君に傾く天秤   作:ウルトラレア

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 五話です。
 とりあえず一章終了です。




 ※以下、自分で人物の音声を考えるのが面倒だなという方のみ参考にしてください。



 ・???(理想CV:下野紘)






第五話 鬼才。天稟。神童。

 

 

 

 

 

 "三千世識(さんぜんぜしき)"。

 阿頼弥家相伝の一つ。啓の「眼」の正式名称。

 

 五感全てを操り、遍く見通す力。

 五感を広げる(拡大)飛ばす(遠隔操作)分ける(多分割)。逆に狭めて圧縮すれば、僕と同じく呪力を見る力をも得る。

 強力無比な阿頼弥の瞳。

 

 

 

 でもそれはあくまで術式による力であって、僕のような体質じゃない。

 術式を解除してしまえば普通の眼に戻ってしまう。

 

 だから。

 だからこそ今は──僕が動かなくちゃいけなかったのに。

 

 

 


 

 

 

 全ては後の祭り。

 それでも五条は、男の背後に肉薄した。一瞬で。

 

 

「動くなよ?……そのふざけた天蓋をまだ付けてたいならな」

 

 

 銃の形にした指。

 発散した無限を具現化させる掌印が、笠の後頭部に突き付けられている。

 男は飄々と答える。

 

 

「流石に速いねぇ現代最強。振り向く暇も無いや」

「お前は誰で、何が狙いで、仲間は居るのか。諸々吐いてもらう」

「質問が多いなぁ、一遍に答えられる訳無いだろう?」

「答えなきゃ死ぬだけだ」

「おー怖い。最近の若者は随分と口が悪いねぇ」

 

 

 笠越しに、呆れたような口調で答える虚無僧の男。

 その声音は若さを感じさせる艶があって、しかし『そうではない』と確信させる程の重みがあった。

 

 違和感。

 一拍置いて、男は動く事なくそれを放った。

 

 

「【何もするな】」

 

 

 ──"それ"は、意思を奪う命令語。五条は嫌という程知っている。

 動かぬ体に抗いながらそう考える。同時に、()()()()()()()()()、と考えている自分もいる。

 

 ダメだ。逃がさない。

 集中。術式を起動。体よりも「赫」に心血を注ぐ。

 程なくして、赤い光が現出する。

 

 

「ウッソこれで術式使えんの? ちょっとへこむなぁ。まぁでも……さよならだ。【じゃあね】」

 

 

 直後、男の姿が消える。発散した無限は、虚しく空間を通り過ぎた。

 

 

「クソッ……!!」

 

 

 更に直後、五条の体も動き始める。

 四秒。五条が奪われた時間。四秒も。

 現代最強の男が与えるには、あまりにも長過ぎる時間。

 

 五条は自らの浅慮を呪った。

 奴が今回の主犯であり、阿頼弥の人間であるのなら、()()()()を持っている可能性は捨て切れないのに。

 

 三度目の失敗。

 阿織桔梗を殺せなくて、阿織桔梗を殺されて。

 今度はその元凶を殺せなかった。

 五条は血が出る程手を握り締めた

 

 

「……。……啓」

「僕には謝らないで下さい。油断してたのは僕も同じです」

 

 

 降下し、啓の下へと降り立つ五条。

 彼の言葉を遮り、啓は弱々しい少女を抱き抱えながら言う。

 

 

「っ、だからって……私にも、謝る……なよ? 成仏も……祓除も……別に、変わらない……」

「……違う。成仏の途中で祓われるのは絶対違う」

「……フフ」

 

 

 少女は力無く笑う。

 死に逝く者に対して静かに荒ぶる啓が、面白くて仕方なかった。

 

 

「そんな顔するんだな……いや、当たり前か。お前みたいな奴は」

 

 

 声が薄れゆく。小さく、か細くなって。

 もうすぐ死ぬ。

 

 

「喋る気無かったのにな……」

「桔梗さん……」

「……またな」

 

