君に傾く天秤   作:ウルトラレア

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 十話です。
 感覚的に幼魚と逆罰編よりは長く続くと思います。たぶん。





第十話 阿頼弥明。十六歳。

 

 

 

 

『開始一分前でーす。ではここで、歌姫先生にありがたーい激励のお言葉を頂きます』

『は!? え、えーと……』

 

 

 茶色と新緑の入り乱れる森林の中。

 幾つかの木の幹に固定されたスピーカーから、質の良くない機械音声が響き渡る。

 

 スタート地点の森林エリアに立ち並ぶ東京校の面々は、スピーカー越しの戯れ合いに呆れ果てている。

 啓ですら苦笑いだ。

 

 

『それでは交流会、スタァーーート!!!』

『先輩を敬え!!』

 

 

 締りの悪い開始合図。

 ノイズが劈くと同時。東京陣営の誰もが走り出す──中。

 残る影が二つ。

 

 

「ん〜ッ。悠仁緊張してる?」

「全然!」

「すごいね……僕ちょっと緊張してる」

 

 

 阿頼弥啓。虎杖悠仁。依然スタート地点。

 啓は伸びをして、虎杖は元気よく応える。

 

 

「阿頼弥でも緊張とかすんの?」

「まぁ相手が相手でさ……昔色々あって」

「あー、俺も地元の奴とかちょっと動揺するかも」

 

 

 地元で付けられているあだ名等を思い出して、頭を捻る虎杖。

 二人は未だ談笑を続ける。

 

 

「ま、これで誰も来なかったら笑うけどな」

「フフ、確かに……あ、でも大丈夫そう。ちゃんと来てるよ」

 

 

 彼らが動く必要は無い。敵主戦力が自らやって来るからだ。

 啓の"眼"で、既に確認済みである。作戦通りだ。

 

 

「お、良かったー。てかそれ本当に視えてんだな」

「そういう術式だからね。千里眼みたいに思ってもらって良いよ」

「ほえ〜、五条先生のと違って分かりやすくすげぇよなそれ」

「えへへ……」

(そして分かりやすく嬉しそう)

 

 

 素直に照れる啓。虎杖は内心でツッコむ。

 だが直後、「ん」と言って啓は笑顔を引っ込めた。

 

 

「そろそろだね。悠仁、二時方向。林突き破って来ると思う。そっち任せた」

「オッケー、逆にもう片方は任せたぞ」

「任されました。カウント始めるよ」

 

 

 両者とも臨戦の顔付きになって、淡々と情報が行き交う。

 啓は粛々と時を刻む。

 

 

「会敵五秒前。四、三、二、一──」

 

 

 同時。木々が破裂。

 現れたのは、ヒグマを思わせる巨漢。京都校三年、東堂葵。

 

    の。    右頬。

 

         拳。    直撃。

 

 

「ンブッ!?」

 

 

 登場と同時に、虎杖の右拳を左頬に喰らう東堂。

 容赦の無さに安堵しながら啓は視線を移す。

 それは、東堂が突っ込んで来た方向。の上。

 

 

 

 白い光が瞬いた。太陽光にも似た、鮮烈な光。

 白いローブと仮面を身に付け、純白の槍を携えた巨大な人型。

 

 まるで天の使いの如き様相。

 だがその天の使いの背に乗る人影が、逆光に映った。

 

 

神決呪法(かむはかり)を使え阿頼弥啓ぇぇ!」

 

 

 京都校一年。

 阿頼弥明(あらやあきら)

 

 

 


 

 

 

 

 時は遡る。二十一分前。

 東京校側とは真反対にある、京都校ミーティングルームにて。

 

 

「楽巌寺殿」

 

 

 東堂がブチギレて出て行った後のこと。

 誰もが静まる中、明が鶴の一声を発した。

 

 

「悪いが俺も虎杖悠仁暗殺には参加できない。阿頼弥啓に個人的な用があるんでな」

 

 

 しかし明の発言は先の東堂のものと全く同様、楽巌寺の指示を断る趣旨であった。

 キレていないだけマシではあるが、穏やかな雰囲気でないのは確かだ。

 

 

「ただし、あくまでこれは俺個人の意思。阿頼弥としての協力もきちんとする」

「私が。ですけどね」

「……いつもすまん」

「はい、いつもの事です」

 

