君に傾く天秤   作:ウルトラレア

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 二十四話です。
 ホント最近のアニメ神作画多過ぎて戦闘シーンの妄想捗ります。






第二十四話 泥。鋼。炎。

 

 

 

「ナナミーーン!!」

「おイ、虎杖」

「ナ・ナ・ミン!! ナ・ナ・ミン!!」

「おイ」

「ナ・ナ・ナ・ナ・ナ・ナ・ミン!」

「おイ! 早く気付けバカ!」

「え、おおう、どしたメカ丸」

「お前、声がデカ過ぎやしないカ……」

 

 

 21:30。渋谷。

 立ち並ぶ建物の上にて、遠く離れた七海へと声を飛ばし続けていた虎杖。

 たった今情報が入ったメカ丸としては、暫く会話すらできないのではないかと、出る筈の無い冷や汗が流れそうになった。

 

 

「まあ良イ。速報ダ。良いニュースでもあるガ、悪いニュースでもあル」

「良いよ。聞く」

「阿頼弥啓が生きていタ。今も生きていル」

「っ、ホ、ホントか!? 本当に生きてんのか!? なぁ!!?」

「あァ」

「良か……ったぁ」

 

 

 思わずしゃがみ込んで、虎杖は鉛のような空気を吐き出した。その声色には歓喜が満ちている。

 虎杖の喜び様にメカ丸は次の言葉を躊躇ったが、今は機械として機械的に続けた。

 

 

「喜ぶにはまだ早いゾ」

「う……確かにこれじゃただの良いニュースだ」

「あァ。最悪なのは、今の奴には理性が無いという事ダ。言語能力も失っていル」

「は? 何だそれ。どういう事だよ」

「阿頼弥啓を精神的に殺そうとして、殺し切れなかった結果ダ」

「殺されても耐える辺り阿頼弥(ホント)っぽいな……」

「本能によってのみ動く人形、もはや呪霊に近イ。五条悟の封印を解かなければ最悪渋谷の人間全員殺される可能性もあル」

 

 

 虎杖の心境は当然複雑だった。

 友達が生きていた事はもちろん嬉しい。

 この凄惨な渋谷の中でも少し気が楽になった。

 

 だが生きているのは啓であって啓ではない。

 ともすれば殺さなくてはならないかもしれないし、あるいは──殺させてしまうかもしれない。

 

 虎杖が直面しているのはそういう現実だった。

 故にこそ、五条を助けなければならない。五条の力を借りなければならない。

 メカ丸は至極当然にそう考える。

 

 

「……なぁ、それ本当に五条先生しか止められねぇの?」

「何?」

「メカ丸の言う事は正しいと思うよ。理性の無い阿頼弥を止めるなら先生しか居ない」

「そうダ。そんな事、改めて論じる必要もなイ」

「……でも、『あの人』なら阿頼弥自体を元に戻せる気がするんだよな」

 

 

 五条ですら少し怪しいかもと想定しているメカ丸にとって、それは朗報でもあり、悪い冗談でもあった。

 だが虎杖悠仁という少年が、このような事態に虚言を吐く性格でない事は既に把握しているし、支離滅裂な意見を挙げる程愚かでない事も分かっていた。

 機械らしからぬ、神妙な声音で問うた。

 

 

「……誰の事ダ?」

 

 

 対して虎杖は、あまつさえ陽気に返してみせた。

 

 

「真希さんだよ」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 阿頼弥啓という存在の異常さ、規格外さを、私はこの世の誰より知っている。

 ……真希さんとは並ぶかもしれないが、それでも一位タイなのは断言できる。

 

 あまりにも優しく、あまりにも恐ろしく、あまりにも悍ましい魂の持ち主。

 強さ以外では誰一人として代替する事のできない唯一無二の御方。

 

 

(な、に……何なの、アレ……)

 

 

 その認識が、それでもなお浅かった事を今日思い知らされた。

 

 私の視界には白い異形の竜と黒い人型の化物が大立ち回りを演じ、何人も寄せ付けない破壊を撒き散らしている。

 黒い人型の方は眼や口が無く、皮膜のようなものが垂れたりして人外めいた容姿であるが、私が自身の手で殺した筈の想い人だった。

 

 あの竜が乱入して来なければ、私はきっと想い人に瞬殺されていただろう。

 

 

(解らない……何で生きてるの……っ、千年級の呪詛と怨嗟の塊が……いや、そんな生易しいものですらないのに……! そもそも全空さんとの戦闘で相当消耗していた筈でしょ……!)

