〜前書き〜
※一人当たりのセリフが長いですが、雰囲気バリバリに出したつもりなのでご容赦くださいm(_ _)m
↓それでは、本編へどうぞ↓
___針葉樹の森を抜けてから数十分後。
エルヴィンとモーゼスの合同班は無事に補給地へと到着した。
エルヴィンは到着して早々にキースの元へと報告に向かい、カイル含む班員たちは馬を休ませて補給作業に移った。
一通りガスとブレードの補給を終えると、先の戦闘で消耗した体力を回復させるために野戦糧食をほおばる。
だが、緊張状態が続いたせいか、カイルの喉はカラカラに乾いていた。
そのため、ボソボソとしている野戦食糧も喉を通らない。
カイルは仕方なく水で無理やり流し込む__するとそこに、知らせを聞いたハンジがどたばたと足音を立てながら駆け寄ってきた。
「カイルぅーーー!無事だったんだね、よかったぁぁぁ!!」
「誰ですか?あなた」
「うぇえ、反抗期!?なになに…私、何かしたっけ!?」
ハンジが突然の悪態におろおろしながら詰め寄ると、カイルはその接近を拒むように手のひらを前に押し出した。
「おっと、それ以上近づかないでください……俺、
そう言いながらカイルはジト目でハンジを睨みつけた。
その凄まじい気迫に、ハンジは目を泳がせる。
「あぁーーっと…そのことか。あはっ…あはは!あれは冗談のつもりだったんだけ…どぉ……うん。ゴメン!!ねっ、この通りだから許して…!」
ハンジは顔の前で『パン!』と手を合わせ、上半身を前に傾かせた。
だが、尚もカイルはジト目をやめない。
困ったハンジは、苦し紛れにある提案を持ちかける。
「わかった、こうしよう……
「…はい?」
「互いの思いがすれ違った時の解決方法を知ってるかい?…それは、“ハグ”なんだ……さぁ!そうとわかれば、私たちも仲直りのハグをぉぉぉ…!」
「嫌ですよ。なんでそうなるんですか」
カイルが迫り寄ってくるハンジの頭を片手で押さえつけていると、ヘイターとイルゼもその場にやってきた。
「カイル、聞いたぞ!お前すごいな……ってハンジさん!?何やってんすか!?」
「見ればわかるだろぉ!?私は、このカイル君と
「いや、親睦が深まっているようには見えませよ。カイル…お前、もうちょっとハンジさんに優しくしろよな」
「わかってないな、ヘイター。
「どこがだよ…ハンジさんは
「ヘイター君!?…『一応』とはなんだね?『一応』とはぁぁ!?」
鼻息を荒げたハンジは、突進にさらに力を込めた。
だが、カイルの防御は一向に揺るがない。
2人の攻防戦は永遠に続くかと思われたが、それまで一言も発しなかったイルゼが暗い顔で口を挟んだ。
「…カイル、第4分隊はかなりの被害だったそうよ。テセオ分隊長も騎馬ができないほどに重症で、とてもこの先の行軍に臨めるとは思えない…」
すると、ヘイターも表情を曇らせてそれに続く。
「俺たちの同期も、ウィリアムとメルラが……死んだ」
「あぁ…彼らの死は、俺もこの目で
「そうか、お前の目……あいつらの最期は…?」
「2人共とても勇敢だったよ。とても…」
「そうか…」
ヘイターは拳を強く握りしめながら肩を振るわせ、喪失感と無力感を露わにした。
その様子に、さすがのハンジも突進をやめ、体勢を戻す。
それからいつになく真剣な顔つきになると、立ち止まった新兵たちの心を扇動するように語りかけたのだ。
「巨人があそこまでの群れを成すのは、前例がない……訓練の時から散々聞かされてきたと思うが、実戦は『想定外の連続』だ。計画通りとはいかない変則的な状況下で、常に最善の判断を下すのは至難の業。こうして何とか窮地を切り抜け、生き延びた今となって得られたものがあるとすれば……それはやはり、我々人類が
カイルは視線を下に向けながらハンジの話に同調する。
「えぇ、改めて気づかされました。壁の外に出たら一目でわかる。巨人の威力や謎に満ちた“恐ろしさ”が……あの壁が未だ顕在なのが不思議なくらいです。壁内人類は、何故巨人から目を背けようとするのか。あるいは、そう
そう話しながらカイルがイルゼに目を向けると、いつもの興味津々な表情に戻ったハンジがイルゼに言い寄った。
