#11 調査兵団
___解散式から数日後。
ウォール・シーナ内にある調査兵団の本部に、各地の支部から新兵たちが集結した。
いよいよ本格的にカイルの『調査兵団』としての活動が始まるのだ。
初日は顔合わせと称した『新兵歓迎会』が開かれた。
まずは各地の訓練所から入団した新兵たちによる自己紹介を行い、それが終わると配属先の隊で班員たちと挨拶を交わす流れになった。
各訓練所における成績最優秀者のほとんどはキース団長直下の隊に配属され、各班に散りばめられる__アデルはその中でも、モーゼスの班だった。
カイルはというと…
「本日よりこちらの
「あぁ、よろしくな。私の班は君を入れてここにいる6名だ。皆には事前に周知したが、カイルは訓練兵のときから私が面倒を見ていた兵士だ。仲良くしてやってくれ。班員の紹介がまだだったな……モサドから順に自己紹介を頼む」
「俺はモサド・ヘルだ。この班ではエルヴィン分隊長に次ぐ指揮官としての役割を担っている。よろしくな」
「俺はベッツ・フリーデンだ。役割としては、まぁ…切り込み隊長ってところだな!巨人応戦時の先導役だ」
「私はナギア・ロンダインよ。私も主に迎撃陣の1人……ベッツの補佐と言ったところね」
「僕はルドルフ・ホフマンです。この班に配属されてまだ1年ほどかな……よろしくね!」
班員たちの自己紹介を受け、カイルは深々とお辞儀をする。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
そんなカイルを班員たちが微笑ましい表情で見つめていると、エルヴィンが説明を付け加えた。
「皆に一つ言いそびれていたが、カイルには少し
「もちろんです。皆、色んな事情がありますから」
「そんな小せぇこと気にする奴はこの兵団にいませんよっ、分隊長!」
「えぇ、異論ありませんわ」
「僕も体が大きいせいで兵服は特注なんだ。一緒だね!」
そう言ってルドルフは少し体をかがめながらカイルに笑顔を向けた。
「皆さん……お気遣いありがとうございます!」
カイルはまたお辞儀をしようと体を傾けたが、ベッツに肩を掴まれてしまう。
「そんなに
「そうよ。現場では
「…とは言え、まだ初日だ。焦ることはない。これから始まる訓練で徐々に慣れていけばいいさ」
「僕は逆に『もっと気合い入れろ』ってよく言われてますけどね……ハハハ」
カイルは班員たちの優しい声掛けに、思わず感銘を受ける。
左胸のあたりがじーんと熱くなり、鼓動が高まるのを感じていた。
咄嗟に自分の両手を確認してみたが、これっぽっちも
この時、今まで感じたことのない喜悦の情がカイルの胸に沸き上がっていた。
カイルはその温かみに浸るように自分の掌を見つめ続ける__そうして、しばらく黙ったままでいると、エルヴィンが様子を伺ってきた。
「どうかしたか?カイル」
「あ、いえ……すみません。皆さんの仲間になれたことが、その…すごく嬉しくて……思わず、『これは夢か』と思ってしまったんです」
そう言ってカイルが満面の笑みを見せた瞬間__窓から差し込んだ光がカイルの栗色の髪を黄金に染め上げた。
その眩い姿を目の当たりにした班員たちは、全員が同じようなことを思った。
(天使だ…)
(天使かよ、おい)
(なんて天使な子なの…)
(え、天使!?)