 

 始めから知っていたかのように、花凛が補足の説明を入れる。

 また妹の手を煩わせた事に、明は素直に謝辞を述べた。

 双子故か、そのやり取りには慣れた様子が窺え、楽巌寺もそれを察した。

 

 

「……。其方の意思は相分かった、委細承知。だがしかし……神決呪法(かむはかり)の件はどうするのだ?」

 

 

 少しだけ口を噤んだ後、楽巌寺が問うたのは例の話だった。

 

 五条悟による阿頼弥啓の戦力制限。

 確かに学生と言えど、啓の実力を鑑みれば妥当な采配ではある。が。

 

 

 ……明がそれで納得する訳も無く。

 五条に激昂した明をここへ連行するのにも相当の時間を要した。

 現在は落ち着きを取り戻しており、冷静に回答できる程度にはなっている。

 

 

「そこは、俺次第でどうとでもなるさ」

「……。そうか……時に明」

 

 

 自信があるようでない、そんな答えを返して明も部屋の外に足を向けた。

 ……去り際、楽巌寺がもう一つ問いを投げた。

 

 

「父君はお元気か?」

 

 

 


 

 

 

 天使の姿を捉えて、啓は跳んだ。物理的に。

 瞬時に接近し、左手で天使の頭を掴む。その背中に明の姿は無い。

 

 

(っ、反応速い。やっぱりもう花凛ちゃんと"共有"してるのか)

 

 

 啓は天使の肩を蹴って、戻るように後ろへ飛び退いた。

 そうして頭上からの踵を躱す。虎杖の下へ後退する。

 

 睨み合う両者。巨漢は不気味な程口角を吊り上げていた。

 

 

「正直、舎弟にしか興味は無かったんだがな……そこの一年、中々パワフル。名前を聞こう」

「……虎杖悠仁」

「そうか虎杖。お前に聞きたい事が」

 

 

 東堂の一人語りはそこで途絶える。東堂の横を白い影が通過した。

 

 虎杖には目も暮れず、明は天使を加速させている。

 凄まじい速度で距離を詰め、天使は槍を突いた。

 

 

「チッ、使えよ……」

 

 

 槍は啓の間合いに入った直後、停止した。

 神決呪法ではない。左手で槍の柄を掴んで、力技で止めている。

 槍を持ち上げて、持ち主である天使の体ごと後ろへ放り投げる。

 

 天使の巨体が視界から消え、その後ろに突貫する明の姿が映った。

 

 

「相変わらずだな、お前は」

 

 

 小さく零して、明は右手を引き絞る。同様に啓も左の拳を構える。

 両者は脚を強く踏み込んだ。

 

 

 

 パン。

 

 

「遅ればせながら、挨拶だ舎弟!」

 

 

 刹那。筋肉の塊がタックルの姿勢で現れた。

 啓の拳は空を切り、代わりに東堂の両腕が啓を掴んだ。

 

 明にとって想定外である点を除けば、それは完璧に近い連携だった。

 明と東堂の体重差。時間差。間合いのズレ。

 世に有数の一級術師であっても、ほぼ必中。

 

 だがこの少年──阿頼弥啓につき。

 

 

「む……!?」

 

 

 巨体から生み出される莫大な運動量は、しかし啓を動かせない。

 重い。笑える程に重い。

 

 

(この呪力量……乙骨よりは少ない、なのにこのパワー……!)

 

  

 その膂力は、明らかに乙骨より上。と東堂は判断した。

 脚は根付いているように動かず、だが直後、右脚が嘘のように離れて。

 

 

「グッ!」

 

 

 重い膝蹴りが東堂の腹に刺さり、両手の拘束が解ける。

 その隙を逃さない虎杖。

 東堂が浮いた一瞬、身を屈めた啓の後ろから呪力を込めた脚を突く。

 

 

「ぬうッ……ん〜…………っ、重畳……」

 

 

 力強い蹴りを受け、東堂の巨体が数メートル後退する。

 痛みの余韻に浸るような声を溢し、空を仰いだ。

 

 

「クック、両者ゴリゴリのパワー型……全く嫌いじゃない……!」

「おい、東堂葵……」

 

