君に傾く天秤   作:ウルトラレア

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 十七話です。
 起首雷同編になります。


 ※以下、自分で人物の音声を考えるのが面倒だなという方のみ参考にしてください。


 ・弟(理想CV:鈴村健一)





第十七話 貴方が見ている先は

 

 

 

 富山県。

 道を挟むように木が生い茂る仄暗い車道には、酷く寂れた小さな祠がある。

 三名の男子高校生の失踪例と、祠から伸びる「腕」の目撃談が挙がっている。

 

 

「おそなえ、なさい。そ、そなえなさい……!」

「『死ね』」

 

 

 神決呪法。生の禁止。

 準一級以下の呪霊であれば基本無条件で効く。

 任務終了。

 

 

 岐阜県。

 とある山間の、とある村落の、とある池。

 真っ暗な水面に不気味な人の顔が見えるという記録が残っている。

 

 

「おね、おねえちゃんガ、ガガがとって、とってきてあげるるるん」

「やっと出てきた。じゃあ──『死ね』」

 

 

 生の禁止。以下略。

 任務終了。

 

 愛知県。

 新東名高速道路。一般車両と並走する「鬼」による事故が頻発。

 

 

「た、たっちしたら、お、おに、こうたい……!」

「『死ね』」

 

 

 以下略。

 任務終了。

 

 静岡県。

 密集した住宅街を二分する鉄道路線。

 子供の交通事故が相次ぐ踏み切りには、何やら「大きな女」の目撃例が付随している。

 

 

「さぁ、わたって、こっちへお、おいで」

「『死ね』」

 

 

 以下略。

 任務終了。

 

 以下略。

 任務終了。

 

 以下略。

 任務終了。

 

 

 ……そして車内。

 運転手は伊地知。後部座席には啓が座り、一息吐いている。

 

 

「本当にお疲れ様です阿頼弥くん。本日の仕事はこれで終了です」

「いえ、まだ大丈夫ですよ。伊地知さんこそ運転し通しで大丈夫ですか?」

「あはは、私こそ五条さんで慣れてますので、問題ありません」

 

 

 心の中で「良い子……!」と叫びながら、丁寧にハンドルを切る。

 スケジュール的に少し急ぐ為、追い越し車線をできるだけ活用する。

 

 

「えっと……明日は埼玉でしたっけ?」

「はい。あぁただ、その任務に限り一人同行者が追加派遣されます」

「同行者?」

「なので朝早くになりますが、まずその方を迎えに行きます」

 

 

 


 

 

 

 鯉ノ口峡谷。八十八橋。

 山の只中にあるその一本橋は、自殺の名所として有名な心霊スポットでもある。その為自殺防止の高い柵が橋の両側に立っている。

 手狭で窮屈な印象が、夕暮れである事と相まって、不気味な雰囲気を増大させる。

 

 だが何より、そこは最近頻発している呪霊被害の元凶と目されており、既に四名もの死者を出している。

 被害者らは皆同じ中学校の所属で、過去全員がこの八十八橋を訪れた事があるのだという。

 

 今は車も通っていて、常人が抱くような恐怖はあまり無い。

 しかしそれでも、呪術師である彼らの警戒はそう簡単には緩まない。

 

 

「ちょっと、呪霊の呪の字も出ないじゃない」

 

 

 ……筈だった。

 夜が明けても収穫は皆無。本当に文字通り呪霊の呪の字も無い。

 車が通る度、不思議そうな眼で見てくる運転手やその家族の顔を釘崎は当分忘れられそうにない。

 黒服の少年少女が並んでガードレールに座っていればそうなるのも頷けはするが。

 

 

「ったくやってらんないわ。さっさと新田ちゃんに回収してもらいましょ」

「腹減ったな。コンビニ寄ってもらおうぜ?」

「まぁ徹夜だしな。流石に何か腹に入れねぇと……おい虎杖」

「ん? もしかして呪霊いた?……って、あれ」

 

 

 流石の伏黒も空腹の様子であったが、すぐに表情を変え虎杖の肩を叩いて視線を促した。

 後方に何かを見つけたようで、茶化しながら振り返る虎杖であったが。

 