そんな風に皆がカイルに見惚れていると、突然巨大な影がカイルを包み込んだ。
「「 …!? 」」
その影の正体は、エルヴィン分隊の班長の一人である、ミケ・ザカリアスだった。
ミケはカイルの斜め後ろに立ち、いきなり耳元に顔を近づけてきたかと思うと、鼻を小刻みに動かして
カイルが少し驚いた様子で振り向くと、何故か
そこに、すかさずベッツが突っ込みを入れる。
「ちょっ、ミケさん!?うちの新兵にまで
「あぁ、嗅げば
「…わかった。また声をかけてくれ」
ミケはエルヴィンの返事を聞くと、何も言わずに自分の班へと戻って行ったのだった。
その後ろ姿を奇妙そうな目で追っていたナギアがカイルを心配する。
「はぁ…急にびっくりさせたわね、カイル。平気?」
「えぇ、大丈夫です。突然のことで少し驚きましたが…」
そう言ってカイルがまた笑顔を見せると、今度はモサドが申し訳なさそうな顔で詫びを入れた。
「驚かせてしまって、すまないな……あいつは昔から何を考えているかわからんような奴だったが、あれでもこの兵団で1,2を争う実力者なんだ。新兵が入る度にあぁして匂いを嗅いで回っているが、特に意味はないだろうから気に留めないでやってくれ」
「ははっ、そうだったんですね。ハンジさんといい、先ほどのミケさんといい……この兵団には面白い方が多いですね」
「ハンジさんは確かに面白くはあるけど、一言で表すなら“変態”だね……僕は
ルドルフが少し虚ろな目でそう告げると、カイルはまた驚いた顔を見せる。
「!?…ここにも
「えっ…もしかして、
ルドルフとカイルは面と向かって見つめ合うと、何も言わずに固い握手を交わしたのだった。
**
それからしばらくの間、時間の許す限り談笑を続けるエルヴィン班一同。
そんな中、エルヴィンは班員たちとの会話を楽しむカイルの様子を微笑ましそうに眺めていたのだ。
(初日で皆の心を掴んでしまうとは……ここでは君の“魅力”が
その後に開かれた定例会では、調査兵団の年度活動方針が発表された。
それから新兵たちには個人用の立体機動装置と馬が与えられ、さっそく馬との信頼関係を構築するための馬術訓練に移った。
さらには、新しい立体機動装置を体に馴染ませるための微調整や訓練所や本部内の設備把握など、入団初日は作業的な訓練で一日を終えたのだった。
***
___翌日。
この日から、数か月後に控える壁外遠征に向けて、本格的な訓練が始まった。
調査兵団が実施する訓練は、まるでこれまでとは違う。
もちろん訓練兵団でも模擬的に班を形成し、団体戦での巨人討伐訓練を行うこともあったが、それらはどれも簡易的なものに過ぎなかったと思わされる。
実戦ではいかに陣形を把握し、その時々の状況に合わせどれほど臨機応変に立ち回れるかがその先の
また、巨人を討伐する際は確立性を重視し、
班員同士で連携を取り、討伐担当の兵士がうなじを確実に狙えるよう他の兵士が補佐を努める。
そのため、巨人の注意を引く飛び回り方や、巨人の動きを封じ込めるための部位的攻撃まで身につける必要があった。
さらには、補給地での迅速な『安全確認』と『補給作業』は、遠征時における最も肝心な作業と言っても過言ではない。
それらすべてにおいて、兵士全員が一丸となって協力し合う関係性が必要不可欠と言えよう。
故に、調査兵団の士気の高さは他の兵団からも一目置かれているほどなのだ。
しかし、訓練所と唯一変わらない点もある。
それは、『皆で食を囲う』という
調査兵団では昼夜問わず、本部の大広間にて一同が肩を並べて食事をとる。
それは
実働部隊全体の団結力や連携の精度を高めるためにも、
だが、訓練は基本的に班ごとで行われることが多い。
そこで、班の垣根を超えて他の仲間たちとの交流を深める場として設けられたのがこの『食堂』というわけだ。
(皆で食事をとることがこんなにも良いものだなんて、今まで思いもしなかったな……温かい。訓練所では味わえなかった……もちろん、
