君に傾く天秤   作:ウルトラレア

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 三十一話です。
 野薔薇ちゃんメイン回です。






第三十一話 I am ■■

 

 

 

 

 俺の父は、思ったよりも嘘が下手だ。

 

 

 分家当主として、付き合いの浅い者には通じるようだが。

 近しい家族相手となると、何故かビックリするくらい分かりやすい。

 

 

 対照的に、叔父は人心掌握に係る表情管理等が病的に上手い。

 無意識か否か、それは定かではないが、とにかく父はお世辞にも嘘が上手いとは言えない。

 

 

 だから父の企ても謀略も真意も。

 俺自身が、たぶん、気づかないふりをしていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ──22:23。

 渋谷駅。ハチ公口改札A4.A5階段付近。

 

 大量の改造人間が立ち並んでいる。

 屋外で一般人を襲っていた改造人間は粗方駆除できている筈だが、駅構内には依然として残っているようだった。

 釘崎はウンザリしながら釘と金槌を構えた。

 

 

「中はまだこんなに残ってたのね……祝さんの分も働かないと」

 

 

 釘崎は空中に展開した釘を打ち出し、前列に並ぶ改造人間達に突き刺す。

 それに反応して襲ってくる個体を躱しつつ、更に釘を打つ。

 

 可能な限り同じ方向に打ち、奥の方にいる個体にも釘を刺す。

 二十本は放った辺りで釘崎は指を鳴らす。

 

 

「簪」

 

 

 刺さった釘から呪力が一気に放出され、改造人間の頭部や胴体を容赦なく貫いた。

 幾つかは一度に二体の改造人間を貫通できており、予想より多くの改造人間を倒す事ができた。

 

 

「でもまだまだ大量」

 

 

 釘崎は今の攻撃によって空いたスペースに走り込み、柱に打ち込んだ釘を足場に跳躍する。

 改造人間の群を飛び越えながら、空中から釘を周囲にばらまき、再度。

 

 

「簪」

 

 

 ランダムな方向を向いた釘が、満遍なく改造人間を刺し貫く。

 さらにばらまく流れで天井に刺しておいた複数の釘からも呪力を放出させ、天井の崩落に十体の改造人間を巻き込んでいく。

 

 

「ふぅ。これでやっと三分の一ってとこね」

 

 

 倒した数は多いものの、まだ折り返しには達していない。

 大きく息を吐き、気を引き締める釘崎。

 

 

「っ、速」

 

 

 その時だった。

 改造人間達の間を異様に俊敏な個体が駆け抜け、前方から腕を振り下ろしてきた。

 緩慢とした動きの個体とは打って変わって、釘崎の中の警戒度が瞬時に上がる。

 

 

(何だコイツ……っ、呪力量からして、改造呪詛師ってやつか)

 

 

 振り下ろしをバックステップで躱し、続く二撃三撃を潜るよう避けてその個体の後ろ側へ回る。

 ソレはすかさず反転して飛び掛かり、追撃を仕掛けてきた。

 

 身動きの取れない空中での迎撃。釘崎の意識が、一気に上へ向いた──。

 

 

「いないいない。ばあ」

 

 

 直後。それが陽動であった事を悟る釘崎。

 "ガワ"を脱ぎ捨てるように空中の個体の中から、ツギハギ面の男がボトッと地面に降り立った。

 

 

「っ!?」

 

 

 呪霊の名は──真人。

 他者の魂に触れ、その形を自在に弄ぶ最後の特級呪霊。

 

 真人はすぐに駆け出し、手を伸ばした。

 上を警戒した分、釘崎の迎撃より真人の方が僅かに先に届く。

 最短最速で迫る手が、釘崎の魂へと。

 

 

(コイツ! 改造人間に擬態して……っ、まずい! コイツの手に触れたら……っ!!)

 

 

 手→→魂。

 残り三十センチ。

 

 手→魂。

 残り十五センチ。

 

 

 咄嗟に後ろへ退くがもう間に合わない。どうあがいても死の手が先に届く。

 事実としてやって来た死が釘崎の顔を歪ませる。

 

 走馬灯のようなものが釘崎の脳裏に瞬く。

 脳細胞が勝手に、かつての同級生の名を口にする。

 

 

(──ふみ)

 

 

 両者の頭上には、先程釘崎が空けた穴がある。

 簪で崩落させた際の音は、構内にも広く響いていた。

 その音は、確と届いている。

 

 

「ふんっ!!」

 

 

 天井の穴から降って湧いたのは、釘崎の今の同級生であった。

 

 両面宿儺の器。

 身体能力オバケ。ミルコ・クロコップの生まれ変わり。

 根明バカ二人組の一人。

 