 橋の入口で手を振る人影を見つけた。

 

 

「阿頼弥じゃん!……と、もう一人あれ誰だ?」

「確か、京都校の……」

「花凛って言ったかしら。真希さんから聞いたけど従妹らしいわよ」

「髪の色全然違うのすげえな」

 

 

 そう呟きながら虎杖はいの一番に走っていく。

 後ろの二人も追随し、五人は合流する。

 

 

「交流会でも面識はありますが、改めまして阿頼弥花凛です。どうぞよろしくお願いいたします」

「俺虎杖悠仁、よろしくな!」

「伏黒恵だ。交流会の時は世話になった」

「釘崎野薔薇よ。花凛で良いかしら? 京都校は女子多いのね」

「えぇ、ありがたい事に。呼び方は何でも構いませんよ」

 

 

 花凛の阿頼弥家らしい丁寧な自己紹介に続き、軽口も混ぜながら各自挨拶を済ませていく。

 そして話の区切りに合わせ、その疑問を最初にぶつけたのは、冷静な伏黒だった。

 

 

「それで、二人は何でここに? 助っ人……は無いか。って事は引き継ぎか?」

「いや、それが全くの別件でさ。偶然僕らも埼玉だったんだ。ただ……」

「ただ?」

「結構調査した限り、どうも()()()が怪しいみたいなんだよね……」

「山って……これか?」

 

 

 伏黒が親指で指すのは、八十八橋が掛かる峡谷の大元。

 広大な山を覆い隠す山林はそこはかとなく恐怖を掻き立てる。

 虎杖が素直にツッコんだ。

 

 

「……それ本当に偶然?」

「うん。僕も思った。遺族の話聞いた感じ、死者の幻影を見せて洗脳するタイプの呪いらしくて、山自体も霊的な『場』みたいなんだよね。でも被呪者の出身地が八十八橋の方と丸被りしてて最近まで同じ呪いって判断されてたんだけど、伊地知さんが違和感覚えて調べ直してくれたんだ」

「……八十八橋の呪いでそっちの呪いをカモフラージュする狙いだとしたら、根本は呪詛師か?」

「もしかしたらね」

 

 

 あの啓が断定していない時点で、何となく察しが付いた。

 現在内輪揉めが起こっている阿頼弥家とは言え、その力が未だ根強い東日本で事を起こせる呪詛師は限りなくゼロに近い。

 

 そのゼロに近く、ゼロではない輩をこの場の五人は知っている。

 

 

(まだ天蓋の呪詛師かは分からない……抑えろ。ムカつくけど抑えろ。冷静に)

 

 

 


 

 

 

「あ〜……ムカつく」

 

 

 荘厳さと和の奥ゆかしさを併せた屋敷の一室で、気怠そうな顔をしながら玄は凛とした空気を打ち破った。

 

 長野県。

 宗家と第二分家の中点に位置する第十三分家が、各分家当主の歴々が集まる会合で使う部屋を保有する事となっている。

 

 その伝統的な大部屋を、今はたった一人が占有している。

 広々とした畳の列には、埃は疎か、汚れの一つも見られない。

 使用人の手入れが優れているのだろうという、冷静な思考もまだある。

 

 

「遅過ぎだろ……呼び出したのが俺だとしても一応宗家の側なんですけど……!」

 

 

 胡座に頬杖をつきながら、何なら貧乏ゆすりまでかましてしまう玄。

 誰もいない広間に規則的な座布団の音が響く。

 しかし噂に寄せられてか、その音に紛れて襖の奥から足音が接近してくる。

 

 

「いやぁ〜悪い悪い! ちょっと遅れた! 途中コンビニ寄ったら運悪く強盗が入って来てなぁ、まぁ事件自体は何とかなったんだが警察の事情聴取振り切るのがもう大変で!」

 

 

 豪快に襖を開け入ってきたのは、黒の長髪を一つに縛った男。

 玄よりも濃い藍色の瞳。一見女性のようにも見える男の名前は、阿頼弥雹霞(あらやひょうか)

 

 

