マッドネス・シンドローム-異能感染症-   作:あかつき まりあ

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case1


幕張 透


憑かれる男①

《感染する異能》




episode1 幕張 透のペット拾い-亡霊拾い-①

四月半ば、ニュースでは学生の新学期や新社会人の話題もそろそろ終わりを迎える頃

 

 

彼は今日も広い部屋でそんな変わりもない報道を見ながら朝食を済ませ

 

 

仕事へと行く準備をしていた

 

 

幕張 透(まくはり とおる)

 

26歳の青年、職業、会社員、年収は約500万

 

大企業でエリート街道をマイペースに走る幸福者

 

趣味はオンラインゲーム、廃人の域に達する腕前

 

性格は、捻くれ者でしたたか切れ者、それでいて常識をわきまえ

 

社会の歯車への適合もそれとなくしている、強い芯と柔軟な思考

 

それが彼をここまで導いて来たのだろう

 

成功者の一人と言って良い

 

その人生の暗いモノの多さが今の彼を造り上げていると言っても過言ではない

 

 

この日も何変わらず、彼は袋にパンパンに詰められたゴミを持ち仕事へ向かう

 

 

都内の高層マンション、その10階に住む彼が会社へ向かうには徒歩だ

 

途中、ゴミを捨て、そこから10分程小道と大通りを歩き、喫煙所で煙草を吸い

 

そこから5分もしない内に会社に到着する

 

タイムカードを切り、自分の席に荷物を起き、周りの社員に愛想を振り撒く

 

きちんと整理された机には、すぐに作業を始められる様に今日のノルマ分の資料が纏めてある

 

それなりに几帳面な彼はここら辺も用意周到だ

 

一息吐いた所で朝会が始まり、軽い体操

 

それが終わると皆作業を始める

 

彼も例に漏れず手早く作業を始めた

 

午前は11時半までと、少々早めに昼休みが来る

 

現時刻は9時15分、二時間弱の軽作業

 

無論、彼にとっては、の話だが

 

一応、彼は管理職、係長だ

 

それなりに部下も居る

 

一部の上司には厄介者扱いをされているらしいが、彼の部所の部長には、その仕事ぶりから気に入られており、プライベートでも好感的だ

 

人気者と言う訳では無いが、女性社員からも好感的に見られている様で勿論、部下からの信頼も厚い

 

しかし、彼にとっては、それほど重要な事では無く……

 

むしろ、彼にとって重要な事と言うのもこの会社には存在しない

 

前述の様に、彼はオンラインゲームの廃人プレイヤーであり

 

現実世界での目的は金稼ぎとその生命活動を維持する事だけだからだ

 

さて、ここから時間が過ぎ昼休みに焦点を移す……

 

 

彼が午前の退屈な作業を終え、昼食を取る前に社内の喫煙所へ向かう

 

 

そこには同僚や、自分の部所の部長も居る

 

 

彼は喫煙所に着くと同時に懐にしまっていた煙草、ジャルムブラックと、ライターを取り出し、それに火を付ける

 

 

深く一服、約二時間半の辛抱に耐えた身体が煙草の煙に満たされ、言い様の無い快感と安堵をその身に教える

 

そして、彼の後ろから彼の肩を軽く叩き、男が声を掛ける

 

 

「透、飯、食いに行くだろう」

 

 

 

男は大柄の中年、体つきも良くその年齢にしては若々しい

 

彼は土田 昭男(つちだ あきお)、今年の夏に四十路を迎える、透の居る部所の部長だ

 

 

「……えぇ、行きますよ、いつもの所で良いですか」

 

 

「構わない、これ吸い終わったら直ぐ行くぞ、流石にお腹もペコちゃんだ」

 

 

時々、そのノリには付いて行けなくなるが、彼の笑顔は年齢を感じさせず、屈託もない

 

妙な爽やかさがあると言っても差し支えないだろう

 

 

 

会社を出る事、徒歩3分

 

 

方向は透の家へ向かうのと同じだが、その道中に目的の飯屋がある

 

 

所謂定食屋で、最近には珍しい老舗の店で、客の入りも多い

 

 

ここは専ら和食を主軸にしており、その味は昔から変わらないのだと、土田は言う

 

 

そんなこの店に彼は惚れ込み、昼は毎日通っているそうで、無論、それには透も付き合わされている

 

 

付き合わされているとは言うが、彼自信、嫌々付き合っている訳でもなく、気に入って付いて行っていると言うのが正しい

 

 

土田は店に入るなりこうだ

 

 

「大将、いつもの!」

 

 

それに応じて、この店の大将……

 

店主の旦那が声を上げる

 

 

「おっ、毎度!鯖味噌定食ね!」

 

 

彼は、ここに来ると鯖の味噌煮定食しか頼まない

 

 

それが堪らなく好きでここに通っているのだろう

 

 

「あんちゃんもいつもので?」

 

 

次に声を掛けるのは透だ

 

 

透も決まってこう言う

 

 

「はい、肉豆腐定食屋、茄子の漬け物追加で」

 

 

やや渋いセンスだ

 

 

彼もまた、これに惚れ込んでいる

 

 

二人はおおよその指定席に座り、注文された品を、先に出された渋めの熱い緑茶をすすりながら待つ

 

 

これも平日の日課だ

 

 

だが、この日は少々様子が違う

 

 

土田が何かに気付いた様に、胸ポケットを漁り、小さなケースを透に渡して来たのだ

 

 

「これ、お前にやるよ」

 

 

「……何です、それは

 

SDカードですか」

 

 

不信感を抱きながら、土田からそのSDカードを受け取る

 

 

流石に見ただけでは、これが何であるかを察する事はまず出来ない、仕事で使うものかも知れないし、はたまた、プライベート関連の物か……

 

 

彼が何かを透に渡す時、それが何物であるかは彼の口から告げられるまでは分からないのが定石だ

 

 

 

「ちょっとな、上の奴からお前に渡せって言われてな

 

お前、出世頭だろ?

 

不思議な話だが、お前に直接頼みたい事らしい」

 

 

「はぁ……それは、また……」

 

 

彼はにししと笑い、透の頭を掴む様に荒々しく撫でた

 

 

「憎いねぇ、後何年も経たない内に俺の場所取られっちまうぞ!」

 

 

言葉に反して嬉しいのか屈託の無い爽やかな笑顔が絶える事がない

 

 

やがて、二人の注文した品が届くと、二人はそれまでの会話を止め、黙々と箸を進めた

 

 

……途中、透の箸が一瞬止まる

 

 

 

視線を感じるのだ

 

 

 

只ならぬ視線、突き刺さる様な

 

 

 

背筋が凍る様に冷たい視線を背後から……

 

 

 

そのままゆっくり、そちらを振り向く

 

 

そこには、四人席に座る男一人と女三人

 

 

その内、正面同士に窓側に座り、医者の着る様な白衣を着た黒髪ロングの女、黄色が目立つ奇抜な服を着たセミロングの髪の女の二人は若い容姿に合った明るい話をしている

 

 

問題はその手前に相席する男女、ブロンドの髪を左側で結って纏めたスーツの女、その正面に座るスーツの男

 

 

この男の方が一瞬だが、こちらを見ていた様に感じたのだ

 

 

と言っても、もう確認する術もない

 

 

不思議に感じながらも、透は食事を続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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