椎名立希はいつも通り、放課後、バンド練習に向かおうとすると八幡海鈴に呼び止められる。
身に覚えのない疑いをかけられてしまった二人は、頼りない大人達に代わり、真犯人を見つけ出すことに。
こんな思い出もいつか青春の1ページになる……のだろうか。
気乗りしない椎名立希とやる気なのかどうなのか全く読めない八幡海鈴、二人は真実にたどり着くことはできるのか!?

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迷惑な解決手段

放課後。

 

いつものようにさっさと帰り支度を済ませ、楽奈を連れて練習に向かおうとすると海鈴に呼び止められる。

 

「急いでどちらに?」

 

「どこって。バンド練だけど」

 

「活動的で良いですね。ですが、その前に行かねばならないところがあるのでは?」

 

「何?」

 

「先ほど、校内放送で呼び出されたの、聞いていませんでしたか」

 

「は?」

 

全く聞いていなかった。

 

なんで私が。

 

「生徒指導室、だそうですよ?何かしましたか?」

 

「何も。心当たりがない」

 

「なら、誤解を解くためにも出向いたほうが良いのでは」

 

本当に全く心当たりがない。

 

もし何かあるのであればそれは誤解だ。

 

誤解されたままというのは困る。

 

それに指導室に呼び出されるようなこととなると親に、家族に知られることになるだろう。

 

……それだけは避けたい。

 

「ありがと。さっさと誤解だって話してくる」

 

「なら行きましょうか」

 

「……は?」

 

行くって海鈴も?

 

どうして。

 

「何を隠そう私も一緒に呼び出されてしまったのです」

 

「海鈴、巻き込まないで」

 

「ところが、私も全く心当たりがないので、巻き込みようがないのです」

 

とにかく、さっさと済ませてバンド練習へ向かおう。

 

 

 

「失礼します」

 

海鈴と二人で入ると制服を来た女生徒二人と大人が一人。

 

生徒の方はふたりとも少し明るい髪をしているヤンチャな印象の人だった。

 

片方は髪が短めで背の高い人。

 

バスケ部かバレー部だろうか。

 

もう片方は長め。

 

爪が装飾されているし、耳にピアスの穴が空いている。

 

2人共あまり見かけない。

 

先輩だろう。

 

大人の方はもあまり見かけない。

 

ヤンチャで目つきの鋭い生徒に対して若干猫背で目線を下に向かせている姿は自信の無さそうな印象をもたせる。

 

生徒指導室に生徒を呼び出す大人は先生しかいない。

 

先生なのだろう。

 

「ええと、椎名立希さん、八幡海鈴さん、呼び出してしまってごめんなさい」

 

「呼び出されてしまった要件は何でしょうか。心当たりがないのですが」

 

「あ、えっと、実は最近、学校の敷地内にタバコの吸い殻が落ちていることがありまして、何か知らないかなと」

 

思わず舌打ちをしてしまいそうになるが我慢する。

 

何なんだ。

 

知るわけがない。

 

何で私がそんなことで呼び出されなくてはならないのか。

 

「え?先生ウチらのことを疑ってんの?」

 

先に来ていた二人のうち爪がキラキラしている方が食って掛かる。

 

「いえ、そういう訳ではなくて、噂とか聞かないかななんて」

 

「疑ってんじゃん。アタシさっさと部活行きたいんだけど」

 

背の高い先輩も加勢する。

 

「あ、うん。ごめんなさい」

 

早くも先生の方が負けてしまい、先輩方がさっさと出ていってしまった。

 

私も怒ってもよかったのだが、先生が少しかわいそうになってきてしまい我慢する。

 

「先生、私達も分かりません。お力になれず申し訳ございません」

 

余計なことを口走ってしまわないように先生への対応を海鈴に任せる。

 

「あ、うん。もし何かわかったら教えてね」

 

「はい。それでは失礼します」

 

 

 

 

 

「なんだったんださっきの」

 

「若かったですし、新任の教師なんでしょう。面倒事を押し付けられてかわいそうではありましたが」

 

「それでいちいち呼び出されるのは意味が分からない」

 

「ですね。進め方がわからないのでしょう。それで何か知っていそうな人を呼び出してしまった。と」

 

「海鈴はヤンチャしてると先生に思われてるってことか」

 