「一時間はちょっとじゃねえよ! 少しは悪びれろってんだよテメェ!」

「えぇ〜、でもちゃんとLINEで遅れるって言ってあったじゃん」

「限度ってもんがあんだよ! あとサラっとコンビニ寄ってんじゃねえよどうせお前今日も寝坊したんだろ!?」

「ッ……はい〜? 証拠あんのかよ証拠〜! 何時何分何秒の寝坊だよお〜い!」

「花凛ちゃんからのメッセージ。十一時五分の寝坊だ」

「Oh My daughter〜!?」

 

 

 阿頼弥雹霞。第二分家代十四代当主。

 宗家に近い力を持つ上位の分家の中で、最も力を持つ男であり。

 京都校一年、明と花凛の実父でもあり。

 そして阿頼弥玄と血を分けたたった一人の()でもある。

 

 子供じみた言い争いを終えた二人は、敷かれていた座布団に座り居住まいを正す。

 

 

「ハァ……あーもう良い。サッサと本題入ろうぜ。例の紛失した呪具の調査の件な」

「あ? 何言ってんだ? それと最近の諸々の騒動への対策もしなきゃだろ」

「っ……あぁ、まぁそうなんだが」

 

 

 僅かに瞳孔を細めるのみで、特に反応もなくその注意を受け入れる玄。

 お前がそれ言うのか、とは口が裂けても言わなかった。

 

 

「内部調査についてはそれとなく把握してる。相当時間かかってるみたいだな。ぶっちゃけ今進捗どのくらい──」

「いや、つい最近の調査で大きく進展した。あくまで状況証拠からの消去法だが、一人容疑者がいる」

 

 

 雹霞の言葉を聞いて、頬杖を突いていた玄は思わず顔を上げた。

 進捗はゼロに等しいとばかり考えていた事もあり、その返答は寝耳に水であり、情けない声も出るというものだった。

 

 

「……は? もう目星付いたのか……?」

「あぁ。現時点では──」

 

 

 そして雹霞は告げる。

 阿頼弥家の秘宝を不遜にも掠奪した元凶の名を。

 

 

「が最も怪しい」

「そ、そうか……いや、俺も何となくそう思ってたけどよ」

 

 

 第二分家の調査より以前に、呪具紛失事件を嗅ぎ回っていた事は一応伏せておく。それは第二分家が信用ならないと口にするようなものだ。

 まだだ。それを言って警戒させるべきではない。

 

 

「とにかく、第二の呪具で第二の人間の不始末だ。ケリはこっちで付ける。悪いが手を出さないで欲しい」

 

 

 そう。結局こうなるのだ。

 第二分家。宗家に次ぐ西の大家には固有の秩序と風習がある。

 こういった事案には宗家の干渉が及ばず、処分を第二に一任しなければならない。

 

 この展開になった以上、まだ雹霞は信用できない。

 何故なら、呪具紛失事件の調査に終了の目処が立ったという事は──。

 

 

「ま、これでやっと宗家(そっち)の手伝いができるって訳だ。凍結させてる分家の人員派遣とか、呪詛師の調査とかな」

 

 

 それはこれまで第二を無視して進めていた作業が、全て第二に毒されてしまう事と同義。

 容疑者が出たとは言え、第二自体は未だ潔白という体裁である。

 この申し出を断る事のできる理由が無い。

 

 

「分かった。なら西側の凍結済みの分家に人寄越してくれ。鹿児島(第八)広島(第五)大阪(第三)和歌山(第十)な」

「了解」

「でも事件自体はまだ完全に終わってねぇんだ。そっちはあくまで補助だぞ」

「分かってる分かってる」

 

 

 あぁクソめんどい……と玄は内心呟く。

 全然一筋縄ではいかない現状が煩わしくて仕方がない。

 きっと処分が終わった後は、第二も本格的に呪詛師調査を称した呪詛師集めを始める。

 

 

(けど一番面倒なのは、コイツに()()()()()()()事だよな)

 

 

 まず一人。「力」を宿して生まれた者がいた。

 阿頼弥命。

 

 また一人。「眼」と「力」を持って生まれた者がいた。

 阿頼弥玄。

 

 そしてもう一人。

 兄と同様に、「力」を得て生まれた双子の弟がいた──。

 