「え!物語って何!?……そこのそばかすの君!君が物語を書いているのかい?」
「は、はい…素人の書き物ですが…」
「その“仮説”というのは、一体どんな内容なんだ!?」
「そ、そんな、仮説と呼べる代物ではありませんが……壁内人類をモデルとして、語られない100年前の真実を紐解いてく話です。もちろん、
「へぇ~~!『100年前の真実』か……君とはぜひ、一度語り合ってみたいものだよ!この壁の世界のことや
「え、えぇ……ぜひ!」
「ぃよっしゃぁぁ~!!」
ハンジは眼鏡を曇らせながらガッツポーズをした。
そこにカイルが野次を飛ばす。
「ハンジさん、あまり俺の同期をいじめないでください。……イルゼ、嫌なら断ってもいいんだ」
「い、いじめってひどいなぁ!もしかして、まだ怒ってる?いい加減機嫌を直してくれよぉぉ!……それに、今この状況でいじめられているのは一体どっちだね、カイル君!?」
カイルに頭を押さえつけられていたことで髪がぐしゃぐしゃに逆立っていたハンジは、自分の頭を指さしながら猛抗議した。
「お似合いですよ。
「ひどい!!……あ、モブリット!聞いてくれよ、カイルがさぁ~…」
「班長!こんなところにいたんですか!?探しましたよ……って、何ですか!? その
「ひどい!!モブリットまで!?」
ハンジ班の副班長であるモブリットは、自身の班長の情けない姿に少し動揺しつつも、作戦会議があるからと言って強引にハンジを引きずって行ったのだった。
ヘイターはその後ろ姿を目で追いかけながら強張らせていた顔を緩ませる。
「ハハ、あの人はいいよな……いつでも
「でも、あぁ見えてハンジさんは視野が広い。班長を任されている所以はきっとそれだ。状況を読んで臨機応変に対応する頭の回転の速さは、おそらく第2分隊の中でもトップ……もちろん
「よ、よかった……ちゃんと上官として敬っていたのね。てっきり、ハンジさんのことを本当に馬鹿にしているのかと思ってヒヤヒヤしたわ」
「こいつとハンジさんは付き合いが長いんだ。
「へぇ、そうだったのね!ということは、アデルもハンジさんと知り合いってこと?」
「確かにアデルもカイルとは同郷のはずだが、アデルとハンジさんは……あ?そういえば、アデルのやつ見当たらねぇな。カイル、お前一緒じゃなかったのか?」
「さぁ、到着したときにいたのは間違いないけど…」
「そうか。……っと、そろそろ次の指示が出る頃か。ぐずぐずしてっとクラースさんにしばかれちまう」
「私もそろそろ自分の班に戻るわ」
「あぁ、2人とも気を付けて」
3人はそれぞれの班に戻ると、次の拠点への行軍に向けて準備に取り掛かった。
だが、それは徒労に終わることになる__
**
次に出された指示は、『撤退』だった。
今回の遠征ではさらに次の拠点までを目標としていたが、第4分隊の壊滅的な被害により、その先の行軍を断念したのだ。
キースの指示で陣形を編成し直した調査兵団一同は、出発地のシガンシナ区を目指す。
帰還途中も何度か巨人に襲われ、さらに数名の兵士が犠牲となった。
やっとの思いでシガンシナ区への生還を果たした頃には、死者・負傷者の数が共に耳を覆いたくなるほどに膨れ上がっていた。
まもなくして、瀕死状態だった第4分隊長のテセオは、隊士たちに見守られながら静かに息を引き取ったのだった。
***
___数日後。
調査兵団本部にて、先の【第13回壁外調査】における『総括』が執り行われた。
その会議には幹部クラスの分隊長や班長などの兵士たちが集う中、特例で新兵のカイルも参加することとなった。
まずは、今回の遠征で収穫のあった情報などを共有し、兵団が受けた被害について再確認する。
それから大幅に人員が欠落した第4分隊の再編成を考案し、殉職者の遺族への訪問の日取りまでも計画した。
会議は順調に進められていき、今後の活動に向けての改善点などを出し合う場となった。
そこで真っ先に進言したのは、エルヴィンだった。