 

 恍惚とした東堂。しかしそれを妨げるような冷めた声が割り込んだ。

 対照的に、ブチギレた明が東堂を睨み付けている。

 

 

「貴様……次また俺の勝負の邪魔をしたら、ブチ殺すぞ……!!」

 

 

 ……啓はもちろん、虎杖にすら即座に理解した。

 これ仲間割れだ、と。

 

 

「だがそれはそれとして……虎杖! どんな女がタイプだ!」

「話を聞け……ッ!」

 

 

 いや、正確には仲間割れではない。割れているのは明だけだ。

 しかしそれすらも、今の東堂には聞こえていない。

 

 

「………あ俺? え、てか何? 女のタイプ? 何で今そんな事聞くんだよ」

「気にするな、ただの品定めだ」

「まずはこっちを気にしろ東堂葵!」

「え? ま、まぁ、強いて言うなら……(ケツ)身長(タッパ)のデカい女の子、かな」

「ッッッッッ……………地元じゃ負け知らず、か」

「は……?」

 

 

 虎杖の答えが何か刺さったらしい東堂。また空を仰いでいる。

 

 血も涙もない巨漢の涙に、キレッキレの明も一歩後ずさってしまう。

 その顔は非常に困惑に満ちている。

 

 

「どうやら俺達は、親友のようだな……っ」

「もう祓っていいかこの筋肉呪霊」

「……阿頼弥、あれ何? 新手のイジメ?」

「うん、あの人めっちゃ疲れる」

「えお前もイジメられてんの……?」

「ていうか、悠仁も狙われてると思うけど……」

「ぇ──」

 

 

 ついに呪霊認定する明。自分の世界の東堂。物悲しげな啓。

 今や虎杖も完全にロックオンされてしまった。

 真実を知った虎杖は、トンデモない表情になっている。

 

 気を強く持って、と啓は慌ててフォローの言葉を掛け。

 

 

「っ!」

 

 

 なかった。

 気配を察知する。囲まれている。黒い弾丸が二つ飛来してくる。

 その軌道を虎杖は避け、啓は左手の甲で逸らす。

 

 逸らして、手の甲の裏側。

 自分の手がブラインドになって、熱線の光が隠れていた。

 射線には虎杖。避けられない。

 

 

(素手デッ!)

 

 

 自身と熱線の間に左手を翳し、熱線を拡散させた。

 すかさず消えるような速度で踏み込み、左の掌打が機体を回転させる。

 返す刀で左脚をその腹部に叩き込む。

 

 軽快に吹き飛ぶメカ丸は、枝の上で矢を番えていた加茂にぶつかる。

 その隙に距離を離された虎杖の下へ合流しようとして。

 

 眼前に槍が降った。白い槍。

 

 

「お前の相手は俺だ、阿頼弥啓。間違っても全員を相手にしようなどと考えるなよ」

「明君……」

「加茂、お前達は退()け。どうせコイツがいる限り学長の件は無理だ」

 

 

 みれば、虎杖の方は東堂が介入し難を逃れているようだった。

 戦況は拮抗。沈黙が場を満たす。明の言葉により、加茂は沈思の表情である。

 

 黙考の末、五秒程してから立ち上がり、加茂は踵を返した。

 

 

「退くようだナ」

「ダサ」

(良かったぁー!)

 

 

 それを皮切りに、他の面々も加茂の後を追随する形で去って行く。

 再び残された二対二の戦陣。

 静まり返った戦場。明は一つ溜息を吐いた。

 

 

「邪魔が入りはしたが、これで良い。続けるぞ、阿頼弥啓」

 

 

 睨み合う啓と明。

 同様に、虎杖は東堂と対峙している。先の質問でターゲットが移行したらしい。

 戦況は変わらずとも、相手は自然に分かれていた。

 

 

「拘るね、明君」

「久しぶりの勝負なんだ、当然だろ」

「確かに。最近忙しかったもんね」

「お互い、父親には苦労するな」

 

 

 先刻から一切変わらぬ、不機嫌そうな表情のまま。

 でも少しだけ、話し方の角が取れていく。

 

 

「……。なぁ、何故俺がお前に挑むのか……分かってるか?」

 

 

