十二話です。
怖過ぎてあんまり小説情報は見てなかったんですけど、思ったよりお気に入りしてくださってる方多くて嬉しかったです。あと評価してくださった方も!
ホントにありがとうございます!
帳の端で法坐は寝転んでいた。
彼の下には、十六人の死体を積み重ねた即席の台座がある。
「……は、ハハハハハッ!」
そして「眼」に映ったものを見て、思わず立ち上がり、天蓋の下をこれ以上無い程に歪ませた。
「漸く、漸くお披露目だ……いやぁ長かった。ありがとう全空、君じゃなきゃあのカードを切らせるのは無理だった」
期待と歓喜が堪え切れず、声に滲んで溢れている。
見えない筈の
「あれが阿頼弥啓の"真蹟"……あんなトンデモない代物ならそりゃあ隠すよねぇ」
阿頼弥啓は、任務時における真蹟の使用を頑なに拒んできた。
阿頼弥家もまた、その情報だけは徹底的に秘匿してきた。
今、理解した。
アレは強過ぎる。呪術の常識を児戯のように覆すモノだ。
法坐自身、喜ぶと同時に驚いている。
一体何を引き換えにすれば、あれだけの力を得られるのだろう。
「ま、何はともあれ後は観察だ。せいぜい長々と戦ってくれよ、全空」
(使えない)
啓は揺るぎない勝利への確信を抱きつつ、自身に起きた異変を感じ取っていた。
余裕と殺意の表情には、深い思考の様相も含まれている。
(
帳が降りてからずっとその状態に陥っている。
元凶であろう帳を改めて見やる。この帳の正確な効果と、相反する欠陥を探る。
(中の人間に術式効果を与える帳……相当結界術の得意な人がいるんだな。しかもこの術式は──)
自身に起きている異変。
術式が使用できない。というより、使う選択肢を封じられているような。
この感覚を知っている。いつもは啓が相手に強いる側で。
これは間違いなく、術式の
すなわち。
(
その事実の重大さ、同時に生まれる疑問に顔を顰める啓。
(……でも対象を僕だけに限定したとして、ここまでの術式効果は流石におかしい)
術式との融合までならば、まだ高過ぎる技術により説明が付く。
だがそれを加味し、対象の限定を差し引いても、この結果はあまりにも出来過ぎている。
"阿頼弥啓の神決呪法"を禁止する為には、もっと「引き」が要る。
(体の一部や身体機能……いや、
嫌な推測に啓が辿り着くのと同時、思考の外では全空が立ち上がっていた。
先の一撃は直撃した筈だが、流石に特級呪霊、タフである。
思考を切り替えるのにも丁度良かった。
「貴様が……阿頼弥啓か」
「………」
「
天災より産まれた全空。
肉を得る前の、意識だけがあった頃の時間を思い出す。
永い、時間。ずっと見ていた。
「いつも醜かった」
掌を向ける。一条の爆風が放たれ、啓に向かう。
全空は一瞬笑みを浮かべ……その後、眼の前の光景に愕然とした。
「な……っ!」
浴びせた風の波濤は、啓の拳撃と激突し、拡散していた。
変わらず冷たい表情の啓を見て、察知。
(式神がいない──後ろ)
背後。女神の気配。
と。考えた時には既に、純白の大剣が体に触れていて。
刃の無い鈍器のような大剣だが、それ故の想像を絶する重みが、遅れて意識に刻まれた。
小石のように吹き飛び、折れた木々の道ができていく。
前へ流れる視界。凝縮された時間。全空は自らに追随する女神を見た。
大剣が振りかぶられているのも見える。
「カッ……ハ!」
地面に叩き付けられ、跳ね返った所をさらに打たれる全空。
凄まじい速度で空に線を描き、一際大きい城閣に激突して止まる。
「ク、ゥ……ッ」
回廊の壁の穴が複数連なって、外の景色が見える。
航空戦闘機のように迫る女神が見える。
大剣の刺突と共に、女神の巨体が建物の一角を削り取った。
しかし、剣先に全空の姿は無い。
「滅べ怪物めが。
