進撃の巨人~もう一人の選択~   作:赤道さとり

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#12 初陣

 

___【第13回壁外調査】

 

 

これが、カイルにとっての“ 初陣 ”となる。

 

 

 

調査兵団はいつものようにシガンシナ区から壁外へと飛び出して行った。

 

エルヴィン班はキース団長の班と並列し、陣形の中央を突き走っている。

 

カイルの『眼の能力』については団長のキースにもすでに周知してあり、今回の遠征ではその能力の活用方法を探るため、()()()()指令班と行動を共にすることになったのだ。

 

 

 

シガンシナ区から出発してしばらく経つが、陣形の中心にいたからか、エルヴィン班はまだ巨人と遭遇していない。

 

気を緩めまいとカイルが短く深呼吸をしているところに、団長のキースが様子を伺いに来た。

 

 

「どうだ、シャルマン。この緊張状態と騎馬による振動があっても能力に支障はなさそうか?」

 

「はい、今のところ問題ありません。至近距離は多少焦点がズレることもありますが、それも局所的に視力を集中させれば精度は保たれます。遠方の視界にも、特に大きな変化は見られません」

 

「そうか。お前の能力は至極興味深い…実戦でどのように活かされるか気になるところだが、まだ初陣だ。慎重を期して、なるべくこの班での戦闘は避けたいところ……とは言え、この先何があるかわからん。今日はやけに巨人どもが静かにしているからな。妙だ……こういう日は()()()()。心しておけ」

 

「はい!」

 

 

返事を聞いたキースは、また指令班の先頭へと戻って行った。

 

カイルがその後ろ姿を目で追っていると、その方角、右翼索敵班のさらに奥の森から複数の巨人が一斉に姿を現したのが目に入った。

 

 

二時の方向!巨人出現!!その数……6()()です!!右翼索敵班に向かっています!」

 

「何っ…巨人がそんな数で群れるとは!?回避したいところだが、次の補給地はすぐそこか……ディルク!モーゼス!前方と後方の陣に伝令だ!前方部隊は左翼索敵班と合流し、速力を上げて先に補給地へ到着せよ!後方部隊は速力・進路ともに現状維持だ!行け!」

 

「「 はっ! 」」

 

「シャルマン!巨人どもの様子は!?」

 

「先頭の一体が他の5体を引き連れているように見えます!おそらく、先頭の巨人は()()()かと!まもなく、右翼索敵班とぶつかります!……あっ!

 

 

視線の先で激しい戦闘が始まり、カイルは思わず短い悲鳴を上げた。

 

 

「始まったか…」

 

 

先頭の奇行種と思われる巨人は、右翼索敵班の迎撃部隊を薙ぎ払うようにして押し進んでいる。

 

そして、数十秒とも経たないうちに、兵士を一人捕まえたかと思うと…

 

 

ガジュリッ!!

 

 

いきなり頭部にかぶりついて首元からその体を噛み千切ったのだ。

 

それは、あまりに一瞬の出来事で、頭を食い千切られた兵士には泣き叫ぶ暇も与えられなかった。

 

奇行種の後に続いた巨人たちも次々と兵士を捕まえては、四肢を喰いきちぎったり、その体を地面に叩きつけたりして命を奪っていく。

 

 

これがまさしく、巨人による人間の“捕食”なのである。

 

 

いくら実践経験のある調査兵団でも複数体の巨人による急襲には打つ手がない。

 

右翼索敵班は成す術もなく倒れて行き、辺りは一瞬にして巻き上がる砂埃と飛び散る血しぶきでごっちゃになった。

 

『巨人が人を()()()瞬間』を初めて目の当たりにしたカイルは、そのあまりにも恐ろしく残虐な光景に絶句した。

 

何度も目を背けたくなったが、奥歯をガチッと食いしばってそれを耐え忍ぶ。

 

 

(くっ…惨い。気が狂いそうだ……少しでも気を緩めようもんなら全身から力が抜けてしまうだろう……だが、このまま呆然と眺めているわけにもいかない!とにかく、今は報告を…!)

