ぼ虹のクリスマスデートのお話

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第1話

虹夏side

 

「よっし! 今年のSTARRYでのクリスマスライブの段取りはこれでいいね!」

「あ、はい」

「うーい」

「はい! 今年も店長さん喜んでくれると良いですね!」

 

 三者三葉に応えてくれる結束バンドのメンバー。今日は今年も行うクリスマスの企画ライブのミーティングを私の部屋でしていた。

 去年は思い付きで良く考えもせずに勝手に決めて皆にとんでもない大負債を負わせそうになっちゃったけど、今年は事前にしっかり計画を立てておいたから迷惑をかけずに済んだな。

 

「今年も豆電球になった虹夏で遊ぼうと思ってたのに、残念」

「おいこら」

 

 そう何度も豆電球になってたまるか! 私だって成長してるんだからね!

 

「そういえば、今年もぼっちちゃんのお父さん出てくれるんだよね?」

「あ、はい。相当楽しみみたいで、張り切って練習してます」

「ひとりちゃんパパのバンド渋くてカッコよかったものね! 私も楽しみにしてるわ!」

 

 そうなんだよね。私もぼっちちゃんのお父さんのバンドメンバーが濃ゆかったからてっきり面白系のバンドかと思ってたら昔ながらの正統派ロックバンドでつい聴き入っちゃったもんな。……その後のぼっちちゃんそっくりの痛々しい妄想は見てられなかったけど。

 

「じゃあ後は当日に飾り付けとかするだけだね。私は今年もケーキとか作ったりスタッフさんとの打ち合わせがあるから飾り付けは三人ともお願いね」

「任せてください! 去年は家のゴタゴタで準備を手伝えませんでしたからね!」

「頼りにしてるよ喜多ちゃん!」

「私は今年もケーキ作り手伝うよ」

「お前はサボりたいだけだろ。飾り付けやれ」

 

 去年は味見と称してつまみ食いばっかしてたからなこいつ。猫の手にもなりゃしない。野良ペルシャ失格だお前は。

 

「こ、今年も会心の飾り付けを期待しててください。へへ……」

「……うん、そうだね」

 

 正直ぼっちちゃんの飾り付けってまた風邪の時に見る悪夢みたいになるんじゃないかって不安なんだけど、去年は喜多ちゃんは不在でリョウはサボってたからぼっちちゃん1人で頑張ってくれたから強く言えないんだよな。企画ライブそのものが成り立ったのもぼっちちゃんが人知れず宣伝を頑張ってくれたからだし。

 

「と、とにかく三人ともお願いね! 今日は解散!」

「はい! あ、リョウ先輩。この後リョウ先輩の家にお邪魔しても良いですか? 久しぶりにギターを教えてもらいたくて」

「晩ご飯作ってくれるなら良いよ」

「喜んで作ります! では伊地知先輩とひとりちゃんお疲れさまでした!」

「うん、気を付けて帰ってねー」

 

 玄関まで見送って喜多ちゃんとリョウが私の家を出る。……扉が閉まる間際、喜多ちゃんがリョウの腕に抱き着いたのが見えた。

 

「さ、最近リョウさんと喜多ちゃん仲良いですね」

「そうだね。元々喜多ちゃんはリョウに懐いてたけど、リョウも喜多ちゃんに対して心を許してるって言うか」

 

 リョウ自身一人を楽しむタイプだから自分の家と言うパーソナルスペースにあんな風に招き入れるなんて、結束バンドを組んだ頃は想像も出来なかったな。私はリョウの実家の部屋を掃除しに行ったりしてたから結構出入りしてたんだけど。

 リョウの家と言えば、リョウがちゃんと生活出来てるか埼玉の家まで見に行きがてらお泊りに行ったら割と綺麗にしてたんだよね。そしてその時に気になったのがベッドに枕が二つあって、洗面所には青の歯ブラシと赤の歯ブラシまであったからリョウに話を聞いたら

 

『郁代がよくご飯作りに来てくれて、そのまま泊まることも多いからいつの間にかこんな感じになってた』

 

 との事。一緒のベッドで寝てるのはその方が温かいから暖房代が節約できるとか言ってたけど、その割には私は床に敷布団だったけどね。素直じゃない奴。

 そんな感じでリョウのお世話は今となっては喜多ちゃんの役目になってて私は偶に様子を見に行くくらいになってる。リョウのお世話をするのはずっと私だったから正直少し寂しい気持ちもあるけど、私もいつまでもリョウの面倒を見る訳にもいかないしこれで良かったんだろう。

