君に傾く天秤   作:ウルトラレア

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 お待たせしました。
 マジでお待たせし過ぎました。
 本当はすぐに渋谷事変に行こうと思っていたのですが、その前に補完も兼ねた番外編を書きたくなってしまいまして。

 書き溜めているエピソードではなかったので時間かかりました。
 ホンマすいません。ただ番外編は残り二話程予定しています。
 頑張ってすぐ終わらせますんで、何卒見守ってください。


 ※以下、自分で人物の音声を考えるのが面倒だなという方のみ参考にしてください。


 ・阿頼弥家第十二代当主(理想CV : 緒方賢一)






番外編
第A話 懐玉・玉折・玉眼


 

 

 

 物心付いた頃から陰気臭くて嫌な家だった。

 どいつもこいつも、穏やかな顔して腹ん中じゃ呪詛師を殺す事ばっか考えてる。

 そんな家族に嫌気が差していた十九歳の頃。

 

 

 外の世界で、俺は彼女に出会った。

 同じく醜い外の世界の中にあって、彼女は美しかった。

 

 

 三年後。

 俺は父親に成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 悟は最強に成った。

 

 

 任務も全て一人でこなす。

 硝子は元々危険な任務で外に出る事はない。

 必然的に私も一人になる事が増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏油()その夏は忙しかった(その夏は忙しかった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 昨年頻発した災害の影響もあったのだろう。

 蛆のように呪霊が湧いた。

 

 

 祓う。

 取り込む。

 その繰り返し。

 

  祓う。

    取り込む。

 

 

 

 皆は知らない。呪霊の味。

 吐瀉物を処理した雑巾を、丸飲みしている

 

             よ

                 う

       な。

 

            祓う。

 

    取り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                誰の為に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日から、自分に言い聞かせている。

 私が見たものは何も珍しくない。周知の醜悪。

 

 知った上で私は、術師として人々を救う選択をしてきた筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              ブレ

       る

            な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 術師としての責任を果「猿め」たせ。

 

 

 

 


 

 

 

 世界一綺麗な奥さん。世界一可愛い息子。

 世界一幸せな人間になった気分だった。

 ……だった。

 

 

 

 

 啓が四歳になった。

 啓には才能があった。

 世界の常識が傾くくらいの才能が。

 もっと前から予感はあった。産まれた時から何となく。

 

 

 

 その日。

 当主である親父の意向で、啓が修練場に()()されるようになった。

 

 

 朝起きる。

 修業。

 修業。

 朝ご飯を食べる。

 修業。

 修業。

 修業。

 お昼ご飯を食べる。

 修業。

 修業。

 修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。夜ご飯を食べる。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。修業。

 修業。

 修業。

 修業。

 修業。

 寝る。

 

 

 

 

 阿頼弥の象徴になる為のイカれた教育(せいかつ)

 一年は会えないとか、親父はふざけた事をぬかしていた。

 もちろん俺は無視して会いに行った。

 

 

 

 

 

 

 啓は笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間思った。

 この家()えなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 それまでは当主云々に興味なんて無かった。

 それまでは自分だったから良かった。

 

 

 

 

 でも今は俺の息子が、この家の人柱になろうとしている。

 俺は俺にできる事を、精一杯やろうと思った。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 弱者故の尊さ。

 弱者故の醜さ。

 私の中で、その分別と受容がぐちゃぐちゃになってきている。

 

 

 果ての映像(ビジョン)があまりに曖昧な、術師という……マラソンゲーム。

 

 

 

「なんてことはない二級呪霊の討伐任務の筈だったのに……クソッ!! 産土神信仰……アレは土地神でした、一級案件だ……」

「………。今はとにかく休め、七海。任務は悟が引き継いだ」

「…………もうあの人一人で良くないですか?」

 

 

 

 

 

 その果てにあるのが、仲間の屍の山だとしたら。

 

 

 

 

 

 

 

 記録───2007年。9月19日。

 ■■県■■市(旧■■村)

 

 

 

 

 

「これは何ですか?」

 

 

 


 

 

 

 

「なぁ玄」

 

 

 阿頼弥家屋敷。

 中央邸・西邸間回廊。

 

 すれ違った爺が俺を呼び止めた。

 白く色褪せた長髪が天蓋みたいに顔に覆い被さったこの変な爺が、俺の親父だった。

 

 阿頼弥家第十二代当主。

 阿頼弥命(あらやみこと)

 

 

「最近……派手にやり過ぎじゃない?」

 

 

 ……後になって思えば、この家で唯一親父だけは啓と同じぐらいのイカれ具合だったような気がする。

 当然その方向性は全然違うが。

 

 

「人の息子をこの家の偶像みてぇにしようとしたアンタにゃ何一つ言われたかないね」

「いやいや、あれだけの鬼才を"ふつう"の人の子として扱う方が無理でしょ……てか。その"ふつう"の為に阿頼弥の掟を破りまくっとるお前を、儂は息子とて許せんかもしれん」

 

 