 

 

カイルは震える喉元を手で無理やり押さえつけると、声を絞り出すようにキースへ報告する。

 

 

「い、今……迎撃部隊が勇敢にも応戦していますが、被害は甚大です!陣形も機能していません……右翼側は、壊滅状態かと…!」

 

「まずいな、平地では分が悪い。それに、このまま補給地まで案内するわけにもいかん……テセオの姿は見えるか!?」

 

「テセオ分隊長は……いました!後方で指示を出していますが、巨人にかなり押されているため、分隊長の班も迎撃態勢に入っているようです!……ん?あれは、メルラ!?」

 

 

果敢にも巨人へと立ち向かっていく兵士たちの中に、同じ訓練所出身のメルラの姿もあった。

 

 

(あ!ダメだ、()()()()…!!)

 

 

次の瞬間…

 

 

バクンッ

 

 

立体機動装置のワイヤーを掴まれ宙吊り状態になったメルラは、大きく口を開けた巨人に()()()飲み込まれてしまったのだ。

 

 

「うっ…」

 

 

堪らず目を反らすカイル__手綱を持つ手に力が入る。

 

悔しさを押し殺すように、溢れそうになる涙を堰き止めるように、カイルは下唇を強く噛みしめた。

 

そんなカイルの様子をベッツが後ろから心配する。

 

 

「おい、カイル!無理すんな!!」

 

「だい…じょうぶです」

 

「…ったく、目が良いってのも考えもんだな。()()()()()()()()()見えちまう…」

 

 

カイルは胸が締め付けらる思いをしながらも、仲間の死を無駄にしまいとまた戦場に目を向け直した。

 

だが、状況は悪化するばかり__その光景は、カイルの眼の能力(ちから)でなくともわかるほどに壊滅的だった。

 

焦りと戸惑いが隊全体に広がり、これまでの比ではないほどに空気が張りつめる。

 

すると、しびれを切らしたキース班の兵士が声を裏返しながら指示を仰いだ。

 

 

「団長!このままでは第4分隊が壊滅します!……どうしますか!?」

 

「…やむを得ん、応援に行く!ディルクとモーゼスの班は、私の班についてこい!!エルヴィン班は後方部隊から応援を呼んできてくれ!」

 

 

そうキースが指示を出した瞬間__突然、先頭にいた奇行種が進路方向を変えた。

 

目の前の兵士には目もくれず、その場を放棄してカイルたちのいる指令班へと突進し始めたのだ。

 

それにいち早く気づいたカイルが声を上げる。

 

 

先頭の巨人が狙いを変えました!!他の巨人も引き連れて、物凄い速さでこちらへ向かってきています!」

 

「…フン、奇行種め。こちらから出向く必要はなくなったか……迎え撃つぞ!!」

 

「団長!お待ちください!私に考えがあります」

 

「エルヴィンか……時間がない。手短に頼む!」

 

「巨人が狙いを変えたのは()()()です。このまま平地であの数を相手にしては、さらなる被害を招きます。左後方に針葉樹の森がありました……私の班が“囮”になり、そこまで巨人どもを引き連れます!その間に団長は第4分隊の生存者を連れて補給地へ!」

 

「なっ…巨人を森へ連れて、一体どうするつもりだ!?」

 

「上手くいけば応戦せずに巨人を撒けるでしょう。しかし、そのために囮は“少数”である必要があります。あの巨人の群れを……私に任せていただけませんか?」

 

「ふむ…ここで全滅するよりかは、賭けに出るほかない…か。よかろう!エルヴィン、巨人はお前の班に任せた!先に補給地にて待つ!!……武運を祈るぞ」

 

「はい!……エルヴィン班、行くぞ!!」

 

「「 はっ! 」」

 

 

エルヴィンの号令を受け、カイルたちは一斉に進路を切り替えた。

 

 

 

**

 

 

 

迎え来る巨人の群れに向かって一直線に走り出す__そして、先頭の奇行種が自分らに狙いを定めたと確信できる距離にまで近づいたところで…

 