 

「そ、そろそろ私も帰りますね。ギターヒーローのクリ……ウギ……スマス……ゴフ……ソング……グハ……のリクエストも消化しないといけないので」

「……そんなにダメージ受けるならやらない方が良くない?」

「い、いえ。リクエストの中には私自身刺激になる曲も多いですし。そ、それにやっぱり普段応援してれてるファンの人達に応えたいので……」

「ぼっちちゃん……!」

「収益も美味しいですし」

「台無しだよ!!」

 

 まったくまったく! とはいえ私もぼっちちゃんの配信を楽しみにしてる一人なんだけどね。

 本当は折角ぼっちちゃんと二人きりになれたしゆっくりしたいけど、そういう事なら仕方ない。……それに私もそろそろ『アレ』を仕上げないとだし。と、そうだ。

 

「ねえぼっちちゃん。企画ライブの後少しウチに遊びに来ない? 夜になるからそんな長い時間じゃないんだけど……」

「あ、はい。大丈夫ですよ。ライブの打ち上げですか?」

「うぅん、それはまた後日やるつもり。お姉ちゃんが企画ライブの後PAさん達にもお祝いしてもらって飲み会に行くらしいから一人になっちゃうんだよね。折角のイヴに一人って言うのも寂しいからさ」

「わ、分かりました。……実は私も、虹夏ちゃんと遊びたいなって思ってたので……」

「え? そうなの?」

 

 意外だ。ぼっちちゃんって用事が終わればすぐさま家に帰るタイプなのに。

 

「き、去年企画ライブの後虹夏ちゃんのお家に皆でお泊りして、朝一で帰っちゃいましたけど今振り返ってみると何だかんだ楽しかったなって思って。でも出来るなら虹夏ちゃんと二人の方が落ち着くので……」

「……そっか。じゃあ楽しみにしてるね。ぼっちちゃんとのクリスマスデート!」

「く、クリ! スマス!! デート!!?」

 

 ……驚き過ぎじゃない?

 

「だってクリスマスイブに二人きりで遊ぶんだよ? 立派なクリスマスお家デートだよ」

「た、たたた確かに見ようによってはそう言えなくも……。大天使たる虹夏ちゃんを私の様なド陰キャが寄りにもよって聖夜に独り占めするだなんて、わ、私はなんという身の程知らず……!!」

 

 あばばばば……、と顔が崩れ始めるぼっちちゃん。仕方ないなぁもう。

 

「ぼっちちゃん」

「あばばばばば……、ぶべっ!」

 

 べちっ、とぼっちちゃんの顔を手で挟み込む。

 

「あのね、元々私が誘ったんだから身の程も何もないでしょ。それとも何? やっぱり私と二人きりは嫌?」

「しょ、しょんなことありまひぇん! 光栄でひゅ!!」

「よろしい」

 

 ぼっちちゃんの頬から手を離す。……もうちょい触ってても良かったかな?

 

「じゃあライブの後は私の家で決まり! 言っとくけどジャージじゃ駄目だからね?」

「あ、はい! 私秘蔵の勝負服で行きます!」

「……ちなみにどんなの?」

「読み方は分からないんですけどなんかカッコイイ感じの英語がいっぱい入った「大人しくお母さんチョイスの服で来て」……はい」

 

 危うく隣を歩くのが憚れる格好で来られるところだった……。

 そしてこの日はぼっちちゃんを見送って、企画ライブの日とぼっちちゃんとのデートに向けて準備をした。

 

 

 

 

 そして企画ライブ当日。

 

「今日はありがとうな。ちょっと気恥ずかしいけど今年も楽しい誕生日になったよ」

 

 ぼっちちゃんがちゃんと今年はプレゼント用意してるのに何故かオリジナルのバースデーソングを歌ったり、リョウがまた我先にとケーキに手を出したりとハプニングはあったものの企画ライブは無事大成功! 今は後片付けも終わってリョウと喜多ちゃんは先にSTARRYを出て、ぼっちちゃんはSTARRYの更衣室でお着替え中。そして先に着替えた私はお姉ちゃんと話していた。

 

「どういたしまして! 来年はもっと規模が大きくできるように頑張るから楽しみにしててね!」

「ああ。じゃあ私は前に話した通りPA達と呑みにいってくるから。虹夏もぼっちちゃんと遊ぶんだよな?」

「ぼっちちゃんと少しだけね」

「そうか。あんま夜更かしすんなよ?」

「うん」

 

