君に傾く天秤   作:ウルトラレア

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 三話です。
 次話ボタン押してくださってありがとうございます。
 暖かい目で見てください。




 ※以下、自分で人物の音声を考えるのが面倒だなという方のみ参考にしてください。


 ・死ぬほど美しい少女(理想CV:坂本真綾)






第三話 その少女、最凶につき

 

 

 

 

 記録──────

 2018年。群馬県上野村。濯田《あらた》高校。

 

 

 1月初頭。一人の女子生徒が『  』に暴行、嫌がらせ等の虐めを開始。

 その生徒は『  』と()()()()()()()()人物と確認されている。

 

 

 

 

 1月11日。

 女子生徒三名による集団暴行に発展。

 新たに加わった二名も『  』の()()()()()()であった模様。

 

 

 

 

 1月14日。

 件の三名に加え、男子生徒二人が共同し『  』に性的暴行を実行。

 行為は数時間に及び、その際の動画はネットに拡散された。

 なお二名の男子生徒は当初()()()()()()()()()()()()との情報有り。

 

 

 

 

 1月14日。

 イジメが()()()()()規模にまで拡大。学級裁判と称し、担任教師を含む三十二名が集団リンチ、自傷行為の強制、土下座の強要等を行う。

 

 

 

 

 1月22日。

 町の住民()()が町中で『  』に"処刑"を執行。

 磔にした後、絞首、抉眼、臏刑、火炙りを行う。

 結果。『  』死亡。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1月22日。

 特級過呪怨霊『阿織桔梗』誕生。

 

 

 

 

 1月22日。

 濯田高校を中心に()()1()k()m()の領域が発生。

 町の全住民、当時累計3450人が死亡。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1月24日。

 準一級術師二名、一級術師一名が派遣される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1月26日。

 派遣術師三名の帰還、確認できず。

 総監部より通達。『阿織桔梗』祓除に五条悟を指名。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1月26日。

『阿織桔梗』祓除──失敗。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「いや失敗っていうかさ、確かに成功はしなかったんだけど、それでも失敗とは確実に何かが違うっていうかさー、こう勝負に負けても試合には負けてない感じ? 生きてるんだからさ、まだチャンスある訳よ! やっぱ生きてるって良い事だねー、皆生きてるかーい!?」

「どこ見て言ってんのよ」

「窓の反射越しに言い訳しないでください」

「キモい」

 

 

 出発から一時間弱。

 東京都。首都高速五号。池袋線。

 

 

「あの伊地知さん、この地図の画面の向きってどうやったら……」

「ここは指二本でこうすると、ほら」

「す、すごい……達人だ……!」

「ふふ、阿頼弥君も慣れればすぐですよ」

 

 

 補助監督、伊地知清隆(いじちきよたか)が今日も鬱々とハンドルを切る。

 胃薬となる啓を助手席に配置し談笑。

 中部座席には釘崎、伏黒、真希。最後部座席に五条という布陣で臨む、群馬遠征。

 ただパンダと狗巻は無理を言ってこの任務に着いて来た真希の代打で任務に就く事となり、参加はできなかった。

 

 

「だ、だってこの古今無双かつ完全無欠でスタイル抜群超絶イケメンのGTGが天文学的可能性の末に任務に失敗したと聞いて皆がここぞとばかりに煽ってくると思ってたんだもん!」

「その発言が既に煽りだろ」

「言い方がキモい」

「ちょっと啓! お宅のお嫁さんの口超悪いんだけど! 一番言葉キツいんだけど!」

「そんな所も可愛いですよね」

「あー忘れてたこの子真希に関しちゃ会話できないんだった」

 

 

 会話の空気はそこそこよろしい。

 任務の詳細を説明していた際は、出発前のイザコザや祓除対象の過去もあって伊地知の胃腸が号泣していたが、今やこの通り。

 五条のバカさ加減にも救われる結果となっている。

 

 

「ていうか、一個気になったんだけど……」

 

 

 その最中。頬杖を突きながら釘崎が口火を切った。

 声色から、少なくとも楽しい類の話でないだろう事は分かった。

 

 