 

 燃える。紫の炎に包まれて。

 やがて顔も見えなくなって、啓の腕はその炎をすり抜けた。

 握られた手には、小さな灰と、彼女に触れていた感触だけが残っている。

 

 啓はやおら立ち上がる。()の死はよく見ている。

 慣れている訳ではないが、こういう時、どうすれば良いかは知っている。

 何度も見てきた。五条が静かに前に出る。

 

 

「啓。今回の件、君が何と言おうと君に責任は無い。称賛はされても、非難される事は無い。何せあの『阿織桔梗』を()()させたんだ。僕にもできなかった偉業さ」

「……ありがとう、ございます。悟さん、こういう時優しくてズルいです」

「先生だからね」

 

 

 ありがとう。特級過呪怨霊なんて言わないでくれて。

 ありがとう。名前で言ってくれて。

 ありがとう。成仏と言ってくれて。

 

 

「帰ろうか」

 

 

 呪術師は歩き出す。帰路に付く。既に頭上は青空である。

 少女の心を映していた世界はもう無い。

 暗い暗い学校があった場所は今、ただの円状の更地になっている。

 

 彼女の心が為した惨状。復讐の痕。未練の末路。

 全ての後には、何も無いけれど。

 

 

(──また、か)

 

 

 

 

 阿織桔梗。聖人の呪いを宿す少女。

 出会った人間全てに呪われて、その全てを呪った少女。

 彼女は最期に、一人の少年と出逢った。

 

 

 


 

 

 

「想定外だ」

 

 

 暗闇。仄かな灯りが浮かんでいる。

 黄色と黒が混じった空間には、更に六つの障子。

 重厚な声が、その裏から響いてくる。

 

 

「ハァ。五条同様、彼も我々の理解の範疇を越えていると見るべきか」

「まさか阿織桔梗が祓われるとは……」

「何の為に阿頼弥家と縛りを結んだのか」

「仕方あるまい。我々の考慮不足として甘んじて受け入れよう」

 

 

 六人の古老。呪術総監部。薄暗い闇の中で長く権威を奮ってきた魔物達。

 阿織桔梗の祓除を条件に阿頼弥家と縛りを結び、失敗した暁には阿頼弥家に対し優越的権利を得ようとしていた。

 しかしその思惑が外れ、古き力が脅かされようとしている。

 

 

「むしろ、凶霊『阿織桔梗』の祓除を我々は喜ぶべきだ」

「確かにな。これ以上の被害が出ていれば秘匿も困難になっていただろう」

 

 

 彼らは自分達の身を、力を、尊厳を、是が非でも守りたい。

 腐敗の六名。自らを脅かす者達とは、何度も対峙してきた。

 新たに湧いた異分子も、自らの力に変えてみせる。

 これは、その手始めに過ぎない。

 

 

「そこでだ。此度の大業、及び五条悟にすら為し得なかった事実。()()には十分だと思うが、諸賢は如何とする?」

 

 

 


 

 

 

 同日。夜。

 群馬・東京間の移動を経て、全員が無事高専に帰還した。

 

 誰も何も言わなかった。誰が誰を慰める事も無く、咎める事も無く。

 全員が独立して自分の部屋へ戻って行った。

 

 そして一時間半後。現在十九時二分。

 都立呪術高専。寮。共有スペースにて。

 

 

「なぁ、啓どこ行ったか知らね?」

 

 

 何とはなしに集まっていた男子陣の下に現れ、真希はそう尋ねた。

 風呂上がりのラフな格好である。どうやら啓の姿が見えず、探している様子だった。

 一番ラフな格好のパンダがまず答えた。

 

 

「んー見てないな。俺と棘は結構前からここにいたけど、その間は来てないぞ。恵は見てないか? 部屋近いし」

「……そう言えば、帰ってきて少しした後、部屋の前誰か通りましたね。その時は釘崎かと思ったんですけど」

「じゃあ絶対それだわ、私真希さんと一緒にお風呂入るまで部屋出てないし」

 