 あんまり遅くまで付き合わせちゃうとぼっちちゃんも帰りの電車が無くなっちゃうからね。

 

「あ、あの。お待たせしました」

「あ、ぼっちちゃん!」

 

 お姉ちゃんと話していると更衣室から、お母さんの趣味の可愛らしいファッションに身を包んだ着替えを済ませたぼっちちゃんが出てきた。……めっちゃ可愛い。やっぱりぼっちちゃんってこういう甘い系の服が良く似合うな。

 

「あ、えと、どうかしました?」

「え!? あ、ごめん。ぼっちちゃんが可愛くてつい見惚れちゃって……」

「そ、そんなことないですよ。全然似合ってなくて、お目汚しですみません……」

「いやいやいや」

 

 これ謙遜じゃなくて本気で言ってるんだもんな。確かに自信満々で自分を可愛いって言うぼっちちゃんは解釈違いだけど、多少は自信を持ってほしいんだけどなぁ。

 

「わ、私なんかより虹夏ちゃんの方が100倍……、いえ1000倍可愛いですよ。それに今日の服すごく可愛くて、とっても似合ってます」

「えへへ、ありがと。今日の為に新しく買ったんだ」

「こいつぼっちちゃんとのデートの為に散々私を服屋に連れまわして色々選んでたんだぞ」

「お姉ちゃんは黙ってて!」

「へいへい。じゃあぼっちちゃんも着替え終わったしそろそろSTARRY閉めるぞ。ぼっちちゃん、虹夏の事よろしくな」

「は、ははははい! 命に代えても護ります!!」

 

 いや、命に代えられるのは困るんだけど?

 

「ははは、頼りにしてるよ。……虹夏の事、よろしくな」

「え? あ、はい……?」

「お姉ちゃんさっきそれ言ったよ?」

「何かなんとなくな。大事な事だったんだろうさ」

「ふぅん?」

 

 良く分かんないや。

 

「さて、じゃあ私は閉じまりするから先に行きな」

「うん。呑み過ぎたら駄目だよ? もう歳なんだから」

「そこまで歳じゃねえよ! さっさと行け!」

「あはは、はーい。行ってきまーす」

「で、では失礼します……」

 

 

 

 

 

 

 

 そして私達はSTARRYの上の私の家で二人だけのクリスマスパーティーをしていた。

 

「ぼっちちゃんの為に沢山お料理作ったからね。どんどん食べて!」

「あ、ありがとうございます。あむ……」

 

 ぼっちちゃんが小さい口でリスみたいにチキンを頬張る。可愛いなぁ。

 

「どう? 美味しい?」

「は、はい。やっぱり虹夏ちゃんのお料理は最高です!」

「えへへ、良かった。頑張って作った甲斐があったよ」

「で、でも良かったんですか?」

「ん? 何が?」

「だ、だって折角のクリスマスですしイルミネーションとか見に行きたかったんじゃ……」

 

 まぁ、それは確かにそうなんだけどね。折角洋服も頑張って選んだわけだし。でも。

 

「だってぼっちちゃん、イルミネーションが綺麗なところにはぼっちちゃんの苦手なカップルや陽キャの人達が沢山いるんだよ? 耐えられるの?」

「うぐ……! それは……」

「ね? ぼっちちゃんにシンドイ思いさせてまで見に行けないしさ。私もそんなに賑やかなところが好きな訳では無いしね」

 

 それに今日のぼっちちゃんは服装も相まって本当に可愛いからナンパとかされたら危ないしね。

 

「それにぼっちちゃんとならこうして二人だけで静かにお家デートっていうのも楽しいし。ぼっちちゃんが私の作った料理を美味しそうに食べてくれたらそれだけで十分なんだ」

 

 本当は見に行きたい気持ちも確かにあるけど、二人でゆっくりしたいのも本当だからね。

 

「そ、そうですか。……あ、で、でも。折角のクリスマスデートな訳ですし、これくらいは……」

 

 ぼっちちゃんがクリームシチューをスプーンで掬って震えながら顔を真っ赤にして私に差し出す。え、これって。

 

「に、虹夏ちゃん。あーん……」

「……ふぇ!?」

 

 ぼ、ぼっちちゃんが『あーん』!? 予想外の攻撃に思考が追いつかなかったんだけど!?