 

 

 産まれて初めて、啓従兄さんの事が理解できなかった。

 最愛の人が初めて自分の理解を外れた事が怖くて仕方なかった。

 

 

(あの人は……一体どこまで……っ)

 

 

 あの竜は啓従兄さんの真蹟や禪院家最強の式神にも匹敵する強力無比な式神。

 啓従兄さん"だった"モノは、それを()()()()()蹂躙している。

 

 移行された黒い呪力をまるで自らのものであるかのように操り、異常な肉体強化を実現している。

 叩くだけで竜の巨体が軽々と飛ぶ。

 

 時折竜がその膂力と爪で反撃するが、直撃にも関わらず啓従兄さんの体は微動だにせず、かつ無傷だった。

 

 

(……今ので無傷って……あの呪力、どういう特性なの……硬過ぎる)

 

 

 固有の呪力特性故か、体を覆う呪力はもはや鋼鉄の装甲のようであり、外力に対し無類の遮断性を誇っていた。

 そして啓従兄さんと黒い呪力の本領はそれだけに留まらなかった。

 

 空中へ距離を取った竜に対し、啓従兄さんは呪力で象られた腕を()()()、竜の脚を掴んで引き摺り降ろした。

 

 

(意味不明……)

 

 

 呆れ過ぎて乾いた笑いが漏れてしまった。

 そんな私を、世界は更に置いていく。

 愛する人がどんどんどんどん、私を隔絶していく。

 

 

「■■■■■」

 

 

 私の理解できない理屈で生きて。

 私の理解できない言葉を使って。

 私の理解できない力を振るっていく。

 

 地上に落ちた竜に掌を向けて、黒い呪力を集約させていく。

 膨大な呪力が膨れ上がるのに反比例して、呪力の球体は小さく凝縮される。

 

 見れば、啓従兄さんの足元の地面がまるで加熱されているかのように赤く融解し出していた。

 空気の震える音が響き、周囲の砂塵が舞い上がる。

 

 

「すご……」

 

 

 程なくして、燃え盛る業火の如き怨嗟が黒い極光として放射された。

 絵の具で塗り潰すように、真っ黒な光の波濤が竜とその背後の景色を呑み込んでいった。

 

 

「……」

 

 

 私はただひたすら圧倒され、動く事もできず、その光景を眺めていた。

 眺める事できた。啓従兄さんが竜に意識を向けていたから。

 

 

 あれ。

 でも、もう啓従兄さんの注意を引いてくれる存在は。

 

 

「じょ、ぅゴ……は、ハナ、花ミ……ダご……」

 

 

 その時だった。

 尻餅を突いてへたり込む私の近くに、小さな呻き声と重い物を引きずるような音が響いた。

 

 視線を移せば、体の殆どが欠損し左上半身と頭だけになってしまった全空さんが、ゆっくりと何かに向かってもがいていた。

 啓従兄さんと戦ってまだ意識を保っていた事は驚愕だが、流石にもう限界らしかった。

 

 

 視線を前へ移す。

 遠くに啓従兄さんが佇んでいる。彼はこっちを見ていた。

 私は再度全空さんを見た。

 

 

(──あ)

 

 

 私もすぐにこうなるんだと、考えるよりも早く理解した。

 

 

 

 


 

 

 

 

 俺達は不自由だった。

 呪詛師に師や指導者のような存在は基本的に存在しない。

 

 だから誰も、"奴ら"の存在をはじめは知らない。

 知った上で呪詛師になる奴なんざそういない。

 俺達が、自分の力を欲望の為に使う事を決めたその時にはもう、全てが手遅れだ。

 

 

 早い奴は呪詛師になるよりも前、弱者を蹂躙する事に快感を覚え始めたり、殺す事に抵抗を感じなくなったりする頃。

 遅くても呪詛師として本格的に活動を始める頃には、奴らの刺客の第一波がやって来る。

 

 

 奴ら──阿頼弥一族。

 呪詛師即殺を掲げるイカれクソ野郎ども。

 よほど運が良いか自分の力を使いこなせる奴じゃなきゃその時点でアウト。

 刺客の力量が高い場合はそれでも五分。

 

 しかも奴らは「眼」と呼ばれる索敵特化の術師で構成された監視網で、抹殺に失敗してもすぐに俺達の足取りを追って来る。

 奴らはいつだってどこでだって俺達を視ている。

 

 地獄だ。生き地獄だ。

 自由を奪われ、命を狙われ、逃げて、逃げて、逃げて。

 運が良ければ、人脈があれば、逃げ仰せて隠匿生活を送れるかもしれない。

 

 クソッタレな人生。

 俺達は不自由だ。

 

 

「粟坂や、聞こえたか?『五条先生が封印された』。敵方に情報が漏れとる」

「いーいじゃねえか、オガミ婆。俺は漸く実感湧いてきたぜ? 五条悟がマジで封印できたんだったら阿頼弥啓のクソガキもマジで殺せるかもな! 今回の事件が起きた時点で阿頼弥家の失墜も予定調和。ハッハ、興奮してきたぜ」

