時間軸的にはPrototypeは無印数か月後で、Hellsingは本編前ってかんじでふ
辺境の、新聞に載る事もラジオの話題に上がる事すらない中東の山合いにある小さな村。老人がほとんどのごく少数の村人が数十人という、本当に小さな村だ。
数週間前、そんな村に越してきた者がいた。浅黒い肌の中東系の若い男で、名をナイームといった。村に来る以前は街でタクシーの運転手をしていたという。彼は無愛想な男ではあったが真面目に働き、何を考えているか分からないという評価を下されながらも彼の働く雑貨屋の客からは正直者だとそこそこの信頼を得ていた。また、彼は非常に腕が立ち、村にとっては不安定なこの地域においての用心棒にもなっていた。
そんな彼の元に、数日間にある男が訪れた。イギリスから来たと言う白人達の一人で、彼の家で何かを話していた。そして近隣の村人が後で話を聞こうと思っていたところ、突如家から銃声が聞こえたのだ。
その後に続く争う音が収まってから村人が様子を見に行くと、肩を撃たれたナイームが食堂の椅子に座っており、その目の前には銃を握ったままの殴り殺された白人の男がいた。
目撃者が連れの白人にそれを伝えようとしたのだが、彼らは銃声が聞こえると同時に姿を消していたようで、ナイームは大使館からの使いを街の拘置所で待つこととなった。
拘置されて半日。ナイームは格子が嵌められた窓から月を眺めていた。冷たい石造りの拘置所内には灯りがなく、月だけが彼を照らしていた。
彼の眼には怒りの色が浮かんでおり、元から明るくない表情は更に明るくない。そしてまた、月明かりによって生まれた影の中で、黒い何かが蠢いている。蠢きは他に収容されている者を避けながら広がりつつあったが、それは徐々に集まりだし、這うようにゆっくりとナイームの体へとおさまった。
それと同時に、暗い拘置所にブーツの足音が響く。高く響くその音は死刑を告げるまさに足音で、その音はナイームの牢の前で止まった。
「いい月だな」
流暢なイギリス英語で話しかける止まった男は長身だ、二メートルを超えているだろうか。身にまとう服は暗さのせいか血のように深い赤色をしており、頭には同色のつばが広い帽子を被っている。
「ああ。……そういうお前は大した趣味をしてるな」
その言葉にナイームは男の服装を下から上へと見ながら、こちらは流暢なアメリカ英語で返す。
「逃げなかったのか。マンハッタンを滅ぼし、世界各地で事を起こした男には思えんな。それは傲慢さからか、思い上がりからか?」
「堂々と正面玄関から入ってくる男に言われても説得力はない。それにだ、闇が味方だとはいってもその格好はな」
「ほお、吸血鬼の事を知っているか――――。ならば、私の調べもついた上で残ったという事か」
生意気だな、と男は言うと、懐に手を差し込んだ。コートには銃身の細長い形が浮かび上がり、それを見たナイームは溜息を吐いた。
ナイームは黒い茨に一瞬包まれると、その姿を変える。フードを被ったかなりの厚着をした白人の三十歳ほどの男となったナイームは、ゆっくりと牢の中で立ち上がった。
「なぜ俺をお前が、ヘルシングが追う。俺は無暗に人を食ってるわけじゃない」
ナイーム――ナイームを名乗っていた男、アレックス・マーサーは正面の男に問う。
「決まっている。貴様がそこらをうろつく化け物で、彼らが人間だからだ。それに、自分がしたことを忘れたわけではあるまい」
赤い男、アーカードは懐から出した大型の銀色の銃を取出し、そう言い放つ。するとアレックスは眉を顰め、こう言った。
「お前と違って、正確には俺は実行犯じゃない。まあ、ある意味では実行犯だが……」
「聞く耳もたんな。貴様が何であろうが、マンハッタンでさんざん暴れてくれた化け物だ。戦争馬鹿どもが羨ましがるような事をしておいて、追われないとでも思ってるのか?」
そう言うと男は一瞬でアレックスの顔を狙ってそれを構えると、躊躇いも無しに引き金を引いた。