 

「あ! ご、ごめんなさい調子に乗りました! クリスマスですしこれくらいの事は許されるかと思ってつい……!!」

 

 赤かった顔を真っ青にしながらスプーンを引っ込めようとするぼっちちゃん。そんなぼっちちゃんの手を逃がすまいとひっこめようとするぼっちちゃんの手よりも早く、ぼっちちゃんの手を掴んで。

 

「あーん、ぱくっ」

「あ!」

 

 ぼっちちゃんからのシチューを食べた。

 

「もぐもぐ……」

「あ、あああの、どうでしょうか……?」

「んー? 美味しいよ。流石私って感じだね」

「あ、そうですね。味は約束されてるんでした」

「でも……」

 

 ぼっちちゃんの向かいの席から隣に移動した。

 

「自分で食べるよりも美味しい気がしたからさ、もっと食べさせてほしいな! はい、あーん!」

「は、はい! あ、あーん……!」

「あむ……。うん、美味しい!」

「あ、うぇへへ……」

「じゃあ私からも。はい、あーん」

「ぅえ!? 虹夏ちゃんからのあーん!? そんな恐れ多い……!」

「……いらないの?」

「い、いります! あ、あーん……!」

 

 パクッ、と食いつくぼっちちゃん。最初は緊張した顔で食べてたけど、次第にニチャニチャした笑顔に変わっていった。……もう少し可愛い笑顔は出来ないんだろうか。まぁすごく幸せそうではあるし悪い気はしないんだけどね。

 

「どう? 美味しい?」

「あ、はい! 元々虹夏ちゃんのお料理なので絶品ではあるんですけど、虹夏ちゃんの手ずから食べさせてもらえたことによってコクと深みが増して、更に虹夏ちゃんが隣に座ったことによって虹夏ちゃんの香りがより一層美味しさを引き立てさせて……」

「誰が食レポまでしろと!?」

 

 しかも私の匂いで美味しさが増すって何!? ぼっちちゃんは私の事食材的な意味で良い匂いって思ってたの!?

 

「まったくまったく。……ふふ」

「あ、へへへ……」

 

 はぁ、もう。幸せだな。

 

 それからもぼっちちゃんとの楽しい時間が続いていたけど、ここでハプニングが発生。それは。

 

「うへへへ……、虹夏ちゃん呑んでますか〜〜〜?」

「飲んでるよ。……シャンメリーをね!!」

 

 アホ再来!!!

 シャンメリーをシャンパンと勘違いでもしてるのかぼっちちゃんが初詣で甘酒を飲んだ時みたいに思い込みで酔っ払ってしまった……! こうなると何やらかすか分からないんだよなぁ……。

 

「はぁ……。ほらぼっちちゃん、お水でも飲んで」

 

 アルコール摂取した訳じゃないからお水飲んだところで効果あるか分かんないけど。

 

「お水〜〜? この超売れっ子のぼっちがお水だなんてロックじゃないです!」

 

 めんどくせぇ!!

 

「それよりもぉ……」

 

 ぼっちちゃんが私の手を掴んで立ち上がる。え?

 

「お出掛けしますよ虹夏ちゃん!」

「ええ!?」

 

 出かけるって、一体どこに!? それにそろそろぼっちちゃん帰らないと終電とかも……。

 

「善は急げれす! GOGO!!」

「ちょ、ちょちょちょ! 待って待って!」

 

 ああもう! もしかしたらそのまま帰っちゃうかもしれないし『アレ』を持っていかないと……!

 

 

 

 

 

 

「うぇへへへへ。今のわらしは無敵れすよ~」

「はいはい。まったく……」

 

 へべれけ状態で危なっかしく歩くぼっちちゃんの手を繋いで下北沢の街中を歩く。

 最初は可愛く着飾ったぼっちちゃん目当てで変なナンパが近寄らないか心配だったけど、実際最初は声を掛けようとしてきてるのがいたけど明らかに駄目な酔い方をしてるぼっちちゃんをヤバい奴を見る目で見て離れていった。確かにある意味無敵だ。……私が巻き添えになってるけどね。

 

「ねえぼっちちゃん、どこに向かってるの?」

「もうちょっとですよ~」

 

 本当かよ。

 しかし初詣の時といいお酒を飲むと(飲んでないけど)本当に駄目駄目だなぁ。リョウもそうだけど絶対にお酒を吞まないように見張っておかないと。

 

 そしてふらふら歩くぼっちちゃんに暫くついていくとそこは、イルミネーションで煌びやかに輝く広場だった。

 