 語気を強めて警告する親父に対し、俺は呆れながら返した。

 

 

「はなから許してもらうつもりはねぇよ」

 

 

 現在。

 俺が率いる派閥は「革新派」とか何とか呼ばれていた。

 

 阿頼弥家に対し俺と同じ思想を持てる強い仲間。

 宗家の使用人や分家の術師、その系譜の家、何なら阿頼弥とは全く関係ない人材を引き抜き、宗家に取り立て、信頼できる味方として集めた。

 

 

 そうして親父へ対抗する力を蓄え、啓の為に使った。

 啓の軟禁生活を止めさせた。

 親子三人の時間を取り戻した。

 啓に外の人間と会わせる為の根回しもした。

 啓に"ふつう"の子としての時間をあげた。

 

 

 特に啓が直毘人の姪っ子に恋をした事は、泣きそうなくらい嬉しかった。

 

 

「そうか……時に玄よ」

 

 

 そうなるまでに結局四ヶ月は掛かったし、今でも啓は完全に親父の呪縛から解かれてない。

 それだけこの家における親父の影響力は絶大で、宗家に所属する術師の大半は親父の隷属化にあると言って良い。

 

 

「お前が昔から交流しとる五条家の青年……何か変わった事は無いか?」

「あ?……悟がどうした?」

「いや、知らんなら良いんじゃが……」

 

 

 ……それは言い換えれば、宗家内の情報統制は親父の一存で決まるという事だ。

 

 

 嫌な予感がした。

 俺は急いで(みつ)に悟周りで挙がってきた情報が無いか調べてもらった。

 

 

 そして俺は知った。

 悟の親友が、一体"何"になってしまったのかを。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

・担当者(高専三年、夏油傑)派遣から三時間後。

・夏油傑の呪霊操術による住民の惨殺を阿頼弥第二十九分家所属の「眼」二名が確認。

 

・緊急事態として「眼」の二名は増援要請後、応戦するも死亡。

・派遣された第二十九分家の術師部隊が現着した際には既に村の住民百十二名も死亡していた。

 

 

・夏油傑は現在も逃走中。

・呪術規定九条に基づき、呪詛師として処刑対象となる。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「…………………は?」

 

 

 クソダサい限りだが……マジで腑抜けた声が出たと、結構後になって思った。

 

 

「何度も言わせるな。傑が集落の人間を皆殺しに」

「聞こえてますよ……っ、だから『は?』つったんだ」

「……傑の実家は既にもぬけの殼だった。ただ血痕と残穢から恐らく両親も手にかけて」

「んなわけねぇだろ!!」

「悟。……俺もっ、何が何だか分からんのだ」

「────っ」

 

 

 俺は先生の肩に掴み掛かった。

 辛うじて、胸倉は掴まなかった。

 

 

「……阿頼弥家はっ、玄さんは何してんだよ! こういう時の為にっ……あの人らは居るんじゃねえのかよ……ッ!!」

「お前も知ってるだろう……阿頼弥家は今変革期の真っ只中。玄殿は丁度手が離せない状態にあった」

「くっ……!」

「……実際阿頼弥の『眼』は機能していた。傑の動向も迅速に察知できていた。……恐らくだが、今の当主陣は敢えてその情報を玄殿に伏せた。……それが玄殿との対立に関係するか定かではないが」

 

 

 ピリリリリリッ。

 嫌な想像を語る先生の言葉を遮るように、俺のポケットから甲高い音が鳴った。

 着信元は、玄さんだった。

 

 

『傑君は今新宿だ。すぐ向かえ。……俺との話は全部が終わってからにしよう』

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 新宿駅前広場。

 喫煙者集団の中に紛れた高校生らしき女子。

 彼女に近づく一つの人影があった。

 

 

「火。要るかい?」

「……」

「やっ」

 

 

 前髪の特徴的なロン毛の青年が、満面の笑みで手を振っていた。

 未成年喫煙を棚に上げた上で、少女──家入は返した。

 

 

「犯罪者じゃん。何か用?」

「運試しってとこかな」

「ふーん? 一応聞くけど、冤罪だったりする?」

「ないね。残念ながら」

「重ねて一応。何で?」

「術師だけの世界を作るんだ」

「ははっ、意味分かんねー」

「子供じゃないんだ。誰でも彼でも理解してほしいとは思わないさ……あと、悟への連絡は不要だよ」

「あ、ホントだ。……あのさ夏油。どーせ誰も理解してくれないって腐るのも、それなりに子供だって私は思うよ」

 

 

 家入は二人きりにする為、そそくさと煙草の火を消し立ち去る事とした。

 残された二人の青年。

 夏油はまだそっちの方を向くことができない。

 

 

「流石阿頼弥、情報網が広いね……」

「説明しろ。傑」

「どうせ聞いてたんだろ。それ以上でも以下でもないさ」

「だから術師以外殺すってか? 親も?」

「親だけ特別というわけにもいかないだろ。それにもう私の家族は、あの人達だけじゃない」

「んな事聞いてねえ。意味ない殺しはしねえんじゃなかったのか?」

 