 

(だからコイツは他人に手を汚させるのも、口止めも簡単にできる。なのにこっちは自白も自首も意味が無いと来た)

 

 

 雹霞とは、青年の頃に別れて以来だ。

 十代半ばの時点で、雹霞は第二分家へ移り住む事となった。

 ──恐ろしく才に溢れた、兄の存在故に。

 

 

「……どうしてこうなったかな」

「ん?」

「いや……」

 

 

 少し俯きがちになった顔を、違和感の無いよう戻す。

 そしてもう一度、弟の顔を見る。

 未だに変わらぬ、掴みどころの無い表情。

 

 

「一応報告しとく。捕らえた呪詛師や審問した分家は第三の当主が首謀者だと供述してるし、本人も自分の意思で実行したと自白した」

「……やっぱりか。まぁ宗家と第二を除けば一番可能性が高いのは第三だよな」

 

 

 もちろん、その第三が黒幕を「強制」させられているのは確実だ。

 

 だが証拠が無い。

 始めから分かっている。眼の前の男は一切の証拠も痕跡も残していない。決して残らぬ方法を取っている。

 玄は深い溜息を吐いて立ち上がる。

 

 

「じゃ帰るわ」

「え、もう!? 飯とか食ってかねぇの!?」

「何で寂しそうなんだよ。俺は俺で忙しいの。お前もサッサと帰って自分の仕事した方が良いぜ?」

 

 

 使用人から羽織を受け取って、玄は広い応接間の障子を開ける。

 縁側に出ると、暖かい日差しが玄の青の瞳を照らした。

 未だ明るい時間である事を忘れる程に、この会合に没頭していた。

 

 

「なぁ雹霞」

 

 

 玄はふと肩越しに振り返って、その青い視線を向けた。

 日差しで影になって、それは藍色のようにも見える。

 

 

「……花凛ちゃんって、何回か関東(こっち)側に来てたりするか?」

 

 

 玄が思い出すのは、昔から自分の息子と仲良くしてくれた、弟の娘。

 娘も同然の姪。同じ阿頼弥の家族。

 

 

「……。最近じゃこの前の交流会の時くらいだと思うが……何かあったか?」

「いや、じゃあ気のせいだわ。……またな」

 

 

 


 

 

 

 

「お昼のニュースです。こちらは本日十一時頃、長野県■■市■■町のコンビニエンスストアで強盗事件が発生した際の映像です。強盗犯は店員に銃を突きつけ金銭を鞄に入れるよう要求していましたが、犯行開始から一分後突如として苦しみ出し、その場に蹲りながら倒れました。警察が到着した頃には強盗犯は死亡していたとのことです。この突然死について警察は──」

 

 

 

 


 

 

 

 鯉ノ口峡谷。

 八十八橋。

 

 あの後、一時虎杖達と別れ、山内の調査を行った後に再度合流。

 啓達も呪霊は発見できず、橋の方に何か不審点が無かったか聞こうとした所、八十八橋の呪いに掛かったと思われる伏黒の元同級生が現れた。

 

 話を聞くと、彼女もやはり中学の頃に夜の八十八橋を訪れていたという。

 その影響として、彼女の身にも不可解な現象が実際に起きており、他被呪者と全く同様の供述であった。

 

 だが聞けばもう一人、彼女と共に夜の八十八橋へと行った人物がいるという。

 伏黒津美紀──伏黒の実の姉であった。

 

 

 

 そして現在時刻。午後七時半。

 八十八橋近辺にて。

 

 

「じゃあ、恵君の事よろしくね」

「おう」

「任せなさい。あ、花凛。阿頼弥に変な事されそうになったら全力で叫ぶのよ? 私がついでに祓ったげるから」

「は、はい……!」

「野薔薇さん本当に釘刺すのはやめてね」

 

 

 既に比喩として刺された啓は、でも野薔薇さんならやりかねないと気を引き締める。

 遠くなっていく二人の背中を見送った後、啓と花凛は目的地の方角に向き直った。

 

 

「じゃ、僕らも行こっか」

「了解です」

 

 