他の拳銃がおもちゃに思えるほどの圧倒的な轟音を撒き散らして吐き出された弾丸は白い弾道を描きつつ、真っ直ぐにアレックスの額へと突き刺さる。
仕様弾薬は一般的な拳銃に使用される9mm弾の十倍の反動を持つと言われ、コンクリートすら砕く454カスール弾(11.4mm)である。この時点で人間にはオーバーキルもいいところである。。だが、アレックスは人間ではなく、ただの化け物でもない。
吸い込まれるように弾丸は額に衝突した。だが、装甲版にでも当たったかのような鈍い高音を立てながら、跳弾してあらぬ方向に弾けた。弾丸を受けたアレックスの額の一部はまるでターミネーターのワンシーンのように傷から黒い金属質の骨を覗かせており、それがあの象をも殺す弾丸を弾いたのだと認識させた。
「ほう、ヘコミすらしないとは下手な金属板よりも固いな」
アーカードはそう馬鹿にしたような言葉を述べながら、もう片方の手にも銃を持つ。だが、それよりも早く、アレックスの腕が形を変えていた。
束ねたワイヤーを溶けた黒い金属で覆い、固めたような滑らかさと歪さが両立する黒い腕。そこからは同質の逆向きの棘が複数生えており、指があるはずの場所からは合計で四枚のナイフよりも巨大な刃が生えている。
二つの銃口から吐き出される複数の銃弾と、それを無視して地面に突き刺される黒い腕。
アレックスは銃弾を受けながらもそれを意に介さずに、地に差し込んだ腕にさらに変化を加える。すると、床を砕き、鉄格子を曲げ、馬上槍の先端のような形をした棘が、中央の一際太い物を中心に同時に数本飛び出した。
「何……!?」
それはアーカードの無防備な腹に突き刺さるが、止まることを知らぬと言った様子で伸び続け、吸血鬼をその先端に乗せたまま天井を砕き、やっとのことで月夜の下に停止する。
「まだだ」
真剣な眼差しでそう口にするアレックスは、アーカードがこんなものでは死なないと知っている。
アーカードに突き刺さった巨大な棘からさらに棘が生え、そこからさらに棘が生え、あっという間に彼をサボテンのような外見にしてしまった。そして、絞り出されるようにアーカードからとめどなく流れ落ちる血液は、まさに雨といった様子だ。
だが、アレックスはそれでも足りないと言いたげな様子で屋根の上に躍り出ると、右腕をこれまた黒い蛇のように変えて彼の首をはねた。ドサリと落ちた生首を、アレックスは元に戻した腕で掴みあげる。
「……喰うか」
情報を得るため、吸血鬼の能力を得てさらに強くなるため、アレックスはアーカードの頭を吸収せんと、右腕から数本の触手を出す。
取り込もうとした刹那、その頭が泥のように溶けて地面に落ちた。
「よもや私を食おうとしようとは、たいした食欲だ。吸血鬼にでもなりたいのか?」
そう月を背負いながら嗤う紅い影には頭がなく、影が形を成したようなそんな無形のモノだった。
「そこまでの化物だったか!!」
アレックスはどう見てもオカルトなそれに口角を釣り上げながら、両手を先ほどの爪の形態に変化させる。だが――――
「が……!?」
彼が跳びかかるその前に、彼の体が後方に飛んだ。
射出されたような速さで通りの向かいの建物に叩き付けられたアレックスに両腕は無く、腹にはブーツの跡が傷跡となっていた。
「どうした、もう終わりか?」
そう言葉を投げてくるアーカードを睨みながら、アレックスは両腕と腹を瞬時に再生する。
「誰が終わりだって?」
腕を再生したアレックスが向かいの建物に開けた穴の中から姿を現すと、アーカードが獰猛な笑みを浮かべた。
「素晴らしい。素晴らしい再生力だ! そこいらの吸血鬼より早いではないか!!」
非常にうれしそうなアーカードだが、その賞賛を受けるアレックスの心境は明るくない。なんせ、先ほどの攻撃に全く反応できなかったのだ。
銃弾を見切れるアレックスだが、先ほどの速さから相手は銃弾に回り込むほどの速さがあると考えている。アレックスが今その速さに追いついて戦うというのは不可能に近く、根げれもしないだろう。