「納得いきません。こんなにも品行方正だというのに。サボるし授業は早退する不良の椎名立希さんと違って」

 

それは、……そうか。

 

バンドの曲を仕上げる為に授業を早退するときや欠席することもあった私は教師からすると1年生の中でも浮いてしまっているのかもしれない。

 

海鈴はバンドマンのイメージが定着しているのだろう。

 

バンドマンといえば不良。

 

くだらない。

 

「じゃ、私は行くから」

 

「ええ。私も活動がありますから。また、明日」

 

海鈴に別れを告げ、急ぎ足でRiNGへ向かう。

 

早くしないと遅れてしまいそうだ。

 

普段厳しくしている分、私が遅れては格好がつかない。

 

野良猫は……連れて行かなくてもきっと来るだろう。

 

 

 

「今日の練習も上手くいったね!私、うまくない!?」

 

「これで満足してるなら程度が知れてる」

 

実際、バンドメンバーの愛音は楽器歴が短い中かなり努力し、上達している。

 

ただ、本人に言うと調子に乗るだろうし、私含め完成度がまだまだなのは事実だ。

 

「そりゃ反省点はあるかもだけど……。あ、そういえば今日りっきー珍しく一番最後に来たよね。時間には間に合ってたけど」

 

「あ、あぁ。悪い。呼び出しくらって」

 

「え!?」

 

しまった。口が滑った。

 

「呼び出しって何!?なんかやったの!?不良じゃん!」

 

「何もしてない。誤解だった」

 

「ふーん。でも、先生から誤解を受けるほど日頃の態度が悪いってことなんじゃないの?」

 

バンドのベース、そよにまで噛みつかれる。

 

「で、でも立希ちゃんは悪いことはしないと思う」

 

「ありがとう。燈」

 

ボーカルの燈にフォローしてもらう。

 

他のメンバーや人がどう思おうと、燈がそう思ってくれるなら構わない。

 

「そりゃりっきーが本気で悪いことする人間だとは思ってないけどさ。誤解されそうな性格してるじゃん?」

 

「は?」

 

頭に血がのぼってしまう。

 

私だって誤解されたい訳じゃない。

 

「お腹すいた。抹茶パフェ」

 

バンド練習にしれっと参加していた野良猫、ギターの楽奈が空気も読まずに抹茶パフェを要求する。

 

「今日はなし」

 

「おこづかいで買うから、いい」

 

いつもそうしてくれ。

 

「燈は?なんか飲む?」

 

せっかくなので楽奈についてカフェに行く。

 

「うん。えっと、あのちゃんと同じのにする」

 

「え!?私と?責任重大じゃん。……そよりんは?」

 

「私は……アールグレイ。ホットの」

 

「私とともりんもそれで」

 

「……じゃ、私も」

 

紅茶を飲むのは久しぶりな気がする。

 

熱い紅茶にゆっくり口をつける。

 

なるほど。

 

落ち着く。

 

そよが好きなのも納得だ。

 

「りっきーの呼び出し問題だけどさ、どうする」

 

「は?どうするもなにも私は何もしてないんだから関係ないでしょ」

 

「そう。何もしてないのに呼び出されちゃうのが問題」

 

なんだそれ。

 

「立希ちゃんに伝わってないようだから補足すると、今後も突然呼び出されることが頻発したら問題だって危惧してる。ってことでしょ」

 

「そう。そのうちりっきーもまいっちゃって不登校になったり、本物の不良になったり」

 

「バンドから離れたり」

 

「え」

 

「もしそうなってもバンドを離れたりしないから」

 

燈が非常に悲しい顔をするので慌てて否定する。

 

でも、確かに一回でもだいぶイラッときた。

 

続いて、しかもライブの邪魔なんかをされたらキレてしまうだろう。

 

私はそんなに強い人間ではない。

 

……まあ、そんなことにはならない。

 

「分かった。それじゃ呼び出しくらってもこれからは応じないことにする」

 

「いや、それはもっとダメでしょ」

 

 

 

タバコ騒動の後、しばらく話題にはならなかったので、解決したのだろうと忘れていた。

 

そして、忘れたころに呼び出しをくらう。

 

「椎名さん、八幡さん、タバコがまた捨てられていたのだけど、何か知らない?友達が吸ってるとか、話を聞いたとかでもいいんだけど。悪いようにはしないから」

 