 

 遅れて登場してきた釘崎が出会い頭に告げた。その説明で全員が納得の表情を見せた。

 

 真希は眼鏡を外してソファにどかりと座り、釘崎はその横を陣取った。

 

 

「ったく、どこほっつき歩いてんだか……」

「啓に用でもあったのか?」

「いくら?」

「いや。ただ、今日色々あったからな……様子見ておこうと思ってよ」

 

 

 視線を落とす真希。

 平坦な声色だったが、そこには彼女だけが感じる不安が混じっていたようだった。

 

 

「帰りの車じゃ普通に喋ってましたけど……」

「水沢うどんもガッツリ食べてたし」

「ま、アイツはイカれてるからな。あんな後でも私らに気ぃ()()()んだ」

 

 

 伏黒、釘崎のさり気ないフォローはありがたいが、この中では、真希が一番啓の事を知っている。

 

 

「待て待て、話ついてけねぇって。今回の任務何かあったのか? 無事終わったんじゃないのか?」

「高菜」

「あぁ悪い、言ってなかったな。まぁ全部は言えねえが」

 

 

 そうして真希は語った。

 踏み込むべきではない部分は曖昧に伏せつつ、それ以外は明確に。

 そう簡単には言語化できない、あの戦いを。

 

 

「……なる程な……阿織桔梗()ただの呪いじゃなかった訳だ」

 

 

 パンダや棘が思うのは、もう一人の特級過呪怨霊。

 彼女はただ少年を愛しただけで、そこらの呪いとは訳が違う。

 

 真希達が見た少女も、恐らくその類なのだろう。

 まして誰かの私欲によって呪いにされたのなら。

 

 

「私らももちろん思う所はある、が……」

「そりゃ啓が一番キツいな……」

「しゃけ……」

 

 

 過去に面識のあるパンダや狗巻はもちろん、会ってまだ一日も経っていない伏黒達ですら、理解している。

 

 いや、理解させられた。今日の一部始終で。

 そういう性格なのだと。

 

 

「いちいち気にすんなって言いたいけど、アイツがあの性格じゃなきゃ、あの子は絶対成仏しなかったしね」

 

 

 釘崎の脳裏に浮かぶのは故同級生。どちらも魂の根っこから根明のバカ。

 釘崎とは、似ても似つかない奴ら。

 

 

「堂々巡りだな……真希、お前様子見るだけじゃダメだぞ」

「あ?」

「ハグして膝枕して耳掻きしておやすみのチューしてやるくらいじゃないとヘブッ!!」

「死ね」

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 殺せば良かった。

 

 

             殺さなくて良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 同刻。

 高専敷地内。

 

 

 校舎から遠く、建物群の一つ。

 月明かり。白光。少年。白い髪。

 

 

「…………」

 

 

 ミシ。ミシッ。ギュグッ。

 鈍い音が響いている。断続的に。

 それは何かを締めるような音だ。締めて、締めて、締め付けている。

 

 

 何を。

 首を。

 

 誰の。

 阿頼弥啓の。

 

 

 誰が。

 ──本人が。

 

 

「…………」

 

 

 スラッとした右手を首元へやり、筋が浮かぶ程の力を入れている。

 呪力は篭っていないが、それでも。

 

 

「…………」

 

 

 締まる首。血が頭から引いていく感覚。

 頭。頭の中。頭の中身。啓の思考。二重螺旋を描いている。

 

 

     ──殺せば。

          ──殺さなくて。

 

 

 天蓋の呪詛師。

 阿織桔梗を殺した元凶。コイツを中心に、思考が渦を巻いている。

 

 

 殺すのが最善だった。啓にとっては。

 阿織桔梗も看取らず、憎しみのまま。

 アイツが来た瞬間に。アイツの姿が網膜に届いたその時に。

 