 

 

 そうだ。

 俺達呪詛師が自由に生きる為の障害は大別して三つ。

 

 一つ、阿頼弥一族。

 二つ、阿頼弥啓。

 三つ、五条悟。

 

 この事件後、一つでも残ってしまえば俺達の負けだが後は阿頼弥啓一人を残す所まで来た。

 

 賭けに出て良かった。

 阿頼弥分家の人間に「阿頼弥家転覆」の誘いを持ち掛けられた時は何の罠かと思ったが、断ってもその先どうせロクな人生を送れねえ。

 

 だったら俺は、俺の自由の為に晩年の寿命を全賭けしたいと思った。

 結果奴らは俺が今日まで大人しくする代わりに、俺の遺体の偽装や痕跡の抹消をして俺の生存を隠匿する縛りを結んだ。

 

 癪だったが、奴らの本気が伝わった。

 そして今、五条悟の封印は成された。

 

 

「これからどーなっちまうのかな日本(このくに)は」

 

 

 

 


 

 

 

 

 時は遡り──21:23。

 渋谷マークシティ。

 レストランアベニュー入口。帳外。

 

 足止め要因として配置された呪詛師の数は八人。

 対峙するのは「阿吽」──祝屠祝。

 

 術式名「真実影法術(まことのかげぼうじゅつ)」。

 指定したモノの影を実体付きで産み出す術式。

 

 

「バカが。こっちは元々禪院直毘人も含めて相手するつもりで来てんだ。一人でどこまで保つんだババア!!?」

「やかましい奴だね、呪詛師(アンタら)の方がバカに決まってるだろうが」

 

 

 まずは後方の呪詛師がアスファルトを固まる前の状態に戻し、祝の足元を拘束。

 続いて正面と左右から遠距離攻撃が殺到する。

 

 一人でに飛来する自動車。

 突貫してくる火を纏った水牛。

 隆起しながら迫る大地。

 

 

阿頼弥(テメェら)への恨みここで晴らさせてもらうぜババア!!」

「ハァ……っていうかよぉ」

 

 

 致命傷必至の攻撃を前に、小さく溜息を吐いて祝は引金を引く。

 

 

「ドッペル(ガン)

 

 

 銃声は八発。

 それは連続ではなく、ほぼ()()()()()()

 "八人"まで増えた祝が一人一発ずつ銃弾を発射したのである。

 

 加えて銃弾は人頭程度まで巨大化しており、発射された速度のまま車や式神、地面の突起を粉砕していった。

 圧倒的な運動量を持ったそれは発射元である呪詛師達をも轢き殺して飛んで行く。

 

 

 一瞬にしてできた凄惨な死体の群れの前で、祝は銃をしまいながら吐き捨てる。

 

 

「ババアって言うんじゃないよバカ共が」

 

 

 戦闘終了。

 祝屠祝。戦闘時間、七十八秒。

 同刻。帳内突入。

 

 

 

 


 

 

 

 

 21:24。

 東京メトロ渋谷駅。

 十三番出口側。帳外。

 

 祝と同様、こちらにも呪詛師が集まっており、数は十二人。

 しかし既に殆どの面子が倒されており、残るはタトゥーの入った寡黙な坊主一人。

 はだけた法衣から覗く肉体とその構えだけで、呪詛師として飛び抜けて強い事が分かる。

 

 

「いと強き子供よ。差し支えなければその棍棒ではなく拳と拳のぶつけ合いを所望する」

「まぁ、良いけど……時間あるし」

「我が術式は『呪印加法』。自ら刻んだ呪印によって肉体に様々な効能を還元する。筋力増強、体力向上、治癒力向上……そして器である体を鍛えれば呪印もまた成長する。……準備は以上だ。そちらも開示すると良い」

 

 

 そう言って微動だにしない坊主に、呪詛師の癖して律儀だなぁと思う久遠。

 

 

「えっと……術式は『天子呪法(てこのげんり)』」

「は?……梃子?」

「……好きなものに力点とか支点とか設定して梃子の性質を適用する。……まぁ、やってみたら分かる」

「フ。愉快な子供だ。……では、そうさせてもらうとしよう!」

 

 

 瞬間。

 地面が凹む程の踏み込みで久遠へと肉薄する坊主。

 突き出すのは右の正拳。小細工やフェイクの一切無い愚直な武力。

 

 何で呪詛師なんかやってるんだ、と思いながら。

 久遠も右の拳を突く。

 

 

「がっ!? なん……っ!?」

 

 