同じ目標へ向かう仲間たちと食を囲うことで、それぞれの志が
調査兵団の強さの根幹にあるのは、紡がれてきた『仲間意識』なのだと、カイルは悟っていたのだった。
***
___ある日の昼食時。
いつも通り仲間たちと雑談を交わしながら食事を楽しんでいたカイルだったが、何だか気分が優れなくなってしまい、適当な口実を作って大広間を抜け出した。
外の空気を吸おうと屋上へ向ったが、そこにはすでに“先客”がいたのだ。
「ひゃあ!」
「おっと、すみません…」
急に開けられた扉の音に声をうわずらせたのは、カイルと同じ年ほどの女性兵士だった。
カイルは扉を閉めて下に戻ろうとしたが、女性兵士は慌ててそれを引き留める。
「ま…まま、待って!あなた…か、カイル…でしょ?」
かなり慌てていたのか、彼女が手にしていた手帳と筆は地面に乱雑に転がっていた。
カイルはそれに目を落としながらゆっくりと口を開く。
「えっと、確か……新兵の…」
「イルゼよ。イルゼ・ラングナー。えっと……ど、どうして新兵ってわかったの?」
「俺は目が良いから、
「へぇ…そっか。て、てっきり…私がこんなにおどおどしてるからかと…」
そう言って何故か恥ずかしそうにしているイルゼは、体をもぞもぞと動かしながらチラチラとカイルの顔を伺っている。
それから息を深く吸い込むと、そこに声を乗せるように吐き出したのだ。
「ね、ねぇ!話があるんだけど……少し、時間いいかな?」
カイルは一つ返事で承諾すると、イルゼの横に座り込んだ。
**
その日はとても過ごしやすい気温で、空気も澄んでいた。
屋上にはやわらかな風が吹いていて、まるで気疲れした心を撫でるかのように通り過ぎていく。
空にはところどころ薄い雲がかかっていて、それぞれが均一の距離を保ちながらじんわりと進んでいる。
それらをじっと眺めていると、まるで夢の中で体を宙に浮かべているような感覚にもなった…
イルゼは困惑した__カイルが隣に座って早々に空を眺めだしたからだ。
てっきり『話って何?』といった具合に聞いてきてくれると踏んでいたが、カイルは何故か呑気にも空を見上げている。
勢いで引き留めたはいいが、話の切り出し方を考えていなかったイルゼは、悩んだ末に
「あ、あの!……【あくまのささやき】っていう絵本、知ってる?」
カイルは唐突な質問に目を見開いて驚いた。昔、ブランカにも似たようなことを聞かれたからだ。
その時の記憶がフラッシュバックし、少し動揺めいた瞳をイルゼに向ける。
そんなカイルの心中を知る由もないイルゼは、また困惑した。
カイルが想像以上に驚いた表情を見せ、自分をまっすぐに見つめてきたからだ。
やはり切り出し方がよくなかったのか?__焦ったイルゼは話題を変えようと震える指で手帳をパラパラとめくる。
顔面蒼白になりながらぶつぶつと何かをつぶやき始めるイルゼの様子を見かねたのか、カイルはようやく口を開く。
「…読んだことはないけど、
「そ、そう!そうなの……だから私、あなたの名前を覚えてたの!ご、ごめんね。急に変なこと聞いちゃって……でも、『カイル』って珍しい名前よね」
「そう…かもね」
「カイルのお母さんは、
そう言ってイルゼは腕を前に押し出すように背伸びをし、頬を緩ませて空を見上げた。
その一方で、この会話のやり取りに
しかし、切なくも朗らかなイルゼの表情からは、過去とは違う“結末”を想像させられる__カイルはそんな淡い希望に導かれるようにして、イルゼに訳を問い正した。
「君が嬉しいのは何故?イルゼにとってその絵本は……
「実はね……【あくまのささやき】は、私のおばあちゃんが書いた本なの!私のおばあちゃんは絵本作家だったんだ。入団式でカイルを見た瞬間、まるでおばあちゃんの創造したキャラクターが、そのまま絵本から飛び出してきたのかと思ったの。だから、なんだか嬉しくて……あ!で、でも!