 だがその瞬間啓は成り下がる。阿織桔梗が一番嫌いな人間に。

 そのまま一人で、死なせてしまう。

 

 

(だったら──いやでも。……あぁ、訳分かんなくなってきた)

 

 

 考え過ぎてバカになった気がした。

 いや、答えの無い問いに問い続ける事がそもそもバカなのか。

 

 思考の渦の中心に溜まる澱を、もう飲み込むしかないのか。

 思考を放棄して、それこそ、呪詛師みたいに。

 

 

「なぁお前……大丈夫か……?」

「ッ!」

 

 

 思考を横切る声が掛かった。

 啓は渦の中から引き揚げられて、現実を見た。

 

 恐る恐るといった風に声を掛けてきたのは、薄いピンクと黒髪の少年。

 その表情には、心配と懐疑が混ざっていて。

 

 

「人……。何で、こんなところに……」

「いや、そりゃこっちのセリ、フ──。ウッ」

「え」

 

 

 直後、苦悶に変わり、意識を失ったように上半身が垂れた。

 

 一瞬の事だった。

 心配の声を掛ける暇も無く、啓は異変に気付いた。

 

 "眼"で見るまでもない。圧倒的な気配を全身に浴びせられた。

 少年の顔には不気味な紋様があった。

 

 

「お前は……」

「君……」

 

 

 だが、啓を見るその表情も困惑に満ちていて。

 呪いの王と神童は、互いに目を見開いて、互いを見ていた。

 

 

「何者だ……?」

「何者……?」

 

 

 


 

 

 

 同刻。

 阿頼弥家。当主執務室。

 月の光だけが窓から差して、部屋の中は白と黒の二色のみ。

 

 壁や床の濃い影を見て、玄は心底嫌な気分になった。

 五条からの通話内容も相まって、正直吐きそうなレベルだ。

 

 本格的に自身の老化を疑った。

 より正確には願った。どうか今の言葉が、聞き間違いでありますように。

 

 

「……悟、頼むから冗談だと言ってくれ」

『いやいや、流石にここまでタチ悪いのはしないよ。それに言ったら怒るでしょ』

「怒る気力もねえよ……ハァ」

 

 

 阿織桔梗成仏の一件。

 画面の向こうの五条は、事細かに報告してくれた。

 正犯の男の様相、背丈、声色、そして……術式。

 

 正直、今聞けて良かったという思いと、聞きたくなかったという思いの両方がある。

 頭を抱えながら玄は改めて問う。

 

 

「ったく。"あの術式"使える奴なんてそうそういねぇっつーのによぉ……」

()()()は? 正直あの人が今一番黒いでしょ』

「俺も思ったが……お前から聞いた術式効果がどうも引っかかってな」

 

 

 怪訝そうに眉を顰める玄。もどかしさに苛立ちが募る。

 あと一歩。見えない何かに真実への道を阻まれている。

 

 

「"思考"を弄られる感覚があったんだろ? 洗脳とまではいかなくとも、精神的に干渉はされた訳だ」

『うん、それは間違いないよ。逆らえない程じゃあなかったけど』

 

 

 何もするな──そう言われて、純粋に"そう"だと思ってしまった。

 五条はあの時の気持ち悪い感覚を、今でも鮮明に覚えている。

 

 

「そこなんだが……俺もアイツも、思考にまでは干渉できねぇんだ。てかぶっちゃけ、啓でもできるかどうかは怪しい」

『……マジ?』

 

 

 背もたれに全体重を預け、天井を仰ぐ玄。

 六眼を持っている以上、五条の言葉に間違いは無い。

 ならば間違っているのは自分達の主観の方だ。

 

 

(啓も俺もアイツも違う。となると……同じ芸当ができる人間は、()()にゃ居ねえ)

 

 

 目を閉じて玄は少し考えた後、口を開いた。

 自らを悩ませる種を羅列していく。

 

 