「ただのクラスメイトとか担任とか家族とか……最初は無関係だった奴らが最終的に全員加害者側に回ってるのってさ」

「まぁ、十中八九洗脳の類で操られてたんだろうな……原因が呪霊か呪咀師かは分かんねぇが」

「いや……呪詛師だよ、100%(パー)ね」

 

 

 釘崎の疑問に答える伏黒……の疑問に答える五条。

 珍しく真剣な返答をした五条に耳を傾ける一同。

 

 

「呪霊とか無差別な呪詛師とかに狙われるには、彼女は少し()()()()()()()()

「……どういう事ですか?」

 

 

 伏黒の疑念に五条は笑っていて、妙にそれが似合っていた。この状況を楽しんでさえいるように思える。

 果たして五条の答えは、笑みに対する疑問にも解答してくれる物だった。

 

 

「彼女ね、()()()()()()()なんだよ」

『は……?』

「んふふ、何も言わないんだね啓」

「父さんから聞きました。術式についても少し」

「そっか。ま、つまり犯人の呪詛師はそれを知ってて狙った。少なくとも知性の無い呪霊や並の呪詛師の手口じゃない。で、この事実を知ってるのは……」

阿頼弥家(ぼくたち)だけ」

「そ。そこまで含めて、"啓"という人選なのさ」

 

 

 現在、村境は封鎖され、周辺区域の人の出入りが不可能となっている。

 表向きは大規模な放射線事故として理解されているが、長くは続かない。

 

 呪術界としても阿頼弥家としても、早急に対処する必要がある。

 そんな中で、五条はふと思う所があった。

 

 

(さて。これが阿頼弥家の内輪揉めと別件なのかどうか……)

 

 

 阿頼弥家としても結論に迷っているらしい。

 というのも、これまでの水面下の暗躍と今回のような表立った動きは、明らかに乖離しているからだ。

 そもそも、阿織桔梗のような制御不能(イレギュラー)にあえて接触するのはデメリットが大き過ぎる。

 

 しかし。

 なら。なら一体──誰が。

 

 

「って話なんだよなぁ……」

「おい悟」

「ん?」

 

 

 小さな独り言を遮って、真希が一際強い語気で声を上げた。

 

 

「お前……何で祓えなかった」

「ハハ、やっぱお嫁さんは手厳しいねぇ〜」

「真希さん真希さん抑えてアイツの思うつぼだから……!」

 

 

 五条の煽りに無言で呪具を構える真希を、釘崎は呪力を使って全力で止める。

 この場合悪いのはもちろん五条だが、真希が内心穏やかではないのも確かだった。

 

 啓を尻拭いに使われて真希が黙っている訳が無い。

 それを考慮すれば、何故祓えなかったという言葉は、『何故啓の手を煩わせた』という言葉に置き換わって聞こえる。

 

 

「祓えなかった……祓えなかった、ね。まぁ、確かに祓えなかったんだけどさ」

「何よ。煮え切らない言い方ね」

「……真希には悪いけれど、僕はちゃんと本気でやったよ。ちゃんと本気で、殺しにいった。言い訳じゃない」

 

 

 肩にのし掛かるような言葉。最強の重み。

 再三再四悪態を吐きつつも、この場の全員が「五条悟」という存在の強さを知っている。

 ひたすらに最強である彼が──失敗した。その事実は、絶望とあまり大差が無い。

 

 

「けど無理だった。()()()()()()けど、何度やっても無理だった。強いとかじゃない。彼女はさ」

 

 

 流れるように。重いままに。さも何でも無いように。

 最強は、言葉を続けた。

 

 

「不死身なんだよね」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 覚えている。生前の記憶を。

 ひたすら怨んでいた事だけを。

 苦しくても、辛くても、痛くても。私は呪う事ができた。

 アイツらを、ずっと。

 

 アイツら。

 アイツらっていうのは、誰だ。

 

 

 私を最初に殴ったあの女……違う。

 私に暴力を振るって、罵った三人……違う。

 集団で私を拘束して、乱暴を働いた男子二人……違う。

 学級裁判で私を蹴った奴、切った奴、踏み付けた奴……違う。

 私の手をカッターで切った奴……違う。

 私に土下座させてきた奴……違う。

 

 