「いえ、私達もさっぱり見当がつかないです」

 

「そう……なの……」

 

集められたのは私と海鈴だけだった。

 

ヤンチャ風な先輩方はいない。

 

「あの、本気で探すなら掲示板を出すなりプリントを配るなりすればいいじゃないですか」

 

イラッときてしまい口調が強くなってしまう。

 

「それは……できないのよ……」

 

「はあ」

 

「それでは、私達、行きますので」

 

指導室を後にする。

 

「なんで先生があんな態度なんだ」

 

どうしても弱々しい態度がムカついて仕方がない。

 

私達を呼んで解決するとでも思っているのだろうか。

 

本気で解決しようとしている風に見えない。

 

「この間、職員室であの先生がかなり詰められているのを見ました。新人教師が雑用を強いられて、どう手をつければよいかは教えられず、ただ大きな問題にはするなと。やはり少し同情はします……が、やり方は私も気に入りません。……ところで、この後時間ありますか?」

 

「今日はバンドの練習もバイトもないから時間はあるけど」

 

なんだろう。

 

いつも忙しい海鈴が私を誘うのなんて珍しい。

 

「もしよければご一緒にカフェに行きませんか」

 

「いいけど。要件は?」

 

「クラスメイトと一緒にカフェに行っておしゃべりするのに要件がいるのですか」

 

海鈴が笑う。

 

私が誘ったら絶対要件を聞くだろ。

 

まあ、断る理由もないか。

 

「分かった。楽しいおしゃべりをしよう」

 

 

 

「要件ですが、私達で犯人を見つけるというのはどうでしょう」

 

喫茶店に入り、注文を済ませ、海鈴との話題を考えていたところでさっきの話と矛盾した切り口で話を振られる。

 

「要件はないんじゃなかったのかよ」

 

「たった今できました。今思いつきましたので」

 

呆れた表情を見せても海鈴は動じない。

 

「なんで私達が」

 

「はっきり言ってあの先生にこの事件を解決できる器量があるようには思えません」

 

「私と海鈴で解決できるとも思えないけど」

 

「そうかもしれませんが、そうじゃないかもしれません」

 

話が見えない。

 

海鈴が考えなしで話題をふるとは思えないが、何を考えているか全くわからない。

 

「話が見えないんだけど」

 

「このままダラダラと未解決のままにするのはよろしく無いと考えています」

 

「まあ、そうだろ」

 

「今日は偶々私も立希さんも予定の空いている日でしたが、今後もそうとは限りません」

 

「それはそうだけど」

 

それは私も思っていたことだ。

 

「生徒指導室に呼び出されてしまっては断ることもできませんし、しょっちゅう呼び出されてしまってはこちらの評判も下がってしまいます」

 

「別に周りが私のことをどう思おうが関係ないけど」

 

「変な噂が流れてしまうかもしれませんよ」

 

「……噂は困る」

 

私の姉は顔が広い。

 

変な噂が流れたら……。

 

頭が痛くなる。

 

「でしょう。そこで、私達が犯人を見つけ、やめさせるのです」

 

「やめさせるって犯人にあてはあるの?」

 

「ありません。私達で見つけましょう。私一人では思考が偏ります。偏ったまま推理を続け、他人に濡れ衣を着せてしまうのは一番避けたいです」

 

「はあ。それで」

 

「どうって」

 

「誰が犯人だと思いますか」

 

犯人に興味はない。

 

だが、騒動が収まるのであればそれに越したことはない。

 

ここは海鈴の案に乗ってやろう。

 

「誰かは分からないけど……。生徒だと思う」

 

「それは、何故」

 

「先生が吸っているとしたら所定の場所だ。何度か先生がタバコを吸いに空き倉庫に入っているのを見たことがある。それに、問題にされていることがわかっているのにわざわざ同じ場所で吸うなんてことするはずがない」

 

「同感です。外部犯という可能性は」

 

「……わざわざ言う必要ある?」

 

「考えをまとめるために言葉に出す必要があります。わたしたちの間の認識は合わせておかないと」

 

「犯行現場は中庭。外部の人が投げ入れる事はできない。もしわざわざタバコを吸いに学校に入っているとしたら変態だ」

 

「変態かもしれませんよ」

 

「中庭でわざわざタバコを吸うような変態だったらもっと重大な事件になってる」

 