 軽快に跳躍して、二人は道なき山道へ入る。

 午前の調査ではゼロだった収穫も、補助監督新田の仮説により一つ可能性が浮上した。

 

 時間帯が「夜」であること。

 そして、結界に入る為の手順があること。

 

 最近の任務ですっかり先入観が染み付いてしまっていたのか、呪霊が結界内にいるケースを失念していた。

 そうなると啓にも心当たりが無いではない。

 自身の家に張られた物ともよく似ているかもしれない。

 

 

(この件の被呪者の何人かが残してる『死者と会った』という趣旨の発言。そして(あかり)さんが言った時間帯と手順の話)

 

 

 ……やがて二人は山頂へ辿り着く。

 中央には廃れた寺社、その入り口には石造の鳥居が立っている。

 啓はその鳥居をまず潜って、振り返った。

 

 

「それを考えると鳥居の潜り方は──」

 

 

 啓はそのまま真後ろへ向かって進んだ。

 今来た道を真逆に、後ろ向きに、過去を振り返るように。

 死者への未練を捨てられなかった被害者と、同じように。

 

 鳥居を潜った先の世界は抜ける前の世界と似て非なるもので、山頂の面積が広がっており、寺社は不気味な形を成し、花凛の姿は無く、また不穏な気配が増していた。

 どうやら、結界の中に侵入できたらしい。

 

 

「ビンゴ。花凛ちゃん、来て大丈夫だよ」

「あの、啓従兄さん」

 

 

 結界外の花凛へと声を飛ばす。

 すると何やら、花凛の方からも声が返ってきて。

 啓はただ自然に彼女の言葉に耳を傾けて。

 

 

()()()()だって、バレてるんですよね?」

「……え」

 

 

 耳を疑った。

 今聞いた言葉を忘れ掛ける程に。

 

 

「だってこの任務、私絶対必要ないですもん。危険度的にもタイミング的にもそうとしか考えられません」

 

 

 啓は知っている。

 本日の日中、宗家と第二分家の当主のみで会合が行われた事を。

 その議題の一つが、例の呪具紛失事件である事を。

 

 結界の縁を隔てて、花凛の表情は見えない。

 ただ弱々しい声だけが聞こえる。

 

 

「ここまで露骨な対応は私に対する警告、というか執行猶予なんでしょうね」

「花凛ちゃん……」

「……。すみません、啓従兄さん……っ」

 

 

 その消えゆくような謝罪を、しかし啓が咎める事はなかった。

 理由は二つ。一つは花凛を取り巻く事情も彼女の気持ちも理解しているから。

 もう一つは──。

 

 

「……いいや。それでも僕には今君の力が必要だ。愚図な僕を、どうか助けて欲しい。……花凛ちゃん、僕はね」

 

 

 中心に位置する寂れた寺社。

 結界外のそれよりも明らかに大きく、捩れ、歪んだ形をしている。

 寺社上空には、両手では数えきれない数の人々が首を吊られて浮かんでおり。

 

 ……その奥の暗闇から、巨大な女の顔と腕がぬるりと現れ。

 

 

「どんな君でも許せるくらい、君を尊敬してるんだ」

 

 

 寺社の両脇から、()()()()()()()が二体顔を出した。

 嫌な予感が確信へと変わる。

 八十八橋の被害に紛れた山内の呪霊。

 更にその被害の奥に潜んだ人為的で執拗な悪意。

 

 虚無僧の悪意に打ち勝つ為に、啓は花凛へ手を差し伸べる。

 

 

「い、いや……ダメですって……私、犯罪者ですよ? 貴方の大嫌いな……な、何で、貴方は……そんな……」

 

 

 結界内から差し伸べられた綺麗な手。

 ダメだ。この手を取る事は許されない。自分の穢らわしい手で、触れて良いものではない。

 

 

 ……分かって。いるのに。

 差し出された手は、こちらが何と言っても退こうとしない。

 その迷いの無さに、打ちのめされたような感覚がして。

 

 上擦った言葉や葛藤とは裏腹に、花凛の手はゆっくりと伸びた。

 

 

 







 十七話、読了ありがとうございました。
 なぜこんなに虎杖達との絡みが少ないんだ……。


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