 私の手を釘で磔にした奴……違う。

 私の首を縄で締めた奴……違う。

 私の右眼をペンで抉り取った奴……違う。

 私の左脚を鋸で斬った奴……違う。

 私の体を燃やした奴……違う。

 

 

 

 全部だ。

 私以外の全部。人類全てが──

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「着きました。ここです」

 

 

 群馬県上野村。県道45号。下仁田上野線。

 車は道路の真ん中で止まった。釘崎が尋ねる。

 

 

「えっと……ここで終わりなの? 伊地知さん」

「はい。ここから先の景色は続いているように見えますが、これは我々の結界による物です。領域の僅か外側に降ろしていますし、領域は外側から何も拒絶していないので、結界を潜れば領域も潜れます」

「なる程、視覚情報の規制って訳ね」

「最近の若い奴らは何でもかんでもネットに流すからな」

「おっさんくさ」

「あ"?」

「ほらほら、二人とも置いてくよー?」

 

 

 五条が一触即発な二人を催促して、一時全員を集める。

 まずは、珍しく教師としての仕事を行う事にしたらしい。

 

 

「今日啓以外の皆を連れて来たのはね、別に任務の手伝いとかじゃない。それは分かってるよね?」

「流石に分かってます」

「そこまで自惚れてないわよ」

「OK。じゃあ何の為に連れて来たか……それはもちろん後学の為! 教育の為さ! 工場見学みたいなもんだね」

「どこが一緒なんだよ祓うぞ目隠しテメェ」

「全部本音出てます真希さん」

 

 

 青筋を立てながら捲し立てる真希。釘崎は彼女の左中指をどうにか抑えている。

 

 

「啓の実力を間近で見られるんだ。強くなりたい若者には、最高の機会じゃない?」

 

 

 反論する者は居なかった。怒りを現そうと中指を抑えようと。

 その発言にだけは、誰も。

 

 

「じゃ、行こうか」

 

 

 脚を踏み入れる。一寸先は、万死に至る地獄の世界。

 臆する者も居なかった。

 

 

「いらっしゃい。人類(にんげん)

 

 

 五人の視界にあったのは、夜の荒野にも思える程の広大な"グラウンド"だった。夜空に一面の砂地と、遠くに聳える学校。

 だがそれを見て、何かを思うより早く、声が響いた。

 

 綺麗な声だった。

 綺麗な少女だった。

 

 

「……。阿織桔梗さん、で合ってるよね?」

 

 

 啓はすぐに歩き出して、真っ先に声を掛けた。世間話のような口調。

 相手もまた、単なる少女のように返す。

 

 背中まで届く美しい黒髪。虹色の右眼と、青黒い左眼。

 紺色のセーラー服を着た、ただの女子高生のように。

 

 

「うん、そうだよ。珍しい名前でしょ?」

 

 

 果てしない砂の上で向かい合いながら、阿織桔梗は優雅に。

 とても優雅だ。女子高生とは思えない程に。

 呪いとは思えない程に。

 

 

「今日は君に頼みがあって来たんだ」

 

 

 会話は淡々と進む。

 

 

「……フフ、頼みか。うん、何かな? 言ってみて」

 

 

 小さな笑み。

 頼み事をされるのが可笑しくて、笑ってしまっている。

 女の釘崎ですら見惚れる程の、可憐な仕草。

 向き合う彼女達は、とても絵になっている。ずっと見ていたいと思う。

 

 だが、次の言葉が来る。

 残り数瞬。静寂が場を満たし、そして。

 

 

「今から僕と──殺し合って欲しい」

 

 

 美しい面貌は、一切揺らぐ事無く。

 滑らかに応える。

 

 

「あー、うん。良いよ。()ろうか」

「……。ありがとう」

「あはは、お礼なんて良いのに。私もしたいからするんだ」

 

 

 呪いとは……思えない程に。

 その笑顔は。

 

 

「君が一番、癪に触る顔してる」

 

 

 少女の脚。

 黒い靄のような左脚が、コツ、と音を立てた。眼の前に少女がいる。

 細く白い指先がスッと伸びて、啓の腹に触れた。

 

 指先。

 指先から、津波のような火が出た。

 

 

「僕から離れないでね。この際、抱き着いても良いんだよ?」

『……』

「うん、ごめん」

 

 