 

 まるで会話が通じない。お互いに。

 同じ惑星でも、別の宇宙にいるかのようだった。

 それぐらい、二人の立つ場所や進む方向は絶望的に真逆だった。

 

 

「意味はある、意義もね。大義ですらある」

「ねぇよ……っ! 非術師殺して術師だけの世界を作る!? 無理に決まってんだろ! できもしねぇ事をセコセコやんのを、意味ねぇっつーんだよ!」

「……。傲慢だな」

「あ"?」

 

 

 そして次の言葉が、五条に消えない傷を刻む事となった。

 最強へ至り、"あっち側"に立った五条に「置いて行かれた」と感じさせる程の。

 

 

「────君にならできるだろ。悟」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 一時間後。

 高専敷地内にて。

 石造りの大階段に座り込む五条の隣で、五条よりもなお頭の項垂れた男の姿があった。

 今にも圧し潰されそうな、そんな様子だった。

 

 

「……親父は別に、今すぐ呪詛師を根絶やしにしたいって人間じゃないんだ。……むしろ生かさず殺さずの状態のまま、一生阿頼弥の権威を存続させようって思考をしてる。……傑君の事もきっと、阿頼弥の威光を更に広める踏み台としか思ってない」

 

 

 それは懺悔だった。

 玄の中で膨れ上がる、罪の意識を吐き出す儀式。

 

 ずっと止めどなく溢れて、今や事件が起こってしまった原因やら何やらまで告白している。

 五条は聞き飽きたとでも言わんばかりに溜息を吐いて返した。

 

 

「だからもう良いって玄さん。……アンタを責める気なんて無いからさ」

「いや、完全に俺の不注意だ……謝っても無意味だが、本当にすまない……っ」

「ったく、こういう時ホント頑固なんだから……」

 

 

 謝罪を受け入れても流しても諭しても、聞き入れる気配のない玄。

 五条は呆れ濃度の高い溜息を吐いた後、朱色の空を見上げた。

 

 

「……。運が悪かったんだ」

「……」

「だってそうでしょ? 玄さんの息子……啓君だっけ? それか天元様があと一年ズレて産まれてくるだけで結果は違った。んで一番近くにいた俺は何一つ傑の兆候を見抜けなかった……本当に玄さんのせいなんて思ってない」

 

 

 無数の記憶を思い返して、幾億のたらればを繰り返して、辿り着いた結論。

 "どうしようもなかった"という結論。

 あまりにも虚しく、悲しい終わらせ方。

 

 

「……でも」

 

 

 しかし五条悟の目は……まだ折れていない。

 死にそうな玄の目とは対照的に、六眼は蒼く輝いている。

 

 

「それでもまだ償い切れないって言うなら……傑の事、俺に任せてくれない?」

「え……?」

「本来呪詛師は阿頼弥が対応すべき案件……でも、これだけは俺がケジメを付けたい」

 

 

 五条はそれが自らの夢であるかのように、拳を握り締めて言った。

 澄んだ青い視線が玄を正面から射抜く。

 さながら青空のようで、思わず目を逸らしそうになる程彼の目は眩しかった。

 

 

「だから協力しよう──呪術界(おれ)と」

「悟……」

「今の阿頼弥ならできるんでしょ? アンタが()えてるんだから」

 

 

 五条は優しく、しかし強い確信を持って述べた。

 その提案は、阿頼弥を変えたい玄の夢と未だ玄の全身に巣食う罪悪感の両方に応える願ってもないものだった。

 

 玄はすぐに言葉を返せなかった。

 心臓に刺さるような暖かい言葉を、あの五条が言った事があまりにも驚きで。

 今までの……正確に言えば一年前までの傍若無人さが、まるで嘘のようだった。

 

 

 そこからは一瞬だった。

 彼の覚悟と願いに全霊で応えようと思ったら、体が勝手に動いていた。

 居住まいは正され、眼差しは強く、五条のそれを鏡に写したように青い。

 

 

「──相分かった。阿頼弥玄の名において、五条殿に全面的に協力すると誓おう」

「へっ、決まりだね」

 

 

 五条は年相応に笑った。それでいて不敵で、また楽しそうでもあった。

 釣られて、玄も口元を緩ませた。

 

 

「…………あ、そうだ。ついでにもう一個お願いあるんだけど」

「ん、何だ……?」

「……禪院甚爾。知り合いだよね?」

「っ……そういやお前が殺したんだっけか」

「うん。アイツの子供に今から会いに行こうと思っててさ、送って欲しいんだ。……で。それが終わったらまぁ」

 

 

 かくして、阿頼弥は更なる変革の一途を辿る。

 二人の最強が一人となり、もう一人がそうではなくなって。

 

 

「噂の啓君にでも,会ってみようかな」

 

 

 唯一無二の最強が、神童と出会うこの日を境に。

 

 

 

 







 番外編、二十話読了ありがとうございました。
 本当にお待たせしちゃってすいませんでした。
 ですが次もやります。

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