 

『虎杖──っ!』

 

 

 その登場に反応したのは真人もまた同じだった。

 釘崎に到達しかけた真人の手が、虎杖によって紙一重で踏み潰される。

 

 釘崎は笑う。間が良すぎて一週回ってちょっと腹が立ったから。

 十と書かれたナンバープレートを上げたい気分だった。

 

 

「しゃがめ!!」

 

 

 今度は釘崎だけが、続けて虎杖に指示を出した。

 虎杖の反応は早い。素早く釘崎の射線を通した。

 先程迎撃用に展開していた釘が、既に発射準備を終えている。

 

 

「ングッ!?」

 

 

 真人の額へ釘は一直線に刺さった。

 同時に、釘崎は更なる指示を叫んでいる。

 

 

「ブッ叩け虎杖! たぶん()()ッ!!」

「応!」

 

 

 虎杖に迷いはない。

 五条悟をして「イカれている」と評した虎杖悠仁の胆力が、ここで躊躇う事を選ばせなかった。

 

 

「──共鳴り!!」

 

 

 真人の額に刺さった釘を虎杖が殴った直後、真人の体内から棘のようなものが突き破って出てきた。

 

 魂を司る真人は、同じく魂を知覚した攻撃以外に対して殆ど無敵に近い耐性を持つ。

 釘崎の釘のような物理攻撃の類は基本無効になる。

 

 が。

 対象との"繋がり"を辿る、その技だけは。

 

 

(まさか……まさかだ!! 俺の天敵は──虎杖悠仁だけではなかった……!!)

 

 

 真人の口からは、紛う事なきダメージの証として人間めいた赤い血が零れ落ちている。

 表情や脂汗もまた、釘崎の術式「芻霊呪法」が真人の魂にも届くという事を示していた。

 

 すなわち。

 真人、対、天敵二人。

 

 

(クッソ、術式の余韻が──)

 

 

 その状況下で、真人はこれ以上ない程の隙を晒している。

 動きを拘束するという点でも、釘崎は真人の天敵足り得ると言っていいかもしれない。

 もちろん、肉弾戦に特化したもう一人の天敵がいればこその話だが。

 

 

(長い!!)

 

 

 虎杖の追撃が続く。続く。続く。

 生来の膂力と魂の知覚によって真人の魂に決して軽くない一撃が刺さり続ける。

 

 殴る。蹴る。殴る。蹴る。殴る。殴る。殴る。

 殴殴殴殴。蹴蹴。殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴。

 

 

(~~~っ、意識を飛ばすな! 術式に集中しろ!!)

 

 

 その猛攻の中にあっても、真人は意識を保ち勝利への執念を燃やしている。

 虎杖が右の大振りを叩き付ける、その瞬間を狙った。

 

 

(っ、分裂した!?)

 

 

 虎杖の拳が直撃した部分を基点に真人の肉体が複数の小さな分体に分かれ、ボールのように弾けた。

 

 各自が独立して細かく動き、虎杖の拳から逃げていく。

 走り回る分体に釘崎が釘を飛ばすも、分裂する前より縮小した体には当然避けられる。

 

 

「チッ、虎杖! どれでも良い! 一個捕まえろ!」

「分かった!」

 

 

 虎杖は釘崎の指示を受け、最も近い分体を蹴り飛ばし壁に叩き付ける。

 その隙に釘崎は分体へ接近。自前の人形を分体の上に被せた。

 釘を打ち込む為、金槌を構える。

 

 分裂してデコイを増やそうと、繋がりを辿ってしまえば関係ない。

 真人が好む手練手管も、この天敵の前では無為に。

 

 

「させねえよ」

 

 

 真人が嘲笑った、次の瞬間。

 分体が爆弾のように爆ぜた。

 打ち込もうとしていた釘の矛先は、真人の悪意によって失われた。

 

 血飛沫による目眩ましも兼ねた時間稼ぎは、真人に充分な逃走の時間を与えている。

 

 

「クソッ、追うぞ釘崎!」

「分かってる……全速で走れ虎杖!」

 

 

 焦燥を滲ませた表情で、真人が逃げた方向へ駆け出す二人。

 速度で勝る虎杖が先陣を切って半蔵門線改札を越え、大量の柱の間を通って真人の背を追う。

 

 やがて右斜め前に分かれた通路を抜ける真人。

 僅かに遅れている虎杖は、真人の姿を二秒程視界から外してしまう。

 足を速めて追随するが、その先の宮益阪中央改札前で足を止めた。

 

 

「っ!?……は? いない……?」

 

 