「そうですね。先生方が問題にしたくないとなると学校関係者以外の犯行という線は消して良さそうです」

 

そう。

 

やはり生徒による犯行なのだ。

 

「では、誰が」

 

「知らない」

 

「考えられる人は」

 

「呼び出されたヤンチャそうな先輩方とか」

 

「ところが、その二人がタバコを吸っている可能性はすごく低いのです。ゼロと言ってもいいほどに」

 

「へえ。なんで」

 

海理は頼んでいたコーヒーを一口飲み、答える。

 

「爪の綺麗だった先輩は喘息持ちです」

 

「どうして知ってんの」

 

「聞き込みによる情報です」

 

一体いつの間に。

 

「じゃあ背の高い先輩は」

 

「ありえません」

 

「どうして」

 

また一息いれる。

 

「双子だからです」

 

「は?」

 

「双子のお姉さんがいるそうです」

 

「そうじゃなくてどうして犯人じゃないの」

 

「双子は犯人にはならないんですよ。ちなみに中国人も犯人にはなりません」

 

海鈴は真面目な顔をして冗談を言う。

 

もったいぶった割には面白くない。

 

「理屈は?」

 

「犯人だとつまらないから。らしいですよ。推理小説のお約束です。ちなみに中国人というのは東洋人のことなので日本人も当てはまります。つまり、日本のミステリはお約束から外れていますね」

 

小説の話か。

 

じゃあ関係ないじゃん。

 

ていうか……。

 

「喘息持ちの人でも喫煙する人いるよね」

 

「そういう人もいますね」

 

「じゃあ犯人候補から外せないじゃん」

 

「詰みましたね」

 

詰んだ。

 

いや、そもそもここで犯人を推理する必要もない。

 

「海鈴、明日は暇?」

 

「暇……ではないですね」

 

「あ、そう」

 

「ですが、バンドの練習が18時からですので、17時までならお付き合いできます」

 

「放課後、要件のない楽しいおしゃべりでもしよう」

 

「なるほど。張り込みですか。確かに我々は安楽椅子探偵というよりは足で解決するタイプです」

 

ドンピシャで考えていることを当てられてしまう。

 

「まあ、そういういうことだから、また明日ね」

 

そう言って席を立つ。

 

確かに私は考え込むより行動に移した方が良いタイプの人間なのかもしれない。

 

……うまくいくかは置いておいて。

 

 

 

「幸いにも今日は暑くとも寒くもない快晴ですね」

 

海鈴が当たり障りのない、当たり障りのない天気の話を振る。

 

当たり障りがなさ過ぎて返事に困る。

 

「今日ホントに大丈夫だった?」

 

「ええ。スタジオ練ですから。時間より早く行っても仕方がありません。それより屋上に呼び出される方がワクワクするイベントです」

 

「ああ、そう」

 

海鈴は正直いなくても構わないのだがそもそも解決のために動き出そうと言ったのは海鈴だ。

 

だったら暇つぶしに付き合ってもらってもかまわないはずだ。

 

「テスト勉強、した?」

 

「しました」

 

「ヤマどこかアタリつきそう?」

 

「まあ。誰かさんと違って居眠りはしないので」

 

「今度教えて」

 

「ところで、犯人のアタリはついているのですか」

 

「いいや」

 

全く見当がつかない。

 

なので張り込みをするのだ。

 

「それで中庭を見下ろせる屋上ですか」

 

「ま、見つかると思ってないけどね」

 

海鈴は何を考えているか分からないといった表情ではなく、なるほど。という風に考えているようだった。

 

それなりに滅茶苦茶なことを言ったつもりなのにこのリアクションだ。

 

面白くない。

 

「あぁ、犯人を見つけるのが目的ではない……と」

 

「まあ、見つかればいいなとは思うけど、見つからなくてもいいなとも思う」

 

我ながら何を言っているのか分からない。

 

なのに海鈴はなるほどと頷く。

 

「あ、先生」

 

中庭の犯行現場を先生が見張っているのに気がつく。

 

「本当だ。先生も見張るようになったんですね」

 

「……帰ろっか」

 

「ですね」

 

先生が見張っているならわざわざここから見ている必要もない。

 

思っていたより早く張り込みの時間が終わり、テスト勉強が捗る。

 

そんな日に終わった。

 

 

