですか?危なくないですか?」
「あぁ、流琉の言うとおり、孫策と劉備には周瑜や諸葛亮が居る。経験豊富な黄蓋や黄忠、厳顔もだ。七乃には悪いが……袁紹たちのように馬鹿ではないぞ?わざわざ互いの足の引っ張り合いのようなことはせんだろう」
「さすがにそこまで楽観視してはいませんが。……同盟を組んで足並みを揃えてくれることには期待しています」
「どういう事だ?同盟を組まれれば、二方向から攻められたり、いろいろと厄介ではないか?」
「確かにそうなることも考えられますがー……。それは同盟無しでも起こり得ることですので。……むしろ、同盟によって互いの動きを意識することで攻撃の足並みが揃い、劉備さんと孫策さんの両方を一度に相手にできるようになればなー……と」
「現状、我らの総兵数は蜀と呉を合わせたものとほぼ同等ですから」
「ならば、足並みを揃えてきた劉備と孫策を相手に互角に戦えるというわけか」
「いいえ。互角以上ですねー。さっきも言ったように、資源や職人の数、そして兵の練度は私たちが群を抜いてますからー。敵方が完璧な連携で……そうですね、涼州と東の海からそれぞれ攻めて来てやっと互角でしょうかー」
「ま、そんな大回りしよったら相手が攻めて来る前に逆に攻め落とせるけどな」
「それにこれからも成長し続けるって話だったよな」
「ならばそれが二面作戦を行えるほどに成長した段階で両国に一気に攻め入るのか!」
「はい。既に装備類は十分な数が確保してありますから。あとは人材の確保が済めば」
「そ。つまり、防御面は大丈夫やからじっくり力を蓄えよか、っつーこっちゃ」
「なるほどね。桂花、風。貴女たちの意見は?」
「確かに、双方を同時に攻めれば連携を断つことができますしねー。どちらかに的を絞って背後を気にしながら戦うより良策なのですよー」
「二面作戦の研究は、官渡以前から継続して行っています。今まで実行する機会は賊の討伐程度にしかありませんでしたが……諸葛亮や周瑜などに負けるものではないと、証明させていただきます」
「結構。春蘭、軍部としての意見は?」
「我々に出来ることは、軍師連中の指示を完璧にこなせるよう、兵の練度を上げることですな」
「その通り。ならば今後の大方針は、劉備と孫策の二面作戦を狙いつつ、攻められた場合は容赦なく叩きのめすということにするわ。いいわね」
読者の方々は気づいていらっしゃるかもしれませんが……
事実上、既に勝ってます。