「第2分隊長エルヴィン・スミスより、二点提案があります。まず、一つ目は平地における『巨人討伐法の新案』を訓練に取り入れることです。その討伐法とは、先の遠征時にこのカイル・シャルマンが披露した
エルヴィンの指示を受け、カイルは席を立った。それから黒板の前まで行くと、あらかじめ書いておいた図説を基に説明を始めたのだ。
「第2分隊エルヴィン班所属、カイル・シャルマンです。まず、平地で巨人を仕留める状況下に置かれた際、こちらの立体機動をどう生かすかではなく、
一通り説明を終えたカイルは、自分の席へ戻る。
団長のキースは新兵であるカイルの雄弁な語り口調に少し尻込みしつつも、腕を組みながらうなるように意見を述べた。
「なるほど……巨人を転ばせる、か。聞こえは容易に思えるが、技の習得には工夫を要するだろう。しかし、習得しておいて損はないどころか、平地での被害を減少させる“打開策”とも言える。……それで、その訓練はどのように行うつもりだ?走っている巨人をどうやって再現する?」
「それについては、私から!」
そう言って手を突き上げながら席を立ったのは、ハンジだ。
ハンジは大股で黒板の前まで行くと、台の上に用意されていた模型を動かしながら説明を始める。
「第2分隊班長のハンジ・ゾエです。現在、『走る巨人の等身大模型』について構想を練っています。試作段階ではありますが、こちらがその“縮小模型”です。この巨人の足を模した装置を馬車で牽くと装置が動き、走行中の巨人の足を再現するという仕組みです。しかし、この模型はあくまで縮小版。巨人の実寸大での模型を製作するには、技巧班の手もお借りしたく…」
「ふむ……いいだろう。『巨人討伐新案』の訓練は採用だ!ハンジ、直ちに技巧班へ協力を仰ぎ、訓練用の模型製作に取り掛かってくれ」
「はっ!」
いつも以上に元気よく返事をしたハンジは、さらに大股で自分の席へと戻って行った。
すると今度は、キースの方からエルヴィンに質問を投げかけてきた。
「エルヴィン。お前の班はその奇行種を討伐後、さらに5体の通常種を
「はい。まずは、巨人を森へ誘い込むまでに一人につき一体をおびき寄せるように立ち回りました。それから等間隔の横並びになり、巨人を引き連れたまま端から順に森の中へと侵入する……そして、巨人たちが森へ侵入したところを木の上で待ち構えていたシャルマンが一直線に横切り、巨人の“目”を潰して回るという作戦でした。この作戦はシャルマン本人の発案であり、その最大の利点はすべての巨人の
「ほぅ、シャルマンが……また今回も派手な賭けに出たと思っていたが、お前と似たような思考をしているな。エルヴィンよ」
「えぇ、私も作戦を聞いたときは目を丸くしたものです」
そう言ってエルヴィンがカイルに目線を向けると、カイルは少し照れくさそうに人差し指で頬を掻いた。
キースはさらに質問を続ける。
「うむ……その時の討伐法で、何か新案として訓練に盛り込めそうなものはあるか?兵士一人当たりの
「ありません。正直なところ、かなり例外的な状況であったことに加え、
それを聞いたキースは顎に手を添え何やら考え込んでいたが、やがて納得したように頷いた。
「……そうか、わかった。では、2つ目の提案を聞こう」
「はい。2つ目に関しては、以前にも一度提言している『長距離索敵陣形』の
「長距離索敵陣形……確か、巨人と
「これまでは、巨人に対して数で対抗することを念頭に陣形を組んでいました。そのため、陣形の展開範囲は狭くなり、各部隊の人員が必然的に多くなります。すると、今回のように多数の巨人による襲撃や平地での不利な状況下では、一瞬にして兵力を失いかねません……そこで、より
「壊滅のリスクを避けるために、班単位で一定距離に散らばせるということか……だが、それでは各部隊の戦力が低下するのは必至。そこに利点はあるのか?」
「少数の塊で動くことで先ほど提案した討伐法も繰り出しやすくなり、囮作戦で巨人を撒くのも容易になります。さらに、この陣形で一番の利点は“索敵機能”にあります。外側の索敵班が巨人の発見を直ちに中央の指令班へ伝達することで、その都度進路方向を調整し、
「…ちょっと待て、エルヴィン。巨人の発見を