 坊主の右手首までへし折りながら、久遠の拳は止まらず腹部まで抵抗なく達する。

 坊主の想定を遥かに超えた威力は、呪印による強靭な肉体を軽々と吹っ飛ばした。

 

 二十メートル先でのびた坊主が立ち上がって来ない事を確認して、一息。

 

 

「ふぅ……真面目過ぎて思わず手加減しちゃったけど、どうしよう……ご主人に報告しないといけないかな……」

 

 

 戦闘終了。

 御宙久遠。戦闘時間、百二十一秒。

 同刻。帳内突入。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ──21:22。

 JR渋谷駅。

 新南口。帳外。

 

 日下部とパンダが帳内へと突入してすぐの事。

 ここに割り当てられた呪詛師の数は一際多く、総勢二十五人にも昇る。

 対するは全身黒い包帯のスーツ男──六道虹弥。

 いつも通り腕を捻るような最小限の動作で、腕の包帯を解いている。

 

 集められた呪詛師は呪具を構え、術式を起動し、殺意に塗れた下衆顔で虹弥を睨め付けている。

 嬲り殺す気満々である。

 

 だが、この人選は完全に誤りであった。

 渋谷事変の正犯達は、六道虹弥に対しては殺傷能力よりも拘束や時間稼ぎに特化した呪詛師を用意すべきだった。

 

 

硬加(プラス)

『へ?』

 

 

 それは刹那である。

 虹弥の袖口から垂れる幾つもの包帯が名刀のように硬化し、あり得ない速さで伸びて、十メートル先の呪詛師達を腰と胴で両断するまでの時間。

 瞬きせずとも見えぬ刹那である。

 

 

「掃討完了。日下部達と合流するか」

 

 

 六道虹弥。術式名「硬化(こうか)呪法」。

 対象の硬度を強化し、強化したものを操るだけのシンプルな力。

 だがその術式の練度は、単なる包帯を強靱な刃に変える程の。

 

 

 

 戦闘終了。

 六道虹弥。戦闘時間、()()()()

 同刻。帳内突入。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 ──21:36。

 渋谷駅西口近辺。神宮通り。

 白い竜を焼き殺し、外なる宇宙の使者となった特級呪霊にもトドメを刺した"彼"。

 現在その周囲には生物の気配が無く、彼を止め得る存在は誰もいない。

 

 理性が無く、ただ本能と魂の赴くままに駆動する彼は、何を感じ取ったのか渋谷駅の方面へと歩き出した。

 その時である。

 

 

「【止まれ】」

 

 

 彼の脚が麻痺したように止まった。

 それはかつての彼もよく発していた、万事禁止の命令語。

 音声を理解できない今の彼にとってもそれは、何かを感じるに足るものであったらしい。

 

 ちなみにその発声元は、酷く怪しげな虚無僧であった。

 

 

「全く何逃げてんのさあの子は……僕の提案とは言え実行犯なんだから、君も責任取れよ……!」

 

 

 一人悪態を吐く法坐に、少なくとも言葉で反応してくれる相手はいない。

 本当ならここにもう一人いても良い筈なのだが、所詮子供かと結論付け開き直る。

 

 

「まぁそれは後で請求するとして……とにかく今駅構内には行かせない。流石に夏油にどやされちゃうよ」

 

 

 夏油の計画は、法坐の計画との両輪駆動と言って良い。

 五条悟を封印できても、阿頼弥啓が生きていては結局全て水の泡だからだ。

 

 仮に理性の無い阿頼弥啓"だった"人型だとしても、夏油の計画を破綻させるに余りある。

 

 

「暫く大人しくしてもらうよ、君みたいな意識の薄い人形を扱うのは得意……あれおっかしいな何か動いてない?」

 

 

 非術師然り、呪霊然り、改造人間然り。

 術式効果が内部に働いてしまう法坐の神決呪法はそういった対象に特に効きやすい。

 

 今までもこれからもそれは変わらない筈だった。

 でも彼は何か動いてた。

 

 

「……あぁ〜そういや"阿頼弥への呪いを集める呪い"が刻まれたんだっけ。……ハハッ、アハハハ、冗談きっつ」

 

 

 呪い。

 術式効果。

 それが、()()()啓へ向けられている。

 ならば呪いを集める呪いの──術式対象である。

 

 

 "彼"への術式効果の一部が呪力レベルまで逆変換されていると考えれば、この威力低減も説明が付く。

 これはいよいよ夏油の下へ近付けさせる訳にはいかないと兜の緒を締める法坐。

 故にそれは最後の、弱音のようなものだった。

 

 

「……ホントきついね。僕の夢、最初から破綻してたって事かよ」

 

 

 

 

 







 二十四話、読了ありがとうございました。
 今後もなにとぞ神作画で想像していただけると幸いです。


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