 

「今だ!!」

 

 

エルヴィンが叫んだ。

 

カイルたちはその指示に寸分違わず踵を返す__エルヴィン班は再度進路方向を切り替えたのだ。

 

まんまと罠にかかった奇行種は、その後ろを追いかけてきた。

 

さらに他の巨人たちもまた、奇行種の後に続いてエルヴィン班を追う__それを確認したベッツがエルヴィンへ報告する。

 

 

「食いついた!6体とも、俺たちを追ってきてます!!」

 

「よし……距離を保て!このまま針葉樹へ向かう!!」

 

 

エルヴィン班は速力を保ち、巨人たちを誘導するように走っていた。

 

だが、先頭の奇行種が突然足を早め、後ろの巨人たちを引き離すほどにエルヴィン班へと近づいて来たのだ。

 

それを見て、誘導にもつれができることを懸念したモサドが声を上げる。

 

 

分隊長!先頭の奇行種がかなり近づいて来ました!このままでは、森に辿り着く前に追いつかれます!……後ろの巨人たちもかなり引き離されてるようです!!」

 

 

その報告を受け、班員たちは各々後ろを振り返った。

 

奇行種の奇妙な走り方にベッツが情けない声を漏らす。

 

 

「何なんだよ、あの走り方!……何で()()()速えぇんだ!?」

 

「知らないわよ!奇行種の特性なんて……いちいち考察してられないわ!」

 

 

ナギアの鋭い指摘が響き渡るも、ルドルフはベッツの意見に同調する。

 

 

「でも、足を横に振り上げる走り方なんて、僕も初めて見ました!あれじゃ、()()()()()…」

 

 

班員たちが慌てふためく中、エルヴィンは冷静に状況を分析した。

 

 

「しかし、後ろの巨人の群れを引き離せている今が絶好のチャンスだ。ここで仕留められたら後が楽だが……ベッツ!打ち取る見込みはありそうか?」

 

 

エルヴィンの問いかけに、ベッツは俯きながら顔を顰める。

 

 

「正直言ってありません……切り込む隙がねぇです!犠牲を覚悟の上でも、班が全滅するリスクが高すぎる!速度を上げて、一気に森まで行きましょう!」

 

 

しかし、ここでカイルがすかさず口を挟んだ。

 

 

「いえ、分隊長!先頭の巨人は()()()仕留めるべきです!!……俺にやらせてください!」

 

「何言ってんだ、カイル!どう考えたって無理だ!!」

 

「ベッツさん……無理も承知ですが、この作戦にはあまり時間をかけていられないんです!左後方約1km先、巨人を一体確認しました!まだこちらに気づいていないようです!それから左前方500m先にも……こちらに気づいていますが、なぜか木の影に隠れて様子を伺っているようです!後ろの巨人もいつこちらに気づくか…」

 

「カイル、平地で疾走する巨人を仕留める“算段”があるというのか?」

 

 

エルヴィンの問いかけに、カイルは力強い目つきで答える。

 

 

「あります!そのためには、ベッツさんの協力が必要ですが…」

 

「…そうか。ベッツ!カイルを補佐しろ!!……カイル、任せたぞ」

 

「はっ!必ずや、仕留めて参ります!!」

 

 

カイルは力強く返事をすると、手綱をぐいっと引いて進路方向を反転させた__その後ろにベッツが続く。

 

2人は先頭の巨人へ正面から向かって行ったのだ。

 

 

 

**

 

 

 

2人が班から離れて行くのをハラハラとした様子で見送ったモサドは、エルヴィンの突然の方針転換に納得のいかない様子で抗議した。

 

 

「分隊長!本気ですか!? 新人のカイルに託すなんて…」

 

「ベテランの我々こそ経験値による先入観に囚われてしまい、打開策が浮かばないものだ。こういう時は、融通無碍な新兵の“直感”の方が頼りになることもある」

 

「しかし、これはあまりにも……()()です!」

 