 射線上の五条達は左右に二分される炎の中、見えない戦闘の行方に集中している。

 空気を読まぬ発言はこの状況でも健在だったが、すぐに謝罪した。

 炎の晴れた先。場違いな程綺麗な少女の奥に、同じく場違いな程美しい少年がいる。

 

 

「おー、今の避けるとは思わなかったな」

「僕もすぐ死にたくはないからさ」

「アはは、確かに。じゃあこれも、頑張って避けてね」

 

 

 コツ。再び少女の左脚から。

 今度は爪先が音を立てて、見えない斬撃が一つ走った。

 見えないが、啓の「眼」には"視えて"いる。

 

 斬撃の輪郭である空気の揺らぎ、あるいは空気の歪みを視ている。

 啓は斬撃を躱し、地面を陥没する程に蹴った。

 

 

「おお、すごいすごい」

 

 

 少女はわざとらしく感嘆した。

 余裕の表情だが、その眼前には高速の蹴りが迫っている。

 啓の左脚が接触……するより早く、少女は左脚を前に踏み出した。

 

 少女の姿が、啓の背後に現れた。

 

 

「っ!?」

 

 

 驚く啓。五条は驚かない。一度経験している。

 その他の面々は、啓の回避後から未だに情報が追い付いていない。

 

 待つ事無く、再び爪先の音が二度。コツコツ。

 鎌風は二つどころではない。全方位から斬撃が啓を囲んだ。それも視えている。

 

 跳躍。残像が上へ疾った。

 斬撃は打つかり合って、地面に傷跡を撒き散らす。

 

 

「さぁ」

 

 

 空中で翻り、眼下を見ると、少女の姿は無かった。

 代わりに声が、後ろから響いた。

 背中に感触がある。誰かに乗られている感触が。

 

 

「頑張って」

 

 

 歪んだ笑顔と共に、指先は啓の方に向けられている。

 小さな朱色の火花。

 一瞬の閃きの後、発火──

 

 

「『止まれ』」

 

 

 発火。しない。

 何かの悪戯のように、火は出なかった。呼吸のように出る筈の、呪いの炎が。

 

 原因は分かり切っている。この男だ。

 空中で回転し、逆さの体勢で右脚に呪力を込めるこの男。

 

 

「くっ」

 

 

 白い呪力を纏った脚は、強かに阿織桔梗の左腕を打った。

 その威力により阿織桔梗は急速に下降し、地上へ落ちる。

 砂が舞い、啓も合わせて降りて来る。

 伏黒や釘崎、真希の視界が追い付いたのは、その少し前からだった。

 

 

「マジか……」

 

 

 五条の呟きは、いつになく驚きを含むものだった。

 その視線の先にあるのは、阿織桔梗の左腕。()()()()の、左腕である。

 

 真希達は当然訝しむ。防御の上からとは言え、あの啓の一撃である。

 最低でも半ばから折れている。筈だ。

 ……筈なのだが。

 

 

「不死身……ね」

 

 

 啓は低く呟く。

 車で聞いた五条の言葉、あるいは事前に知らされていた彼女の術式情報と、眼の前の現実を擦り合わせる。

 油断の一切見えない、鋭い視線が阿織桔梗を射抜いている。

 

 だが同様に、阿織桔梗もまた忌々しげに啓を見ている。

 啓の存在が、彼女に苛立ちを与えている事は間違い無い。

 

 

()()()()()()()()()()()()()……だったっけ? デタラメだね」

 

 

 悪意。敵意。害意。それが彼女の不死身。

 五条ですら越えられなかった不死の原理。

 

 

「ハッ、馬鹿にしてる? 本当なら痛みも感じないのに……左腕、()()んだけど」

「それは、ごめんね」

 

 

 ブチ。

 何かが、切れる音。

 

 

「あぁ〜あぁ"〜、アハハハハッ……だからさぁ、そういう所だよ……!」

 

 

 怒りが、溢れて。

 

 

「善人ぶってんじゃねえ……っ!」

 

 

 瞬間。

 少女の七色の瞳が、閉じられた。再開の合図。

 啓は咄嗟に身を屈めた。飛来する空気の歪みが視えたから。

 直後、見えない何かが髪先を掠め取っていった。

 