女神の頭上。屋根が破砕し、開けた宙に翻り大剣を躱した全空。
伸ばす腕、指先は掌印を結んでいる。
「
炸裂する風の斬撃。建物に線が走り、一息に両断する。
だが同じように斬撃が触れた女神の体には一切の傷が無い。
全空は女神の背後に着地し、さらに別の術を起動しようと掌印を組むが。
「──おい」
首を刎ねられ、た気がした。
全空は咄嗟に首を触った。ある。
声。
頭上から差した声に、一気に意識を持っていかれた。
敵である全空や女神の動きすら止める程の、冷たい声。
壊れ掛けた屋根の梁に立つ人影。
逆光に映る神童の影。──影が、フッ、と消えて。
「ガ──ッッッ!!?」
鋼鉄の柱が刺さった。
全空の腹に広がった痛みと衝撃は、まさにそれだった。
現実は、啓の呪力強化された蹴りというのが正体だった。
森の中へ突っ込み、土煙と轟音が地面との激突を知らせた。
「僕の命令無しに動いたな、真蹟。それに建物も壊し過ぎだ」
だが、怒りの矛先は全空というではなかった。
ただ目障りで、一度この場から取り除いただけだった。
「これで
女神は動かない。
ただしその停止は、啓の命令によるものではなかった。
この場合命令ではなく、真蹟自体の意思によるものであった。
本来式神術とは、術師に従属し制御を離れる筈のない術式。
だがその中で唯一、啓の真蹟だけが独自の「行動理念」と「制御」を有する。
対象の善悪の度合いを完全数値化し、「悪」と判定した者に見境なく攻撃する。
それが強大過ぎるが故の制約。
術師を主と認めぬ限り、己の指針に従い術師の支配下を離れる。
幼少期の啓ですら一度扱い損ねた。
十年前の「暴走」を機に、使用を禁じてきた。
「三度目は無い。次命令を無視したその時は」
しかしだからこそ。
意思を持つからこそ、真蹟は抗えない恐怖を感じてしまっている。
「
その本気。その異常。その怒り。その狂気。
歴史上最強の真蹟に、誰が主かを刻み込むには、充分過ぎる程に。
「
そこで横合いから割り込んだのは、竜を模った雷三条。
立体的な折れ線を描いて啓達に迫っている。
だがそれらは女神の間合いに入った瞬間、霧のように散った。
女神が
「よし。それで良い」
その結果に満足して、啓は改めて全空を見やり、掌印を結んだ。
普段とは別人のような、鋭利な殺意を湛えた眼が全空を見ている。
緑の眼が。
「後はお前だけだ」
「──っ!?」
眼が、合った。
次の瞬間、全空の意思とは裏腹に、不意に体勢が崩れた。
「な、んだ……体が……っ」
そのまま体勢を戻す事も叶わず、重力に従い、全空は落下を始めた。
この時だけは、特級呪霊である全空でさえも通常の生命であるように見えた。
だが、その様を見て容赦を掛ける神童ではない。
「グゥ……ッ!!」
建物からほぼ水平に跳躍した啓は、速度を落とさぬまま突き出した拳を全空に捩じ込んだ。
全空はその運動エネルギーを受け、同様の速度で地面に激突した。
「ぐ、っ、ハァ……っ」
薙ぎ倒された木々の先で蹲る全空は、受けたダメージよりも自らに起きた異変に困惑していた。
(体に力が入れられない。強制的な脱力、重力が重い……呼吸が労働のように感じる。極め付けは──)
自分の物ではないかのように操作が覚束ない。
術式による滞空が解けたのも、落下の受け身が紙一重だったのもこれが原因だ。
(何が起きている……ッ)
理解。理解を隔絶した現象が起きている。
倦怠感で思考は纏まらないが、誰の仕業かは、確実に分かる。
「阿頼弥啓ぇ……ッ!!」
既に戦意を喪失するに十分な状態でありながら、全空はなおも敵意を燃やし、遠くの啓を睨み付けた。
その──視線の先。視界を埋め尽くす鋭い光。
未だ立ち上がれずとも、全空は咄嗟に身を捩り、ソレを躱した。
全空の頬を掠り、後方の地面諸共抉り飛ばしたのは「光の矢」。