 真人の姿は無かった。

 改札周辺はもちろん、物陰にもそれらしい影は見当たらなかった。

 

 虎杖が真人から目を離した時間はほんの僅か。

 この短時間で完全に失尾する程移動できる訳がない。

 

 

「……隠れたな」

「虎杖! アイツは?」

「気をつけろ釘崎。たぶんどっかに潜伏して──」

 

 

 遅れて釘崎が合流。

 釘崎に背を任せ、虎杖は周囲への警戒を強める。

 

 物陰。柱の裏。背後。

 虎杖は五感を総動員し、全方向から悪の気配を探る。

 

 

 

 探ってから、見つかるまではすぐだった。

 気配の位置は──上。虎杖は咄嗟に釘崎の肩を押し、突き離す。

 

 頭上から腕を刃に変え襲い掛かる真人に、虎杖は上段の左後ろ回し蹴りを鋭く当て、刃をへし折る。

 その左回転のまま、右腕を振りかぶる。

 拳は真人の左頬へ吸い込まれていく。

 

 

「へぶっ!!」

 

 

 改札を越え、その向こうの柱まで叩きつけられた真人。

 頭部から大量に鮮血が飛び散り、柱に大きな血痕を描いた。

 

 僅かに痙攣した所を見ると、まだ死んではいないようだった。

 虎杖は走った。可能な限り時間は与えない。

 確実に。

 

 

(殺す)

 

 

 二メートル圏内。

 間合いの僅か外。拳を引き絞る。

 

 一メートル圏内。

 キタ。右の拳をその忌々しい笑顔に思い切

 

 

「え?」

 

 

 笑顔。

 笑顔だった。

 

 三日月のような口。

 呪いらしい、あるいは人間らしいその笑顔に、虎杖は寒気がした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 ──22:25。

 首都高速三号渋谷線。警視庁渋谷警察署前。

 

 治療所から駅へ向かう途中で、啓と麒麟、日下部の三人は自然に足を止めた。

 

 

「げっ」

「ハァ……」

 

 

 そのツギハギ面を見て、啓は心の底から嫌そうな溜息を吐いた。

 そして相手方も啓の姿を見て吐き気を催したような表情を浮かべていた。

 先に悪態を吐いたのはツギハギ──真人の方だった。

 

 

「ホントに来たよ阿頼弥啓」

「貴方こそ、こんな所にいるとは思いませんでしたよ」

「どうしてもって頼まれたからね。あそこの奴に」

 

 

 真人はまさしく嫌々、といった様子で横のビルの上の方を指さした。

 そちらへ視線を向ければ、ビルの上に見覚えの服装をした見覚えのない顔があった。

 

 その服装には常に邪魔くさい天蓋があったと、啓達は記憶している。

 

 

「……ってその顔どうしたの波波羅(ほうざ)

「もう隠す意味が無くなったんだ。だから外したの」

「ふぅん? 波波羅(ほうざ)もついにイメチェンか」

「あーもう僕の事はいいよ。そちらさん、我慢できないみたいだからね」

 

 

 真人達が短い雑談をしている間、啓達は最低限の役割分担のみを済ませている。

 

 

「僕が呪霊の方やるので、二人は天蓋呪詛師の方お願いします」

「御意」

「……。了解した」

 

 

 啓が一歩前に歩み出て、麒麟と日下部は波波羅の方に向き直る。

 それは波波羅にとっても予想通りの采配であった。

 

 

「……さ。互いに天敵一人ずつ。()ろうか」

 

 

 どちらの天敵が先に相手を潰せるか。あるいはどちらが先に天敵を下せるか。

 

 これはそういう戦いだ。

 真人は不承不承に駆け出している。

 ──ちなみに。

 

 

(全然やりたくないけど仕方ないか。阿頼弥啓の大技にだけ気を付ければ、死ぬ事はないでしょ)

 

 

 誰にとって誰が天敵なのか。

 真人達は正確に理解できていない。否、麒麟達でさえそれを知る由もなかった。

 現時点で、()()()()()()()()()()

 

 

「残念」

 

 

 敗因は二つ。

 一つ目は、近接戦闘において真人は啓に引けを取っている事。

 二つ目は。

 

 

「天敵()()です」

 

 

 二つ目は、啓の肉体には()()()()()()()()()()事。

 

 啓は既に真人の懐へと入り込んでいる。

 迫る左の回し蹴りに対し、真人の防御は辛うじて間に合った。

 その防御ごと蹴り砕いて、真人を建物の先の宮益坂まで吹き飛ばした。

 

 

(──魂ごと、砕かれた……ッッ!?)