「わぁ……」

 

 色とりどりに輝くイルミネーションに思わず目を奪われる。普段イルミネーションを見ても『綺麗だなー』くらいで特別心奪われる事はないんだけど、今日は不思議と魅入ってしまった。

 いや、でも理由は分かってる。それはきっと、隣にいるのがぼっちちゃんだからだ。

 今まで何でカップルは決まって、っていうのも偏見かもしれないけど、イルミネーションを見るんだろうって思ってたけど、今なら分かる気がする。特別な人と二人きりで見る特別な景色だからきっと胸に響くんだ。

 

「すごく綺麗……。ね、ぼっちちゃん」

 

 こんな綺麗な景色を見せに来てくれたぼっちちゃんを見る。だけどその当の本人は。

 

「あ、あばばば……。溢れるカップル……、陽キャの集団……」

「ぼっちちゃん!?」

 

 青ざめた顔でガタガタ震えていた。急にどうした!?

 

「え、なに? 酔いが覚めたの?」

「いえ、あの、実は私……、酔ってるフリをしてただけなんです……」

「ええ!?」

 

 な、なんでそんなことを!? 意図が分からなさすぎるんだけど!?

 

「あ、その、虹夏ちゃんイルミネーション見たそうだったので……」

「え? でも私見たいなんて……」

 

 思いはしたけど口にはしなかったよね。ぼっちちゃんが気にするといけないからって思って言葉にはしなかったはずだけど。

 

「えと、言わなかったんですけど、でもなんとなくそんな気がして」

「そう、なんだ」

 

 ……ぼっちちゃんって本当、自分への好意はとんとにぶちんなのにこういうとこ鋭いよね。いつもちゃんと見てくれてるんだろうな。

 

「でも酔ってるフリしたのはなんで?」

「あ、普通にしてたら私に気遣ってまた虹夏ちゃんが『大丈夫』って言いそうな気がして。それなら酔ったフリすれば勢いでいけるかなって思って……。それに虹夏ちゃんも護れるかなって」

「護る? どういうこと?」

「に、虹夏ちゃんはすごく、すっごく可愛いので、きっとクリスマスの夜に出歩いたらナンパされちゃうので。だから私が頭おかしい感じでいればナンパの人も近寄らないかなって思ったんです」

「…………」

「虹夏ちゃんの事は命に代えても護りますって、店長さんとも約束しましたので」

 

 なんか、もう。驚いて声も出ないや。ぼっちちゃんが変な目で見られる覚悟で酔ったフリしたのも、こんな顔を青ざめてでもイルミネーションを見に来たのも、全部全部、私の為だったんだ。

 ああ、もう。

 

 

 好きだ。

 

 

 どうしようもなく好きだ。ぼっちちゃんが、後藤ひとりちゃんが。この子に私の全部を受け止めて貰えたらどれだけ幸せだろう。

 でも気持ちを伝えて良いのかな。だってバンド内恋愛なんてして、もし別れたりなんかしたら……。

 

「くしゅっ」

 

 考え込んでいるとぼっちちゃんの小さなくしゃみが耳に飛び込んだ。ぼっちちゃんを見ると手を真っ赤にして、自分の吐息で温めていた。

 

「わ、ぼっちちゃん手がかじかんで赤くなってるじゃん! 手袋は?」

「あ、急いで家を出ちゃったので忘れちゃって、へへ……」

「まったくもう」

 

 でも、それなら丁度持ってきた『アレ』が早速役に立つよね。

 バッグの中に入れていたラッピングされたプレゼントを取り出してぼっちちゃんに差し出す。

 

「え、これ……」

「はい、メリークリスマス。ぼっちちゃんにプレゼントだよ。受け取ってくれる?」

「い、良いんですか!?」

「勿論。ぼっちちゃんの為に頑張って作ったんだから、受け取ってもらえなかったら逆に困っちゃうよ」

「あ、ありがとうございます! あ、開けても……?」

「うん、どうぞ!」

 

 ぼっちちゃんがラッピングされたプレゼントを宝物を扱うように丁寧に取り出す。その中からぼっちちゃんが取り出すと、私が今日の為に手編みしたピンクの手袋が入っていた。

 

「わぁ……!」

「頑張って作ったんだ。どうかな?」

「すごく嬉しいです! あ、ありがとうございます!」

「えへへ、どういたしまして。早速使ってよ。ぼっちちゃんの手冷たそうで見てらんないよ」

「あ、へへ。ですね」

 