阿頼弥(ウチ)の内乱。特級呪霊の集団。そんで謎の天蓋野郎。……お互い大変だな悟」

『おっさんくさい事言わないでよ玄さん……若人達の為にも、ここは逆に燃える所っしょ』

「ハハッ、お前……たまには良い事言うなぁ」

 

 

 思わず玄は笑ってしまった。

 若いなぁと思う。一方で、自分は年を取ったなぁと思う。

 年を取って、守るものができて、自分は随分とネガティブになってしまっていたらしい。

 

 ちょっと情け無くなって、笑うしかなかった。

 それと同時に、少し吹っ切れた。玄は笑いながら応えた。

 

 

「そーだな。奴らが組もうが何しようが関係ねえ。全部ブッ潰すだけだ」

『………え、マジ? 分かった。すぐ行く』

「おーい何電話してんだ聞けや殺すぞ」

 

 

 


 

 

 

 

 同刻。都内某所。とあるマンション。

 数あるドアの中、その一つの向こうには、鮮やかな青と白の海浜が広がっている。

 

 場違いな程綺麗なその世界には、場違いな異形と人型がいる。

 中でも夏油は特に人間らしい様相をしているが、しかし不気味な笑みを浮かべている。

 

 

「ねぇ法坐(ほうざ)

「ん、何?」

 

 

 その笑みのまま、夏油は隣の()()()に声を掛けた。

 虚無僧の男、法坐も、声色や背格好から人間である事にきっと間違いはない。

 だが顔が見えないだけで、彼の不気味さは夏油よりも遥かに強い。

 

 

「今回は最終的に煙に巻けたし君の計画に必要だったから良いけど、今後あまり無茶な真似はしないでね?」

「あー、うん、それに関しては本当に悪いと思ってるよ。今回みたいなコトはもうしないさ」

 

 

 むしろ人間らしい話し方や仕草をする程、人外じみた印象を覚える。

 それと平然と会話をする夏油も大概だが。

 

 

「でもまさか成仏しちゃうとは思わないじゃん。焦ってつい手出しちゃったんだって」

「出しちゃったじゃないんだよ。マジでホントに頼むよ?」

 

 

 呆れたような夏油は留まる事を知らず、「ていうか」と言って。

 

 

「以前聞いた阿頼弥啓の"抹殺"もさ……あの方法で大丈夫なのかい? 五条悟の封印よりも不確定要素が多いと思うんだけど」

「あはは、ここぞとばかりに出てくるね文句。まぁ確実に封印できる獄門疆と違って、ウチのは相性っていうのが少なからずあるからね」

 

 

 法坐は飄々と語る。

 先程の指摘とは違って、別段動揺するような様子は無い。至って冷静である。

 

 

「でもその影響は本当に少ない。殆ど無視して良い程度の、極めて微々たる物だ。砂糖の山に塩があったって、君は気にしないだろう?」

「解るけどさぁ……相手があの阿頼弥啓じゃなければ、私もここまで懸念しないよ」

 

 

 法坐の言い分は夏油だって理解しているし納得もできる。

 それでも、拭い切れない不安が胸の内にこびり付いている。

 絶望的なまでに強い彼らのような存在は、凡人の万策を容易く捻り潰す。

 

 

「"阿頼弥の神童"。彼の異常さは、君が一番よく知ってるだろう?」

「……」

 

 

 法坐が思い浮かべるのは、阿頼弥家に伝わる三つの相伝。

 いずれも御三家の相伝に引けを取らない強力な術式──。

 

 

 神童は、()()()()()()()()()

 

 

 阿頼弥家に稀に生まれる、複数の術式を持つ子供達。

 "呪いを受け入れやすい"体質が原因とされているが、詳細は不明。

 だが代償は大きく大半が幼児の内に寿命を迎え、中には胎児のまま死亡した事例もある。

 相伝の術式を全有し、十六年を生きた少年。

 

 

「殺すまでの前段階ですら至難だよ?」

「そこは夏油の方も同じだろ? それに僕の方には強力な助っ人がいる。漏瑚達よりも、ずっとね」

 