「あぁ、そうだな」

 

 

 

**

 

 

 

その頃、全速力で馬を走らせているカイルに追いついたベッツがカイルに作戦の内容を問いかけていた。

 

 

「おい、カイル!一体どうするってんだ!?」

 

俺があの巨人を()()()()()()ベッツさんは少し離れた位置で待機し、巨人が転んだ瞬間にうなじを狙って下さい!」

 

「はぁっ!?転ばせるったってお前、どうやって…」

 

 

しかし、カイルはベッツの質問を最後まで聞くことなく、さらに速度を上げて巨人へ向かって行ってしまう__ベッツは仕方なく腹を括った。

 

 

「あ、おい!……ったく、やるしかねぇのか!!」

 

 

ベッツは言われた通りに少しだけ進路をずらし、巨人から距離を取った。

 

カイルはベッツが適度に離れたのを確認すると、自身の愛馬“シャルル”の首元に手を当てながら優しく語りかけた。

 

 

「シャルル、もう少し右だ。……そう、いい子だ」

 

 

カイルはシャルルを丁寧に誘導し、巨人の正面中央を目指す__そして、巨人との衝突まで残り数秒の距離となったところで、()()()()()()()()()巨人の足の動きを読んだ。

 

 

(右、左、…右、…左、……右……左……ここだ!!)

 

 

タイミングを見計ってシャルルから飛び降りたカイルは、巨人の足元に向かってアンカーを射出した。

 

一気にガスを噴射させ、巨人の左足へと体をぐんと引き寄せると、踏み下ろされる巨大な足が目前に迫ってきた。

 

カイルはそれを寸でのところでかわすと、巨人の股の下をくぐり抜けるようにして背後へと回り込んだ。

 

そして、すぐさま次に振り上げられた巨人の右足へとアンカーを刺し直す__それからまた勢いよくワイヤーを巻き取ると、刃を大きく振りかざしたのだ。

 

 

ザシュッ!

 

 

巨人の右足の腱から削がれた肉片が飛び出した。

 

足を負傷した巨人はそのまま倒れ込む__カイルは瞬く間に巨人を転ばせてみせたのだ。

 

その間、およそ5秒にも満たない素早さだった。

 

 

「ベッツさん!今だ!!」

 

 

カイルがそう叫んだ時には、すでに巨人の首元へアンカーを差したベッツがうなじを刈り取る体制に入っていた。

 

 

「本当にすっ転んぢまうとは…なっ!!

 

ザクッ!!

 

 

鈍い音と共に巨人のうなじが深く抉り取られた。そして…

 

シュゥゥゥゥゥ…

 

巨人の体から死滅の蒸気が放たれ始めた。

 

こうして、2人は見事に巨人を討伐したのだ。

 

 

 

**

 

 

 

「よしっ!討ち取った!!……カイル、急いで乗馬しろ!班に合流する!」

 

「はい!」

 

「ったく…表情一つ変えねぇのな、お前!これは、お前の()()()だぞ。喜んどけ!」

 

「ありがとうございます……ですが、まだ危機は去っていません!」

 

「あぁ…だな!急ぐぞ!!」

 

「はい!」

 

 

ベッツとカイルが班に追いつくと、ルドルフとナギアが興奮気味に2人の討伐を称賛した。

 

モサドは無事に戻ったカイルの顔を見ながら胸を撫で下ろしている。

 

そして、少し顔を綻ばせたエルヴィンが2人を労った。

 

 

「2人ともよくやった。……カイル、期待以上だ」

 

「ありがとうございます!」

 

「だが、まだ安心はできない…作戦を変更する!!当初は巨人を捲く手筈だったが、この地帯は巨人が多いようだ。少しでも不安の種は摘んでおきたい……そこで、残り5体の巨人はこの先の針葉樹林で始末する!囮訓練の応用で、()()()()()()()()()をおびき寄せろ。そして、森に入ったら一斉に討伐にかかれ。私は先に行って森の安全を確認しつつ、様子を見て必要な場所へ補佐に入ろう」