 

 

 痛みよりもダメージよりも。

 まず自らの体に起きた事実に真人は愕然とした。

 

 

(まだ多少肉体にダメージ引っ張られてるけど、それでもお前が知覚するのは反則だろ……っ!!)

 

 

 傷の具合から、啓の攻撃の威力十割が魂に届いている訳ではないと判断する真人。

 虎杖と同じだ。啓も今日まで肉体を殴り慣れていた人間。

 魂の知覚に慣れるまでは僅かに時間がかかる。 

 

 が。

 それでもなお真人は、自身が絶望的なまでの劣勢に立たされている事を理解した。

 

 

「法坐あぁぁぁッッッ!!!」

「分かってる!!」

 

 

 予定変更。真人は叫んだ。

 波波羅も同様、致命的な戦況の変化を感じ取っている。

 加勢の為、即座に空間跳躍の準備に入る。

 

 

「させん」

 

 

 千載一遇の隙。居合の構えにて、麒麟は間合いに入っている。

 麒麟達にとっても啓の状態は未知の事実であった筈だが、その動きに迷いは無かった。

 

 

(この距離なら逸らされても一撃は入る!!)

「邪魔だ。【落とせ】」

 

 

 いつにも増して不機嫌そうに命令語を放つ波波羅。

 それによって麒麟の身に起きたのは著しい肉体のブレなどではなく、些細な指の痙攣のような感覚だった。

 

 振りぬいた手に使い慣れた刀は無く、波波羅に当たる前に手元から落ちてしまっていた。

 

 

「君達とは年季が違うんだ。この程度、想定外ですらない」

 

 

 直後。

 空間を跳び、麒麟の眼前から姿を消す波波羅。

 歯を食い縛る麒麟は、しかし冷静に声を上げる。

 

 

「日下部さん! 頼みます!」

「……っ、シン・陰流──簡易領域」

 

 

 半分嫌々だが、何だかんだ言って行動を止めない日下部。

 何百何千と繰り返してきた居合の構えを取る。

 展開された結界は、日下部の半径二十メートルまで広がって、屋上一帯を覆った。

 

 

「シン陰か」

 

 

 領域内に侵入した対象へ、全自動反射で斬撃を繰り出すそれは。

 空間を越えてきた敵の位置を、()()()割り出す事が可能である。

 

 

「やるね。最近の術師にしては」

 

 

 出現範囲を上手く読んだ日下部によって、転移直後に背後から大量の斬撃を浴びせられた波波羅。

 一瞬空中で体勢を崩すも、見せた隙はそれだけ。

 瞬時に反撃を始めている。

 

 

「けど脊髄より僕の方が権限が強い。【守れ】」

 

 

 肉体の権限を弄られ、日下部は真後ろを向いた。

 遠方より電雷と共に迫っていた麒麟の追撃を、不本意にも防いでしまう。

 

 

「くっ!」

「ぬうっ、すまん禮!!」

 

 

 そうしたできた刹那の隙に、波波羅は再び空間転移を実行した。

 怪物の破壊から逃げ回る真人の下に出現し、全速力で駆けた。

 

 

「……君が絡むとホント碌な事が無いよ阿頼弥啓。ぶっちゃけ超嫌いだ」

 

 

 寸前だった。

 魂の知覚が可能となった啓により、真人はビルの壁際まで追い詰められていた。

 

 十センチの距離まで迫っていた啓の貫手に対し、横合いから波波羅が腕を差し込まなければ、真人は頭を貫かれていただろう。

 

 

「この()()()()()まで殺されてたら僕ブチ切れてたよ」

「っ……分身?」

 

 

 左腕をおしゃかにされた状態でも、波波羅はニヤついていた。

 啓の貫手を死ぬ気で防ぎ、脂汗を浮かべつつもその右手は真人に触れていた。

 

 否。

 ……真人の分身に、触れていた。

 直後。その命令語が放たれた。

 

 

「【跳べ】」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 事の経緯はこうだった。

 虎杖の頭上から現れた真人は、本体の不利を察知して地上から転移させられた──分身。

 

 本体の真人は、枝分かれした通路によって視線が切れた瞬間に極限まで()()()()、隠密を図った。

 現れた分身よりも呪力を抑え、虎杖達の油断を誘った。

 

 

 虎杖がトドメを刺そうと走ったのは、当然分身。

 その隙に本体は肉体を膨らませ、背後から虎杖を狙う──

 

 

「クッソ」

 

 

 と。

 見せかけ。

 

 虎杖を守ろうという意識に切り替わった釘崎を。

 真人は呪いとして。容赦なく。

 

 

「──釘崎っ!!」

 