「大丈夫、嫌な風に受け取ってはないよ。……そっか、君のおばあさんはすごい人なんだね」
「…っていっても、たくさんの作品の中で売れたのはその一冊だけなんだけどね」
「それでもすごいことだ。少なくともこの壁の人類のほとんどが、子どもの頃にその絵本を読んで育つ。人々の心に残るような偉業に変わりはないよ」
「ありがとう……そうね、おばあちゃんが亡くなってからもう何年も経つけど、おばあちゃんが遺した作品は今でもたくさんの人の中で生き続けている。私もそんなおばあちゃんに憧れて作家になろうと思ったんだ!そ、それでね……ずいぶんと前からずっと書き続けてる物語があるの。よかったらカイルに…わ、私の作品を読んでもらえたらなぁ…って」
「え、どうして俺に?出会って間もないのに…」
「それはもちろん、あなたが『カイル』だからよ!名前を聞いた瞬間に何かの縁を感じたわ……め、迷惑じゃなければ…だけど」
「迷惑なもんか、俺でよければぜひ読ませてほしい。……ちなみにどんな物語なんだ?」
「タイトルは【悪魔の末裔】っていうの。この壁の中の人類をモデルにしているのよ」
「悪魔の、末裔…」
「な、なんだか私たち人類って“罰”を受けてるみたいじゃない?壁はまるで牢獄で、外にいる巨人は看守。人類はその2つによって閉じ込められた
「罰を受けてる…か。なんだかわかる気がする……この壁の世界は“不自由”で、何より“不愉快”だ」
「わ、わかるわ!そこでね……私、思ったの!もしかしたら、私たちは『
少し声を張り上げたイルゼは、手帳を強く握りしめながら興奮気味に立ち上がった。
「人類って壁を築いてから100年くらいしか歴史がないでしょ?私ね……時々考えるの。壁が築き上げられる前は一体どんな世界が広がっていたのかなぁ~って……でも、ある時突如として天敵である巨人が現れたなんておかしな話だわ!きっと何か“秘密”がある。壁を築いたのは私たち人類なのかもしれないけど、巨人によって
イルゼはそこまで話を進めたところで、ハッと我に返った。
カイルを見ると、口を半開きにしながら此方を見つめている__語り始めるまでどもりの強い口調だったイルゼが、物語の熱でどんどん口達者になっていくことに驚いていたのだ。
その澄んだ瞳に吸い込まれそうになったイルゼは、赤らめた頬を隠すように手帳で顔を覆った。
「ご、ごめん……つい夢中になっちゃって…」
「いや、むしろ君の話にのめり込んでしまったんだ。だって君の仮説はなんだか、空想上の話ではないように感じる。もしかしたら、この世界の“真相”にかなり近づいた発想なのかも……とさえ思えたよ」
「た、ただの妄想だけどね…」
「それも立派な才能だ。
「それが……物語の“結末”が思いつかないの」
「結末?」
「えぇ…長いこと考えてはいるんだけど、どうしても終わりが見えない。この物語の終着点を想像することができないままなの……それで色々と考えてみた結果、最終的にこう結論付けた。自分に足りないのは『実体験』だと……おばあちゃんも色んな土地を旅して、そこから物語の着想を得たと言っていたわ。だから私も、実際に“外の世界”に足を踏み入れてみようって……そうすれば、何か構想を得られる気がするの!なんとなく、だけど……ごめん、兵士を目指すには不純な動機よね。でも、これは
「不純なんかじゃないよ。自分で決めた道をひた走る……すごく立派じゃないか。この兵団にいる人は皆、己の信念に従ってそれぞれの道を歩いている。それが偶然にも、その道の途中でただ出会っただけ……でも、この兵団はそれで良いと思うんだ。俺たちは
「す…すごい。カイルは物事の捉え方が人とはまるで違うのね。あなたも自分の信念に従って
「俺は……」
ファサッ…
その時、屋上の塀に一羽の鳥が降り立った。
ピィーーーー!