 喜んでくれて良かった。……手袋をプレゼントするのって『私を捕まえ』って意味があって、密かに私もそんな想いを込めて作ったんだけど、言わない方が良いよね……。

 

「あったかい……。あ、あの、虹夏ちゃん。実は私からも……」

「ん?」

 

 ぼっちちゃんがバッグから可愛いリボンでラッピングされた包装紙を取り出す。え、これって……。

 

「に、虹夏ちゃんみたいに上手じゃないっていうか、かなり出来が悪いんですけど……」

「え、じゃあこれ手作りなの!?」

「は、はい。お母さんに教えてもらいながらなんとか。途中自分ごと編んじゃって雁字搦めになったりして大変でしたけど……」

 

 いやどうしたらそうなるのさ。

 

「で、でも何とか形になりましたので。う、受け取ってください……!」

 

 腰を90度に曲げてぼっちちゃんが私にプレゼントを差し出されたプレゼントを受け取る。一体何が入ってるんだろう……。そう思いながらワクワクしながらプレゼントを取り出した。

 

「あ、これ。マフラー……」

「は、はい。さっきも言った通り出来は悪いんですけど、何とか使えるようにはなってますので良かったら使ってください」

 

 ぼっちちゃんから貰ったマフラーを見る。……確かに何か模様とかはヨレヨレだし、所々網目も甘い。だけどそれが逆になんだかぼっちちゃんの頑張りが伝わるみたいで、すごく胸が温かい。

 それに、それだけじゃなくて。マフラーのプレゼントの意味って確か手袋とは逆で……。

 

「ねぇぼっちちゃん。これ、私に巻いてくれないかな?」

「え? わ、私がですか?」

「うん、お願い」

「わ、分かりました」

 

 渡されたマフラーをぼっちちゃんが優しく私にマフラーを巻いていく。

 私はぼっちちゃんに捕まえてもらいたくて手袋を渡した。そして今、ぼっちちゃんが私にマフラーを巻いてくれてる。ぼっちちゃんはきっとマフラーのプレゼントの意味なんて知らないと思う。知ってたら多分プレゼントに選ばないと思うし。

 だけど、それでも私は嬉しくて嬉しくて仕方なかった。意味は通じてないと分かっていても、胸にあふれる喜びが止まらない。

 

「ま、巻き終わりました。苦しくないですか?」

「うん、大丈夫だよ。……ねぇ、ぼっちちゃん」

 

 ぼっちちゃんに抱き着いた。そのまま耳元で

 

「……捕まえられちゃった♪」

 

 と、呟いた。

 

「え、え?」

「……ふふ、何でもないよ。あ、そうだぼっちちゃん。今日お泊りしていかない?」

「え? 良いんですか?」

「うん。お姉ちゃんがいないから……。うぅん、ぼっちちゃんといたいんだ。駄目、かな?」

「い、いえ! 嬉しいです! 私も虹夏ちゃんとまだ一緒にいたいって思ってたので……!」

「えへへ、ありがと。じゃあ行こうか」

「あ、はい。……そうだ、帰りも酔ったフリしないとまた虹夏ちゃんがナンパに声掛けられちゃいますね」

 

 そう言うとぼっちちゃんは「私は酔っ払い、無敵の酔っ払い……」と、自己暗示をし始めた。こわ。

 

「まったく。そんな事しなくてもさ」

 

 ぼっちちゃんの腕を取って、そのまま抱き着いた。

 

「に、虹夏ちゃん!?」

「こうして恋人っぽく振舞ってれば多分声掛けてこないよ」

「こ、恋!?」

「うん、恋人。それにこうしてくっついた方があったかいしね」

「……あ、あの、それだったら」

 

 ぼっちちゃんが抱き着いてた私の腕を解くと、私の肩を掴んでそのまま抱き寄せた。

 

「あ、ぼっちちゃん……」

「こ、こっちの方が温かいかなって……。どう、でしょうか?」

「……うん、こっちがいい」

 

 ぼっちちゃんに更に身を寄せると、ぼっちちゃんも更に強く肩を抱き寄せてくれる。

 

「あったかいね」

「はい。とっても」

 

 そして私たちは身を寄せ合ったまま自宅へと向かったけど家の中についても離れることは無く、とても温かいクリスマスをぼっちちゃんと過ごしたのだった。




ちなみにリョウ喜多はリョウ喜多でデートしてるんだとか(喜多ちゃんの奢りで)

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