 

 

淡々と作戦の変更を告げるエルヴィンだったが、こめかみに汗を浮かべたモサドが苦言を呈す。

 

 

「確かにあの針葉樹の高さは我々に有利に働くでしょう……しかし!討伐に切り替えるのであれば、せめて応援を待っては…」

 

 

しかし、エルヴィンも意見を曲げることはなかった。

 

 

「応援を呼んでいる暇はない。これ以上騒ぎ立てれば、より多くの巨人を引き寄せる危険もある。それに、複数人で応戦するとなると壊滅のリスクを伴う……この班は全員が()()()()()()()()()()()経験がある。新人のカイルでさえ、つい先ほど10m越えの巨人を転倒させてみせた。()()()()()()()()()()()、この作戦に挑めるのだ」

 

 

エルヴィンの正論にモサドは口をつぐむしかなかった。

 

班員たちが各々作戦への覚悟を決める中、カイルは何やらぶつぶつとつぶやいていた。

 

 

(一人一体……森を利用して……)

 

 

そして、何かを思いついたカイルがエルヴィンにある“提案”を持ち掛ける。

 

 

「分隊長!俺に考えがあります!しかし、この作戦では人数的に、分隊長…あなたにまで()()を任せることになります。なので、その…」

 

「カイル……君は先ほど、誰もが不可能だと断念したことを見事にやってのけたのだ。君の意見を聞かないはずがない」

 

「…分かりました。では、作戦を告げます!まずは……~~~~」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

___数分後。

 

 

先に針葉樹の森へ到着したカイルは、騎馬から立体機動に移っていた。

 

森の中を素早く飛び回り、周囲の安全を目視で確認する。

 

 

(かなり小規模な森だな……向こうの平地が見通せてしまう。とりあえず、近辺に巨人はいない……よし、『作戦開始』だ!)

 

 

カイルは耳を塞ぎながら腕を高く掲げると、音響弾を空へ撃った。

 

 

キーーーーーーン!

 

 

これが作戦開始の合図である。

 

 

 

**

 

 

 

エルヴィンたちは森の少し手前で2手に分かれ、巨人の群れを待ち構えていた。

 

そして、迫り来る巨人を十分に引き付けたところで、一斉に駆け出す__すると、巨人たちもまた上手いこと2体と3体に分かれたのだ。

 

そこからさらに同じ容量で一体ずつおびき寄せる手筈だったが、ナギアとベッツのペアは巨人を分断することに失敗してしまう。

 

 

「ちょっ!…な、なんで2体とも俺についてくんだよ!?」

 

「あんたなんか巨人が好きそうな()()()()でも放ってんじゃないの!?」

 

「んなもん知るかよ!?」

 

「分隊長たちの方はうまくいったようね……とにかく、もう一度やるわよ!ベッツ!」

 

「あぁ!」

 

 

そう言って2人がもう一度分断を試みようとした時、二度目の音響弾が鳴り響いた。

 

 

キーーーーーーン!

 

「なっ!?」

 

「さ、作戦続行なの!?そんな……2()()()()よ!?」

 

「あぁ…だが、このまま行くしかねぇ!!」

 

「そんなっ…いくら何でも無茶よ!?私たちが()()()()なのに!」

 

「それでもあいつは行けると踏んだんだ!さっき、あいつと一緒に戦った俺から言えることがあるとすれば……『あいつを信じろ』だ!」

 

「…ほんと、あんたの演説は分隊長のソレに到底及ばないわね」

 

「…悪かったな」

 

「けど、今はその単純な脳みそに従う気になったわ!新人ばかりに背負わしていては示しがつかない……気合い入れて行くわよ!!