「え、まさか……フィン!?」
塀に止まった鳥は、訓練所でカイルが世話をしていた
フィンは塀から飛び立ち、カイルの肩に止まると、いつものように頬をつつき始めた。
「ははっ!くすぐったいよ、フィン……よくここがわかったな!また君に会えて嬉しい…」
「え、何!?そ、その鳥は一体…」
キィィ……
すると今度は、2人の背後で物音がした。
振り返ると、新たに屋上に現れた2名の兵士が此方の様子を怪訝そうに伺っている。
「こんな所にいたのか、カイル……探したぞ」
「アデル……それに、
「お前なぁ、数少ない同期に『何か用?』は冷た……って、それ!訓練所で飼ってた鳥じゃねぇか!!おまっ…連れて来たのか!?」
「違うよ、ヘイター。フィンが俺を探してくれたんだ」
そう言ってカイルはフィンの首元を指先で優しく撫でた。
その様子にヘイターは呆れ顔を示す。
「はぁ…訓練所では俺に
「ひ、膝蹴り!? あ、あなたたちはえっと…」
イルゼがまた困惑していると、カイルが2人を紹介する。
「アデルとヘイター、俺と同じ訓練所出身の同期だ。……2人とも、彼女はイルゼ。俺たちと同じ新兵だ」
カイルの紹介を受け、アデルは素っ気なく挨拶をする。
「どうも」
「ど、どうも…」
すると、イルゼとカイルの顔を交互に凝視したヘイターがいきなり野次を飛ばしてきた。
「ケッ、お前の女性人気はこの兵団でも健在か……憎い奴めっ」
「ヘイター、君は二言目には
この質問に先に答えたのはアデルだった。
「あぁ。今日の訓練は午前で終わりだから、少し街まで散歩しに行かないか?」
「入団後はしばらく忙しなかったからな。たまには息抜きってことで……なっ!いいだろ?」
カイルはフィンと目を合わせてから答える。
「…わかった、付き合うよ。イルゼも一緒にどう?」
イルゼは急な誘いに戸惑いつつも、口角を上げながら答えた。
「う、うん!私も行く!」
***
___数分後。
それから4人は近くの街をしばらく散策した。
大して見所もない街だったが、4人は同期だけの会話を楽しみながらひたすら歩き回っていた。
その途中、訓練兵時代の話題になると、イルゼが“あること”を問いかける。
「そ、そういえば……さっきの『膝蹴り』って、一体訓練所で何があったの?」
「あぁ、それは……こいつが訓練兵団を
「バッ…言うなよ!アデル!!俺の尊厳がっ…」
「いいじゃないか。結果的に君はここにいるんだから……しかし、あまりの変わり様に驚いたよ。てっきり、俺はヘイターに
「いや…その逆だ。むしろ感謝してる。あの時、お前に救ってもらえなかったら俺は“負け犬”のままだった……俺は、お前に感化されてここにいる。まったく、責任取ってくれよな!カイル!」
「え、そういうのはちょっと……なんていうか……
そう言ってカイルは少し肩をすぼめながら流し目でヘイターから顔を背けた。
そのやりとりを隣で見ていたアデルとイルゼは、同時にヘイターへ引き顔を向ける。
2人の冷ややかな視線を受け、ヘイターは目をぱちくりさせた。
「イヤ、違うからな?…違うからなぁ!?……おい、カイル!その顔やめろ!!」
「ふっ…あはは!冗談だよ、ヘイター……それにしても、君のリアクションはこの兵団でも群を抜いてるね」
カイルは吹き出した笑いが止まらないといった様子で、目尻を指でなぞった。
すると、そんなカイルに釣られてアデルとイルゼも笑い出す。
ヘイターは顔を真っ赤にして喚き散らした。
「お、おめぇらまで俺を馬鹿にするのか!?……カイル!よくもやってくれたな!このぉぉ…!」
ヘイターはカイルの肩に腕を回すと、もう片方の手で頭にゲンコツをぐりぐりと押し当てた。
ピィーーーー!