 本音も、少しずつ混じり出す。

 

 

「うん……何となくだけど」

「そうか……。……悪かった、あの時は。今更だが」

 

 

 ……明は脳裏に浮かべる。

 子供の頃から続いてた、啓との勝負。最初は単なる駆けっことか知恵比べとか、肝試しとか力自慢とか、そんなものだった気がする。

 でも段々と、気が付けば呪術の勝負になっていって。

 

 で、その日。

 神決呪法を使った啓に、何もできず負けたあの日。

 手も足も出ず、吐気がする程の格差を()()()思い知った。

 残酷な勝利を、啓に与えてしまった日のこと。

 

 

 あの日から啓は、明に対し神決呪法を使わなくなった。

 五条が禁止するまでもなく。

 

 

「啓」

 

 

 だから。

 もう使って良い、強くなったから大丈夫だって、言いたくて。

 ……明はずっと、挑み続けている。

 

 

()()()()、神決呪法を使わせてやる」

 

 

 刹那。鋭い白槍の突き。

 サイズ調整され、明の左手で掴める大きさになっている。

 啓は上体を左に逸らし、槍を紙一重で躱す。

 

 視界の上端。白い光が見えた。

 左脚と共に半身を引き、天使が振り下ろした拳を回避する。

 流れるように右脚を突いて天使を蹴り飛ばす。

 

 眼前で弾丸と化した天使の体を、明は跳躍でギリギリ避ける。

 そして空中から、重力を乗せて槍を大きく振り下ろした。渾身の一撃。

 

 

 

 右手が槍を掴んで、槍はそこで止まった。

 そのまま左手も柄を握り、背負い投げの要領で明は槍ごとブン投げられ、木を突き破っていく。

 

 肺から抜ける空気を留めながら、体勢を整える明。

 視線を前へ向けた瞬間。眼前に迫る貫手。

 だが明もまた"視えて"いる。冷静に、槍の柄で貫手を防いだ。

 

 

「……あぁでも、本当はもう一つ。お前に挑む理由があるんだ」

 

 

 鍔迫り合いの状態で明は思い出したように切り出した。

 両者涼しい顔のまま。

 

 

「啓、俺が勝ったら」

 

 

 瞬間。明は槍を上へ投げた。

 そして即座にしゃがみ、足払いを繰り出す。

 

 上への視線誘導。からの一撃。

 凶悪だが、啓はそれすらも"視えて"いる。跳んで、足を避ける。

 当然、空中の槍を天使が受け取り、背後へ回り込んでいるのも視えている。

 

 元より回転を加えて跳んでいた。右回転。

 空中で天使の方を向き、回し蹴りを──パンッ。

 

 

「ッ!」

 

 

 小気味良い音。白い天使が、黒服の少年に。

 二対二から二組の一対一へと戦況が移行して、その選択肢を排除していた。

 まして、明がそんな支援を許すなど。

 

 

「甘いな、明」

「……?」

 

 

 だがそれは、明でさえ予想だにしていなかった選択肢。

 距離を隔てて近接戦を繰り広げる東堂の、密かな介入。

 好敵手を見つけたとて、手を出さないとは言っていない。

 

 

「俺が……っ、勝ったら!」

 

 

 しかし、千載一遇は事実。

 重い蹴りを全霊で受け止め、固定する明。口から吐血。

 

 啓の後ろには、槍を構える天使。

 明が上に投げた槍を空中で受け取ったのは知っている。

 両脚が離れ、体勢も重心も、今から回避や防御ができる状態ではない。

 

 それでもまだ、残っている。

 回避も防御も必要無い。ただ一言呟けば、それで事足りる力。

 今日。ついに。それを──

 

 

「花凛と結婚しろ!」

「──────へ?」

 

 

 頭が無量空処だった。その瞬間、啓の頭は真っ白に吹き飛んだ。

 

 術式の使用には脳の処理が不可欠。

 あえなく槍が啓に直撃し、森を突き破って飛んでいった。

 

 

「ケホッケホッ……これ、肋イったかなぁ……」

 

 

 即座に呪力で補強したが、直前まで脚に集めていた分天使に軍配が上がった。

 傷が痛まぬようにゆっくりと立ち上がる。

 

 