 

次の日の放課後、先生に会いに行く。

 

「あの、例のタバコ騒動ってどうなったんですか」

 

「今日も昼に見つかったの。はぁ。本当に勘弁してほしい」

 

先生は見るからに疲れていた。

 

「そうですか」

 

必要な情報は得られたし、これ以上話してて愉快な気分になることはなさそうだったので職員室を立ち去る。

 

「わざわざ呼び出されてもいないのに熱心ですね」

 

海鈴がいた。

 

「海鈴、バンド練行ったんじゃなかったの」

 

「日直なので日誌を。練習もまだ時間があります。どちらへ」

 

「図書室」

 

「文学少女でしたっけ」

 

「違う。パソコン使いに」

 

「勝手に張り紙なんて書いたら先生に目をつけられてしまいますよ」

 

「別に。見つかるような場所に置くわけじゃない」

 

「ふむ。……すると、犯行現場ですか」

 

「そう」

 

海鈴と話していると図書室に着く。

 

よかった。

 

パソコンを使っている人は誰もいない。

 

みんな勉強だったり読書だったりに勤しんでいる。

 

パソコンの前に座り、文書を打ち込む。

 

「見ないでくれる」

 

画面をのぞき込む海鈴に苦言を呈する。

 

「あら、人に見られて困るような文章を書く予定が?」

 

「そうじゃないけど。そんな面白いものを見るかのように興味津々に見られるのは不本意」

 

「それは失礼しました。ですが、私も巻き込まれている事件がどのような結末を迎えるのか興味があります」

 

確かに海鈴だって被害者だ。

 

「そういうことならまあ、いいけど」

 

書く内容は……。

 

 

『先輩のストレス発散に迷惑している後輩がいます。

 

アタマの固い先生方が先輩の知らない間に犯人探しを始め、疑いをかけられているのです。

 

先生方が的外れな行動をしている様をは滑稽で観察する分には愉快でしょうが、疑いをかけられる私達からすればいい迷惑です。

 

他の方法で発散していただくようお願いします。』

 

 

 

「ストレス発散ですか」

 

「そう。だってタバコの吸い殻が捨てられているのは毎日じゃない。よくわかんないけど、タバコって習慣になるんでしょ。犯人が愛煙家だって言うなら頻度はもう少しあっても良い」

 

「先輩だって言うのは?」

 

「放課後、先生が見張っていても犯人は見つからなかった。なら授業中にやってるんだと思う」

 

「授業中ですか。そんなことしたら目立つのでは?」

 

「体育の授業だと思う。体育で外での授業なら少しの間抜け出していてもバレることはないんじゃないかな。私達一年はカリキュラム的に体育館での競技、先輩方は陸上競技だったり、ソフトボールだったりで、昼休み終わりにあの場所には行けると思う」

 

「なるほど。早速それを張りに?」

 

「私は犯人を罰したいわけじゃない。ただ、やめてほしいって伝われば良い。だから、明日の朝に貼りに行く。放課後じゃ効果がないし、先生方に見つかったりしたら面倒」

 

「ねえ、そこの人たち」

 

声をかけられる。

 

声の方を向くと図書委員であろう人が手招きをしている。

 

「すみません。うるさかったですか?」

 

「いいえ。そういうわけでは無いんだけど。プリンター使うのかなって」

 

「はい」

 

「そしたらここにクラスと出席番号、あと名前と用途を書いて」

 

管理簿を渡される。

 

なるほど。無駄遣いされないように管理されているのだろう。

 

「用途は……課外活動とかで書いてくれればいいよ。何枚も印刷するわけじゃないなら厳しく見られないし」

 

「ありがとうございます」

 

図書委員の助言通りに書く。

 

「ねえ、パンダ好きなの?」

 

「え」

 

カバンにつけているストラップを指さしている。

 

「パンダ、かわいいよね。白黒ハッキリしてて」

 

「はい。まあ。好きです。白黒ハッキリしてて」

 

「だと思った。……はい、確認しました。じゃ、バイバイ」

 

「さようなら」

 

優しい図書委員に別れの挨拶をして帰る。

 

「立ち振舞とかじゃないのですか?」

 

「別に。こだわりとかない。立ち振舞も好きだし白黒なのもすき」

 

好き……だけど、白黒ハッキリしてるのが良いと特別思ったことはない。

 