 

「あぁ!」

 

 

気を取り直したベッツとナギアはそのまま森へ直進する。

 

その様子を木の上から確認したカイルは、感心していた。

 

 

「…よし、伝わったようだ。奥の3人も手前から丁度いい頃合いに()()()()()()()()()……流石エルヴィンさんの班だ。全員が作戦の趣旨をよく読み取れている。これがヴィドとニコだったら……考えただけでも恐ろしいな…」

 

 

そう言ってカイルは腰から刃を抜いた。

 

 

「さて、2体同時か。巨人にも()()()()()が通じるといいけど…

 

 

 

**

 

 

 

【1~2体目:ベッツ、ナギア】

 

 

囮班の内、ベッツとナギアのペアがひと足先に森の中へと侵入した。

 

2人に続くようにして、引き連れていた巨人たちも森に入る。

 

2人は巨人たちが森に入ったことを確認したところで抜剣し、戦闘体制に入った。

 

 

「うっし!2体ともついて来たな!この狭い森は奴らにとって障害物でしかねぇ……見ろ、動きが鈍くなったぞ!」

 

「実況どうも!こっちは準備できたわ……カイルはどこ!?」

 

「お、おい…あの巨人の近くの枝、なんか動いてねぇか!?」

 

「はぁ!? あんた何言って…」

 

 

それは一瞬の出来事だった。

 

ベッツが指差した先には枝葉の塊があった__事もあろうか、その枝葉は急に横に動き出したかと思うと、1体目の巨人へと近づいて行ったのだ。

 

巨人の顔のすぐ横まで枝葉が近づいた時、突然その中からカイルが姿を現した。

 

そして、枝葉から飛び出した勢いのまま、巨人の目に向かって刃を振りかざし…

 

 

ジャキン!

 

 

カイルは巨人の視力を奪った。

 

すかさず体制を崩した1体目の巨人を死角に使うと、連続して2体目の巨人にも襲い掛かった。

 

2体目の巨人がカイルの姿を捉えた時、その瞳には振りかざされる刃が映し出されていた。

 

 

ジャキン!

 

 

こうして、カイルは2体の巨人の“視覚”を一瞬にして奪ったのだ。

 

 

「おいおい、本当に2体同時にやりやがったぜ…」

 

「ぼさっとしない!止め刺すわよ!!」

 

「ベッツさん!ナギアさん!()()()()()()()!!」

 

「「 了解! 」」

 

 

2人の返事を受け、カイルは()()巨人の元へと急ぐ。

 

 

 

**

 

 

 

【3体目:ルドルフ】

 

 

カイルがルドルフの姿を捉えた時には、かなりの至近距離にまで巨人に近づかれている状況だった。

 

巨人は四つん這いのような姿勢でルドルフを追いかけながら、その体を掴もうと腕を伸ばしている。

 

それを見たカイルは、グリップを()()()()()()()()と、枝を強く蹴って勢いよく降下した。

 

地面スレスレのところでワイヤーを巻き取り、弧を描くようにして推進する。

 

そして、ルドルフと巨人の隙間へ入り込んだ瞬間__目一杯後ろに引いていた腕を一気に前へと押し出し…

 

 

ザクッ!

 

 

カイルは巨人の目と手首に同時に切り込みを入れたのだ。

 

ルドルフを掴もうとしていた巨人の手は、手首からあらぬ方向へと折れ曲がり、斜めに切り込まれた左目からは大量の血が吹き出した。

 

 

「ダメだ…片目しか潰せなかった!」

 

「足引っ張ってごめん!!片目で充分だから、早くモサドさんのところへ!」

 

「わかりました!……ルドルフさん、ご武運を!!」

 

 

カイルはルドルフに一言添えると、また真っ直ぐに飛び出して行ったのだった。

 

 

 

**

 

 

 

【4体目:モサド】

 

 

ルドルフがいた辺りから少し奥まで行くと、こまめに振り返って巨人の様子を確認しながら走るモサドの姿を捉えた。

 

モサドが引き連れていた巨人は、ピンと背筋を伸ばした綺麗な姿勢で走っている。

 

 

(…よし、今度のは狙いやすい!)

 

 

カイルは巨人に気づかれぬよう、慎重に近づいて行く。

 

そして、巨人の目に狙いを定めて刀を構えたときだった…

 

 

ぐるんっ!