長さ三メートル程のソレが爆発のような土煙を噴き上げた。
「……っ、化物共……!」
その威力を前に、自身が呪霊である事を棚に上げて全空は吐き捨てる。
女神と神童。両者は既に前方に立ち並び、全空を睥睨している。
弱々しく立ち上がりながら、全空は少年の方を睨み返した。
「貴様……っ、『コレ』は一体何だ……!」
全空に起きる異変。全てはこの男が元凶だ。
より正確には、女神の左手にある天秤が、である。
「因果応報だよ。天秤が傾いて、報いを受けたんだ。
語る少年は酷く穏やかで、だがいつもの笑顔は面影の欠片も無い。
発される声は、無機質なものばかりで。
「善には加護を。悪には呪詛を。罪に相応しい罰を受けなさい」
全ての真蹟は「
何の偏りを操るかだけが術師各人で完全に異なり、真蹟の性能を左右する。
例えば啓の場合、"因果応報の偏り"を操作して、「報い」を現実にする。
人と呪霊。術師と呪詛師。善人と悪人。
因果応報は全自動ではなく、善い方にも悪い方にも何もしない。
その
阿頼弥家の歴史上最強の式神。その力の一端である。
(……要は呪詛か。加えて二対一。否、連携取られれば形勢は三対一より厳しい。式神の方の攻撃は直撃すればほぼ致命。阿頼弥啓の攻撃を捌きながら無傷で式神をいなし反撃……笑えない難易度だ。とかく、最優先は……)
そこで思考終了──の、直後。女神の大剣が地面に激突した。
「……。何だ?」
噴き上がる砂塵と地面の大きな傷。その破壊の中に、全空の姿はなかった。
眉を顰める啓の眼には、剣に重なった全空の「虚像」が映っている。
術式による幻。しかも啓を欺く程の精度。
(蜃気楼、みたいなものか……にしても、この呪詛を初見で術式行使できるのか……)
呪力操作がグダれば術式の精度も落ちる。
初見でかつ、この短時間で術式を成立させられる術師は五条悟くらいだと踏んでいた。
このタイミングでの全空の術式行使は完全に想定外だった。
(今は森の中に潜伏……しかも"
加えて、天秤の効果には制限範囲がある。
それを知ってか知らずか、全空は現在範囲外へ脱している。
だが呪力の気配を察知できている以上、また接近して効果範囲内に引き込めば良い。
──全空の決定的な"異変"は、その矢先の事であった。
「晴模様──【
「は……?」
感知していた呪力の気配。それがこの一瞬で、十倍に増えた。
総量が、ではない。──
今、啓の眼には十人の全空が映っている。
(さっきと同じ幻覚……本体と同等の呪力すら感じる。"眼"が使えない事を解ってやってるなら超厄介…………あれ)
そして自分で考えながら、啓はその違和感に気付いた。
それは小さな、しかし明らかな矛盾であった。
(この幻、
「
啓の思考の途中で視界が光に眩んだ。
全空達の背後にある光輪から、陽光の如きレーザーが無数に降る。
即時、真蹟は啓を守る為に剣を薙ぐ。回転斬りが光線を霞のように掻き消した。
また斬撃の風圧が土を巻き上げ、そのまま増殖した全空をも飲み込んでいく。
同時に啓は距離を取る為、上空へ跳ぶ。真蹟の手に乗って滞空する。
(虚像は呪力籠ってるけど体にも攻撃にも実体はない。いやでもどの攻撃が本物か分からない以上、虱潰しに迎撃するしかないな)
そう結論付けた所で、囲むように五体の全空が現れた。真贋の判別はつかない。少なくとも肉眼と呪力感知では。
やがて、全空五人の両手それぞれから膨大な白光が溢れ出す。完全な目眩し。
虚像の攻撃に殺傷性は無くても、陽動には十分。
(……にしても、これだけ有用な能力なら最初から出さない訳ない。この呪霊……)
即座に真蹟の手から降下し、追撃のレーザーを躱す。
地面に降り立ち、上方を見上げる。正確には、今もなお異変を起こし続けている空の呪霊を。
(今進行形で成長してるのか……?)