その時、どこからともなくフィンが飛んでやってきた。
フィンはヘイターの頭に降り立つと、主人を守るように頭頂部をつつき始めたのだ。
「ちょっ、痛っ!…あれ、痛くないかも?……あ、やっぱ痛い!!」
「ははっ、やっぱり君は面白いよ」
そうして、カイルはまたカラカラと笑い出したのだった。
そんな2人の様子をアデルと共に後ろから見守っていたイルゼの目には、ヘイターとじゃれ合うカイルの姿がまるで
不思議なオーラを放つカイルに釘付けになっていると、イルゼの中で“何か”がストンと落ちる音がした。
自分の中にある理想の『主人公像』にカイルが当てはまったと、そう感じたのだろう。
イルゼはフィンからの猛攻撃にあたふたするヘイターなどお構いなしに、興奮気味にカイルへ話しかける。
「き、聞いて、カイル!私……あなたを主人公のモデルにする!もちろん、主人公の名前は『カイル』。おばあちゃんの絵本と同じだけど、むしろその方が良いと思ったわ!」
「!?…それは光栄だけど、大事な作品なのに俺なんかでいいのか?」
「
「わかった。君がそう思うなら俺は構わないよ」
「ありがとう!」
2人の間に挟まれていたヘイターは、会話についていけない様子で首を傾げる。
「な、なんだ?……『物語』?『おばあちゃん』?……一体何の話だ?」
「ふふっ、これはカイルと私の
「あぁ、読むのが楽しみだ」
そう言ってカイルとイルゼの2人は、楽しそうにフィンと戯れながら先を歩いた。
そんな2人の後ろでは、完全に置いてけぼり状態のヘイターとアデルが肩を並べて
ヘイターは前を歩く2人を羨ましそうな目で眺めながら今度はアデルの肩に腕を回した。
「…前言撤回だ。俺、やっぱりあいつが
「お前……思春期か」
そうして、アデルからも突き放されてしまったヘイターは、バツが悪そうにアデルの肩から腕を下ろしたのだった。
***
___夕食の時間が近づいた頃。
兵団本部に到着したカイルたちは、宿舎の手前でイルゼと別れた。
ヘイターはイルゼの姿が見えなくなるのを待ってから、カイルに『モテる秘訣』を問い正したが、カイルには軽くあしらわれてしまう。
そんなカイルが初めて入った給金で購入した豆をフィンに食べさせていると、軍法会議から戻って来た幹部たちと鉢合わせた。
その幹部たちの中に紛れていたハンジは、フィンの姿を見つけた途端、鼻息を荒げながら走り出した。
それに気づいたカイルは、フィンを肩に乗せたまま走って逃げる__すると、その後ろを何故かヘイターも追いかけていた。
ヘイターは尚もしつこく“秘訣”を聞き出そうと躍起になっていたのだ。
逃げるカイルと、それを追うヘイターとハンジ。
そんな混沌とした状況を目の当たりにした他の兵士たちは、唖然とした表情で立ち尽くしている。
その中には、部下たちの『可笑しくも微笑ましいやり取り』に目元を緩めるエルヴィンの姿もあった。
それは、ほんの一瞬の
***
___数か月後。
それまで気を引き締めて訓練に臨んできた新兵たちは、この頃にはその顔つきも毅然さを纏うようになっていた。
そして、いよいよカイルたち新兵にとって
『壁外調査』の日を迎えるのであった。
―【 続く 】―
~後書き~
『自分もミケに負けないくらい嗅覚鋭いっス』
…どうも、著者です(´-ω-`)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
著者のどうでもいい嗅覚自慢は置いときまして…
いよいよ、調査兵団の話がスタートしました。
入団早々に念願のエルヴィン班に配属されたカイル。
そして、登場しましたね……イルゼ・ラングナー!
原作では新兵のような雰囲気で出てきているかと思いますが、この物語では独自解釈でカイルの同期とさせていただいております。
原作でのイルゼの印象は手記の内容でしか読み取れませんが、OVAを見た時に抱いたイメージから、普段はおどおどとしているけど物書きの中では口達者になるという『内弁慶』的なキャラ設定にしました。
イルゼが残す『戦果』にカイルがどう関わるのか……今後の展開をお楽しみに!
◼︎次回予告:『#12 初陣』
初の壁外調査!初の戦闘シーン!伝われ、臨場感!(頑張ります)
~おまけ~
まさかの再登場、ヘイター・ノックベルト。
訓練兵団の話を書いているときはそのまま退場させるつもりでしたが、なんとなく名前が気に入ってしまい、無理やり調査兵団へ引き入れました。
ヘイター君は『なんだか憎めない愛されキャラ』の設定です。
著者のネーミングセンスからも分かる通り、ヘイターの名前の由来は英単語のスラング『Hater』から来ています。
…安直ですね(´-ω-`)