 

 

突然、巨人が体の向きを変え、カイルの方へと手を伸ばして来たのだ。

 

それに気づいたモサドが叫ぶ。

 

 

「しまった!カイル、避けろ!!」

 

 

だが、カイルは至って冷静だった__巨人がこちらに手を伸ばしてくることは()()()()()からだ。

 

カイルは巨人の手が自分の顔に覆い被さる寸前で体を捻らせ、空中でそれを避ける。

 

それから巨人の腕の上を駆け上がるようにして顔に近づくと、正面から突っ込む形で巨人の両目にブレードを差し込んだのだ。

 

 

ズブッ!

 

「モサドさん、止めをお願いします!」

 

「あぁ、助かった!後は任せろ!!」

 

 

モサドの返事を聞いたカイルは、巨人の目に突き刺した刃から素早くグリップを切り離した。

 

それから巨人の頭上を乗り超えるようにして、()()()()()の元へと急いだのだった。

 

 

 

**

 

 

 

【5体目:エルヴィン】

 

 

カイルは焦っていた。

 

手前の巨人たちで、思っていたよりも手こずってしまったからだ。

 

目にも止まらぬ速さで木々の間を縫うように移動するカイルの額には、いつにも増して汗が滲んでいる。

 

そして、やっとのことで最後の巨人を捉えたカイルは、すぐにその足元を確認した。

 

するとエルヴィンは、馬の手綱を握ったまま前だけを見据えて駆け抜けていたのだ。

 

 

(あれ? エルヴィンさん、()()()()()()…)

 

 

カイルの視線に気づいたのか、エルヴィンも顔を上げる。

 

そして、2人の目が合った瞬間__カイルは鼓動が高鳴るのを感じた。

 

 

(あぁ、貴方という人はやはり……“本物”だ!!

 

 

カイルはエルヴィンから目を離すと、巨人の顔面ではなく後頭部に向けてアンカーを射出した。

 

呼吸を整え、グリップを強く握り直す。

 

そして、巨人のうなじと自身の体が一直線につながった瞬間__カッと目を見開き、巨人のうなじ目掛けて急加速する…

 

 

ザクッ!!

 

 

こうして、カイルは巨人のうなじを見事に削ぎ飛ばしてみせたのだ。

 

その切れ込みは鮮やかなほどに真っ直ぐ、そして、抜かりのないほどに深く抉り取られていた。

 

巨人は地面に倒れ込み、死滅の蒸気を上げ始める。

 

 

 

カイルが地上に降り立つと、エルヴィンが騎乗したままの状態で歩み寄ってきた。

 

そして、カイルの目の前で馬を止めた時、森に差し込んだ太陽の光がエルヴィンの体を照らし出した。

 

がっしりとした体には影がより濃く刻まれ、綺麗に整えられた金髪が眩しいほどに輝いている。

 

神々しさと気高さを纏ったエルヴィンの出で立ちに圧倒されるカイル__気がつけば、()()()()()敬礼をしていた。

 

それを受けたエルヴィンは馬から降りると、胸元から布を取り出し、カイルの頬についていた巨人の血を拭い取ってやった。

 

 

「まったく、無茶をしてくれるな。しかし、君の実力は私の想像をはるかに凌駕した……君には感服する」

 

「いえ、班の皆さんの協力がなければ不可能でした。そして、俺をここまで導いたのは……エルヴィンさん、貴方です」

 

「ふっ…君にはその背中の“翼”が()()()()似合う。この先も私の隣で共に戦ってくれるか?」

 

「無論、そのつもりです」

 

 

瞳を輝かせながら返事をするカイル__この時、森の中はやけに静かだった。

 

まるで『そこが壁外であること』など忘れさせてしまうような、穏やかな空気が2人を包み込んでいた。

 

 

(ジェイクさん、ようやく見つけました。俺は、この方に心臓を……()()()()()()を捧げると誓います)

 

 

カイルが心の内でそんなことを考えていると、他の班員たちがぞろぞろと集まってきた。

 