「……まさか、当たるとは思わなかった。呆け過ぎだろ」

 

 

 千切れた木々の間から天使と明がやって来る。

 ちょっと呆れたような顔すらしている。ムッとして啓は言い返す。

 

 

「そりゃ呆けもするよ、な、何急に結婚とか……」

「お前と禪院真希の婚約が気に入らないんだ。何も持たないあの女が、お前の才能を残せる筈が無い」

 

 

 その発言は、決して御三家のような男尊女卑ではない。

 単純に、啓自身と阿頼弥の繁栄を尊重しての言葉。

 それでも啓に、思う所が無い訳がなく。

 

 

「……だからって、何で花凛ちゃんなのさ」

「何の為に阿頼弥(ウチ)では"近親婚"が認められていると思ってる?」

「でも推奨されてないし、まず明君が決める事じゃないでしょ」

「あぁ、お前が決めろ。だが言わずもがな花凛は優秀だ。『眼』の練度なら()()()()()()し、"複数持ち"でもある。術師としての才能は禪院真希よりも圧倒的に上だ。アイツになら安心して阿頼弥家を任せられる」

「い、いや、僕が言いたいのは」

「──おい」

 

 

 啓の声が引っ込んだ。

 記憶にある声とは別人じみた、恐ろしく低い声が耳朶を打ったからだ。

 

 ……程なくして、明の背後にその人物の姿を捉えた。

 今にも血が出そうなくらい血走った目付きで明を睨んでいる。

 

 啓には、次の展開が何となく想像できた。

 

 

「何て事言っちゃってくれてんだこのクソバカ兄貴がぁぁぁあ!!」

 

 

 柔道。裸絞。しかもめちゃめちゃ本気。

 ……おおよそ女の子が繰り出したとは思えない一撃だった。

 

 

「何でこんな公然の場で言った!? しかもよりによって啓従兄さんの前で!! アンタ馬鹿か!? 馬鹿以外の何だって言うんですか一級術師野郎オイ! 今すぐ兄貴やめてみるか!? あ"ぁ!?」

 

 

 ご本人登場、阿頼弥花凛。

 普段は敬語の筈だが、羞恥と怒りのあまりブレてしまっている。

 ちょっと面白いと思ったのは内緒である。

 

 

「ま……待て、花凛っ……何をそんなに怒っている、ま、さかっ……っ、結婚が嫌なのか……っ?」

「んな訳ないでしょうむしろストレートど真ん中バッチコイって何言わせんだコラァ!!」

 

 

 絞める腕の力が更に強まる。

 だが花凛の鬼気にも負けず、その手を掴んで明は言い放った。

 絞まっているので、あまり声は出なかったが。

 

 

「なら、恥ずかしがるなっ……お前はもっと自信を持て……! 術師としてだけじゃないっ……容姿もスタイルも愛想も良い……! 自慢の妹だ……っ」

「だークッソ憎めねぇ自己肯定感爆上げお兄さんですかアンタ!」

 

 

 阿頼弥明。十六歳。

 第二分家出身。一級術師。相伝の一つを有しており優秀。冷静で冷徹。

 ただし阿頼弥啓、及び妹の事となるとブッ壊れる。

 

 

「安心しろ……っ、禪院真希に負ける要素なんて胸くらいのもの──う"ッ!?」

「シメるぞテメェ!!」

 

 

 いや絞まってる絞まってる──啓は心の中で叫んだ。

 

 

「お、おーい阿頼弥? だ、大丈夫か……?」

「舎弟よ、これは一体どういう状況だ?」

「ゆ、悠仁ッ、良かった! 一人だったらもうすぐリタイヤしてた……っ」

「おぉ、マジでナイスタイミング俺……」

 

 

 やがてそれから三分。

 啓の懇切丁寧な説得を経て……何とか花凛は森の奥へ去って行ったのだった。

 

 

 






 十話、読了ありがとうございました。
 何だかんだ呪術廻戦って兄弟姉妹のキャラクター多いですよね(伏黒姉弟、禪院姉妹、パンダ姉兄弟、日下部兄妹、冥冥憂憂、九相図兄弟等)。
 そういう意味では本作の兄弟姉妹達を軽いキャラクターにしなくて良かったーと思いました。

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