全空は虚像と共に降りてくる。二対多の構図で睨み合う両者。
膠着、静寂はほんの一瞬。張り詰めた空気の爆発直前。啓はまだ思考している。
(──やるしかない)
「晴模様──」
一方の全空。
考えるよりも早く畳みかける。先程よりも更に速く術式を行使する。
阿頼弥啓が術式を制限されている今しかできない目眩し。時間稼ぎ。
を、活かして攻撃を叩き込む。今しかない。今しか──。
(?……眼が合っ)
啓の七時方向から接近する全空。が見ている先。
全空の視線と、肩越しに振り返る神童の視線が……ぶつかった。
少年が笑ったと同時、背後の女神の姿が消えた。
頭上に影が差して、眼の前に白剣が見える。
「──」
一閃。剣の音色。甲高い音が鳴り、次いで空気が破れた。
軟い地面は軽く爆ぜて、土砂と岩を噴き上げ撒き散らす。同時に衝撃波も発生し、森を激しく揺らしている。
約十秒はそういう、爆発的な斬撃の余波が続いた。
砂埃が晴れて、ゆっくりと森の姿が見えてくる。
爆心地の近くに、打ち捨てられたように全空の姿があった。
辛うじて右腕が無いだけに留まっている。
「ぐ、う……ハァ、ハァ……っ〜……」
「ゴホッ、ケホ……あハハッ、頭いったぁ。危うく意識トぶ所だった……っ」
倒れ伏す視界の外から、歩いてくる音が聞こえる。
見るまでもなく、この破壊を齎した元凶だ。
全空は堪らず、心に渦巻く疑問をぶつけた。
「ハァ、ハ……っ、何故、世の位置が……」
「僕の術式の事聞いてるでしょ? ハァ、僕は三つの術式を同時に使えない。っ、特に真蹟との併用はほぼできない」
常人に比べれば遥かに高い啓の処理能力も、相伝の術式が三つとなれば十分とは言えない。
真蹟のブランクも加味すれば、現状三つの中で最大の性能を発揮できるのは三千世識と神決呪法の組合せのみ。
処理の負荷の割合は三千世識が四割、神決呪法が六割。
対して今真蹟の割合は──
神決呪法はもちろん、三千世識との併用すら二秒も保たない。
故に、帳で神決呪法の方を封じた。
結果啓は真蹟の使用を余儀なくされ、三千世識も使えなくなった。
「だから
脳へのダメージの影響か、困憊した呼吸と口調を見せる啓。
しかし一か八かの賭けが成功した事もあってか、ハイになっている。
慌てて全空は立ち上がる。
少年が緩み切っている今の内に、右腕を治し態勢を立て直す。
「まだやるんだ……?」
「愚問だ……っ、晴模様──【日禍輪】」
光背。現出する光輪。
ほぼ同時、全空の姿が消える。
再び、苦渋の三千世識瞬間併用。次に見えたのは、左の拳だった。
瞬くような速度で、殴り掛かられている。
そう認識した頃にはもう拳は直撃していた。
「う……ッ!」
低い打撃音が響き、啓の体が浮く程仰け反──。
った瞬間、その右手がギリギリ全空の腕を掴んだ。
「あーもう痛ったいなぁ……!」
「ッ!」
痛いのは頬か脳か。
術式瞬間行使によって、今度は動体視力を強化し全空の超速を捉えた。
離さない。異常な握力。
塞がっていない左手の方には、当然呪力が集まっている。
目を見開いて、啓は獰猛に笑っている。
「ガッ──!!」
銃弾のように全空は吹き飛ばされる。ちぎれた左腕を残して。
左腕を捨てると同時、すかさず四人の全空が四方から飛び出して来た。
(は? いやいや今本体は向こうに……)
吹き飛ばしたばかりの本体の位置は当然把握している。三千世識を使うまでも無い。今囲んでいる四体全部が虚像。
意味の無い行為だと断じる……が、違和感。
刹那の思考が凝縮されて駆ける。
「晴模様──【