図書委員の人は変わった人が多いのだろうか。

 

 

 

次の日の朝、早速刷ったプリントを犯行現場に仕掛ける。

 

やはり、吸い殻はまだないようだ。

 

とにかく、これでこの騒動は終わりだ。

 

教室に向かう途中、例の先生とすれ違う。

 

挨拶をしようと思ったがやめた。

 

しばらく会うことはなくなると思う。

 

……分かってる。

 

それが先生の考えたベストだったのだろう。

 

じゃあどうすればよかったのか。

 

そんなことは分からない。

 

これからもこういうことが、どうすればいいのか分からないようなことが、私にも沢山起きるのだろうか。

 

教室に戻ると海鈴がこちらを見てくる。

 

「なに?」

 

「いえ、別に。これで2人揃って呼び出されることもなくなるのかと思うと寂しく思えて」

 

「大して楽しいこともなかったでしょ」

 

「青春を過ごしましたよ」

 

「ふーん」

 

まあ、私達みたいなのが群れて何かをすること自体珍しい経験なのかもしれない。

 

先生のあんなやり方のおかげと考えれば……。

 

最悪な方法ではなかったのかもしれない。

 

「うまくいかなかったらまた呼び出されるかも。嫌だけど」

 

「そうですね。嫌ですけど」

 

名残惜しいとは思わない。

 

海鈴とは長い付き合いになると思う。多分。

 

「ところで、今日は空いてますか」

 

「空いてる」

 

「では、一緒にカフェにでも」

 

少し考える。

 

「要件のないおしゃべりなら」

 

「もちろんそのつもりです。美味しい物でもいただきましょう」

 

 

 

次の日、登校すると、私の机の上に紙袋が置いてあった。

 

可愛らしいパンダの柄だ。

 

丁寧に『椎名立希様』と宛名まで書いてある。

 

中にはクッキーと手紙が入っていた。

 

せっかくなのでいただきながら手紙を読む。

 

 

 

『椎名立希様

 

一連の騒動に巻き込んでしまった犯人です。

 

この度はご迷惑をおかけしまして申し訳ございません。

 

真面目な自分が疑われることはないだろうと、調子に乗り、先生方が困っている様を見て愉悦に浸っておりました。

 

まさか後輩に迷惑をかけてしまうとは思わず、思慮に欠けた行動であったと猛省しております。

 

今後はあなた方の迷惑になるようなことは決してしないことをお約束します。

 

もし、ご容赦いただけるのであれば先生に私のことを話さないでいただけると幸いです。』

 

 

 

本当に効果のあったことに驚いた。

 

一連の騒動が収まるのであればそれに越したことはない。

 

「どうされましたか。そのクッキー」

 

海鈴に声をかけられる。

 

「よく分からないけど。置いてあった。あと、これ」

 

「へえ。人気者ですね。恋文ですか」

 

「違うよ。犯人から」

 

海鈴に手紙を見せる。

 

海鈴に見せる分には良いだろう。

 

「なるほど。犯人からの差し入れを食べていると」

 

「別に、毒とかは入ってなさそうだけど」

 

「では、私もいただいてもよろしいでしょうか」

 

「はい。これで遅効性の毒だったら道連れ」

 

「これで真相を知る者はいなくなる。ということですね」

 

「しゃべるつもりはないけど。誰がやったのかはっきりしているわけじゃないし。……あれ」

 

「どうしました」

 

「そういえば。なんで私宛なんだろう」

 

「さあ。目立ってるからじゃないですか」

 

「それだったら海鈴宛でもいいでしょ」

 

「私は特徴があるわけではないので目立ってませんよ。不良じゃないですし」

 

バンドをいくつも掛け持ちしてる人なんてそう簡単にいてたまるか。

 

私よりは海鈴の方がこの学校では目立ってるはずだし、海鈴は聞き込み捜査をしていた。

 

……私が張り紙を用意したってなんで分かったのだろう。

 

「まあ、いいか」

 

もう少し考えれば犯人が分かる気がしたが、その必要もない。

 

口止め料も貰ったし。

 

これで騒動が終われば、私達の活動の邪魔にならなければなんでもいい。

 

 

 

「その紙袋なに?かわいい〜」

 

愛音に小物を入れていた紙袋に気が付かれる。

 