「それについては、離れた距離からでも目視確認が可能な“信号”を送る手段を考案中です。構想段階ではありますが、
「陣形を広げることで巨人の早期発見に努め、巨人との戦闘を敢えて避けることで被害を最小限に抑えると……本当にそんなことが可能だと? それに、倒すべき
「団長、壁外調査における
そう語るエルヴィンの瞳は、まるで獲物に狙いを定めた鷹のような鋭さを纏っていた。
キースは静かな気迫を放つエルヴィンに気後れしまいと、腕を組んでどっしりと構える素振りを見せる。
それから他の分隊長たちにも顔を向けると、エルヴィンの提案に対する意見を求めたのだ。
「ふむ……フラゴン、ヴェルミン、貴様らの意見はどうだ」
「私もエルヴィン分隊長の意見に賛同いたします。今回のような一分隊丸ごとの壊滅は、かなりの痛手です。何かしら手を打つ必要があるかと…」
「…私もだ。特に異論はない」
「そうか、答えは揃ったな……エルヴィン、引き続き新陣形の考案を続けてくれ。信煙弾とやらの開発もだ。だが、この陣形がすぐに採用されるとは限らない。新たな装備の開発や陣形の大幅な変更に関しては、兵団上層部からの許可が必要だからな。上へは私から掛け合っておこう」
「承知しました。よろしくお願いします」
こうして、エルヴィン考案の新陣形『長距離索敵陣形』の導入計画が始動したのだった。
**
第13回壁外調査における総括も終わり、殉職者の遺族への訪問も終えた頃には、カイルの存在は調査兵団の中でも一目置かれるようになっていた。
初陣にして『討伐数1体、討伐補佐5体』というベテラン顔負けの功績を残し、総括では幹部たちの前で堂々と発言をしたことにより、カイルの株の上がりようは他の追従を許さないほどだった。
それから数か月後には走る巨人の模型が完成し、平地での新討伐法の訓練が始まった。
その中でエルヴィンは『長距離索敵陣形』の導入に向けてハンジを含めた頭脳派の兵士たちを集い、訓練や壁外調査の傍らで新陣形考案の議論を煮詰めていったのだった。
***
___3年後。
『長距離索敵陣形』は試行錯誤を繰り返し、実行可能段階にまで構想が練り上げられていた。
『信煙弾』も順調に開発され、さらには新陣形導入に向けた陣形把握の講義とその訓練も行った。
そして、いよいよ
そんなある日のこと。
班長のミケとハンジ、それからカイルの3名は、急遽エルヴィンの部屋まで呼び出されたのであった。
―【 続く 】―
〜後書き〜
『キース、3日会わざれば頭も丸まる』
…どうも、著者です(´-ω-`)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
安心してください。
まだこの頃のキースは毛根も健在です。
あれって剃ってるのか禿げてるのかどっちなんでしょう?
原作では、少なくとも845年まではふさふさしてて、その2年後エレンの訓練兵団入団時にはつるっぱげじゃないですか。物凄い早さで丸まったなと思ったので、禿げだとしたら相当なストレスを感じていたんでしょうね…
今回の話では、『特別な人間』たちを目の当たりにしたキースが己の"慢心"に気づき始めています。
自分は他とは違う。
自分は特別だ。
他を否定し、劣等感に虚勢を張る…そんな幼稚な心情に蓋をして『凡人』であることを嫌ったキース。
しかし、この先でキースは、自分がただの"傍観者"にすぎないという現実を突きつけられます。
『特別な人間はいる…
…ただそれが自分ではなかったというだけのこと』
己の心の弱さを語るキースのセリフには、胸が痛みました。
さて!
いよいよ『長距離索敵陣形』が導入されますね!
ということはつまり……
◼︎次回予告:『#14 出会い③:リヴァイ』
皆さんお待ちかね、リヴァイ登場!!
初セリフをお楽しみに!
〜おまけ〜
今回で採用された平地での討伐法の新案は、原作の第57回壁外調査にて、ディータ・ネスとルーク・シスが披露した連携技になります。
ネス班長たちの技はカイルが発案したものだったんですね… (´-ω-`)