「風模様──【
「雪模様──【
「雷模様──【
次の瞬間。
各虚像が放つ強烈な圧に啓は目を見開き、即座に跳んだ。
続いて啓がいた位置を、光の大剣、風の斬撃、氷の刃、雷の刀身が一斉に撫でた。
相互干渉で四つは拡散し、焼け焦げた木々、抉れた地面、凍った草花等が辺り一面に広がった。
その惨状を、直上十五メートル程の高さから見下ろしている。
「……何で虚像と攻撃に実体が……ここまでブラフだった?……いや、順当に考えるなら」
浮遊する真蹟の手に乗りながらその事実を確信する啓。
ほんの一分前まで実体の無い、陽動要員の蜃気楼だった筈だ。
それがまさか実体を得た上、独立して術式を行使してくるなんて、流石に予想外だ。
「あぁ……
ましてそれ自体が陽動である事など、もはや本人にしか知り得ない。
「晴模様──」
高まった呪力と膨大な光に気付いて、啓は咄嗟に空を見上げた。
砲身。
それは砲身だ。大小様々な光輪が連なり、形を成している。
砲弾は巨大な光の奔流。砲門は直下、啓と女神を向く。
……たぶん、幻覚を応用して隠してたんだろうな。
淡々と、心の中で答えが出た。
「【
待ってくれる訳が無く。
程なくして、極大の光線が放たれた。
──のと、帳が消えたのは同時だった。
神童は見た。笑った。
「『逸れろ』」
真蹟を解除。
三千世識を起動。
そして懐かしさすら感じる命令語。
極光は明後日の方へ折れ曲がり、地面に着弾。林一帯を飲み込む爆発が起きた。
「……あっはは」
強力な術を傷付いた脳で逸らすのは不安も反動もあったが。
不思議な事に、痛みは一切感じなかった。
ひたすら清々しさだけが頭を泳いでいた。自然と笑みが溢れてくる。
「──。──『吹っ飛べ』」
爽やかな笑顔のまま、特級呪霊をブッ飛ばした。
戦闘機めいた速度で全空は空を横切っている。
『っ、な、全空!? 何故貴方が……!?』
地面を炸裂させて全空が着弾した先は、同胞たる花御の近辺であった。
突然地面に激突した仲間に、花御は驚きを隠せない。
「くっ、ぬぅ……聞くな花御、それより撤退だ……死ぬぞ!」
瞬間、花御も全空の焦りに気付いた。
だが遅い。神童が自由を得た以上、全空だけに留まらない。
「『止まれ』」
「ッ!」
『ぐっ!?』
花御もまた、聞こえない筈の命令語に囚われた。
「すいません、今はこれが限界です……後は……お願いします」
啓は掠れゆく声で、遠くの頼もしい気配に呼び掛けている。
もう一人の最強。任せておけばもう大丈夫。
「OK」
それに応えるように、あちらから膨大な呪力が噴き上がった。
「他でもない君の頼みだ。──任された」
美しい紫の光が森の中から巻き上がる。
それはかつて学校のグラウンドで見た最強最大の破壊の力。
緻密に過ぎる術式は、無限と無限をぶつけ合わせ、質量を生む。
一瞬で、点が線になる凄まじい速度で、「むらさき」は森を通り抜けていった。
なぞるように、全てを線状に抉り抜いた。
仮想質量通過の余波は突風となり、啓の頬と木々を撫で付ける。
「……はは、さっすが………………」
俄かに、啓は倒れた。力無く地面へ突っ伏す。
自分以外を守れた事に、安堵しながら。
十二話、読了ありがとうございました。
神決呪法を複合した帳、真蹟の固有能力、主人公の術式併用、あるいはこれまでの話においても、不明な点や違和感を覚えた点は多いと思います。
なので交流会編終了のタイミングで一度本編で説明し切れなかった部分について言及します。
恐らく次話で交流会編は終えられると思うので。