 

 二人の視線は遠くへ移る。

 海辺に佇む、今現在の二人の仲間であり、協力者である異形の者達。

 人々が遥か太古から畏れてきた、自然、天災の化身。

 魑魅魍魎などよりもまず最初に、負の感情から産まれた呪い。

 

 大地。森。海。

 彼らは畏れられ、崇められ、奉られ、敬われ、願われ、祈られ、献げられ、恨まれ、忌まれ、厭われてきた。

 

 

 だが、もう一人。もう一つ。

 彼らと同様に、永らく呪いを受け続けてきた者がいる。

 そこは、地を裂く程の雷を生む場所。

 そこは、海に降る雨が生まれる場所。

 そこは、森の浴びる太陽がある場所。

 

 

「──全空(ぜくう)! 本当によろしく頼むよー!」

 

 

 

 空。

 

 

 人の手の届かぬ高みから、恵みと災いを降らす自然界の中枢。

 その呪いは、空色の甚平の上から白い羽織を纏った青年の姿をしている。

 "天"の字が書かれた布に隠れて、その表情は読み取れない。

 

 

「……。何を急に意味不明な事を言っている。ただでさえ()は貴様の声が好きではないのだ、あまり喋るな」

「ハハ、素直じゃないなぁ全空は」

「殺すぞ」

 

 

 悪意の火種は少しずつ。

 神童に降り掛かる巨大な呪いは、もうそこまで迫っている。

 

 

 


 

 

 

 阿頼弥一族。

 御三家に匹敵する呪術師家系の最高峰。

 始まりは飛鳥末期。史上最古の呪詛師を討った術師の末裔とされる。

 

 

 

 五条は、阿頼弥家が嫌いだった。

 中立による呪術界の統制を謳ってはいるが、その実態は総監部とは別の魔窟。

 

 部外者の一切を排斥し、呪詛師や呪詛師の疑いある者を全て排除する、中立に取り憑かれた化物達が棲まう家。

 

 

 の癖に。

 親友が"あっち側"へ行ってしまうのを、彼らは止められなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも玄や篝達まで嫌いになれる訳がなくて。

 とっ散らかった心のまま、五条は阿頼弥家を訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして最強は、神童に出逢った。

 

 

 

 

 

 

「なる程ねぇ、こりゃまた運命的な出会いだこと」

 

 

 呆れ一割、揶揄い一割、驚き八割の声色で五条は感想を溢した。

 

 目の前で正座している二人……虎杖悠仁と阿頼弥啓。

 五条と同じように、それぞれの存在は呪術界にとって大きな意味を持つ。

 

 想定外の邂逅に、どうしても運命(それ)を感じざるを得ない。

 

 

「ま、良いか。手間が省けた訳だし。二人とも、自己紹介は済んでる?」

「一応……」

「そう。なら啓、君には僕の代わりを頼みたい」

「代わり?」

 

 

 偶然引き合った巨大な台風の目。

 これが吉凶どちらをもたらすかは誰も知らない。

 だからと言って、呪術界最強がこの偶然をみすみす逃す筈が無く。

 

 

「悠仁は今隠れて修行中なんだ。僕の指導の下でね。でも、今日から君が先生だ」

「ぼ、僕ですか?」

「うん、頼んだよ!」

 

 

 五条の声色は、節々にワクワクが滲んで溢れているようだった。生徒二人の困惑した顔は、たぶん見えていない。

 

 

 見えているのは、夢への往路。

 後進育成による呪術界改革。六眼にも見えない五条の夢。

 

 それは何も、五条が自ら叶える必要は無い。

 こうして五条の手から離れて、放置育成させたっていい。

 この二人なら、きっと予想を超えて大きく育つ。

 

 

(男子三日会わざれば、ってね)

 

 

 五条はまた、笑っている。

 

 

 

 







 五話、読了ありがとうございました。
 次からやっと原作軌道に戻れます。



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