そしてまた、彼の両腕を瞬時にもぎ取るほどの怪力もある。これは絶望的と言ってもいいだろう。
今、アレックス・マーサーの脳内にある生き残るための案は一つしかない。
吸血鬼アーカードの血を吸収し、彼の血をもって自らも吸血鬼に成る事だ。
陽の下を歩けなくなろうが、ここで滅されるよりはマシだとアレックスは決断した。
アレックスは細胞を操って全身に硬化させた細胞を纏うと、機動性を捨てた戦車のようなな姿になった。
「―――来いよ、殺してやる」
アレックスは向かいの建物からそう声を上げながら、建物に片足を突き刺す。
今度は建物の壁という壁から蛇のような口を付けた触手が飛出し、アーカードへと一気に迫る。その外殻は今のアレックスほどではないが非常に硬く、ライフル弾でも抜く事は不可能だろう。
「本当に面白い奴だ!!」
アーカードは銃をマシンガンのような連射力で撃ち、迎撃に当たる。
だがしかし、いくらカスール弾といっても黒い蛇の肌を抜く事はできず、高い音と共に周囲に跳弾する。
アーカードの次の行動を読んだアレックスは、すぐさま全ての蛇の全身から触手を四方八方に伸ばしてこちらへの進路を遮断した。それと同時に蛇の先端部分がはじけ飛び、アーカードがアレックスの一部である蛇の上を駆けて来る。
「オオオオオオオオオォォ!!」
柄にもなくアレックスは雄叫びを上げながら、右腕を巨大な刃に変えて横に薙いだ。
だが、
「遅いな、遅すぎるぞ!」
刃が前に行く前にアーカードはその腕を右手で掴んで止めると左手を彼の腹に装甲を軽々と砕いて突き刺し、アレックスを見下ろした。
アレックスの鎧が解け、元の姿に戻ったアレックスの口から血液が漏れる。
進路上の触手をすべて切り飛ばしたにも関わらず、圧倒的な速さ。そして戦車の主砲に耐える装甲を貫く、反則的な腕力。
まさに化物だ。
「さあ、どうした。もう諦め――――」
だが、次の瞬間、アーカードはアレックスの体内にある腕に鋭い痛みを感じた。
「貴様……!!」
驚愕するアーカードの目の前でアレックスの目が紅く染まり、腕を抑えるアーカードの手が押され始める。
アーカードの血液を体内で抜き取り続け、着々と吸血鬼化するアレックス。
その体をアーカードは左手で真上に引き裂き、アレックスの上半身を二つにして腕を引き抜いた。直後、彼はアレックスに蹴り飛ばされ、元の建物へと吹き飛ばされる。
アレックスは信じられない速さで再生すると、大声を出した。
「お前は罠に嵌まった。嘗めて腹なんか狙わずに、容赦なく俺を引き裂けばよかったんだ」
アレックスはかなりご機嫌そうに目を細くしている。
「だが感謝してる。今は、本当に気分がいい」
彼の眼は紅に染まりきり、人の手であるにも関わらず爪は鋭くなり、歯は全て牙のように鋭くなった。
そして、アレックスは今までにないほど気が昂ぶっているようで、その紅い目の奥に秘める禍々しい感情が今までの彼を塗りつぶしてしまったかのようだ。
アレックスはアーカードの血を吸い、人間に近い化物から吸血鬼に成ったのだ。
「私の血を吸い、吸血鬼となったか……。諦めない化物とは、また面白い」
砂煙の中から出てきたアーカードの姿も変化しており、無数の目を持つ影となっている。先ほどとは違い、その空気に遊びに関するものは一切ない。だが、彼は笑っている、嬉しくて、愉しくてたまらにといった様子で笑っている。
「やっとお前は土俵に立った、一方的に嬲られる玩具から成りあがったのだ。
――――さあ、ここからが本当の化物同士の殺し合いだ! その体もこの体も、何度でも潰し潰される殺し合いだ!!」
「テメエみたいな骨董品は俺が有効に使ってやるよ、ありがたがって死にやがれ!!」
妖しく輝く月光の下で、二人の化物が殺し合った。
肉を裂かれ、骨を潰され、頭を割られても太陽が昇るまで、殺し合う事が目的となった化物たちは悠久の時間を殺し合った。