先頭にいたモサドがいの一番に声を上げる。

 

 

「分隊長!ご無事でしたか!……カイルも!」

 

「無事だ。最後の巨人は先ほどカイルが討ち取った」

 

「マジかよ!? いや……もうお前が何をしたって驚かねぇよ」

 

「開口一番で驚いてたじゃない……でも、本当にカイルには頭が上がらないわ!」

 

「カイルぅぅ~!ほんっと、助かったよぉ~!!あの四つん這い巨人、全然動きが読めなくて……もうダメかと思ったんだぁぁ!」

 

 

そう言ってルドルフは泣きべそをかきながらカイルに飛びついた。

 

巨体のルドルフに肩を揺さぶられたカイルは、首ががくんがくんと揺れている。

 

 

「お前は図体の割に気が小さすぎなんだよ、ルドルフ!」

 

「ちょっと、ルドルフ!カイルの()()()()()聞いたでしょ!?そんなにベタつかれちゃ、カイルが困るわ!」

 

「あぁ~っと、そうだった!ご、ごめん!!」

 

「アレルギー?……皆さん、俺の“持病”について何か聞いてるんですか?」

 

「あぁ。()()()()()が『エルヴィン班のみんなには知る権利がある』とか何とか言ってな…」

 

 

ベッツの口から出た名前に、カイルは耳をぴくっとさせた。

 

何だか嫌な予感がしたのだ。

 

 

「…それで、ハンジさんはなんと?」

 

「それは……~~~~」

 

 

 

**

 

 

 

ベッツの答えを聞いたカイルが呆れた表情で大きくため息をついていると、キースの指示で応援に来ていたモーゼス班がその場に現れた。

 

 

「エルヴィン分隊長!応援に来ました!!……って、あれ? 巨人は…?」

 

「見ての通り、全て討伐した」

 

「そんな、まさか……この人数で!?」

 

 

モーゼスが状況を飲み込めずにいると、その後ろにいたアデルが血相を変えてカイルの元へと駆け寄ってきた。

 

 

「カイル!無事か!?血まみれじゃないか!!」

 

「大丈夫、全部返り血だから」

 

 

それを聞いたアデルはカイルの両肩に手を置くと、心配そうに顔を覗き込む。

 

 

「よかっ…た……はぁ、頼むから無茶しないでくれ。お前に死なれたら俺は……」

 

 

しかし、ここでアデルの言葉を遮るようにエルヴィンが口を挟んだ。

 

 

「とにかく!ここに長居はできない……詳細は補給地で話す!すぐに出発だ!!

 

 

エルヴィンの指示を受け、ガスの残量やブレードの状態を素早く確認する兵士たち。

 

カイルもすぐにシャルルを呼び戻して乗馬すると、ルドルフの横に並んで隊列に混ざった。

 

 

こうして、合同で陣形を組んだエルヴィン班とモーゼス班は、一直線に『補給地』へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

―【 続く 】―

 





~後書き~

『諌山先生の描く戦闘シーンは何べん読んでも迫力が神』

…どうも、著者です(´-ω-`)

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

初めてのオリジナル戦闘回、いかがでしたでしょうか!?

カイルの”眼の能力”を存分に活かした戦法をイメージしてみたのですが、頭の中の映像を文字に起こすのって難しいですね!

何か知らないですけどこの話を書いてる時、息切らしながら書いてました(笑)

如何せん著者は物書きが初心(うぶ)なあんちきしょーなもんで、わかりにくい・読みにくい箇所も多いかと存じます。

「ここはもっとこうした方がいいよ!」などアドバイスがありましたら、どしどしコメント下さい…<(_ _)>


◼︎次回予告:『#13 特別な人間』
次は軍議回です。キース団長がよく喋りますよ!


〜著者の妄想:BGMシリーズ〜
話数 :第12話 初陣
音楽 :The Reluctant Heroes
シーン:森におびき寄せた5体の巨人の目を潰して回るシーン

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