 

 避けられる道理が無かった。

 完全に意識の外から、体の向きとは逆に伸びてきた三本目の腕を避けられる人間は殆どいないだろう。

 

 釘崎は、他人事のようにそう思った。

 金槌で即座に手をはたき落したは良いが、確実に触れられた。

 

 

「くぎさき……」

 

 

 瞬時に距離を取った真人から、心配そうに駆け寄る虎杖へ視線を移す釘崎。

 自分の事でもない癖に、まるで捨てられた子犬のような不安げな表情を浮かべている。

 

 

(ったく、なんつー顔してんのよ)

 

 

 釘崎は思わず吹き出してしまった。

 自分の結末を理解してなお、呆れて笑ってしまった。

 

 そんな虎杖に、釘崎は軽くデコピンをした。

 シャンとしろバカ、という思いも込めて。

 

 

「悪くなかった。だから大丈夫。ちゃんと皆に伝えろよ、虎杖」

「釘さ──」

 

 

 爆ぜた。

 虎杖が言い終える前に、釘崎の左目から肩に掛けてが。

 爆ぜて弾けて砕けて飛び散った。

 

 うら若き紅一点が、見るも無惨な姿となって無機質な床に転がった。

 

 

「」

 

 

 虎杖の声は出なかった。

 手の先が少し、ブルっと震えただけだった。

 

 

(え。アレ。釘崎。アレ。死……え?)

 

 

 呼吸。

 呼吸しなきゃ。

 

 

(アレ。俺。また死なせた? 順平と同じで……え。アレ)

 

 

 呼吸。呼吸。苦しい。

 呼吸。呼吸。呼吸。って、どうやるんだっけ。

 

 

(あの血のヤツに敗けた。名前も知らない女の子を二人殺した。阿頼弥を傷付けた。パンダ先輩達を危険に晒した。阿頼弥の仲間のおじさんの腕を斬った。宿儺に敗けたからだ。俺が宿儺に敗けたから。アレ──)

 

 

 呼吸。吸。吸。吸。吸。吸。吸。吸。

 吐き気。頭がおかしくなるくらいの吐き気がする。

 

 

「お、おれっ、が、くぎさきを……っ」

「♪〜」

 

 

 真人は実に楽しげな様子で、リズムを取りながら、踊りながら、指を鳴らしながら、虎杖の目の前までやってきた。

 顔を覗き込むようにして、真人は告げた。

 

 

「それじゃあ改めて……こんばんは、虎杖悠仁」

 

 

 虎杖は髪を握り締めたり頬を掻きむしったりで、真人どころではなさそうだった。

 真人は拳を引き絞った。

 真人は拳を振りぬいた。

 

 

「おれが『のろい』だ」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「あぁでも一つだけ、君がいて良かった事があるよ」

 

 

 波波羅はぐちゃぐちゃに貫かれた右腕を治しながら、前方で蹲る少年に話しかけている。

 少年の腹には、三つの穴が空いている。

 

 予定通りに進んでいる不幸中の幸いを噛み締め、波波羅は語る。

 

 

()()の呪いをあそこまで歪ませてくれた事だけは……本当に感謝してる」

 

 

 そして徐々に視線を遠く、上の方へ移す。

 そこに彼女は立っている。通常の人間とは異なる巨視のスケールで、彼女は立っている。

 

 全長はビルを超過。

 陰影も濃淡もない黒一色の体と、対照的な純白のウェディングドレス。

 眼孔に咲く、両眼の如き黒い薔薇。

 彼女の名前は花凛。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄さん。啓従兄3。啓2さん。啓23。K23。K従兄さん。啓従兄3。啓2さん。啓23。K23。啓従兄さん。啓従兄3。啓2さん。啓23。K23。K従兄さん。啓従兄3。啓2さん。啓23。K23。啓従兄さん。啓従兄3。啓2さん。啓23。K23。K従兄さん。啓従兄3。啓2さん。啓23。K23。啓従兄さん。啓従兄3。啓2さん。啓23。K23。K従兄さん。啓従兄3。啓2さん。啓23。K23。啓従兄さん。啓従兄3。啓2さん。啓23。K23。K従兄さん。啓従兄3。啓2さん。啓23。K23。啓従兄さん。啓従兄3。啓2さん。啓23。K23。K従兄さん。啓従兄3。啓2さん。啓23。K23。──啓従兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特級過呪怨霊。

 ──「阿頼弥花凛」である。

 

 

 

 

 








 三十一話、読了ありがとうございました。
 すいません、ナナミンは無理でしたが野薔薇ちゃんだけは持っていかせてもらいます。



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