 再び右眼が閉じられる。跳躍。地面が深く抉れた。

 空中で加速し、左下方へ。再度それを躱す。 

 

 

(右眼を閉じると"抉る"ような力が発生する……これも情報通り)

 

 

 やはり右眼がこちらを見ている。脚に力を溜める。

 そして蹴る。啓の像が弾丸のように疾った。

 右眼が閉じる。紙一重で回避し、勢いを殺さず肉薄。左脚を突き出す。

 

 

「フフッ」

 

 

 だが止まった。

 呪力と術式による加速を合わせた恐るべき蹴りは、黒紫の縄が幾つも絡まって、体ごと拘束されている。

 

 

「バーカ」

「う、口悪いなぁ」

 

 

 嫌いな人間が身動き一つできない様を見て、阿織桔梗は嗤う。

 むしろそうやって笑っている方が、普通の少女のようだった。

 少なくとも、啓はそう思った。だから申し訳無くなった。

 

 

「『吹っ飛べ』」

 

 

 一言。衝撃波が奔る。

 少女の体を小石のように吹き飛ばす程の、絶大な威力。

 黒い点になるまで飛んで、地面に長い線を引き、漸く勢いが止まった。

 

 阿織桔梗の体はくの字のままで項垂れていたが、やがてゆっくりと体を起こし、靄の左脚を前に出した。

 一瞬で、見える距離まで帰ってくる。

 その口端からは、赤い線が垂れている。

 

 

「……。まさか()()()()とは思わなかった……これってさ、つまりそういう事なんだよね?」

「……」

「アッハハ……! あー、ヤバ。こんなの久しぶり。最悪。今までで一番最悪」

 

 

 怒りは限度を超え、打ち震えるように、笑みを零れさせていた。

 右手で髪を掻き上げて、禍々しい程に眼を見開いている。

 

 虹色の右眼と、青黒い左眼。

 美しく恐ろしい双眸には、もはや殺意と呪いだけが篭っている。

 

 それら全て、啓が原因だ。

 自らに傷を付けたという事実から、阿織桔梗は阿頼弥啓という少年の人物像をある程度把握できていた。

 一番嫌いな類の人間だった。

 

 

「めちゃくちゃキレられてんじゃん……大丈夫かよ阿頼弥の奴」

「まぁそこは大丈夫だ、(アイツ)が負ける事はねえ。ただ……向こうの術式は気になるな。不死身、炎、斬撃、瞬間移動、見えねぇ攻撃……流石に盛り過ぎだろ」

 

 

 少し離れた位置で、真希達は趨勢を見守る。

 荒立つ少女に不安を募らせる釘崎を、真希が毅然と言って落ち着かせる。

 伏黒や釘崎と違って、啓の力量を知る真希には啓への心配など微塵も無かった。

 むしろ相手方の強さにこそ彼女は興味を惹かれる訳で。

 

 その何気ない疑問が、更なる混乱を招いた。

 

 

「え、いや、あれ()()()()()()()?」

「「「……は?」」」

 

 

 五条の言葉で、三者一様に唖然とした。

 真希達が見た攻撃の数々は、どれも生得術式と呼んで差し支えない域にあった。

 その多彩な力を見れば、確かに「現代の両面宿儺」の名も頷ける。

 

 理不尽なまでの力に呆れていたくらいだった。

 だが違う。

 六眼が、違うと言っている。

 

 

「不死身以外全部、生前の"処刑"の時に受けた呪力に由来してるんだ。絞首を(ねが)われ、抉眼を(ねが)われ、臏刑を(ねが)われ、火刑を(ねが)われた。その莫大な呪いが擬似的な術式として機能してる」

「なる程な。生得術式ほど自由度はねえにしても、その分攻撃の出だしが速い」

「消費効率も良い。そこは流石だよね。でも」

 

 

 疑問が消え、彼らの意識は再び戦場へ。

 少し話し過ぎた。もう始まる。今、この瞬間にも。

 より凄惨で、凄絶な戦争が。

 

 

「阿織桔梗は、ここからだよ」

 

 

 







 三話、読了ありがとうございました。
 桔梗ちゃんの容姿は「Ado」さんのメインビジュアルイラストをイメージして書いています。
 本展開は残り二話です。お付き合いくださいませ。

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