この間貰ったパンダの柄の紙袋だ。

 

「貰い物」

 

「なんか意外かも。りっきーがそーゆーの取っておいてるって」

 

「あっそ」

 

「私も、気に入った紙袋とってある」

 

燈が同調する。

 

「そう、だよね!いいよね!」

 

燈と共通項があることに嬉しくなり、少し食い気味で反応してしまう。

 

「流行ってるもんね」

 

「そういうのじゃないし」

 

「じゃあどういうの」

 

「うるさい」

 

愛音がやっと黙り、静寂に包まれる。

 

……そよと楽奈が来るまでの時間を潰そうとしてくれていたのかもしれない。

 

乱暴にあしらいすぎた。

 

別に愛音と喧嘩がしたい訳じゃない。

 

少し、申し訳なくなる。

 

「……この間、呼び出しくらったって言ったでしょ」

 

「あー、あの、冤罪のやつ」

 

「そう、冤罪の。その真犯人から貰った」

 

「え!?……脅したの?」

 

「ちがう!」

 

「分かってる分かってる!冗談だから。でも、どうして真犯人から?」

 

「先生に言いつけずに黙ってたからかな」

 

「ふーん」

 

「いつもみたいに不良だーとか言って茶化さないんだ」

 

「いや、それで解決したならいいじゃんって思って。……なんで呼び出されたんだっけ」

 

「タバコの吸い殻が中庭で落ちてたって」

 

「それだけで!?うっざー」

 

「それで海鈴と……この間呼んだベースと呼び出しくらって、色々あって解決した」

 

「立希ちゃん、すごい」

 

燈が尊敬のまなざしで見てくる。

 

大したことをしたわけじゃないので少し恥ずかしくなる。

 

「真犯人どんな人だったの」

 

「さあ」

 

「さあって」

 

「直接犯人と会ったわけじゃないから。推理通りだったら先輩」

 

「……?真犯人が誰か分からないのに解決したの?」

 

「犯人しか見ないところにもうやめてくれ、迷惑してるって張り紙をした」

 

「へー。……あれ、なんでそれでりっきーにプレゼント?張り紙に名前でも書いたの?」

 

「書いてない。なんで私に届いたのかは分からない」

 

「あ、分かった。実は犯人はベースの子だったとか。なんかサスペンスでよくある展開じゃない?」

 

「残念。海鈴じゃない」

 

「誰なのかとか気にならない?」

 

「別に。事件が収まって、呼び出されることがなくなればそれで良いでしょ。犯人が誰だったかなんてどうでも」

 

「それは……そうか」

 

「誰も怒られない様に解決したんだ。……すごい」

 

燈に褒められ、嬉しくなってしまう。

 

「でもさ、犯人はりっきーのこと知ってて、りっきーは分かんないのってなんか一方的じゃない?……帰り道に攫われたりして」

 

「そんな事する人じゃない。……多分」

 

「ま、贈り物してくれるくらいだし、そんな事ないかー」

 

「そう。口止め料貰って、この件は終わり。私は犯人が誰かは気にしない。先生も事件が終息して一件落着」

 

「りっきーの手柄にならないで先生の手柄になっちゃうよ」

 

「それでもいい。……私はなんだかんだ楽しかった。これも気に入ってるし」

 

「りっきーがそれでいいならこれでこの騒動は一件落着だね」

 

そう。

 

終わってしまえば楽しかった。

 

海鈴と喫茶店で話し合ったり、屋上で張り込みをしたり、バンド以外のことを考えたり。

 

誰かの失敗が、迷惑をかけられたはずの選択が、終わってしまえば楽しかった思い出になるのであれば、それは喜ばしいことだ。

 

こういう積み重ねが海鈴の行っていた青春になるのだろうか。

 

ぼんやりとそんなことを考え、自分のこれまでの高校生活を想いながらコーヒーの苦みを味わう。

 

 




いつの間にかAve Mujicaが始まってしまっていました。
時間が経つのが早く感じます。
始まるまでには投稿しようなんて考えてたのがついこの前だったはずなのに……。
椎名立希ちゃん、いいキャラですよね。
いい子なんだけど不器用で、詰めが甘くて。
初期の自己紹介みたいな動画が出てから好きなキャラなので、また、立希ちゃん主役で書ければなんて思います。
また、その時は読んでいただけると幸いです。

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